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ターニャの歌  作者: 彩華
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 一ヶ月かけて王都にはたどり着いた。

 街は師匠である、エスタニアに任せた。自分が今まで担っていた修理屋をしてもらうのだ。

 王都を出る前にターニャを抱きしめた。


「ターニャ。わたしたちの愛し子。ここに縛られなくていい。広い世界を見ておいで。やつの愛したこの地を自分で見ておいで。自分で見て、考えてそして大地に立って、生きておいで。わたしのことは考えなくていい。わたしは、この地で、奴の元で眠るから。でも、寂しくなったら、帰ってくればいい。ここがあんたの故郷だからね」

「師匠、別れの挨拶が重い・・・」


 そう言って笑いあった。


 これが二人の最後の会話になるとは知らず・・・。


 

 魔術学園に行き受付の人にエスタニアからの推薦状を見せ、学園長室に案内してもらった。

 学園長室に入ると壮年の男性が二人いた。


「ようこそ。ターニャくん。わしは学園長のライジック。こっちら、君の師となるフェルンダルだ。これからよろしく頼むよ」

「ターニャです。よろしくお願いします」


 こうして、ターニャの学園生活は始まったのだった。


 ターニャは学生入学としとはなく、研究生扱いとしての入学となった。フェルンダルを師と仰ぐようになるためである。制服も、学生と異なっていた。学生は紺色に対して研究生は臙脂色で、その上に白衣を着るようになっていた。

 部屋も研究室近くに自分専用の一室を用意してくれていた。

 少ない持ち物を片付けると、その日は早々に眠りについた。


 次の日から、目まぐるしい日々が始まった。

 フェルンダルの後ろをついて周り、できる仕事をもらいながら、慣れるのに必死だった。

 フェルンダルは、エスタニアの父親の友人で、魔術技師として名を馳せている人物だった。

 魔術灯をはじめさまざまな生活に便利な物を作り出している。それの設計図を見れるのも、助手のありがたみであった。知識を吸い取るように吸収していく。


 学園生活は・・・、研究生として慣れた頃、一つの噂を耳にした。


 ファロットの噂だ。

 学園に来る前、来てからも手紙を出したが、彼からは返答の一つもなかった。

 そんな彼は、魔術操作科のエースとして学年の首席でいると言う。そして、その傍らには可憐な女性がいつもいると。

 それを聞いて、胸が苦しくなる。

 ターニャにとって、ファロットは幼馴染であり、初恋の人でもあった。恋人のつもりだった。彼が学園に行く前に言った、「待っていてね」、あれを信じていた。

 

 時間の隙間を縫い、偶然を装って、学生塔へと行く。

 学生塔の中庭で仲睦まじく寄り添うファロットの姿があった。美男美女の二人に、周囲から感嘆の声が聞こえてくる。

 凡人な容姿の自分では、彼の横に立つのは叶わないのかもしれない。

 ジクジクする胸の内を隠し、ファロットに近づく。


「ファロット、久しぶり」


 そう、声をかけると、彼はビクッと身体をふるわしターニャを見た。その目は驚きと罪悪感が宿るものだった。


「ターニャ?、なぜ、学園(ここ)に?」

「なぜって、学園に通うって、手紙で・・・」


 彼の言葉に理解した。

 手紙を読んでいないのだと・・・。

 自分がいるべき場所はもうないのだと。

 ドグドグと鳴る心臓が周りにも聞こえそうだった。


「これから、研究室にいるから、よろしく。そちらは?」

「か、彼女は・・・」

「ライラです。ファロットの・・・」


 ライラは頬を赤く染めた。


「やはり、そうですか。わたしはターニャです。ファロットの幼馴染です。彼のことよろしくお願いします」

 

 無理やり笑って答えた。



 ファロットの声が聞こえてきたが、無視をしてきた道を引き返した。

 早く自分の居場所に帰りたかった。

 自分を必要としてくれる場所に・・・。


 研究室に帰ると、無我夢中で、研究をした。ドールの・・・。


「ターニャ、君に客人だ」


 フェルンダルに言われ、部屋を出るとファロットが立っていた。気まづい雰囲気。


「ファロット、どうしたの?」

「いや、あの・・・、どうしてここにきたんだ?」

「手紙に書いたよ」

「そうじゃない。君はあの街から出ないんじゃ。あのドールは?」

「それも書いたんだけど・・・。カジェロはもう止まったの。師匠が縛られなくていいからって、ここにきたの?ダメだったの?」

「ダメと言うか、あのドールが止まったなら、魔核は?そのままのか?あれほどのドールの魔核を置いてきたのか?」


 ファロットの言っていることが一瞬わからなかった。

 

「あれほどのドールのものだ。凄いものじゃないのか?あれがあれば、あれが使えれば、俺はもっと、もっと上にいけるんだ。お前はそれを扱えるんだろう!」


 そうか・・・、ストンと理解した。

 自分の価値は人形師としてだったのかと。幼い頃から一緒にいたのに何を見ていたのか、彼に抱いた憧れも、淡い恋心も幻のように消え去る。


「ターニャ?」

「カジェロには魔核はもうないよ」


 うつむき静かに言う。


「ない?馬鹿な!!魔核が無いのに動くわけがないだろう!」

「ドールの魔核は違う。器に入ることで心も身体も成長するの。だから、魔核が無くなっても、すぐに動かなくなるわけではないの。魔力を補充する事で、緩やかに止まっていくの。性能によってかわるけど、ゆっくりと・・・。

 ファロット、貴方・・・変わったね」


 彼は視線をそらした。


「な、ならなんだ?あの街から出られて、この王都の素晴らしさ。全てが違うだろう。あんな何もない街のどこがいい?王都に来て、価値観も変わって何が悪い。お前だってそう思うだろう?」

「思わない。わたしの故郷はあの街だけ。わたしはどんなに学ぼうと人形師でいい。」

「そう言うところだ・・・」

「えっ?」

「そう言うのが気に入らなかったんだ。お前と離れてせいせいしたのに!じゃあな、二度と話しかけてくるな!関わるな!」


 ファロットはそういい捨てて去っていった。

 ターニャは下唇を噛み締めた。

 あの街を、過去の自分を捨てたファロットが許せないとも思った。悔しくて思った。


 泣きたいのをグッと堪えて、部屋に入ると、困り顔のフェルンダルだ立っていた。


「ターニャ。すまんな。聞きていたわけではないんだが、聞こえてしまってね・・・」


 首を静かに振った。






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