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第4話 母と娘

学園都市の御膝下にある街エルメリア。

街にある唯一の宿屋である『銀月亭』にレイン達は宿を取り、夕食にあり付いていた。


ダグラスが、出される料理を次から次に平らげながら感嘆していた。

傍らには、食べ終わったお皿が山積みになっている。


「うめぇ!どの料理も、マジで美味いぞ!」


そう言って、口いっぱいに料理を頬張るダグラスを他の3人は驚嘆しながら見ていた。


「ねぇ、もっとゆっくり味わって食べたらどうなの?」


フェリスが呆れた声で言った。

由奈もダグラスの食べっぷりに目を奪われ口が開いたままだった。


「こっちの世界に来て、初めてまともな飯にありつけたんだ。

しかもこんなに美味ぇとくりゃあ、食べまくるに決まってんだろう?」


次々に食べまくるダグラスへ追加の料理を持ってくる看板娘のエミリア。


「どぉ?お母さんの料理とっても美味しいでしょ、どんどん食べてねぇ!」


「おうよ!お前の母ちゃんの料理は天下一品だぜ!ジャンジャン持って来いよ!」


「はーい。」


エミリアは、笑顔で厨房へ戻って行った。

ダグラスが、手を止め静かに食事をしているレインへ話し掛けた。


「なぁ、レイン。お前さん達にちょっと聞きたい事が在んだが…」


レインは、フォークとナイフを置き、ダグラスの方へ向く。


「…何が聞きたい?」


「フェリスの嬢ちゃんは、『輪廻の輪』の管理者って言ってただろう?、

そんで、この世界では俺等の『先導者』って立ち位置ってのもなんとか理解したんだがよぉ…

そもそも此処はどんな世界なんだ?

『転生者』が送られる場所っていやぁ、相場は危険な処って決まってんだが…どう見ても普通っぽいよな?俺達はなんでこの世界に『転生』させられたんだ?

お前さんも『転生者』なんだろ?レイン。何か知ってんだったら教えてくれよ。」


料理を頬張りながらダグラスは疑問を口にした。


「私も…それ私も知りたいんです。

だって、前世の記憶も無いし…教えてもらった『神剣士』なんて職業聞いた事もないんです。

このまま何も解らないままなんて…」


由奈も不安な表情だった。

レインは、ナプキンで口を拭くとそれをテーブルに置きながら口を開いた。


「そう言えば…『管理者』からは『職業』以外何も聞いてきていないんだったな。

…この先何かと面倒になる前に、自分達の置かれた状況くらいは知っておくべきかもしれん。

大まかに掻い摘んで説明してやるからしっかり聞いておけ…」


「お、やっぱ何か知ってんのかよ、よろしく頼むわ。」


もぐもぐしながら親指を立てるダグラス。

フェリスの眉がぴくぴくッと動いていた。


(…ん?大まかに掻い摘んでって…それは説明になってないんじゃ…?)


「お前達は、『至高なる意思』って奴に選ばれてこの世界へ『転生』させられた…

要するにだ、一番上に居る変なオッサンが、テメェ都合で俺達を掃き溜めの世界に転生させて、ゴミ掃除させようって話だ。」


(えぇぇ?!要約し過ぎぃ!その説明でこの子達が分かるわけないでしょ?!)


「成る程な、昼間の変な怪物みたいな奴等を倒しつつ、ラスボスを攻略しろって事か。」


(え…なに?…これ…なに?…あ、あれで理解出来てんの?!)


「その変なオッサンって人が、色んな訓練とか修行が出来るように

フェリスお姉ちゃんを操って、傭兵育成の学校が在るこの街に導いてくれた…って事かなぁ?」


(いやいやいあ、可笑しいでしょ?…えぇぇぇぇっ?!ちょっと待って、たったあれだけで何故ここ迄理解出来てんの?!…操ってってところはちょっと引っ掛かるけど…大体的を得てるって、どうなのよ?)


フェリスが驚愕している中、ダグラスが更に質問を続ける。


「この世界に俺と由奈が『転生』してきた理由はなんとなく解った。

だがよ、俺等より先に来たお前さんはどうなんだよ?隠居する為とか何とか言ってたが、

その蒼鞘の剣からすると…職業は『剣士』っぽいが…」


テーブルの横に立て掛けている黄金の装飾が施された蒼鞘の長剣を指さす。


「…にしちゃあ、昼間怪物とやり合ってる時には、その剣を抜かなかったよな?

棒っ切れで戦ってやがっただろう…と言うか、ただ逃げ回ってただけだったよな。」


レインが蒼い鞘の剣を手に取りながら、


「そうだな…この剣は、()()俺には扱えない代物でな…抜く事すら出来ん。

それに、前の世界で失業したから隠居生活する為にこの世界へ来たんだ…

俺は職業(ジョブ)は持っていない、いわゆる『無職(フリーター)』という事だ。」


「はぁ?!何の職業(ジョブ)にも就いていないってのかよ…いや、それはあり得んだろう?」


「レインお兄ちゃん、本当に職業(ジョブ)が無いの?」


ダグラスだけじゃなく、由奈も質問で返した。

其れは、信じ難い話だったからだ。


世に生を受けし者は、『至高なる意思』により与えられた才能を持って生まれて来る。

人それぞれ違った才能を与えられており、必ずそれを生かせる職業に付く事になるのだ。

これは、自然の摂理であり、世界の理なのである。


「…言った筈だ、俺は退職して…

ああ、そうか…こんな堅苦しい話し方なんてしなくてよくなったんだな…

よし、もうこの話し方は辞めだ!感情を出さずに話すなんて、前の職を引き摺ってるみたいで、いい加減息が詰まりそうだ!」


「レイン様?」


「フェリス、その『様』付けるのやめてくれ!

官職も肩書きも今の俺には何も無いんだ、『様』を付ける必要ねぇだろう?

此れからは気楽に生きて行きたいんだ、頼む…」


「わ、分かりました、レイン様…レインさんが、そう言われるのであれば…」


「その、堅苦しい話し方もやめろ。

もっと軽い感じで、なんかこう…ざっくばらんにやって行こうぜ!」


「は、はい…えっと…わ、分かったわ。」


フェリスが、目をパチクリさせながら頷いた。

レインは、由奈の視線に気付き、振り向いて質問に答え直した。


「何だっけ…ああそうだ、俺が無職(フリーター)の理由だったな。

ぶっちゃけ、どっかのバカが何の断りもなしに勝手に押し付けやがった前の職業が気に入らなかったんで、こっちから辞職してやったんだが…

そういや…今にして思えば、あのオッサン…やけに素直に受理しやがったな…

ま、何にせよ、今は何の職にも就いてねぇ、気楽にただの無職(フリーター)やってるって訳だ。」


何かを吹っ切ったのか、全く別人の様な喋り方だった。

そんなレインの肩を大笑いしながらバンバン叩くダグラスを見て絶句するフェリス。


(ひぃ…な、何やってるのよ、ダグラス!そ、その方がどんな御方なのか分かって…なかったわね!

やめてぇ~~~!そ、そんなにバンバン叩くなんて、か、神の怒りに触れちゃう…)


フェリスが、ダグラスの暴挙に青褪める。

そんなフェリスの心情など露知らず、


「お前、マジで面白い変な奴だな、気に入ったぜ、レイっち!

与えられし職業を成就する事が、この世の絶対不変の『理』だってのに…

『至高なる意思』から与えられた天職を捨てちまう奴がいるなんざ、これ迄聞いたこともねぇぜ。」


豪快に笑いながら、やっと料理を食べ終わった様だ。


「はっ、『至高なる意思』…ねぇ、そのバカが、勝手に押し付けんのが、傲慢なんだって…ん?

ちょっと待て、『聞いたこともない』って言ったよな?

お前…もしかして、なんかしらの記憶が戻ったのかよ、ダグラス?」


レインが、ダグラスの無意識の発言を聞き咎めた。


「あぁ…記憶は戻っちゃいないが…なんだろう、なんかそんな気がしたってだけだ。

もしかしたら、前世のどっかで聞いた事があったのかも知れんな。」


記憶を探る素振りをするダグラスが、やはり思い出さないと言った風に両手を上げて見せた。


「気がしただけかよ。」


「あのぉ…レインお兄ちゃん…」


其れまで黙ってレインを見詰めていた由奈が、口を開いた。


「どうした、由奈?聞きたいことがあるなら遠慮しないで何でも聞いて良いぞ。」


レインは、優しい眼で由奈を見る。

由奈は、思った事を口にして良いのか迷った。


「あのね…あの…」


口籠る由奈にレインが優しく話し掛ける。


「由奈が聞きたいのは…俺の転生前の職業が知りたいのかな?」


頷く由奈を見て、フェリスが何か言おうとするのを片手で制す、レイン。


「それはな…」


レインが、答えようとしたその時、厨房からバーニラさんがやって来た。


「やっと腹いっぱいになったようだねぇ、どうだいあたしの作った料理は?美味しかったかい?」


銀月亭の女将バーニラは、恰幅の良い年配の女性だ。

娘と二人でこの宿を営んでいる。


「おぉ!女将さん、スッゲー美味かったぜ!!

こんな旨い飯は生まれて初めてだわ!これ以上の料理なんて考えらんねぇわ。

マジで俺ぁ、女将(アンタ)のファンになっちまった!」


「そうかい、そりゃあ嬉しいね。そんなに気に行ってくれると料理した甲斐があるってもんさ。

いつでも食べにおいで、腕に縒りをかけて作ってあげるからね。」


ダグラスの絶賛の言葉にバーニラさんは笑顔で腕まくりしながら答えてくれた。


「おう、楽しみだ、また頼むぜ!」


ダグラスが、疎い腕を上げ親指を立ててウィンクして見せる。


「おい、ダグラス。

生れて初めてって言ってたけど、お前この世界に来てからまだ3日位しか経ってないだろう?」


「お、そういやそうだった…ガハハハッ!

それでも美味いもんは美味いんだ、お前もそうだろ?レイっち。」


「あぁ、そうだな…こんな美味しいものを食べたのはどのくらい振りだろうな…」


レインは、自分の皿の料理を見詰めながら、少し悲し気な表情を見せた。


「おや、やっぱりあんた達『転生者』様だったのかい?

道理で…こんな時にそんな軽装備で旅なんかしてるから、そんな気はしてたんだけどねぇ…

となると、最近『転生者』様が増えてきてるって噂は、本当だったのかねぇ。」


娘のエミリアが、掃除道具とモップを手に持って奥の階段を2Fから下りて来た。

テーブルまで走ってきて、弾んだ声で母に報告する。


「お母さん、お部屋のお掃除とメイク終わったわよぉ。いつでもお客様をご案内出来るわ。」


「そうかい、ありがとうね、エミリア。

今食べ終わったばかりだからもう少ししたら案内しておあげ。」


そう言って、エミリアの頭を優しく()でる。


「バーニラさん、いくつかお聞きしたい事が在るんですけど…」


「なんだい、お嬢ちゃん聞きたい事ってのは?」


「私達この世界に来たばかりで、余り状況が(つか)めてないんです…

良かったら色々教えて頂けないかと思って…」


「そうだねぇ…『転生者』様だってのに何にも知らになんて面白い()達だねぇ。

まぁ、あんた達の他に客もいないし、それに娘が手伝ってくれたからやる事も無くなったしねぇ。

時間はゆっくりあるから、知りたい事は何でも訊いてごらん?」


そう言って、バーニラさんはニコリと笑顔で答えた。

横でエミリアが声を上げる。


「お姉ちゃん達、やっぱり『転生者』様だったのね!

会った時にそうだって思ったのよねぇ、私の感はよく当たるのよ!

ほらね、お母さん、私の言ったとおりだったでしょう?」


エミリアは、満面の笑みを浮かべて母に話した。

それをバーニラも優しく微笑んで返した。


「あぁ、お前の感はいつも冴えてる、凄いわよ。

そんなに感が良いんだから賢者とか魔法使いの才能を持ってるのかもしれないねぇ。

でも今は、このお姉さんのお話を聞いてあげないとね。」


「はーい。」


素直に母の言う事を聞き、静かにしているエミリアの姿にフェリスも少し顔が(ほころ)んだ。


「バーニラさん、さっきこんな時だからと言ってましたけど、それって昼間の『怪物』の事ですか?」


「あんた達、此処がどういう世界なのかは知ってるんだろう?

太古の遥か昔、世界を滅ぼし掛けた『災厄』が封印された世界…『羅生王門』と呼ばれる地でね。

此処に住む者達は、何代にも渡って『封印』が解けない様に監視して来たのさ。

でもね、先代達の『封印』の効力にも波があるんだよ、その波の低下期になると、封印をすり抜けて『災厄』の波動が下界に漏れるのさ。

あの『怪物』はね、その波動が人にとり憑いた姿だって言われてるんだよ。」


「…そう言えば、あの怪物の事を『刻の影』って呼んでましたよね?」


「あの怪物は、過去・現在・未来の姿を共有しているって事しか知らないんだけど

まぁ、私にも詳しい事は解らないから

もっと知りたければ、学園に行ってみなさい、色々教えてくれるはずよ。」


「学園って、誰でも入学できるんですか?」


由奈が、質問した。


「そうだねぇ…年齢制限はあるけど試験は無いねぇ。強いて言えば、適性検査みたいなのはあるけど落ちる人はいないわね。」


「どんなところなんですか?」


由奈が続いて質問する。


「そうだねぇ、先生達は厳しいけど良い人達だし、学園では色んな事を学べるわ。

全寮制だし、通っている間はお給料までもらえるからね…

それに『転生者』の子達も多く在籍してるようだし、由奈ちゃんと同い年の子もいるみたいだし、

もしかしたら、お友達が出来るんじゃないかな。」


「わぁ、ホント?!」


由奈の顔が明るくなる。


「エミリアも由奈ちゃんのお友達になっていい?」


「うん!」


二人共笑顔で握手をした。

その仲睦まじい光景を皆が優しい顔で見詰めていた。


「じゃあ、向こうに行って遊ぼうよ、面白いものがあるんだよ!」


「うん、遊ぶ!」


由奈とエミリアは手をつないで走って行った。

その後ろ姿を見ながらレインが口を開いた。


「…エミリアは、お前の子か?」


「?!」


残った全員がレインの言葉に驚く。

バーニラは、真顔になり話し始めた。


「これは、黙っといておくれよ…

もう何年前になるかねぇ…私が学園を卒業して傭兵をやってた頃だったわ。

特殊な任務でね…私のパーティが、全滅しかけてた時に逃げ込んだ太古の遺跡で見つけたのさ。

あの娘は、まだ年端のいかない赤ん坊だった…遺跡の最奥の祭壇に寝かされてたんだよ。

そのまま放っておけなくてねぇ…それであたしが引き取る事にしたのさ。」


「…エミリアも『転生者』だよな?」


「やっぱり、同類には解るのかい?

そうだよ、あの娘も『転生者』だ…私等にはない特殊な才能を持ってるようだからね…」


「そうか…でもそれで良いのか?

エミリアも今年から学園に入学するって言っていたけど…

そんな事をしたら、自分が『転生者』だと分かる筈だ、お前の娘では無かったと気付くんじゃないのか?」


レインの言葉にバーニラはしばらく沈黙したが、口を開いた。


「あの子の未来は、誰のものでもないあの子のモノだからね、それを閉ざす権利は誰にも無いのさ。

良い娘なんだよ、あの子の好きなようにさせてやりたいじゃないか。

普通の人生を歩みたかったら歩んで行けばいい、『転生者』として生きて行きたいならそれでもいいのさ。

あたしが母親じゃなくったって、あの子が後悔しない未来を作ってやりたいんだよ。」


笑いながら話すバーバラ。

レインの口元に笑みが浮かんでいた。


「…良い母親だな。」


「何言ってんだい、よしておくれよ、照れるじゃないか。」


そう言って、バーニラがレインの肩を思いっきり叩いた。


(キャーッ?!だからみんな止めてぇ!なんでそんなに叩いちゃうんですか~?!)


フェリスが、心の中で叫びながら青褪めていた。


次回投稿は3月15日の予定です

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