AIが東方projctの二次創作を書いてみた
では、どうぞ〜
「私の名前は、博麗霊夢。
みんなからは博麗の巫女と呼ばれているわ。幻想郷で起きる異変を解決するのがお仕事ね」
「へえ……凄いんだな……」
「そうでも無いわよ? この仕事は面倒だし、お金はあんまり貰えないからね」
「そうかぁ?」
俺も何となくだけど、この人ならやっていけそうな気がする。
それに、さっきの鬼が言ってた事って本当なのかな?
「ねえ、君はどうしてこんな所に居るの? 妖怪に食べられちゃうかもしれないわよ?」
「それは大丈夫だぜ!俺は強いし、頭も良い!」
「ふーん……じゃあ、ちょっと手合わせしてみましょうか」
「ああ、良いぜ!!」
「あっ、ちょっと待て!! お前ら何を勝手に――」
魔理沙さんが止めようとしたけど、霊夢さんはそれを聞かずに俺に向かって弾幕を放って来た。
まあ、避けるだけなら簡単そうだし問題無いだろう。
「それっ!」
飛んでくる弾幕を避ける為に右に移動しようとすると、突然足元が爆発した。
「うおっ!?」
驚いて声を上げた瞬間に更に地面からも爆発が起こり、俺は空中に放り出された。
「なんだこれ!? どうなってるんだよ!?」
「ふふん♪驚いたみたいね」
楽しげな表情を浮かべている霊夢さんを見つめながら着地すると、今度は背中や足が爆発を起こした。
そして、その度に体が吹き飛ばされる。
「くそっ、全然攻撃が見えねぇぞ……」
「ほらほら、まだまだ行くわよ?」
霊夢さんの放つ弾幕を避けながら反撃の機会を伺っていると、突然視界の端から何かが迫って来た。
「あぶなっ!?」
咄嵯に身を捻った事で何とか避けたが、頬に痛みを感じた。
確認の為に指先で触れると血が出ている。
これは痛い訳だ……でも、これで分かった。
多分だけど、あの霊夢さんが持っている棒みたいな物が原因なんだろう。
「あら、良く避けられたわね。
今のは結構自信があったんだけど」
「……あんたの攻撃の正体は、あれだろ?」
俺はそう言いながら霊夢さんの持つ棒を指差した。
「……正解よ。よく気付いたわね」
「そりゃあな。あんなの食らったら普通死ぬぜ? 普通の人間だったらな」
「ふふっ、やっぱり面白い子ね。
そんな君には特別に教えてあげる。私の能力は『空を飛ぶ程度の能力』よ」
「空を飛ぶ程度の能力か……よし、覚えたぞ!」
「……本当に変わった子ね」
霊夢さんの言葉を聞き流しながら俺はある事を考えていた。
今の状況は非常にマズイ状況と言えるだろう。
このままでは一方的に攻撃を喰らうだけだ。
だからと言って、こっちから攻撃を仕掛けても恐らく簡単に防がれてしまうだろう。
つまり、俺に残された道はこの場から離れる事だけだったりする……。
「逃げるつもりかしら?」
「悪いけど、逃げさせて貰うぜ!」
「逃がすと思ってるのかしら?」
俺の行動を見てニヤリと笑みを浮かべると、空高くまで飛び上がった。…………ヤバいな、追いかけっことか絶対に勝てる気がしないぞ。
「覚悟しなさい!!」
俺を追いかけてきた霊夢さんが持っていた武器を振り下ろしてくる。
それをギリギリで回避して森の中に逃げ込んだ。
「へぇ~中々やるじゃない! なら、これはどうかしら!?」
俺の動きを見た霊夢さんが更に加速してきた。
しかも、後ろからは弾幕が迫ってきている。
「クソッ、これじゃあキリが無いな……」
「さあ、観念したらどうなのかしら?」
「まだ諦めるのは早いと思うぜ!」
突然聞こえてきた声に振り返ろうとすると、目の前に魔理沙さんが現れていた。
そして、そのまま俺に向かって体当たりをして来た。
「ぐえっ!?」魔理沙さんのタックルによって吹き飛ばされた俺は木に激突する。
その衝撃で全身に鈍い痛みが広がり、意識も段々と薄れていく。
そんな中、魔理沙さんの声だけがはっきりと耳に届いた。
「おい、大丈夫か!?」
「あ、ああ……なんとかな……」
「まったく、無茶をする奴だなぁ」
「いや、だってさ……仕方ないじゃんか」
「それもそうだな」
魔理沙さんは俺に笑いかけながら箒に跨ると、霊夢さんの方に向き直った。
「待たせたな」
「別に待ってなんかいないけどね。それより、その子は大丈夫なのかしら?」
「大丈夫だぜ。私に任せておけ!」
自信満々に答える魔理沙さんを見ながら小さく息を吐きだすと、痛みに耐えながら立ち上がった。
「魔理沙さん、ちょっとだけ時間を稼いでくれないか?」
「おうっ!」俺の言葉を聞いた魔理沙さんは勢いよく飛び出した。
「させないわよ!」
霊夢さんも動き出したけど、魔理沙さんの方が少し早かったようだ。
俺はその間に急いで準備を始める。
「いくぜ!!」
「邪魔するんじゃないわよ!」
霊夢さんの攻撃を避けながら魔理沙さんが弾幕を放つ。
その弾幕を避けながら霊夢さんが持っている棒のような物を振るう。
その度に地面が爆発したり、弾幕が発生したりしている。……あれが霊夢さんの能力である空を飛ぶ為の道具なんだろう。
「そろそろ良いかな」
ある程度弾幕が薄くなった所で地面に手を当てた。
そして、イメージを強く持ちながら魔力を練り上げる。
「何をするつもりかしら?」
「見てれば分かるぜ!」
霊夢さんが俺を警戒している間に魔法陣を完成させる事が出来た。
「よし、成功だ!」
「なんだありゃ?変な形だな」
「あれが君の切り札かい?」
俺達の様子を見ていた二人が不思議そうな表情をしている。
確かに普通の魔法使いからすれば、あれは異様な光景に見えるだろう。
「ああ、あれが俺の必殺技だ。
行くぞ!『炎の渦』!!」
そう叫んだ瞬間、魔法陣の中心に巨大な火の玉が発生して回転を始めた。
「ちょっ!?」
「嘘っ!?」
「それじゃあ行って来ます!」
驚く二人を置いてその場から離れると、巨大な火球はゆっくりと回転しながら霊夢さんに近付いて行った。
「くっ……こんなもの!!
『夢想封印』!!」霊夢さんは持っていた棒を構えて叫ぶと、霊力の塊みたいな物が飛んできた。
その霊力の塊と衝突した火球は徐々に威力を失っていき、最後には跡形もなく消えてしまった。
「危なかったぜ……。でも、これで終わりじゃないんだろ?」
「もちろんだ!」
魔理沙さんの質問に答えながら両手を前に突き出した。
すると、そこに小さな魔法陣が出現する。
「何が来るか分からないけど、私の敵ではないわね」
余裕たっぷりに笑みを浮かべる霊夢さん。
そんな彼女に向かって俺は口を開いた。
「それはどうかな?」
「どういう意味かしら?」
「こういう事だよ!!」俺が叫ぶと同時に魔法陣から大量のレーザーが発射された。
「なっ!?」霊夢さんは驚いたような声を出しながらもギリギリで回避していた。……やっぱりこの人、只者じゃないな。
「凄いじゃないか!まるで本物の魔法使いみたいだぜ!」
「そりゃあ、一応本物の魔法使いだからな……。まぁ、まだまだだけどさ……」
「そんな事はどうでもいいんだよ。それより、あいつを倒してくれ!」
「了解!」魔理沙さんの言葉に返事をしながら再び魔法の詠唱を行う。
そして、今度は巨大な光の輪を出現させた。
「これなら避けられないだろう!」
「残念だったわね」
俺が作り出した光の輪を見てニヤリと笑みを浮かべると、霊夢さんが右手を振り上げた。
「夢符・封魔陣!!」
次の瞬間、光の壁が出現して光の輪を防いだ。……マジかよ!?あの技を防ぐのか!?
「今のはかなり効いたわ。けど、私を倒すには足りないようね」
「……いや、もう十分だ」俺が呟くと霊夢さんは首を傾げた。
「どういうことかしら?」
「こう言うことだぜ!!」
俺が答える前に魔理沙さんが叫んだ。それと同時に周囲に複数の魔法陣が現れてそこから無数の弾幕が発生した。
「まさか、これは全部あんたがやったっていうの?」信じられないと言った様子で聞いてくる。
それに対して俺は静かに首を横に振った。
「いいえ、違いますよ。全て魔理沙さんの弾幕です」
「私はまだ何もしていないけど?」
「えぇ、そうですね。まだ、してませんね。今からするんです」
「……?」俺の言葉の意味が分からず困惑している霊夢さん。
魔理沙さんも同じように疑問に思っているようだ。
「何をするつもりか知らないけど無駄よ」
霊夢さんが言い終わるとほぼ同時に魔理沙さんが動き出した。
「行くぜ!!『マスタースパーク』!!」
魔理沙さんの声と共に放たれた極太の光線が霊夢さんを襲う。
「なるほどね。確かにこれは避けきれないわ」
「諦めてくれる気になったかい?」
「ふふっ、それは無理な相談だわ」
霊夢さんはそう言って笑うと、懐に手を入れて何かを取り出した。
「あれは……お札?」
「違うぜ。あれは博麗の巫女だけが使えるスペルカードだ!」
「スペルカード?それが切り札なのか?」
「ああ、そうだぜ。霊夢が使うスペルカードは強力だ」
「へー」
俺が感心している間に霊夢さんは手に持っていたカードを一枚、宙に投げた。
そして、それを合図にしたように周囲に霊力が集まっていく。
「『夢想天生』」
霊夢さんが静かにそう言った瞬間、空中にあった札が爆発を起こした。
その衝撃によって発生した煙の中から霊夢さんが現れた。
「なっ!?なんだあれは!?」
「空にいる……だと……?」
空を飛ぶ魔理沙さんと俺。
そんな俺達の前に霊夢さんは立っていた。
「これが『夢想天生』の力。
全ての攻撃を回避し、どんな相手でも倒せる無敵モードだ」
「つまり、お前の負けって事か?」
「そういう事になるわね。……降参してくれるかしら?」
霊夢さんの問いに魔理沙さんは笑みを浮かべながら答えた。
「いや、断らせて貰うぜ!」「あら、どうして?」
「私が負けたらアリスが困るんだろ?」
「……そうね。あなた達が負ければ、私は間違いなくアリスに怒られるわ」
「なら、余計に断るしかないな。それに、まだ勝負が決まったわけじゃないぜ」魔理沙さんはそう言うと箒から八卦炉を抜き出して構えた。
それを見た霊夢さんも同じ様に御祓い棒を構える。
「……後悔しても遅いわよ?」
「そっちこそな!」魔理沙さんが叫ぶと同時に二人は同時に動き出した。
「はぁ……やっぱりこうなったか……」
「霊夢さん、大丈夫ですか?」
「まぁ、なんとかね……」
ボロボロになりながら地面に倒れている霊夢さんに駆け寄る。……いやぁ、流石に強かったなぁ。結局、俺達は二人共、一度も勝つ事が出来なかった。
「にしても、よくあの状態から勝てましたね」
俺は魔理沙さんの方を指差しながら霊夢さんに聞いた。そこにはボロ雑巾のように地面で倒れている魔理沙さんの姿があった。
しかし、彼女はゆっくりと起き上がると帽子の位置を直してから口を開いた。
「私だって伊達で魔法使いやってないからな。最後まで諦めなかった結果だよ」
「なるほど……最後は相打ちみたいな感じだったんですね」
「あぁ……。だが、最後に勝ったのは私だ」魔理沙さんの言葉を聞いて霊夢さんが苦笑いを浮かべていた。
「本当にギリギリの戦いだったわ。あと少し、あんたが魔法を使うのが遅れていれば私の勝ちだったでしょうね」
「いや、そうでもないさ。もし、あの魔法を使っていなかったら、私は確実に負けてただろうよ」
「……魔法?」なんの話をしているのか分からないので首を傾げる。すると、魔理沙さんが説明してくれた。
「ああ、実は最後の最後で霊夢の奴にカウンターを食らわせようと思って、隠し玉を用意していたんだよ」「隠していたんですか?」
「おう!ただ、その魔法を使った後に魔力を使い果たして気絶したから、そのまま私も倒れたんだけどな」
「ちなみに、どんな魔法使ったのよ?」
霊夢さんの質問に魔理沙さんがニヤリと笑って答える。「それは秘密だぜ」
「ちぇっ、ケチねぇ」
「それより、早く帰らないとまずいんじゃないんですか?もうすぐ日が暮れますけど」
「おっと、そう言えばそうだな」
魔理沙さんの言葉を聞いた霊夢さんは慌てて立ち上がった。
「じゃ、帰るわよ」
「おう!」
霊夢さんと魔理沙さんはそのまま飛び立とうとしたのだが、その直前、こちらを振り向いた。
「またな、渡」
「はい、また会いましょう」
俺が返事をした直後、二人は空に飛び立って行った。そして、残された俺はその場で座り込んだ。
「疲れた……」
肉体的にはそこまで動いていない筈なのに、何故か凄く疲れてしまった。……これはアレかな?年を取ったって事なのかな?だとしたら嫌だなぁ。そんな事を考えていると、突然後ろから声を掛けられた。
「お疲れ様です」
振り返るとそこに立っていたのは咲夜さんだった。
「どうも」と俺が挨拶を返すと、彼女はニッコリ微笑んで言った。
「とても楽しそうでしたね」
「……えっと、はい。そうですね」
「ふふっ、それでいいんですよ。あなたはいつも通り過ごしていて下さい」
「……」
「それでは失礼しますね」
咲夜さんはそれだけ言うと去って行ってしまった。……いや、どういう意味だろ?俺が普段通りに過ごすだけで楽しいとか、そういう事なのだろうか?……まぁ、別になんでもいっか。とりあえず今はゆっくり休もう。俺は立ち上がって家《紅魔館》に向かって歩き始めた。
「おかえりなさいませ、ご主人様」「ただいまっす」
美鈴さんの元気な声に迎えられながら玄関に入る。
すると、居間からパチュリーさんが出てきた。
「あら、意外と早かったわね」
「あれ?今日は早いんですね?」
「そうよ。だから、お茶でも飲まない?」
「是非!」
「分かったわ。今用意するわ」
それからしばらく待っていると、紅茶を持ってパチュリーさんがやって来た。
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます」
カップを受け取る。うん、相変わらず美味しい。
一口飲んでホッとしていると、俺の隣に座っている小悪魔さんが話しかけてきた。
「ところで、何か面白い話はありましたか?」
「んー……特にありませんね」
「そうですかぁ。それは残念です」
小悪魔さんが悲しげな表情で呟いた。
「あの、どうしてそんなに気になるんですか?」
「いえ、だって、やっぱり皆様が楽しんで頂けた方が嬉しいじゃないですか」
「なるほど……」確かに、その気持ちは分かる気がする。
俺はチラッとレミリアさん達の方を見る。すると、彼女はフランちゃんに抱き着かれながら笑顔で話をしていた。その様子を見た後、再び小悪魔さんを見た。
「……あの、ちょっとお願いがあるんですけど」
「はい、なんでしょうか?」
「今度、紅魔館に連れて行ってもいいですか?」
「へっ?」
キョトンとする小悪魔さんを見て、俺は慌てて言葉を付け足した。
「あ、いや、その、俺の友達を紹介したいなって思っただけですよ!深い意味は無いので安心して下さい」
「あっ、そうなんですか。てっきりデートのお誘いかと思いましたよ」
「デッ!?そ、そんな訳ないじゃないですか!ほら、早く仕事に戻ってくださいよ!」
「は〜い」
俺に言われて渋々といった様子で立ち上がると、彼女は部屋から出て行った。……危なかった。もう少しで自爆するところだった。
「はぁ……」とため息をつくと、今度はいつの間にいたのか霊夢さんが近づいてきた。
「あんたも大変ねぇ」
「何の事ですか?」
「別に。それより、明日は忙しくなるんだから早く寝なさいよ」
「分かりました」そう返事をして俺は自室に戻った。
翌日。いつも通りの時間に起きて朝食を食べてから、俺は霊夢さんの案内で人里に来ていた。
「ここは私達にとって大切な場所よ。だから、しっかり覚えときなさいよ」「はい」
霊夢さんの言葉に返事をしながら辺りを見回す。
店が多く建ち並んでいる大通りは多くの人々が行き交っている。そして、その奥には寺子屋があった。
「ここが慧音さんが教師をしている寺子屋ですね」
「そうよ。それで、この道を真っ直ぐ行くと神社に繋がる階段があるわ」
「神社に続く道……」霊夢さんの説明を聞きながら歩いていると、ふとある疑問が浮かんできた。
「そういえば、博麗大結界ってどこにあるんですか?」
「それはね、外の世界と幻想郷を分けている境界なのよ」
「えっと、つまり……?」
「まぁ、分かりやすく言うと、幻想郷と外の世界を分ける壁みたいなものよ」
「なるほど」それを聞いて俺は納得した。
「じゃあ、その結界は誰が管理してるんですか?」
「さぁ?私はそこまで詳しく知らないから分からないわ」……うーん、誰なんだろ?少し興味あるんだけどなぁ。
そんな事を考えていると、霊夢さんが足を止めた。
「着いたわ」
目の前には古びた大きな建物があり、入り口の上には『上白沢』と書かれた看板が掲げられていた。
「ここが人里の寺子屋の先生である上白沢慧音の家よ」
「へぇ……」
「とりあえず入ってみましょうか」
俺達は家の中に入った。
すると、そこには一人の少女がいた。少女はこちらを見ると、微笑んで言った。
「おぉ、お前達が噂の外来人だな?」
「は、はい」
「ふむ、私がこっちに来てから初めて見る顔だが……本当に人間なのか?」
「はい、一応はそうらしいです」
「そうか。ならいいだろう」
そう言って彼女が俺の手を握った。いきなり手を握られてドキッとしたのだが、彼女の手はひんやりとしていた。まるで氷を握っているような感覚だった。
「初めまして。私の名前は上白沢慧音という者だ。よろしく頼むぞ」
「はい、こちらこそ」
「それと、今日はどういった用件で来たんだ?」
「実は、この子の事を紹介したくて連れてきたんです」
そう言いながら隣にいる小悪魔さんを指差す。すると彼女はニコッと笑って自己紹介をした。
「はじめまして、小悪魔と申します」
「ほう、君が例の……」
「はい。紅魔館の司書長をしております」
「なるほど。では、早速三人とも中に入りなさい」
「ありがとうございます」
それから、俺は小悪魔さん、霊夢さんと一緒に慧音さんの部屋に通された。
「お茶を用意するから待っていてくれ」
「分かりました」……しかし、それにしても綺麗な部屋だ。床は畳になっていて、机や座布団などが置かれている。そして部屋の隅には本棚が置かれていて、中には歴史に関する本が沢山あった。
「凄いな……」
思わず感嘆の声を上げると、慧音さんが湯飲みを持って戻ってきた。
「待たせたね」
「いえ、全然大丈夫ですよ」
「さて、まずは名前を教えてくれるかな?」
「あ、はい。俺は紅渡といいます」
「ふむ、珍しい名だな。そちらは?」
「はい、私は小悪魔と申します」
「なるほど、分かった。それで、二人はどんな関係なんだい?」
「えっと……友達、ですかね?」
「そうですね。私は友人だと認識しております」
「そうか。……ところで、どうして二人は一緒に来たんだい?」
「それは、俺が幻想郷に来た時に色々と助けてくれたんですよ」「なるほどな。……もしかすると、君は能力を持っているのか?」
「はい、持っていますけど……」
「そうか。ちなみに、どんな能力なんだい?」
「確か、あらゆる物を破壊する程度の能力でしたっけ?」
「うん、そんなんだったわ。」「私の能力は歴史を食べる程度だからな」
「え、それってどういう意味なんですか?」
「簡単に言えば、食べた相手の能力をコピーする事が出来るんだよ」
「え、そうなんですか!?」
「まぁ、あくまで真似をするだけだから完全に使える訳じゃないんだがな」
「へぇ……」
「それより、そろそろ本題に入ってくれないか?」
「あ、すいません。えっと、この子を紹介しようと思って来ました」
そう言って小悪魔さんの方を見る。
「ほぅ……それはまた、何のためにだい?」
「はい、実はですね―――」
それから俺は、霊夢さんに説明したのと同じ内容を説明した。
「なるほど、そういう事か。まぁ、君が言っている事が事実なら問題ないと思うぞ」
「あ、やっぱりそう思いますか」
「うむ。君が嘘をつくとは思えんしな」
「そう言っていただけると嬉しいです」
「だが、一つ気になる事があるな」
「え?何でしょう」
「いや、君はまだ幼いだろう。なのに、何故そこまで強い力を手に入れたんだ?」
「うーん……」
「答えにくい質問かもしれないが、それでも聞かせてくれないか?」
「……分かりました。でも、あまり期待しないでくださいね」
「ああ、構わないさ」
「じゃあ、とりあえず俺の能力について話しますね」それから俺は自分の能力について話し出した。…………
「……なるほど、大体理解できたよ」
「そうですか、良かったです」
「確かに、その力は危険すぎるな。使い方を間違えれば大変な事になるだろう」
「はい、そうかもしれませんね」
「しかし、君ならば悪用するような事はないだろう。むしろ、良い事に使いそうだからな」
「はは、ありがとうございます。俺の事を信頼してくれて」
「いや、別に君の事を信じている訳ではないぞ。ただ、君の目を見たら分かるんだ。きっと、優しい人間だって」
「……そうですか。ありがとうございます」
「こちらこそ、わざわざ紹介に来てくれてありがとな。あとは私に任せてくれ」
「よろしくお願いします」
「では、これで失礼させていただきますね」
「ああ、またいつでも来るといい」
それから俺達は寺小屋を後にして神社に向かった。
神社の境内に入ると、そこには霊夢さんが箒を持って掃除をしていた。彼女はこちらを見ると笑顔になって言った。
「あら、どうだったの?」
「はい、ちゃんと紹介できましたよ」「それは良かったわ。……ところで、あの子は誰なのかしら?」霊夢さんは小悪魔さんを見ながら言う。
「えっと、この人は……」
「初めまして。私は小悪魔と言います」
「小悪魔がどうかしたの?」
「実はですね――」
それから俺は先程と同じように霊夢さんにも事情を説明して、小悪魔さんの事を紹介した。
「ふーん、そうだったの」
「はい。というわけで、今度から紅魔館に遊びに来る時は彼女に案内してもらうといいですよ」「ええ、分かったわ」
「では、私はそろそろお暇いたしますね」
そう言いながら小悪魔さんが頭を下げる。
「分かりました。今日は本当にありがとうございました」
「いえいえ、困ったときはお互い様ですから」
「あ、ちょっと待ってくれる?」
「はい?」
「えっと……これ、あげるわ」霊夢さんがポケットの中から何かを取り出した。それは可愛らしい小さな人形だった。
「これは……人形でいいんですよね?」
「そうよ。可愛いでしょ」
「はい!凄く可愛いですね!」
「良かった。それ、大切にしてくれると嬉しいわ」
「はい、もちろんです!!」
「ふふっ、喜んでもらえて何よりだわ」
その後、俺は二人を見送ってから家に帰った。
それから数日後の事である。いつものように朝食を食べ終えた後、俺は小悪魔さんに話しかけられた。
「紅渡さん、少しよろしいでしょうか?」
「あ、はい。大丈夫ですよ」
「では、早速なのですが……この前話していたように、これから博麗神社に行きましょうか」
「分かりました。準備が出来たら行きましょう」
「了解しました。それでは……」小悪魔さんは立ち上がって玄関に向かう。
「あれ?もう行くんですか?」
「はい。実はですね……霊夢さんに呼ばれていたんですよ」
「そうなんですか。じゃあ、早く行かなくては」「はい、そうさせてもらいますね」
それから俺は準備をして外に出ると、そこには既に小悪魔さんが待っていた。
「すいません、待たせちゃいましたかね」
「いえいえ、全然大丈夫ですよ」
「なら、良かったです。では、出発しましょうか」「はい」
それから俺達は歩き始めた。
しばらく歩いていると、突然後ろで大きな音が聞こえてきた。
「うおっ!?なんの音ですか?!」振り返ると巨大な火の玉が空を飛んでいた。
「あ、危ない……!!あんな物が当たったら死んじゃいますよ……!!」俺は慌てて走り出した。
「ちょっ、待ってくださいよ~」小悪魔さんの声が聞こえる。しかし、今はそんな事を気にしている場合ではない。とにかく逃げなければ。
それから数分走った所でようやく火球が見えなくなった。
「ぜぇ……ぜぇ……なんとか、助かったみたいですね」
「はぁ……はぁ……そう……みたいですね」俺の隣で小悪魔さんが膝に手を当てて息を整えている。
「す、すみません……。私が……不甲斐無いばかりに……」
「いえ、大丈夫ですよ。それよりも、さっきのは何だったのか調べないといけませんね」「ええ、そうですね。……とりあえず、一旦神社に行きましょう」
「分かりました」それから俺達は神社に来た。
「あら、随分遅かったじゃない」霊夢さんがお茶を飲みながら言う。
「はい。途中で変な物に襲われて、大変だったんですよ……」
「へえ、それは災難だったわね。まあ、無事に帰って来れたんだから良かったじゃない」
「確かに、そうかもしれませんけど……」
「それにしても、その様子だと本当に何も知らないようね。妖怪の仕業かもしれないわよ?」
「え、そうなんですか?」
「まあ、可能性の話だけどね。でも、気をつけた方がいいわよ。いつ襲われるか分からないから」
「分かりました。注意しておきます」
それから俺達は神社の中に入った。すると、霊夢さんが口を開いた。
「それで?今日はどうするの?」
「そうですね……」俺は少し考えた後に言った。
「えっと、慧音さんを紅魔館に案内しようかなと思ってるんですよ」「そう、分かったわ。楽しんできなさい」
「ありがとうございます」「別にお礼なんて言わなくてもいいわよ」
「あ、そうだ。霊夢さんにも紹介したい人がいるんですよ」「え?私に?」
「はい、そうです。今日は紅魔館にいると思うんで呼んできますね」
「ああ、分かったわ」それから俺は家l《紅魔館》に向かった。
「ただいま帰りました」
「おかえりー」居間に行くとフランドールさんがいた。彼女はテーブルの上に座っている。
「あれ?咲夜さんはいないんですか?」
「うん。なんか用事があるって言ってどっかに行っちゃった」
「そうですか。……じゃあ、ちょっと出かけてきますね」
「ん?どこ行くの?」
「えっと、慧音さんの所です」「ふーん、そうなんだ」
「それでは、行ってきます」それから俺は外に出た。
「おや、渡さん。こんにちは」門番をしている美鈴さんが挨拶してくる。
「あ、美鈴さん。こんにちは」
「紅魔館の方に何か御用ですか?」「いえ、今日は別の所に行こうと思いまして」
「別の場所に?」
「はい。今から慧音さんに会いに行こうと思っているんです」
「慧音さんに?どうしてまた?」
「実はですね……」俺は事情を説明した。すると、美鈴さんが納得したようにうなずいた。
「なるほど、そういう事でしたら私もご一緒しますよ」「本当ですか?それはありがたいですね」「ふふん、任せて下さい。それじゃあ、行きましょうか」
「はい!」それから俺と美鈴さんは歩き出した。
人里で慧音さんと合流し、しばらく歩いていると、目の前に大きな屋敷が見えてきた。あれが第二の我が家、紅魔館だ。
「ここが紅魔館でございます」
「ほほう、なかなか大きい建物ですね」慧音が感心しながら言うと、美鈴さんは少し笑みを浮かべながら言った。
「でしょう?この幻想郷の中でもかなり大きな方なんですよ」
「そうなんですね。……しかし、ここにいる吸血鬼の姉妹があのレミリア・スカーレットとフランドール・スカーレットとは……」
「あ、やっぱり知ってたんですか」俺が聞くと、慧音さんはうなずく。
「ええ、もちろんですよ。なんせ、あの二人は有名人ですからね。特にレミリアの方は」「……確かにそうですね」
「……?どうかしたんですか?」俺が苦笑いしている事に気づいたのか、慧音さんが聞いてきた。
「いえ、なんでもないですよ。それより、早く入りましょう」
「そうですね」
それから俺達は扉を開けて中に入った。
「お邪魔しまーす」玄関に入ると、そこにはメイド服を着た女性が立っていた。
「いらっしゃいまし……って、なんだ渡様じゃないですか」
「あ、咲夜さん。こんにちは」俺達が軽く頭を下げると、咲夜さんは小さくため息をつく。
「もう、来るなら連絡してくれればいいのに……。それで?今回はどんなご用件でしょうか?」咲夜さんが少し不機嫌な様子で言う。
「えっと、今日は紅魔館の人達を紹介しようと思ったんですけど……」俺がそう言うと、咲夜さんは驚いた表情になる。
「まあ!私達をですか!?」「ええ、そうですよ。だから、皆さんを連れて来たんです」
「そうだったんですか。分かりました。すぐに呼んで来ますね」咲夜さんは小走りで奥に行った。それからしばらくして、咲夜さんと一緒に数人の男女がやって来た。
「お待たせいたしました。私が紅魔館当主のレミリア・スカーレットよ」
「同じく当主の妹のフランドール・スカーレットだよー」続いて、黒髪の少女が笑顔で言った。
「えっと、初めまして。慧音です」
「私は紅魔館執事長十六夜咲夜の姉の、時崎狂三と申しますわ」
「私は門番の紅美鈴よ」
「え、美鈴さんもですか?」俺が驚いて聞き返すと、彼女は微笑む。
「まあね。という訳で、紅魔館の全員集合!」
「おー!!」美鈴さんの掛け声とともに、他の皆も声を上げる。そして、そのまま大広間に移動した。
「えっと、自己紹介してもいいかしら?」俺がそう聞くと、レミリアさんはうなずいた。
「ええ、いいわよ。ただし、そっちの二人にも名乗ってもらいたいんだけど」「……それもそうだな」俺は霊夢達の方に顔を向ける。
「じゃあ、まずはこっちから。俺は紅魔館執事長をしている渡です。よろしくお願いします」
「博麗神社巫女見習いの博麗霊夢です」
「八雲紫です」
「霧雨魔理沙だぜ」最後に魔理沙がそう言い終わると、俺はうなずく。
「よし、それでは次はそちらの方々の番ですね」「分かったわ」最初に、黒髪の少女が一歩前に出る。
「初めまして。私はレミリア・スカーレット。この紅魔館の主人であり、吸血鬼よ」
「妹のフランドール・スカーレットだよー」「私は咲夜よ」「美鈴」「パチュリー」「小悪魔」「小悪魔ぁ!?」「こあちゃんでしょ」
「コ、ココア……?」咲夜さんの言葉に、俺は思わず吹き出しそうになる。すると、次に白髪の青年が前に出てきた。
「僕は十六夜咲夜の双子の弟の、十六夜月夜と言います。以後、お見知りおきを」彼は優雅な仕草で礼をする。
「そして最後はこの私!紅魔館当主にして最強の吸血鬼、レミリア・スカーレットよ!!どう?恐れ入ったでしょう?」
「…………」「……ん?ちょっと、何か反応しなさいよ」俺が何も言わずに黙っていると、レミリアさんは不満げな表情になる。
「いや、だって……ねえ?」俺が困ったように言うと、慧音さんもうなずく。
「ええ、本当に吸血鬼なんですね……」
「何よ、悪い?それにしてもあなた、中々可愛い顔をしているじゃない。気に入ったわ。私のペットにならない?」レミリアさんが俺に近づいてきてそう言ってきた。
「え、遠慮しときます」俺が苦笑いしながら断ると、彼女はつまらなさそうな表情を浮かべる。
「ちぇっ……。まあいいわ。それで?私達に挨拶をしに来ただけじゃないんでしょう?」
「ああ、実は……」それから、俺達は今までの事を説明した。
「へえ、そんな事があったんだ。大変だったわね」
「ええ、まあ……。でも、なんとかなりましたけどね」俺が苦笑いをしながら言うと、レミリアさんはうなずく。
「そうよね。あなたの能力があれば、大抵の事は何とかなるもんね。……ところで、その『時を操る程度の能力』ってどんな事が出来るのかしら?」「いやあ……。説明が難しいんですよね……」俺がそう言うと、彼女は首をかしげる。
「ふーん、そうなのね。まあ、それは後で教えてもらうとして……」そう言ってレミリアさんが指を鳴らすと、大広間の扉が開きそこからメイド服の女性が現れた。
「お茶を持ってきたわ」
「ありがとうございます。あ、ついでと言っては何ですけど、お菓子も持ってきてもらえますか?」
「ええ、いいわよ」彼女がうなずくと、咲夜さんが小声で耳打ちしてくる。
(渡様、あの方は咲夜のお姉さんですよえ、本当ですか?)
「はい、そうです。普段はあまり表には出ませんが、たまに出て来られるんです」
「……そうなんですね」俺が納得してうなずくと、彼女は少し驚いた様子を見せる。そして、すぐに紅茶とクッキーを持って来た。
「お待たせしました」
「いえ、こちらこそわざわざすみませんでした」「いえいえ、お気になさらずに。それではごゆっくり」彼女は一礼してから、部屋から出て行った。
「……やっぱり、咲夜のお姉さんだな」俺はそう呟いてから、紅茶を飲む。うん、美味しい。俺が満足そうにしていると、レミリアさんが口を開いた。
「……そういえば、一つ聞きたい事があるんだけど」
「はい、何でしょうか?」
「えっと、あなたは確か妖怪退治をしているらしいわね」
「はい、そうですが……」
「もしかして、博麗の巫女と一緒に異変解決とかしてない?」
「え、どうしてそれを……って、霊夢から聞いたんですか」
「まあ、そんなところね。それで、あなたから見て霊夢はどう?」
「え?えーと……」俺は言葉に詰まる。何と答えればいいのだろうか……。正直に答えるのはまずいし……そうだ!
「凄く頑張っていると思いますよ。まだ未熟ではありますが、いずれ立派な巫女になれるんじゃないかなって思いますね」俺がそう言うと、レミリアさんは笑みを浮かべた。
「ふーん、そうなのね。それなら良かったわ」
「え?どういう意味なんですか?」
「だって、もしもあなたが博麗の巫女を気に入っていなかったら、私の計画に支障が出るかもしれないじゃない」
「は?計画?一体何をするつもりだったんですか?」俺が尋ねると、レミリアさんは微笑む。
「決まってるでしょ?幻想郷を支配するのよ」
「……!?」まさかの発言に、俺達は驚く。すると、レミリアさんは真剣な表情になった。
「この幻想郷はね、人間にとって住みやすい環境になっているのよ。だから、私達のような存在は邪魔なのよ。……あなただって分かるでしょう?」
「……確かにそうかもしれません。でも、俺達が住んでいる所も人間が住める場所じゃないですよ」
「あら、そうかしら?あなた達の所にだって、人間はいるはずよ。なのに、あなた達は自分達の生活を守ろうとしているじゃない。それに、あなたが住んでいる場所は山奥にあるだけでしょう?もっと人が暮らし易い場所に引っ越せばいいじゃない」
「それは無理ですね。俺達はここから離れられません」
「ふぅん、そうなんだ。まあ、別に構わないわ。それより……」そこでレミリアさんはニヤリと笑う。
「私に協力しなさい。そうすれば、今よりも快適な生活が出来るわ」
「嫌です」「えっ?」俺が即答すると、レミリアさんは戸惑ったような表情になる。
「えっと、断る理由を聞いてもいいかしら?」
「まず第一に、何故俺に協力を求めるのかが分かりません。それに第二に、協力したら絶対に良い事にならない気がします」
「そ、そんな事は……」彼女が否定しようとするが、俺はそれを遮って言う。
「まあ、あくまでも勘なので根拠はないんですけどね。……でも、あなたの言っている事が嘘だという事は分かりました」
「うっ……。ち、違うわよ!」レミリアさんは慌てながらそう言った。
「違わないですよ。じゃあ、あなたがやろうとしている事を詳しく説明してください」
「えっと、それは……」彼女は困ったように目を泳がせる。
「言えないんですか?」
「い、言えるわよ!ただ、ちょっと長くなるというか……」
「そうですか……。それなら仕方ありませんね」
「え?い、いいの?」レミリアさんは拍子抜けした様子で聞いてくる。「ええ、大丈夫です。その代わり、今日はもう遅いですから泊まっていってください」
「え……ええ、分かったわ」
「咲夜さん、悪いんですけど部屋を用意してくれませんか?」
「畏まりました」
「ありがとうございます」俺が礼を言うと、彼女は一礼して部屋から出て行った。そして、数分後……
「準備が出来ました」咲夜さんがそう言って扉を開けると、そこには大きめのベッドがあった。
「……あの、これはどういう事でしょうか?」
「はい、お嬢様が渡様にご迷惑をお掛けしましたから、せめてもの償いとして一緒に寝ようと思いまして」
「ええ!?」俺が驚いて声を上げると、レミリアさんが咲夜に話しかける。
「そういうわけだから、私は彼と一緒の部屋で寝るわ。咲夜は別の部屋を使って頂戴」「え!?ちょ、ちょっと待ってください!そんなの駄目ですよ!!」
「あら、どうして?」「どうしてって……」俺はチラッとレミリアさんの方を見る。すると、彼女は笑みを浮かべた。
「あぁ、もしかして私が襲うとでも思ってるの?安心して。あなたを襲うつもりなんてないから」
「いえ、そういう問題ではなくて……」俺が困惑しながら言うと、レミリアさんはクスッと笑った。
「冗談よ。流石にそこまで節操なしじゃないわ」
「そ、そうですか……。それなら良かった……」俺がホッと胸を撫で下ろすと、咲夜さんが口を開いた。
「では、お嬢様はこちらの部屋にお願い致します」
「え?どうして?」レミリアさんは首を傾げる。
「そちらの部屋の窓は小さく、外に出るには壁を登らないとなりませんので」
「ああ、なるほどね。それじゃあ、行きましょうか」レミリアさんが歩き出すと、俺はその後を追った。
「はぁ、疲れた……」俺は大きなため息をつく。結局、レミリアさんと一緒に寝る事になってしまった……。
「大丈夫ですか?」隣にいるレミリアさんが心配そうな表情をしながら尋ねてくる。
「はい、何とか……。レミリアさんはどうなんですか?」
「私も平気よ。……でも、ちょっと意外だったわ」
「何がですか?」
「あなたが断ってくるとは思わなかったのよ。だから、少し焦ったわ」
「ああ、その事ですか。だって、俺達はまだ出会ったばかりじゃないですか。お互いの事をよく知らないのに、いきなり協力しろと言われても無理ですよ」
「確かにそうかもね。……ねえ、あなたは私に協力して欲しいと思っていないの?」
「え?そりゃあ、出来れば協力して貰いたいですけど……」
「じゃあ、私の目的が分かっても変わらない?」「えっと、それは……」
「まあいいわ。すぐに分かるだろうし。さっさと休みなさい」
「は、はい。分かりました」
それから俺達は眠りについた。……次の日。
「ふわ~……」俺は欠伸をする。昨日の疲労がまだ残っているせいか、いつもより起きる時間が遅くなってしまった。
「あら、随分と眠そうね」横を見ると、既に起きていたレミリアさんが微笑んでいた。
「あ、おはようございます。……早いですね」「えぇ、あなたよりも先に起きているわ。ところで、今日は何をするのかしら?」
「そうですねぇ……。とりあえず、この屋敷の中を見て回りたいと思います」
「分かったわ。案内するわね」
「ありがとうございます」
俺が礼を言うと、レミリアさんは立ち上がって扉に向かった。
「それじゃあ、行くわよ」
「はい」そして、俺達は部屋を出た。
「まずは食堂に行きましょうか」レミリアさんはそう言いながら階段を下りていく。
「分かりました」俺は彼女についていった。……すると、目の前に大きなテーブルがあり、その上には朝食と思われる料理が置かれていた。
「あれが今日の朝ご飯よ」レミリアさんが指差す方を見てみると、そこには咲夜さんの姿があった。
「おはようございます」「……!お、おはようございます」
咲夜さんは驚いた様子で挨拶をした。
「咲夜さん、どうかしたんですか?」
「いえ、何でもありません。……それより、早く食べてしまいませんと学校に遅れますよ」
「あっ、そうでした。……レミリアさん、急ぎましょう」俺がそう言うと、彼女はクスクスと笑った。
「慌てなくても大丈夫よ。咲夜、食器を片付けておいてくれる?」
「畏まりました」彼女は一礼すると、台所に向かって歩いて行った。そして、俺とレミリアさんは椅子に座って食事を済ませた。
「ごちそうさまでした。美味しかったですよ」「お粗末様です。それでは私は食器を洗ってきますので」咲夜さんはそう言って席を離れていった。
「……レミリアさんって、普段どんな感じで過ごしているんですか?」俺は彼女の方に視線を向ける。
「別に普通よ。本を読んだり、紅茶を飲みながらボーッとしてたり……。後はフランと遊んだりするくらいかしら」「へぇ〜」
「ええ。今は地下で暮らしているんだけどね。普段はここにいるから、たまに会ってあげてるわ」「なるほど……。ちなみに、フランはどういう性格の子なんですか?」
「そうねぇ……」レミリアさんは顎に手を当てて考える。
「一言で言えば、『狂っている』わ」
「狂う?それは一体……」
「そのままの意味よ。狂気的なまでに純粋無垢……。それがあの子の性格なの」
「……!」俺は思わず息を呑む。純粋無垢という言葉を聞いた瞬間、ある人物の顔が頭に浮かんできたからだ。
「あぁ、安心して頂戴。あの子はちゃんとした人間だから。……ただ、少しばかり力が強いだけよ」
「そ、そうですか……。それなら良かった……」俺はホッと胸を撫で下ろす。
「そんなに心配しなくても大丈夫よ。あなたも会った時に分かると思うけど、結構良い子よ」
「……レミリアさんがそこまで言うのであれば、きっとそうなんでしょうね」
「えぇ。……さて、そろそろ行きましょうか」
「はい」俺達は立ち上がると、食堂から出ていった。
「次は図書室にでも行ってみようかしら」レミリアさんは廊下を歩きながら言った。
「分かりました」俺達は図書室に向かう事にした。
「ここが図書室よ」レミリアさんは扉を開ける。室内には大量の本が置いてあり、その奥の方には大きな机があるのが見えた。
「凄い数ですね……」俺は感嘆の声を上げる。
「えぇ。ここには色々な国の書物や魔術書なんかもあるわ」
「魔術書?」
「魔法に関する事が書かれた本のことよ。……さて、とりあえず中に入ってみて」
「はい。失礼します……」俺は恐る恐る入室する。
「ふぅん……。やっぱり、この世界にも魔導書はあるんだね」
「えっ?」
「なんでもない。こっちの話です」俺はそう言いながら、棚に置いてあった本を眺め始めた。
「……これなんて良さそうね」
レミリアさんは一冊の黒い表紙を持つ本を手に取ると、パラパラとページをめくっていく。そして、とある箇所で手を止めた。
「これは……。いいわ、これにしよう」
「何か見つけたんですか?」
「えぇ。ちょっと待っていてくれる?」
レミリアさんはそう言うと、持っていた本を持って本棚の奥へと歩いていく。俺は言われた通りに待っていることにした。
(……何やってんだろう?)
しばらくすると、彼女が戻ってきた。
「はい、これがあなたの分よ」そう言いながら、彼女から本を手渡される。
「ありがとうございます。……ところで、この本のタイトルは何というんですか?」
「『吸血鬼の力』よ。この本によると、私達吸血鬼は魔力を使う事で様々な現象を起こす事が出来るらしいわ」
「ほぉ〜……。例えばどんな事が?」
「そうね……。とりあえず、試してみるのが一番早いでしょう。この部屋で適当に練習をしてみましょうか」
「はい!お願いします」俺はレミリアさんと一緒に図書室を出た。そして、適当な場所を見つけると、そこで実践する事にした。まず最初に、レミリアさんが手本を見せてくれる事になった。
「じゃあ、よく見ておいて頂戴」彼女はそう言うと、目を閉じて集中し始める。すると、彼女の身体から紫のオーラのようなものが漂ってきた。
「……はあっ!!」気合と共に目を見開くと、手を前に突き出す。すると、そこから赤い光が放たれた。それは一直線に進み、目の前にあった壁を貫いた。
「お見事です」俺はパチパチと拍手をする。
「どうも。まぁ、こんな感じよ。後は実際にやってみれば分かると思うわ」
「そうですね。……それでは、早速始めますか!」
「えぇ。頑張りなさいね」彼女は微笑むと、図書室に向かって歩き出した。
(よし……。やるぞ!!)
「……はあ、はあ……」俺は肩で息をしながら床に座り込む。辺りを見ると、壁に大穴が空いていた。
「ふぅ……」レミリアさんは汗一つかいていない様子でこちらを見る。
「大丈夫?少し休憩してからやりましょうか」「すみません……」
俺はそう言って立ち上がると、近くの椅子に座って休む事にした。
「しかし、凄まじい威力ですね……」
「ふふっ、ありがとう。でも、まだ制御しきれてないのよね。これだと実戦の時に使えなさそうだわ」
「……ちなみに、今の攻撃ってどれくらいの威力なんですか?」
「うーん……。だいたい、城の半分を吹き飛ばすぐらいかしら?」
「!?」俺は絶句する。
「……冗談よ。せいぜい、城を半壊させる程度よ」
「そ、そうですよね……」俺は大きく息を吐く。一瞬、本当に吹き飛んだのかと思った……。
「さてと、そろそろ再開しましょうか」
「はい!」俺達はまた訓練を始めた。………………
「ふうっ……、これで終わりですか?」
「えぇ、そうみたいね」レミリアさんは額の汗を拭いながら答える。俺達はあれから数時間ほど、ひたすら魔法の特訓をしていた。最初は上手くいかなかったが、次第にコツを掴み始めたのである。
「いや〜、疲れました……」俺は大きく伸びをした。
「お疲れ様。なかなか筋が良いわよ」
「ありがとうございます。……ところで、もう夜になってしまいましたけど、そろそろ夕食の時間じゃないでしょうか?」
「そうね……。続きは明日にする?」
「いえ、せっかくなのでこのまま続けましょう」
「分かったわ。……なら、もう少しだけ付き合ってあげる」
「よろしくお願いします!」
それから、さらに数時間後。辺りはすっかり暗くなり、窓から見える景色には星が瞬き始めていた。
「……あら、いつの間にかこんな時間になってたのね」レミリアさんは時計を見ながら呟く。
「本当だ。……今日はこの辺にしておきましょう」
「そうね。……それじゃあ、戻りましょうか」レミリアさんは扉の方へ向かう。
「はい」俺は彼女に付いて行った。
「……」レミリアさんは無言で廊下を歩く。俺はその隣を歩いていた。
(……なんか、話しかけづらいなぁ)俺がそんな事を考えていると、彼女が突然立ち止まった。
「ねぇ、ちょっといいかな?」振り返ると、真剣そうな表情をしている。
「はい……。どうかしましたか?」
「実はあなたに話しておかなくちゃいけない事があるんだけど、ここで話すわけにもいかないから、私の部屋に来てもらえないかしら?」
「えっと……。分かりました」
(一体、何の話だろう?)俺は不思議に思いながらも了承した。すると、彼女は笑顔になる。
「良かった。それじゃあ、行きましょう」
「はい」俺は彼女と一緒に歩き出した。…… レミリアさんの私室に入ると、彼女はベッドに腰掛けた。
「そこに座ってくれる?」俺は言われた通りに座る。
「あのね、これはとても大事な事だから真面目に聞いて欲しいの」彼女はそう言うと、ゆっくりと口を開いた。
「……私は吸血鬼の中でも特殊な存在でね。普通の人よりも遥かに高い身体能力を持っているの」
(確かに言われてみると、かなり強い気がする)
「それでね、私達吸血鬼は満月の日になると力が強くなるの。そして、その時に起こる現象が『血の衝動』と呼ばれる物よ」「……それは、どういうものなんですか?」俺は恐る恐る尋ねる。
「簡単に言うと、理性を失って暴れ出す状態の事よ。この状態になると、自分以外の全てを破壊しつくすまで止まらないわ」彼女は淡々と説明を続けた。
「……もしかして、レミリアさんは過去にそういった経験があったんですか?」
「えぇ……。あるわ」彼女は少し悲しげに答える。
(やっぱりか……。でも、それってつまり……。)
「ちなみに、今までに誰かの血を吸った事はありますか?」
「……」彼女は無言で首を振る。
「そうですか。……安心してください!もし、レミリアさんが暴走したら俺が止めますから!!」俺は元気よく言った。
「……ありがとう。でも、どうしてそこまでしてくれるの?」
「それは……。友達ですから!」俺はニッコリと笑う。
「……ふふっ。あなたって、本当に変わってるわよね」彼女はクスッと笑みを浮かべた。
「そうですか?」
「だって、普通はここまでしないわよ。それに、あなたの血を見た時なんて、思わず吸いたくなっちゃったもの……」
「えっ?……そ、そうなんですか!?」俺は驚いて声を上げる。まさか、本当に飲んだのか!?
「冗談よ」
「ですよね……。ビックリさせないでくださいよ……」俺はホッと胸を撫で下ろす。
「ごめんなさい。……さてと、そろそろ帰りましょうか」彼女は立ち上がると扉に向かって歩き出した。
「あっ、待って下さい!」俺は慌ててその後を追う。
「どうしたの?」
「一つ聞きたい事が有るんですけど、良いですか?」
「何かしら?」「さっきの話だと、満月の夜にはレミリアさん自身も抑えられないんですよね?なら、普段はどうやって抑えてるんですか?」
「うーん……。基本的にはお酒を飲むのよ。後は……、特定の人物と触れ合う事で落ち着く事もあるわね」彼女は顎に手を当てながら答えた。
「特定の人物というのは?」
「……恋人よ」
「……な、なるほど」俺は苦笑いしながら頬を掻く。
(……レミリアさんの恋人かぁ)俺は彼女の横顔を見ながら考えた。一体、どんな人が相手なんだろうか?……
「それじゃあ、また明日ね」レミリアさんが手を振ってくる。
「はい。失礼します」
「うん。気を付けて帰ってね」
「分かりました」俺は彼女に見送られながら部屋を出た。
「……よし、行くか」俺は拳を握りしめると、覚悟を決めて歩き出す。
「……ねぇ、君。ちょっといいかな?」俺が通り過ぎようとした瞬間、後ろから呼び止められた。振り返ると、そこには見知らぬ男が立っている。
「……はい、何でしょうか?」俺は警戒心を抱きつつ尋ねた。
「いや、大したことじゃないんだけどさ。今から僕の部屋に来てくれないか?」男はそう言うと、ニヤついた顔を近づけてくる。
「いえ、結構です」俺は即座に断った。すると、男の表情が不機嫌そうな物になっていく。
「……おい、こっちは親切で言ってやってるんだよ」彼は低い声で脅してきた。
(これは、マズイなぁ)俺は冷や汗を流しながらも必死に考える。
(とりあえず、逃げようかな?)そう思って踵を返そうとした時だった。突然、肩に腕が回される。
「逃さないぞ?」男は俺を引き寄せると耳元で囁いた。
(くっ!もうダメだ!!)俺は諦めて目を瞑る。すると、男の腕に力が入った。
「ぐぅっ!?」次の瞬間、鈍い音がして拘束が解かれる。目を開けると、男が地面に倒れていた。
「大丈夫か?」そこに立っていたのはロイドさんである。
「はい……。ありがとうございます」俺は立ち上がりながら頭を下げた。
「気にするな。……それよりも、早くここから離れるんだ!」
「はいっ!」俺は返事をすると走り出す。
(……危なかった)俺は安堵のため息をつくと、家への帰路についた。
自室に戻ると、俺はベッドの上に寝転ぶ。そして、天井を見つめたまま考え事をしていた。
(レミリアさんの事だけど、やっぱり心配だよな)
俺は起き上がると、机の上に置いてある本を手に取る。それは『吸血鬼について』という題名の本だった。
(この本によると、吸血鬼は基本的に人間より身体能力が高いらしい)
ページを捲りながら読み進めていくと、吸血鬼の特徴に関する項目を見つけた。
・満月の日になると、その身に宿す魔力が暴走し、理性を失って暴れ始める
・その際に現れる症状として、瞳が赤く染まる
「……この辺りはレミリアさんと一緒だな」俺は独り言を呟きながら続きを読む。
「えっと、他には……」俺はさらにページを読み進めた。しかし、それ以降の記述は特に見当たらず、俺は本を閉じようとする。
「あれ?まだ何か書いてる……」最後の方のページを開くと、小さな文字で書かれた文章を発見した。
「ただいま」そこには買い物袋を持ったレミリアさんの姿があった。
「お帰りなさい」俺は笑顔で彼女を迎える。
「どうしたの?」彼女は不思議そうな顔をした。
「えぇ、まぁ……。レミリアさんに話したい事が有ったので」
「私に?」彼女は首を傾げる。俺は少し緊張しながらも口を開いた。
「実はレミリアさんの事なんですけど……。俺の血を吸ってくれませんか?」
「…………はい?」彼女は呆けたような声を出すと、ゆっくりと近づいてくる。そして、俺の前で立ち止まると真剣な眼差しでこちらを見た。
「本当に良いのかしら?一度でも血を吸えば、もう後戻りはできないわよ?」
(……後戻りか)俺は胸が苦しくなるのを感じた。だが、ここで引く訳にはいかない。「構いません。……むしろ、お願いします」俺は真っ直ぐに彼女の目を見て言った。
「分かったわ」レミリアさんは小さく微笑むと、そっと首筋に触れる。
「痛かったらごめんね」そう言うと、彼女は牙を突き立てた。「……んっ」俺は歯を食い縛ると痛みに耐える。すると、すぐに体が熱くなり始めた。
「……ふぅ」しばらくして、彼女が口を離すと、俺の首から流れ出ていた血液が止まり、傷跡が塞がっていく。
「大丈夫?」レミリアさんが心配そうに見つめてきた。
「はい」俺は彼女に答えると、自分の手を見つめる。先程まで流れていた血は綺麗さっぱり消えており、噛まれたはずの場所にも何の跡も残っていない。
(これが吸血鬼の力なのか)俺は驚きながらも感心していた。
「それじゃあ、私は部屋に戻るから。また明日ね」そう言うと、レミリアさんは足早に去っていく。俺は彼女を見送りながら考えた。
(これから、どうなるんだろう?)
翌日、朝食を食べ終えた俺は、一人で街へと繰り出した。目的は勿論、吸血鬼について調べるためである。
「確か、この街に図書館が有るんだよな」俺は道行く人に尋ねながら進んでいくと、目的の建物を発見する。
中に入ると、そこは多くの本棚が並べられている広い空間になっていた。俺は端の方にある受付に向かい、そこに居た女性に声をかける。
「すみません。ちょっと聞きたい事があるのですけど……」
「はい、なんでしょう?」女性は笑顔で答えた。俺は吸血鬼の事を知りたいという旨を伝える。
「そういう事でしたら、二階の資料室に行かれるといいですよ」
「資料室ですか……。ありがとうございます!」俺は礼を言うと階段を上り始める。そして、目的の部屋にたどり着くと、扉を開いて中に入っていった。
室内を見渡すと、本棚が並んでおり、そこには大量の本が収められている。
(とりあえず、適当に見てみるか)俺は近くの本を手に取った。
タイトルは『吸血鬼について』である。
(えーと、吸血鬼の特徴について……)俺は目次を見ながらページを捲っていった。
(吸血鬼の特徴について:1)吸血鬼は基本的に人間より身体能力が高い 2)満月の日になると、その身に宿す魔力が暴走し、理性を失って暴れ回る 3)その際に現れる症状として、瞳が赤く染まる 4)血の代わりに人間の体液を好む個体が存在する 5)もし、そのような者に出会った場合は、速やかにその場を離れるように
(……これぐらいかな?)俺は本を閉じようとした時だった。突然、本棚の間から誰かの手が伸びてきて俺の腕を掴む。
「ぐあっ!?」俺は驚いて悲鳴を上げる。腕を掴んでいる人物は俺を引き寄せると、本棚の間に引きずり込んだ。
「静かにしろ」男は俺を押さえつけながら囁く。彼の瞳は真っ赤に染まっていた。
「……誰だ?」俺は男の顔を見ると尋ねる。
「お前と同じだよ」彼はそう言いながらニヤリと笑みを浮かべた。
「同じって……」俺は困惑する。すると、男が耳元で囁いた。
「血を寄越せ……」
次の瞬間、首筋に鋭い痛みを感じる。俺は必死に抵抗するが、相手の方が力が強く、全く振り解けない。やがて、全身の力が抜けていく感覚に襲われた。
「……うっ」気がつくと、目の前に一人の男性が立っていた。俺は視線をそちらに向ける。男性は俺を見るなり驚いた表情になった。
「これは一体……」俺は呟きながら立ち上がる。すると、周りにいた人達が騒ぎ出した。
「おい、あれって……」「まさか、あの時の……」「どうしてこんな所に……」人々は口々に何かを言い合っている。
「どうしたんですか?」俺は近くにいる男性に尋ねた。
「いや、なんでもないよ」
「そうですか……。ところで、この辺りで血を吸われる事件が多発してるって話を聞いたんですけど、何か知りませんか?」
「さぁ?そんな話は聞いた事がないな」
「そうですか……。どうも、お邪魔しました」俺は頭を下げると、その場を後にした。
「さっきの男、どこかで見た気がしたんだけどなぁ」俺は首を傾げながら考える。しかし、思い出せない。
(まぁ、良いか)俺は頭を切り替えて、再び歩き始めた。
(2)満月の日に起こる魔力の暴走によって理性を失う 俺は図書館を出て、街中にあるベンチに腰掛けていた。
(結局、収穫は無かったな)ため息をつく。すると、隣に座っていた女性が話しかけてきた。
「どうかされましたか?」彼女は心配そうな顔でこちらを見つめてくる。
「いえ、別に何でもありませんよ」俺は笑顔で答えると、彼女に質問をした。
「そういえば、吸血鬼について詳しい人を知っていますか?」
「えぇ、知ってますよ」彼女は微笑むと、立ち上がって言った。
「付いて来てください」
「ここなら安全です」そう言って案内されたのは路地裏の一角に存在する小さな小屋だった。
女性は扉を開くと中に入っていく。俺は恐る恐る中に入った。
室内には数人の男女が座っている。彼らは入ってきた俺達を見て立ち上がった。
「ようこそいらっしゃいました」真ん中に立っている初老の男性が言う。
「ここは?」俺は周囲を見ながら尋ねた。
「私達は吸血鬼専門の情報屋をしておりまして」
「吸血鬼専門の情報屋……ですか」
「はい、そうです。それで、どのようなご用件でしょうか?」彼が尋ねてくる。俺は少し迷ったが、正直に話す事にした。
「実は、吸血鬼について調べているんですよ」
「吸血鬼について……。なるほど、分かりました。では、料金は前払いになりますがよろしいですか?」
「はい、構いません」俺は財布を取り出すと、中から銀貨を取り出した。
「確かに頂きました。それでは、少々お待ちください」彼は俺からお金を受け取ると、奥の部屋へと消えていく。そして、数分後に戻って来ると、一枚の紙を差し出してきた。
「これが吸血鬼に関する情報をまとめた資料となります」
「ありがとうございます!」俺は礼を言うと、早速その中身を確認していった。
(ふーん……。吸血鬼にも色々と種類があるのか)俺はページを捲りながら内容を読んでいく。すると、ある項目が目に留まった。
(吸血鬼の特徴:2)吸血鬼は基本的に人間より身体能力が高い 2)満月の日になると、その身に宿す魔力が暴走し、理性を失って暴れ回る 3)その際に現れる症状として、瞳が赤く染まる 4)血の代わりに人間の体液を好む個体が存在する 5)もし、そのような者に出会った場合は、速やかにその場を離れるように
「……これは本当なんだろうか?」俺は呟く。すると、傍にいた女性に話し掛けられた。
「何か分からない点でも?」
「いえ、そういう訳じゃないんですけどね」俺は苦笑いを浮かべると、本を閉じて立ち上がる。
「貴重な情報をどうも有難うございました。また、機会があれば利用させていただきたいと思います」俺はそう言い残して小屋を後にした。
(3)血の代わりに人間の体液を好んで摂取する吸血鬼も存在する。俺は街を散策しながら先程の話を思い出していた。
(吸血鬼の中にも色々な種類がいるんだなぁ)俺はしみじみと思う。
(……あれ?)その時、俺は奇妙な違和感を覚えた。
(確か、吸血鬼って満月の夜に理性を失って……)俺は頭の中で考えをまとめる。
(待てよ……)そこで一つの仮説が思い浮かび、俺は思わず笑みを漏らしてしまった。
(3)血の代わりとなる液体を口にすれば、一時的に理性を取り戻す
「よし、これで決まりだな」俺は満足げに笑う。
(じゃあ、俺が吸血鬼に襲われても大丈夫だ!)俺は心の底から安堵すると、再び街の探索を始めた。
(3)血の代用品として、人の血液を体内に取り込む事で一時的に理性を取り戻し、通常の生活を送る事ができる 俺は大通りを歩いていた。すると、突然誰かに肩を掴まれる。振り返ってみると、そこには一人の男性が立っていた。
「ちょっと良いかな?」男性は笑顔で話しかけてくる。
「えっと……」俺は戸惑いながらも返事をした。
「良かったら、これから食事に行かないかい?」
「すみません、今日は予定があるんで」俺は頭を下げると、男性の手をそっと振り払う。そして、その場を後にしようとした。
「まぁそう言わずにさぁ」しかし、男性はしつこく食い下がってくる。俺は困ったなと思いながら男性の顔を見た。
(……あれ?この人、どこかで会ったような気が)俺は彼の顔をじっと見つめる。しかし、思い出せなかった。
(気のせいか)俺は首を傾げると、男性に向き直る。
「あの、本当に時間が無いので」
「いいじゃないか、少しくらい付き合ってくれよ」
「だから、無理だって言ってるでしょう?」
「君なら、きっと僕の気持ちを理解してくれるはずだよ」
「いや、全然分かりませんよ」
「どうしてだい?」
「どうしても何も、俺はあなたと初対面ですし」
「何を言っているんだい?」
「えっ?」
「僕だよ、僕」
「……誰ですか?」
「酷いなぁ、忘れちゃったの?」
「えぇ、全く見覚えがありません」
「嘘はいけないよ」
「いや、嘘なんてついてませんけど」
「そんな事はない。君は絶対に僕を覚えているはずなんだ」
「いやいや、知らないものは知りませんって」
「……そうか」男性は残念そうな顔で言う。そして、懐に手を入れるとナイフを取り出した。
「仕方がない。実力行使に出るしかないようだね」彼はそう言うと、俺に向かって襲い掛かってきた。「うわ!?」俺は慌てて逃げ出す。すると、背後から足音が聞こえてきた。俺は振り返る。すると、数人の男女がこちらへ向かって走ってきている事に気づいた。
「助けてください!」俺は叫ぶ。すると、男女は俺を取り囲むようにして立ち止まった。そして、その内の一人が俺に話し掛けてくる。
「怪我はないか?」
「はい、何とか」
「そうか……。ところで、あいつは知り合いなのか?」
「いえ、初対面です」
「なるほど、分かった」
「え?」
「じゃあ、悪いが死んでくれ」
「はい?」
次の瞬間、俺は腹部に強烈な痛みを感じた。視線を落とすと、刃物が自分の身体に深く突き刺さっている事が分かる。目の前の男は微笑むと、更に刃を押し込んできた。
「ぐあっ!」俺は思わず悲鳴を上げる。すると、周囲から複数の足音が迫ってきていることに気づいた。
「おい、どうしたんだ?」「何があった?」「急に人が倒れて……」「お前がやったのか!」
大勢の人間が男の周りに集まってきた。そして、彼らは俺を睨みつけてくる。
「ち、違う!誤解だ!」男は必死の形相で叫んだ。しかし、誰も信じようとしない。やがて、一人の女性が口を開いた。
「こんな事をしておいて、今更言い逃れできると思ってんの?」女性は冷めた口調で話す。他の者達も同意するように何度も首を縦に振っていた。「待ってくれ、話を……」
「うるさい!死ね!!」
「ぎゃあああ!!!」
男が断末魔のような叫び声を上げた後、動かなくなる。そして、それを皮切りに周りの人間達も次々と動き出した。俺はその光景を見ながら、意識を失っていった。
「う、うぅん……」俺はゆっくりと目を開ける。そして、ぼんやりとした視界の中に天井を見つめていた。
(ここは?)俺は起き上がろうとする。だが、腹の辺りに強い痛みを感じ、そのまま横になった。
(そうだ、確か……)俺は先程までの出来事を思い出す。
(俺は刺されて……)そこまで考えた時だった。部屋の扉が開き、一人の人物が入ってくる。俺はそちらに目を向けてみた。
「お目覚めかい?」彼女は笑顔で話しかけてくる。俺は上半身を起こすと、彼女の姿を確認した。
「あの、貴方は……」
「私はエレナ。吸血鬼ハンターだ」
「えっと……」俺は戸惑う。
(吸血鬼ハンター?一体どういう事だろう)
「ちなみに、君を襲った奴はもういないよ」
「それはどうして?」
「私が殺したからさ」
「……そうですか」俺は無言になる。すると、彼女が再び話しかけてきた。
「それで、君はこれからどうするのかな?」
「……分からないです」俺は俯く。すると、エレナさんは優しく語りかけてきた。
「そうか……。実は私にも似たような経験があるんだよ」「同じような経験?」
「あぁ、昔ある男と出会ってね。そいつとは仲良くなったんだけど、ある日突然殺されてしまった」
「殺された?誰にですか?」
「人間だよ」
「えっ!?」俺は驚きの声を上げる。すると、彼女は苦笑しながら話を続けた。
「といっても、当時の私はまだ子供でね。ただの遊び相手として遊んでいただけなんだけど」
「でも、どうして……」
「その男は、人の姿に変化していた魔物だったんだ」
「ま、まさか、それがあの男性だと?」
「いや、違うよ。君が見たのは恐らく、別の誰かが化けていた姿だと思う」
「そうですか」俺はほっとする。しかし、すぐに疑問が浮かんできた。
「……どうして、そんな事が分かったんですか?」
「簡単な事だよ。当時、私の村では吸血鬼による被害が多発していてね。それで、村人達は警戒心を強めていたんだ」
「吸血鬼の被害って……」
「あぁ、実際に何人も犠牲になっているらしい。そこで、村の大人達が話し合いをして決めたんだ。もしもの場合に備えて、定期的に村の外に狩りに行くメンバーを決めようってね」
「なるほど……」俺は納得した。確かに、そういう事情なら疑うのは当然かもしれない。
「だけど、結果は酷いものだったよ。選ばれたメンバーは全員帰ってこなかったからね」
「えっ!?」俺は驚く。すると、彼女は暗い表情を浮かべながら話し続けた。
「結局、その計画は中止になったけど、それからしばらくして一人の少年が村にやって来た」
「……」俺は黙ったまま彼女を見つめる。
「彼はまだ十歳くらいの子供だったかな。とても明るくて元気な子でね。子供達ともよく一緒に遊んでくれたし、面倒見も良い方だった。だから、皆に好かれていたよ」
「そうですか……。その子は今はどこに?」
「さぁ、分からない。彼が来なくなってからは見かけていないからね。どこか別の場所に引っ越したんだと思うよ。とにかく、そんな感じの子だったから、村人達ともすぐ馴染めたんだろうね」
「そうなんですね……」
「そして、彼は本当に良い人だった。いつも笑顔を絶やさない優しい性格で、困っている人がいれば助けてくれるような、正義感の強い男の子でもあった」
「……」
「そんな彼を見て、次第に私は惹かれていった。気づけば好きになっていたんだ。そして、告白して付き合うようになった」
「良かったですね……」俺は少し複雑な気持ちになりながらも言う。すると、彼女は嬉しそうな顔で俺を見つめた。
「ありがとう。それで、付き合い始めてしばらく経った頃、私は彼に自分の正体を打ち明ける事にしたんだ。私はヴァンパイアだって」
「すると、彼の反応は意外にも冷静なものでね。まるで、最初から知っていたかのように驚いていなかったよ。『やっぱりそうだったのか』なんて言って笑ってたっけ」
「」俺は何も言わないで彼女の話を聞き続ける。
「そして、彼はこう言ったんだ。『僕は君がどんな存在であろうと構わない。ただ、僕の側にずっと居てくれればそれだけで幸せだ』って。それを聞いた時はとても感動してね。涙が出そうになったよ」
「……素敵な恋人だったんですね」俺は思わず呟く。すると、彼女は悲しげな表情になった。
「うん……。でも、彼との時間はあまりにも短かった……」
「え?」
「その後、ある事件が起こった。それは、村を襲ってきた吸血鬼を倒した後のことだった。私が家に帰る途中、偶然にも死体を見つけたんだ。そこにいたのは、血塗れで倒れている彼の姿だった」
「そ、それは……」俺は息を呑む。彼女は力なく首を横に振った。
「もう手遅れだったよ。身体中の至る所に噛み跡があった。恐らく、吸血鬼に食べられた後、逃げようとしたところを襲われたんだと思う」
「吸血鬼に……」
「あぁ、そうだ。しかも、その時は運悪く満月の夜でね。吸血鬼は本来の力を出せる状態だったんだろう。いくら武器を持っていたとはいえ、普通の人間が勝てる相手じゃない」
「そうですか……」俺は俯きながら話す。すると、エレナさんは真剣な眼差しでこちらを見つめてきた。
「だから、君も気をつけるんだよ」
「はい?」俺は彼女の言葉の意味が分からず聞き返す。すると、エレナさんは俺の顔に手を当てて微笑んできた。
「君が人間だろうと、そうじゃなかろうと関係ない。大切なのは、自分が何者なのか自覚する事だ。そして、自分の意思を貫き通す事。それが、君自身の人生をより良くしていくはずだ」
「人生をより良く……」俺は呟くように繰り返す。すると、彼女は優しく笑いかけてきた。
「あぁ、そうさ。まぁ、これは私からのアドバイスだよ。だから、気にしないでくれ。さてと、そろそろ行くとするよ」
「えっ?どちらへ?」
「君のご主人様を迎えにね」
「ご、ごしゅじんさま?」
「あぁ、そういえば説明していなかったね。私達の主の名はリュドミラ・ゼノ。この屋敷の主であり、私達ハンターの頂点に立つ人物だよ」
「そ、そんな方がいらっしゃるんですか?」
「もちろんだよ。ちなみに、君はその方に仕える事になるからね」「わ、分かりました」
「では、行こうか」
「はい……」
こうして、俺は初めて出会った女性と一緒に部屋を出た。そして、そのまま廊下を歩き、玄関へと向かう。すると、そこには一人の女性が立っていた。
「あら、お帰りなさいませ」女性は恭しく頭を下げる。そして、エレナさんが口を開いた。
「今戻ったよ。ところで、彼はどうだい?」
「はい、特に問題はないと思います。先程まで部屋の掃除をしておりまして、今は休憩中でございます」
「そうかい。それは良かった」彼女は満足げな笑みを浮かべる。すると、女性は不思議そうな顔で俺を見つめた。
「そちらの方は……?」
「彼は新しい使用人候補なんだ。これから屋敷で暮らす事になってね」「えっ!?」俺は驚いてしまう。
「そうなのですか。初めまして、私はクレアと申します。よろしくお願いしますね」
「は、はい……」
「ふふっ、そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ」
「は、はい……」
「それじゃあ、私はこれで失礼するよ。また何かあったら連絡してくれ」
「かしこまりました」
「あっ、ちょっと待ってください!」俺は慌てて呼び止める。
「ん、どうかしたのかい?」
「あの、一つだけ聞いてもいいでしょうか?」
「構わないよ」
「どうして、その方はここにいるんですか?」俺はエレナさんの後ろで静かに立っている女性の方を指差して尋ねる。
「それは、彼女がヴァンパイアだからだよ」
「ヴァンパイアって……」
「まぁ、信じられないかもしれないけど、本当の話さ」
「いえ、そういうわけではありませんが……」
「彼女はヴァンパイアの中でもかなり特殊な存在でね。他のヴァンパイアとは少し違うんだ」
「そうなんですか……」
「だから、安心していいよ」
「はぁ……」よく分からないが、とりあえず納得しておく事にしよう
「それと、彼女の事は絶対に誰にも言わないようにね」
「えっ?」
「もし、誰かに話したら、君の命は無いと思ってくれたまえ」エレナさんは俺に鋭い視線を向ける。
「わ、わかりました」俺は思わずたじろいでしまった。
「うむ、よろしい。それでは、また会おう」
「はい」
そして、彼女はクレアという女性を連れて去って行った。その後、俺は屋敷の使用人として働く事になったのだが、それはまた別の機会に話すことにしよう……。
「はぁ……」俺はため息をついた。
「疲れてるみたいだな」
「まあね……」俺は苦笑いしながら答える。すると、隣に座っていた男が話しかけてきた。
「どうやら、うまくいかなかったようだな」
「うん、そうみたいなんだよね……」
「やっぱり、吸血鬼は無理だったのか?」
「そうだね……。でも、諦めずに頑張ってみるつもりだよ」
「そうか……。まぁ、頑張れよ」
「ありがとう……」
俺は男の言葉を聞いて嬉しくなる。すると、男は微笑んでから立ち上がった。
「じゃあ、俺はそろそろ行くよ」
「もう行っちゃうの?」
「ああ、他にも仕事があるからな」
「そう……」俺は残念に思いながら言う。すると、彼は俺に向かって手を差し出してきた。
「これやるよ」
「これは?」俺は男の手に
「飴だよ。疲れてる時は甘いものを食べるといいぞ」
「あぁ、ありがたく頂くよ」
そして、俺は貰った飴玉を口に含む。甘酸っぱい味が広がり、身体中に染み渡っていくようだった。
「美味いな……」
「だろう?それじゃあ、またな」
「うん、またね」
そして、彼はその場から立ち去っていった。俺は彼が見えなくなるまで見送ると、再び窓の外を眺める。すると、屋敷の前に大勢の人が並んでいるのが見えた。
(あれは……
「みんな、来てくれたんだね……」俺は小さく呟き微笑む。
「はい……」すると、後ろから声をかけられたので振り返った。そこには一人の女性が立っていた。
「あっ、ごめん。起こしちゃったかな?」
「いえ、大丈夫です。それよりも、皆さんがいらっしゃいましたよ」
「本当かい!?」
「はい」
「やった!」俺は思わずガッツポーズをする。すると、女性はクスリと笑みを浮かべた。
「そんなに嬉しいですか?」
「もちろんさ!だって、僕の夢が叶いそうなんだよ!?」
「ふふっ、そうですね……」女性は優しい笑みを浮かべる。
「それでね、実はお願いしたい事があるんだけど……」
「何でしょうか?」
「僕も一緒に行ってもいいかい?」
「構いませんよ。それでは、行きましょうか」
「うんっ!」俺は笑顔で返事をして立ち上がる。そして、そのまま部屋を出て階段を下りていった。すると、玄関の方で大勢の人達の声が聞こえてくる。
「おーい、来たよ~!!」「今日こそは勝つから覚悟しとけよ!」「楽しみにしてますね」
「ありがとうございます!」俺は大きな声で答えた。それから、しばらくすると、みんなの前に一人の男性が姿を現す。その男性は長い金髪の美男子で、白いタキシードを着ていた。
「やぁ、久しぶりだね」その人物は爽
「はいっ、本当に久しぶりですね!」俺は嬉しくなって叫ぶように言った。すると、その人は俺に手を差し伸べてきた。
「君のおかげで僕はここまで変わる事が出来た。心の底から感謝しているよ」
「そんな事ないですよ。全て貴方の努力の結果です」
「ふっ、君は相変わらず謙虚なんだね」
「いえ……」
「それじゃあ、行こうか」
「はい」
そして、俺は彼と握手を交わしてから馬車に乗り込んだ。この日の為に、ずっと練習していたんだ。絶対に成功させるぞ!!
「はい、到着しましたよ」使用人の女性は俺達を目的地へと案内する。そこは、綺麗に整備された花畑だった。その景色を見て、思わず感嘆のため息が出てしまう。
「すごい……」
「そうでしょう?ここの花は全て私が育てたんですよ」
「えぇ!?貴女が全部一人で?」
「はい、凄いでしょ」彼女は自慢げに胸を張る。俺はそれに苦笑いしてから尋ねた。
「でも、どうしてこんなに広い場所を独り占めしてるんですか?他の人に貸したりすればいいのでは?」
「そうかもしれませんね。でも、私はこの場所が好きなので」
「なるほど……」俺は納得した。きっと、彼女にとってここは特別な場所なんだろう。
「着きました」彼女はそう言ってから、ゆっくりと扉を開く。すると、そこには沢山の人が集まっていた。
「おおぉっ!」「すげぇ……」「これが例の男か……」
「こりゃあ、期待できそうだな」「早く始めようぜ」
みんなが口々に喋っている中、俺は堂々と歩いていく。すると、一人の少女が俺に向かって話しかけてきた
「こんにちは!」
「うん、こんにちは」
「私の名前はアリシアって言います!よろしくお願いしますね」
「こちらこそ、よろしく」俺は笑顔で答える。すると、周りの人達がざわめき始めた。
「おい、今なんて言った?」「あのアリシアが笑っただと……!?」
「おいおいおい……」
「これは強敵が来たんじゃない!?」
一旦ここで終了です。
長い文章を読んでくださいましてありがとうございました。
よかったら別作品の『東方イチャイチャ生活』も読んでください。
ハーメルン→ https://syosetu.org/novel/265020/
なろう→https://ncode.syosetu.com/n7073hg/
誤字・脱字があれば教えてください。