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第5話 適性試験

宿屋の窓から朝日が差し込んでいる。

窓が開いており、爽やかな朝のそよ風が部屋に入り、白いカーテンを(なび)かせていた。

気怠そうにベッドから起き上がったレインは、何も身に着けてはいなかった。

その彫像のように華麗で均整の取れた肢体に朝日が当たり、まるで神々しい若神が降臨したかのようだった。

レインは前髪を()き上げながら、


「何やってんだ、俺…『隠居生活』を送るために此処へ来たはずなんだが…な。」


窓越しに街の風景を(なが)めながら高台にある学園に目を向けた。


「変な女はついて来るわ…『転生者』は降って来るわ…『怪物』には襲われるわ…

挙句、俺迄あの学園に入学?って…なんだこれ?俺の『隠居生活」はどうなってんだよ?

あのオッサンの『理』から外れたんじゃないのか?

どう見てもあの()()()()が一枚()んでるとしか思えない展開なんだが…違うか?」


そう言って、誰もいない筈の背後に言葉を投げかける。


「我は、何も感知して居らんぞ?」


「嘘は付くなよ?仮にも『至高なる意思』って奴だろう。

オッサンの仕業じゃなきゃ、この状況の説明がつかないよな?」


振り返ったレインは、白髪で長い白髭を蓄えた筋肉マッチョなマッスルポーズをとっている半裸の老人に話し掛けた。


「…おい、何のつもりだ?」


「あ、いやなに、ほれ、お前さんも喋り方も変えてイメチェンしたんじゃし、我もちょっと変えて見ようかとおもうてのぉ…」


(そうだった…昔っから空気が読めてないって言うか…天然系って言うか…

やる事がちょっとズレてる()()()()()()キャラだったな…)


こめかみを抑えながら頭を振るレイン。


「もう、良い…ツッコミを入れる気にもならん…

で、どうなんだよ?因果律に干渉してんのは、お前の仕業何じゃないのか?」


老人に詰め寄る。


「とんだ濡れ衣じゃな?

この辺境域の果ての世界を望んだのは、お前さんじゃったろう?我は希望の場所へ送ってやっただけじゃぞ?

フェリスちゃんは別じゃがのぉ…お前さんの置かれておる状況については我は一切関与しておらんよ。」


少し考える間が開く、


「ふむ…オッサンが嘘を言っているとも思えないな。

…って事は、もしかして…俺が『世界の理』から外れちまってるってのが要因…だってのか…?」


さらりと否定する老人の言葉に偽りは無い、では要因はただ一つ…


「我の与えた『官職』を放棄して『破綻者(はたんしゃ)』となったのじゃから色々と影響が出ておるのであろうな。

お前さんと『世界の理』の因果律(いんがりつ)とが、影響し合っておると考えるべきじゃろうな。」


「おい、オッサン!なんて身体(からだ)にしてくれてんだよ?」


「とんだ言いがかりじゃのぉ…」


「…まぁ、そうだよな。此れが俺の受けなきゃいけない『(ごう)』って奴だろう?

静かで平穏な隠居生活なんて…俺には、不釣り合いな夢だったって事だよな。」


「…」


「そんで?この身体は何なのか教えてくれないか?

この身体だと世界から『排除』される事は無いんだが、なんかまだ馴染(なじ)んでいないって言うか、どことなく…他人の体を借りてるような違和感があるって言うか…」


レインは、手をにぎにぎしながら、


「…そうじゃのぉ、一つ言える事は世界に同じ者は存在できぬという事じゃ…」


「…謎かけか、オッサン?」


レインが、詰め寄ろうとした時ドアの向こうに人が歩いてくる気配がした。


「そろそろ時間の様じゃな…では、我はこれでお暇しよう、快適な隠居生活が送れるよう健闘を祈るぞ。」


そう言って、マッスルポーズをとりながら『至高なる意思』である白髪のマッチョなおじいさんの姿が消えてしまった。


「おい、ちょっと待てよ!まだ質問の答えになって…ちっ、逃げやがったな…」


レインが、オッサンが居た空間を見詰めていると前のドアが開き、

フェリスが朝食をもって入って来た。


「レイン、起きてるぅ?朝食持って来たわ…よ?」


目の前に神々しい肢体を露わにしたレインが立っていた。

一糸(まと)わぬ体を上から下まで一通り見まわし、鼻血を噴出しながら倒れてしまった。



(1時間後…)



シエルフラム学園、世界有数の傭兵育成の学校である。

此処の卒業生は、名のある優秀な人材ばかりであり、各地の戦場に雇われ成果を上げている。

この学園は、傭兵の育成だけに注力している訳ではない。

あらゆる分野の教育を推奨していて、どの分野においてもそれなりに活躍しているものが多い。

12~24歳迄しか在籍できないという条件以外制約も試験も無く、誰もが望めばこの学園に入学できるのだ。


校門には、青銅の剣を掲げた戦士の像と槍を背面に構える女戦士の像が置かれている。

門をくぐり、大きな噴水のある前庭に適性検査を待つ生徒達が集まっていた。


「うわぁ、人が一ぱーい!

みんな、学園に入学しに来てるんだね。」


「すごいわねぇ、私達と同い年の子達もいるみたい。」


エミリアと由奈が輝くような笑顔で前庭を見渡している。


「おいおいなんだよ、この学園大人気じゃねえぇか?

傭兵の育成学園なんて言うから、てっきりなりてぇ奴が救ねぇんじゃねぇかと思ってたんだがな。

それに強そうな奴が、ゴロゴロいやがる…こいつは愉しくなりそうだ。」


ダグラスが、腕が鳴るとばかりに拳を鳴らす。


「それより、フェリスの嬢ちゃん。

どうしたんだ?体調が悪いんじゃないのか、顔が真っ赤だぞ?」


フェリスの顔が真っ赤になっていた、鼻にはティッシュが詰められ、荒い息遣いをしていた。


「な、何でもないわ…気にしないでくれる。」


朝食を持って行ったとき、レインの全てを見てしまってフェリスには、刺激が強すぎて卒倒したのだった。

何とか学園まで辿り着きはしたが、まだその余韻が抜けていない様だ。


「そうかぁ?それなら良いんだが…」


「人込みは苦手なんだよ、これ以上人が増える前にさっさと適性検査ってのを受けに行こうぜ。」


レインが、急ぐように促す。


「そ、そうね、早く行きましょう。」


いつもなら後ろからついて来る感じのフェリスが、率先してさっさと歩いて行く。


「なんだありゃ?どうしちまったんだ。」


「…さあな?」


レインとダグラスが、フェリスを見ながら話していると、

当のフェリスが、3人連れの入学希望者にぶつかっていた。


「ご、ごめんなさい…ちょっと、余所見をしちゃって。」


「おい、お前!ちゃんと、前を見ろよ!

ぶつかって来た上に、バルジモアさんの剣に触りやがったな!」


「え…と、ご、ごめんなさい…」


「解かってんのか、剣は持ち主の魂なんだぞ!それを軽々しく触りやがって!ただで済むと思うなよ!」


憤っている青年が腰の剣に手を掛けようとした。

隣の白いコートの青年が、その手を掴み動きを止めた。


「やめておけ、適性検査の前に揉め事は遠慮しておく。余り目立ちたくない…」


「バルジモアさん…」


その名を聞いた城内からどよめきが起こった。


「バルジモアだってよ?」

「あのバルジモアかよ?」

「やっぱ、噂はホントだったのかよ。今年の新人は、ヤベーのが、何人も居るって話だぜ。」

「アイツは確か…爆撃の戦闘狂…バルジモア、」


あちこちでヒソヒソ声が聞こえる。

どうやらかなりの有名人の様だ。


「ちっ…」


「す、すんません…」


連れの男が、青褪めながら謝っている。

バルジモアは、舌打ちをしてさっさと立ち去って行った。

ダグラスが、フェリスの側へ歩み寄って、


「大丈夫か、フェリスの嬢ちゃん?」


「えぇ、私は大丈夫だけど…なんか悪い事しちゃたみたいね。」


「気にすんなって、遅かれ早かれ、ああいう奴は目立つもんだ。」


定刻になり、校舎から教師と2名の生徒が出て来た。


「それでは、準備が整いましたので、今から適性検査を始めます。受けられる方は、引率する彼らの前に並んでください。」


2名の生徒が教師の前に出る。


「私は、生徒会副会長のセシリア=バーミントンです。

此れから、皆さんに受けて頂きます適性検査について説明をします。説明が終わりましたら会場までご案内致します。」


「それでは、検査について説明させて頂きます。

皆さんに受けて頂く検査は、全部で3つあります。

①身体能力検査

②潜在適性検査

③スキルランク測定検査

これら、すべての検査の結果により、クラスが分けられます。

但し、判定がA以上の方は、学園長による面接を受けて頂く事になりますので、御承知おき下さい。」


襟章に金の星が4つの女子生徒の方が、端的に説明を終えると、


「生徒会執行部のギルバート=セノスです。

其れでは、身体能力検査の会場へご案内しますので、着いて来てください。」


襟章に金の星3つの男子生徒は、教師に一礼してから壇上をおり、校舎の左手の道を歩いて行く。


学園の敷地は、かなり広く、建物まで数分程歩いた。

連れて行かれたのは、かなり大きなドーム状の建物だった。


内部は、様々な器具が置かれ、中央には、石舞台が数カ所設けられている。

先導していた男子生徒が石舞台に上がり、振り返った。


「身体能力検査は、此処『練武場』でおこないます。

それでは、後ろに居る測定員の指示に従って、進めて下さい。

…あぁ、言い忘れてましたけど、

此れは別に試験ではありませんのて、結果が悪くても気にされる必要はありません。現状の皆さんの身体能力を測りたいだけですので、無理はしない様にして下さい。」


男子生徒は、説明が終わると石舞台を降りた。


「…おい、生徒会副会長の襟章見たか?

金☆4個(GS4)付きだったって事は、この学園のトップクラスだよな。男の方も金☆3個(GS3)だったからな…通りで、2人共立居振る舞いに隙がない訳だ…ありゃあ、どっちも間違い無く強ぇぞ。」


ダグラスが、レインに話し掛ける。


「そうだろうな…てか、そんな事はどうでも良いからさっさと適性検査終わらせようぜ。

優劣なんて、入学してからでいいんじゃねぇか?」


「まぁ、そりゃそうだな、それに此処に居る奴等と順位を競う訳じゃねぇしな…

入学するのに適性検査の結果は関係ないって言ってたしな。

どれ、最初は身体能力検査だったよな?どんなことやるんだ?」


「アレじゃないか?」


ダグラスの疑問にレインが指を差し、答える。

そこには、順番待ちをする入学希望者が並んでいた。

レイン達もそこへ並ぶ、前にはエミリアと由奈とフェリスも先に居た。


あと何人かでフェリス達に順番が回って来るところで、内容が分かった。

ボールマシーンから打ち出されるゴムボールを避けるだけ…どうやら徐々に数と速さが増していく様だ。


「反射神経と俊敏性、それと…判断力の検査の様ねぇ。」


フェリスが、独り言のように呟いていた。

次は、あのバルジモアの順番の様だ。

検査官の生徒が、詳細説明をしていた。


「此処では、俊敏性と反射神経を検査しています。

あのマシーンから打ち出されるゴムボールを避け続けて下さい。

ボールには、センサーが内蔵されていますので接触した時点で加点がカウントされるようになっています。

ああ、それと注意してください、此れは俊敏性と反射神経の検査ですので、破壊したり、撃ち返したりしないでください。」


「ああ、分かった。」


バルジモアが、マシーンの方へ歩いて行く。

其処へ検査官が、声を掛けた。


「もう一つ言い忘れました。

ゴムボールに当たってもあまり痛くないのですが、避けきれなくなったりしたら降参してくださいね。

直ぐにマシーンを止めますから。」


バルジモアが横目で試験官を見ながら、マシーンの前に立った。

小声がレインには聞こえていた。


「…愚問だな。」


「用意は良いですか~?」


小さく肯くバルジモア。


「では、始めますねぇ。」


試験官がスイッチを押すとマシーンが動き出した。


軽快に避けるバルジモア一度に打ち出されるボールの数が増えていくが、余裕で躱し続けている。

1個1個のボールの速さの配分にも変化が付き、更に避け難くなってきた。

大体この辺りから脱落者が出て来るのだが、口元に笑みを浮かべるバルジモアはまだ余裕の様だ。


「ほぅ、やるねぇ…」


ダグラスが、ニヤリと笑う。

バルジモアに打ち出されるボールの数が更に数倍に増えた。

流石に口元から笑みが消える

それでも、殆ど当たっていない…何と言う反射神経だろうか。またしても会場からどよめきが起こった。


「検査終了ぉ~。」


検査官が声を上げると同時にマシーンが止まる。

電光掲示板の加点ボードには、3と表示されていたのだ。


「ちっ…」


舌打ちをするバルジモアへ声を掛ける検査官。


「本日一人目の完走者が出たわねぇ。

流石は『爆撃の戦闘』の異名を持つバルジモア君だねぇ。」


その声を無視して歩き去っていくバルジモアの背を見詰め、クスッと笑って列の方へ振り返る検査官。


「さぁ、次は誰かなぁ?」


「次は俺が、挑戦してやるぜ!見てろよ、アイツの記録を抜いてやる!」


躊躇していた列の中からダグラスが声を上げ、検査官の前に出る。


「君良いわねぇ、挑戦者って訳ねぇ。そう言うの好きよぉ。

それじゃあ、張り切って行ってみようかぁ!」


「おおよ!」


数十秒後…肩を落とすダグラスの肩を叩くレイン。


「お前らしいじゃねぇか?」


「いやぁ~、やる気はすごかったけどねぇ。

フルスコアは、学園始まって以来初かもしんないわねぇ?避けないで全部当たってるわよね?」


「いや…なんか無意識で受けちまうんだよなぁ…」


「そりゃ、敵の攻撃は全て受けきるのが、戦士と呼ばれる奴らの特性だよな?

自分と仲間を守りながら戦うだったか…」


「…そうだった。」


「じゃあ、次はだれかなぁ?」


フェリスとエミリアが続き、二人共途中でリタイアとなった。


「はぁーい、頑張ったわねぇ。じゃあ、次の人ぉ~。」


「あ…はい。」


由奈が手を上げて前に出る。


戻ってきたエミリアに


「頑張ってね、由奈ちゃん!」


「う、うん…頑張ってみるね。」


由奈は、少しおどおどしながら検査官の前まで歩いて行く。


「次は、またお嬢ちゃんねぇ、当たっても痛くないから頑張ってねぇ。」


「は、はい。」


マシーンの前まで歩いて行くが、緊張しているのか身が竦んでいる様だった。


(ど、どうしよう…こんなの怖くて出来ないよぉ…)


「由奈ちゃん、リラックスして集中だよぉ!」


由奈の耳にエミリアの声が聞こえた。


(集中…)


由奈は目を瞑った。


「じゃあ、始めるわよぉ。」


検査官の声が上がったが、由奈は目を開けない…

マシーンが動き出し、ゴムボールが由奈目掛けて飛んできた!

当たると思った瞬間、由奈の体が陽炎の様に揺らめき、ゴムボールを避けた。

次から次に飛んでくるボールをすべて躱していく。

まるで、巫女が舞を踊っているような動きだった。


「すっごい…由奈ちゃん…」


エミリアの呟き声が聞こえた。

フェリスも呟く。


「あの子も『転生者』だったわね…忘れてたわ。確か…『神剣士』ていう職業だったわよね…

あまり聞いた事無いけど…」


「…」


レインは、静かに由奈の『舞い』を見ていた。

その時、頭に声が聞こえた。


《…あれは、神の巫女のようだな…》


(ああ、あれは『神降しの儀』だな…それでお前は誰だ?なぜ俺の中に居る?)


《…今はまだ知らなくていい事だよ、君とは長い付き合いになるだろうしな。

今はゆっくり舞に興じると良い。》


(質問は不可って事か…まぁ、良いだろう。)


レインの頭の声が消えてしまった。


(…長い付き合いになるだろう…か、どうやら…)


「終了ぉ~よ。」


検査官の声が上がり、マシーンが止まった。

同時に由奈の舞も終わり、静かに目を開いた。

由奈の舞に心を奪われたかのように静かだった観客が、スコアボードに成績が映し出された瞬間、歓声を上げ、拍手した。

スコアボードに『0』と表示されていたのだ。


「凄いわね、新入生がこれをパーフェクトでクリアするなんて…

『転生者』でも中々いないわよ。もちろん在校生でも数人しかいないんだけどねぇ。」


ウィンクする検査官。

由奈がキョトンとした表情で検査官の顔を見ていた。

エミリアが駆け寄っていき由奈に抱きつく。


「由奈ちゃん、すごぉ~い!舞を舞ってるみたいだったよぉ!」


「そ、そうなの…?」


「由奈ちゃん?」


「目を瞑ってから終わって開けるまでの記憶が無いんじゃないのか?」


レインが、話に割って入った。


「は…はい、その通りです。」


「記憶が無いって…どういう事なの?

あれ程の舞を踊って見せたのに…無意識で踊ってたって言ってるの?」


フェリスが、レインに疑問を口にした。


「ああ、そう言う事だ。

由奈は、無意識で…いわゆる、トランス状態で舞を踊っていた筈だ。

それが『神剣士』の体技の本質だからな…

まぁ、本人には前世の記憶が無いようだからな、神を降ろすために必要な何かが欠けている様だったが…」


「『神剣士』ってどんな職業なんです?」


「ああ、それは…説明が、面倒臭いから教えてやらん。」


(相変わらずひどい扱いだわ…)


「何にしろよく頑張ったな由奈。」


「はい。」


レインに褒められ、にこやかな表情に戻る由奈だった。


「はーい、それじゃあ、次の人~」


「俺の晩の様だな。」


そう言って、レインは検視官の方へ歩いて行った。


(…大丈夫かしら、レインの今の身体は並の人間以下の筈なんだけど…

あの怪物の時は、全く違ってたわ。)


歩いて行くレインの頭の中でまた会話が始まった。


(お前だろ、あの怪物の時に俺に力を貸したのは?)


《…そうだね、君の身体は君だけのモノじゃないからね。少し手を貸してあげたんだよ。

今回も手を貸そうか?》


(いや、必要ない…少しはこの世界に…この身体にも馴染んで来た様だからな。)


《…少しは適応して来た様だね、でも『能力』は使わない事をお勧めするよ。

使い過ぎれば、その体を維持できなくなる、君は『破綻者』だって事を忘れないようにね。》


(忘れちゃいないさ…)


マシーンの前に立ったレインへ検査官が声を掛ける。


「今度は背の高いイケメンねぇ、じゃあ用意はいいかしら?」


「ああ、何時でも始めてくれ。」


「なんか余裕みたいねぇ、じゃあ始めるわよぉ。」


マシーンが動き出す。


斜に構えるレインの構えは、とても優美に見えた。

球が打ち出される左に避けるレインの身体に当たった…


「?」


次々に打ち出される球を避けようとするがほぼ全部に当たっている…


「…アレ?何…?これは何?…」


(避けてるのに全部当たってない?!…ダグラスと違って避けてるんですけど…

運動神経が…ホントに人並み以下じゃない?)


全てを当たり切り、検査が終了した。


「えっとぉ…、終了ね。

なんか見掛け倒しって感じだわ…スコアボードは見るまでもないかな…?」


と検査官がスコアボードを振り返って驚いた顔をしていた。

スコアボードの表示が『0』になっていたのだ。


周りからまたどよめきが上がる。


「可笑しいわね?ボードが壊れたのかしら…?あれだけ当たったのに『0』は無いわよね?」


立ち去ろうとするレインに検査官が声を掛ける。


「ごめんねぇ、ボードが壊れてるっぽいから、もしかしたらまた後で再検査になるかも。」


立ち止まり振り返るレインが、


「そうか…壊れていたのだったらまた呼んでくれ。」


そう言って立ち去って行った。


「でも…スコアボードが壊れるなんてあるのかしら…?」


検査官が、マシンを起動してみる。

飛んでくる球を払い落としながらボードのスコアを確認してみたが、ちゃんと加点されている。


「やっぱり壊れてないわよね…?

じゃあ、さっきのは何だったのかしら…もしかして、彼の『能力』…?だったらどんな…」


検査官が、立ち去っていくレインを振り返ると、

ダグラスがレインの肩を叩いているところだった。


「おい、何だよスコアボード壊れてたのかよ?

あんだけ当たっといて『0』は無いわなぁ、まったく()がいい奴だぜ。」


「…そうだな、()()()たんなら、後でもっかい検査だとさ。」


「そりゃあ、しゃーねーわな。」


ダグラスは大笑いしていたが、フェリスは少し落胆していた。


(あの怪物の時の動きは、何だったのよ?…まだ体が慣れてないのかしら…

それでも、元『創世神』なのよ、なのにあれじゃあまるで、一般人じゃないの…)


「ほんじゃ、気を取り直して、次の検査受けにいこーぜぇ。」


そう言って、戦闘機って歩いて行くダグラスの背を見ながらレインの口元に薄い笑みが浮かんでいた。


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