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彼女の話をロードスは真剣に聞いた。
メモをとり、事細かに記してゆく。
「じゃあ、君はそれからずっとここにいるの?」
「ええっ。ターニャはここで最期を迎えることを望んだの。ずっと帰りたがっていた。生みの親のカジェロのいる所、育てくれたエスタニアのいるところ。帰る場所だった。幸せだった場所だから」
「ずっと一人で寂しくなかったの?」
「寂しい・・・?・・・わからない・・・」
一人が当たり前すぎたのだろう。成長するはずが記憶だけのものになっていた。
「いろいろ見たんでしょ?国の事とか?」
「見たわ。予想通り、魔核に頼り切っていた生活は破綻したわ。
生きるのに必死になって、戦争も争いも・・・それどころじゃなくなった。助け合わなくてはいけなくなった。
人形師は・・・いなくなった。いえ、ほとんどの人形師がドールだったの。わたしのように受け継がれた魔核。みんな解放を願っていた」
「それで一気に文化の衰退があったわけか・・・」
「謎が解けたかしら?」
「ああ、新発見だ。すごいよ。でも・・・」
ロードスは言葉を濁した。
「証拠がないのが残念だね。君の話だけでは確証が得ないからね」
「そう、なら残念ね」
優しく微笑んだ。
「笑うのはいつぶり?」
「えっ?」
「君の笑顔は寂しいね。でも、優しい。」
「優しい?」
「君は一人でずっといた。誰に会うでもなく、墓守として。もう解放されても構わないんじゃないかな?」
「解放?」
「そう、僕と世界を見よう。君がたとえドールだとしても、生きてる。なら外に出よう」
「でも、わたしは・・・」
「ほら、見て」
指を刺す方をみれば、そこにはターニャがいた。
光の中、幸せそうに微笑んでいる。
「彼女、幸せそうだよ」
「幸せそう?」
「うん、君の笑顔は彼女の笑顔だよ。彼女は君の幸せを願ってるんじゃないかな。君に笑っていて欲しいからあの笑顔なんだろうね」
彼女はゆっくりターニャに近づいた。
開くはずのない目が開き優しく見つめてくれたように感じた。
「ターニャ、わたし行ってもいい?」
『もちろんよ』
「ターニャ・・・?」
『生きなさい。わたしは大丈夫。ゆっくり果てるわ。貴女は貴女の生き方を見つけてきなさい。わたしが見ることのなかった世界を見てきたらいいの』
聞こえないはずの声が聞こえた。
勢いねよく立ち上がる。
その顔は希望に溢れていた。
「ターニャ、わたし行ってくる。世界を見てくるわ」
「じゃあ、僕と行こう。僕名前はロードス。君は?」
「わたしはプレア。遠い異国の古語で『祈り』と言う意味よ」
二人は世界を駆けるため、手を取り合った。
そんな二人をターニャは笑って見送った。
『行ってらっしゃい。プレア』
ー完ー