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毎日が怒涛に過ぎていく。
師匠の書いたメモをまとめて、研究に付き合い、データーをとる。失敗した時は、原因を突きとめる。
怪我をすることもある。
「ターニャ、今日は第二王子殿下が見学に来られるから、粗相がないようにな」
「第二王子ですか?」
今まで、王族にあったこともなかったので緊張でドキドキしたのだ。
昼を過ぎたころ、彼はいくにんかの従者と共にやってきた。
王族の象徴である金の髪と緑の髪。童話に出てくるような王子に息を呑んだ。
「アルフェルド様、よくいらしてくださいました」
「師匠久しぶりどな。進み具合はどうだ?」
「まだまだと言ったところですが、彼女のおかげで、いい案がいくつか・・・」
「そっちは?」
「新しく入ってきた、わたしの助手のターニャです」
ペコリとお辞儀をする。田舎出身のターニャには格式ばった作法は無理だった。
アルフェルドはフェルンダルと楽しそうに話を進める。
機械の使い方に、用途を聞く姿は、まるで幼い少年のようだった。
「君は何を作ったんだい?」
フェルンダルを伺うように見ると彼は大丈夫と言わんばかりに頷いたので意を決して言った。
「わたしは人形師ですので、ドール動物を・・・」
パチンと指を鳴らすと、部屋の中にいくつも置かれていた動物の置物が一斉に動き出した。
いつもなら自由に活歩しているのだが、流石に王子が来るのにダメだろうと置き物に擬態させていたのだった。
犬に猫、鳥にリス、猿に亀にヘビ。多種多様な動物にアルフェルドたちは動きを止め驚きに満ちた顔を向けた。
「すごい。これすべて君が?」
「はい。まだ、人形はできませんが、動物なら小さな魔核でも十分ですので。それに動物なら、魔力を注ぐ事で視界や感覚共有できるのもわかりました」
「感覚共有?」
「殿下。凄いですぞ。わたしも試しましたが、鳥だと空を飛んでいるように感じるのです」
「空をか?」
「お試しになりますか?」
「ああっ!!」
子供のようにはしゃぐアルフェルドを横目にグローブを手にはめ、比較的温厚で従順な鷹を選びグローブに止まらせると、アルフェルドの前に持って行った。
「胸元に手を翳して魔力を注いでください」
初めて鷹を間近にみたのかおっかなビックリの体で手を翳して、魔力を注いでいく。
「ゆっくり。魔力を慣らすのと、自分を知ってもらうためにゆっくりで大丈夫です」
しばらくすると彼はブルンとと身体を震わせ、羽をモゾモゾ動かせた。
「うわっ!」
「殿下?!」
逃げ腰のアルフェルドを他所に彼は飛び立つ準備をする。
「魔力がいっぱいになっただけです。彼の魔力・・・自分の魔力を同調させてください。そうすれば・・・」
「うわぁっ、わっわっわっ!」
「殿下?!」
「凄い、見える、見えるぞ!」
驚いているアルフェルドを横に扉を開けて外に出ると彼を空に離した。
「初めは目が回るかもしれませんが、しばらくすれば慣れます」
彼は風を捉え、上へ上へと羽ばたいて行く。風に乗ると自由に舞い始めた。
「すごい!わたしは、わたしは鳥になっている。すごい!鳥はこんな世界をみているのか?!」
「はい。慣れてきたら、頭の中で彼にお願いしてみてください。思ったとおりに飛んでくれます」
「そうか、ならば・・・・・・・・・。おおっ、すごっ・・・。風、風を感じる。これが感覚共有・・・」
しばらくアルフェルドは堪能した。
彼が満足して帰って来ることで、アルフェルドの感覚共有も終わりになった。使い慣れていないため、疲労感が大きいだろう。満足そうな反面少し顔色が悪かった。
「ターニャだったな。彼ら数匹をもらい受けることは、できないだろうか・・・」
「・・・この子たち、ですか?」
「ああ。素晴らしい。またこれを味わってみたい」
「ですが・・・」
「殿下なら可愛がってくださるよ」
フェルンダルがターニャの髪をなぜながら諭した。
可愛い我が子同然の彼らを手放すのはすぐに返事ができるものではなかったが、王子に逆らうこともできない。
「・・・、わかりました。ですが、一ヶ月に一度は様子を見せに来てください」
「勿論だ」
アルフェルドは鷹、犬、ネコ、ヘビと、数匹連れ帰ったのだ。従者に世話の仕方を一通り教えてることにもなった。
アルフェルドは研究棟からの帰り道。
嬉しそうに笑っていた。
「殿下。楽しそうですね」
「そりゃあ、そうさ。こんなものが手にはいればね。思わぬ収穫だ。囲っている人形師と魔術操作のベテランを呼べ。これからもっと楽しくなるぞ」
その笑顔は、残酷なほど無邪気なものだった。