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ターニャの歌  作者: 彩華
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 最後の夜になった時、やっと完成した。

 目も鼻も口さえもないドール。唯一無二の魔核を宿すための器。

 渾身の技術と思いで作り上げた最高のもの。


 自分の胸元を開き左胸に手を差し入れ、取り出す。

 美しい鮮血の色合いの魔核。

 命を宿した王。全ての魔核の頂点に立つ魔核。

 初めは小さな願いだったのだ。

 人間を知りたくて、肉体をもらった。それは続く。命が続き技術が続く限り。

 だが、それも今宵で終わる。

 ターニャは全てをかけた。魔核もわかっている。

 次はもう、ない。この技術を受け継ぐものもいなくなるだろう。

 全て運命なのだ。


 魔核を新しい器に入れ替える。

 魔核を入れ終えると、ドールはゆっくり淡い光を放った。


「定着に一週間かかるわ。ゆっくり馴染めばいい。起きたら、わたしの願いを叶えて。貴方の名前は『***』わたしの愛しい子よ。愚かなわたしを許して」


 ターニャは彼女を抱きしめた。

 自分のできる最後の愛情表現だった。




 次の日、ファロットがターニャに会いにきた時、彼女は、既にいつもの彼女ではなかったのだった。




*****

 民衆が集まる広場に、見せ物台が設置され、ターニャは戦犯として、磔になった。

 磔・・・すなわち民衆に石を投げられる事で死ぬかもしれないし、飢え死になることもあり得る刑。より苦しみが長くなるようにと、見せしめだけの刑。


 ターニャは泣くことも、叫ぶこともしなかった。

 ただ、ずっと歌を歌い続けていた。

 小さな声で・・・・・・。


  貴方の微笑み 怒る顔

     見るのはいつも 夢の中

  貴方は声は どこにあるのか

     温かな言葉 愛の言葉

  貴方の帰りを ひたすら待ち

      一人悲しく 夜を過ごす

  貴方の好きな ご飯を作り

      冷たくなるまで 待っている

  貴方の優しさ 思い出し

     泣き虫わたし抱き寄せて

  貴女はいなくなり ここには

     わたしだけが ここにいる


 繰り返し繰り返し歌う。


 誰もが気味悪がった。年配の人々が次第に耳を塞ぎ出した。



 50年以上前に禁じられた歌。

 忘れられた歌。

 途切れることなく、繰り返される歌。


 人々は石を投げた。ほうきや棒で叩くこともあった。

 それでも歌い続ける。

 水も食べ物も取らないのに歌い続ける。

 次第に不気味がり広場に近づかなくなった。それでも声は風に乗り聴こえてくるのだ。

 窓を閉めようとも、聴こえてくる・・・。

 子供たちはいち早く歌い出した。

 大人がいくら止めようとも、口ずさまれる。

 初めは耳を塞いでいた、老人たちも次第に歌う。

 昔を懐かしみ、思い出話に花を咲かせる。


 

「ターニャ、やめろ」


 様子を見にきたファロットが叫ぶ。だかターニャの焦点は既にあっていなかった。

 無意識のように、歌う彼女に鳥肌が立った。


「ターニャ、やめろ、やめてくれ。その歌は、それはカジェロのカジェロの歌だ。あの街の思い出だ。なんで今なんだよ。あの街は消えたんだ。ターニャの・・・ターニャにせいで・・・」


 歌い続ける。

 雨が降ろうと、風が強くなろうと・・・。

 


 二ヶ月たったころ、不意に歌が止んだ。


 誰もがそれを喜び、聴こえなくなって寂しさを感じた。



 

 広場には、幾人かの人がいた。なかなか息絶えないのターニャを見にきたアルフェルドとファロット、そしてフェルンダルが数人の兵を連れて来た見たのは、黒髪に青い双眸の女性がターニャを抱く姿だった。


「誰だ!」

「・・・。ターニャ。全て、終わりました」


 彼女は問いかけには答えず、ターニャに向けて言った。

ターニャの視点が緩やかに合い言葉を紡ぐ。


「あ、りが、とう・・・」

「もう、大丈夫です。心配事はありません」

「おい、貴様、答えろ」


 彼女は静かに声を震わせた。


「愚かなる者たちね。全ては終わりました。戦いは既に終わりを迎えました」

「はあ?」


 アルフェルドが、不思議そうに声をだした。


「全ての魔核は破壊しました。今後永久に魔核が取れることもありません」

「何を言ってるんだ。まだ、ここにある!そんな筈がなかろう」

「いえ・・・、お前たち、役目は終わりです。皆の元へ行きなさい」


 静かなる命令。

 アルフェルドの持つラルドが、急に光を失ったように墜落する。兵士が持つ武器もファロットの鷹もどきも、ガラクタのように動かない。

 フェルンダルが急いで確認すると内蔵されている魔核が壊れていた。


「ラルド?ラルドに何をした?」

「何を?魔核を壊しただけよ」

「魔核を?馬鹿な、あり得ない」

「あり得るのよ。わたしはドールです。ターニャが作りし最後のドール。大昔に失われた魔核がわたしの心臓。ずっと受け継がれた記憶と共に生きてきた最古のドール。ターニャは願いました。ドールの終わりを。わたしに全て託した、全てをかけた」

「ターニャが?」

()()()()()は人間を知りたかった。それを初代人形師が身体をくれた。人間の優しさを知り恩恵を与えた。それを自ら切ったのです」

「嘘だ!嘘だ」

「これより、全ての恩恵は失われました。魔術技師はもう用はなくなった。魔術操作もいらない。これからは昔の様に不自由な中で暮らしていくだけ。それが、貴方方が選んだ道です」

「なぜだ、何故?」

「わからないの?貴方が戦いを望んだからよ。ターニャは平和を、愛情を欲した。なのに貴方たちは裏切りを教えた」


 わかって欲しい。でも、わからないだろう。

 ターニャはただ、愛されたかった。それだけだった。

 幸せに生きることを知りたかった。


「どうすれば・・・」

「知らない。自分でどうにかしなさいよ」


 突き放すように言った。


「ターニャ行きましょう」

「どこに行くんだ?」

「一つよ。故郷に帰るの。アソコがターニャの街だもの」

「アソコはもう生きれない。土地が汚染されて・・・」

「だから、何?わたしたちはドール。どこでも生きていけるわ。逆に貴方たちは来れないもの、都合がいいわ」


 ターニャを抱え直し、去ろうとする。


「そうそう、ターニャが歌ってた歌はね。昔、リアが歌っていた、恋人の歌よ。戦地から帰らない恋人を待つ悲しい歌。忘れられた、悲しい歌。貴方たちはこれから何を求めるの?わたしは見てる、貴方の全てを・・・」


 それだけをいい残し彼女は去っていった。


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