第3話 始まりの町
サブタイトルが思いつかない…
『羅生王門』と呼ばれる辺境域の更に外側にある極域の世界。
此処には、様々な人種や種族が共存していた。
東西南北に区域が分かれ、地域毎に様々な特色を持っている。
剣術や武術に卓越した東方域、
魔法や魔術・法術に特化した北方域、
機械・銃火器類の高度な技術を持つ西方域、
魔物や悪魔が跋扈する魔族の棲む南方域、
何故、この世界に住む者達は、戦闘に特化した特色を持っているのか…
それは、この世界の『創世神』により、彼等に与えられた不変の役割が故である。
この世界には、数千年に一度、世界を滅ぼす『災厄』が降臨するという言い伝えがある。
『災厄』は、この世界の中心にある『魔域』と呼ばれる不可侵領域から出現し、全ての世界を破壊し、混沌と化し、全てを『無』に戻すと言い伝えられて来た。
故に、この世界の住人達は、この『災厄』を封印する為に存在しているのだ…
世界を破壊する『羅生の王』が降臨する場所…『羅生王門』と呼ばれる所以である。
忌み嫌われ、遠ざけられたこの世界が、数多の転生者達が最後に行き着く場所なのである…
新たな道連れと出会ってから数日後、レイン達は、東方域の北側にある街へ辿り着いた。
「や、やっと着いた…これでやっとお風呂に入れるわ!」
賑やかな街の街路で喜ぶフェリスにレインが話掛ける。
「あぁ、さっさと宿屋を探そうぜ。お前…かなり匂うぞ?」
鼻をつまみながらレインがフェリスから離れ歩き去っていく。
開いた口が塞がらないフェリスへ。
「フェリスお姉ちゃん、まだ我慢できるくらいだから大丈夫だよ!」
由奈が、フォローしてくれている…が、逆にフェリスの心を抉っているという自覚はない様だ。
フェリスは、立ち上がれないくらい落ち込んでしまっている。
「私が額に汗して、やっとの思いでこの街を見つけて来たのよ…
それなのに、ひ、ひどいわ…う…うぅ…っ、しかも、ゆ、由奈ちゃん迄…」
「まぁ、そう落ち込むなって、フェリスの嬢ちゃん。
お前さんが誰よりも頑張ってんのは、みんな承知してるさ。」
ダグラスが、顔に似合わずまともにフォローしている…
「ダグラスさん…」
「さんはつけなくて良いって言ってんだろ、嬢ちゃん?
ま、お前さんの体臭をこのまま野放しにしてたら死人が出るかも知れねぇからよぉ。
宿屋に行く前にあそこに寄って、さっぱりしようや!」
(…私の体臭って一体…)
立ち直れないフェリスが、ダグラスの指差す方を見ると
「湯宿」と書かれた建物が立っていた。
それを目にした瞬間、フェリスの眼がキラキラ輝いていた。
数十分後…
湯あみを終えてさっぱりした4人が、外へ出て来た。
「生き返ったわ~~!」
「気持ちよかったねぇ~お風呂ぉ。」
フェリスと由奈が艶やかな肌で満面の笑みを浮かべていた。
後ろの男子二人も艶々の肌をしている。
「ダグラス、お前の筋肉量は常人の域を遥かに超えている…その上、鍛錬され鍛え抜かれている様だ。
『異世界の戦士』と言うのは、伊達では無い様だ。」
レインがダグラスに話しかけているというより独り言の様だ。
フェリスの耳がぴくぴくと動く、どうやら聞き耳を立てている様だ。
「そうかぁ?あんまり実感がわかねぇーんだけどよぉ…
まぁ、筋肉質ではあるわな…」
そう言って、ボディービルダーの様にいくつもポーズをとって見せる。
「それより、俺からしたらお前ぇさんの方が驚きだぜ?
背が高くて痩せてるんだと思い込んでたんだが…お前…脱いだら凄ぇんだな!」
フェリスの鼻が膨らむ…少し興奮している…?
「天が与えたかのような均整の取れた筋肉、手足も長く余分な筋肉も無い…引き締まった身体…
まるで戦神の彫刻みてぇーな体つきしてんだからよぉ、俺も見惚れちまったぜ。
それに周りのおっさん達もお前ぇさんの体見て興奮してたしよぉ。」
フェリスが突然鼻血を噴出し倒れた。
「ん?どしたい、フェリスの姉ちゃん?」
「お姉ちゃん、大丈夫?」
由奈に抱き起されながら鼻にティッシュを詰めているフェリスを冷たい視線で見るレイン。
「何やってんだ、お前…?」
「な、何でもないわよ…」
そう言って立ち上がりながら誇りを払う。
(そ、そうよね…考えてみたら、この世界に転生して人の肉体を持ってるとはいっても
中身は元『創世神』なんだから…あ、当たり前よね…)
その時、声を掛けられた。
「あら、あなた達この辺りじゃ見かけない顔だね?…旅人かい?」
4人が振り返ると恰幅の良い小母さんが買い物かごをもって立っていた。
傍らには、娘らしき由奈と同い年位の少女も一緒だった。
「…ああ、そんなところだ。」
レインが、答える。
「そうかい、あたしはバーニラってんだ。
そこで宿屋をやってるんだけど、あんた達良かったらうちの宿に泊まっていきなよ?
お安くしといてあげるよ!」
愛想の良い笑顔だ。
「泊って行って!お母さんのお料理とっても美味しいんだよ!」
傍らに居た少女が元気のいい声を上げた。
「この子は私の娘でね、エミリアちゃんとご挨拶なさい。」
「はーい。
町一番の宿屋「銀月亭」の看板娘をやってまーす、エミリアです!
うちの宿に来てくれたら、温かいベッドと美味しい料理を用意しますよぉ!」
明るく元気な少女だ。
「…そうだな、それなら泊まろう。」
レインが、即答したのに一同が驚いた。
「わーい、ありがとう!
最近お客さんが、めっきり減っちゃって赤字続きで大変だったんだぁ!」
「これ!エミリア、そんな事をお客さんに話すもんじゃないよ!」
「はーい、じゃあ、案内するね!」
エミリアは、舌を小さく出しながらレインの手を取り宿まで案内しようとした。
「一つ聞いても良いか?」
「ん?どうしたの?」
レインは、遠くに見える小高い丘の上に建つ、高い塀に囲まれた施設を指さした。
「あの建物は、何の施設だ?」
「なんだい、あんた達シエルフラム学園も知らないのかい?
だいぶ、遠いとこから来たんだね…」
バーニラさんは、驚いた表情をしていた。
代わりにエミリアが答える。
「シエルフラム学園は、世界最高峰の傭兵育成の学校よ。
って言っても闘い方だけじゃなくて色んな事が学べるのよ!
授業料も無料だし、全寮制で誰でも入学できるって凄くない?」
笑顔で話す、エミリア。
「ほう、傭兵の学校にしては、至れり尽くせりだな?
本当に誰でも入学できるのか?」
レインが、エミリアに質問する。
「そうねぇ、年齢制限はあるんだけど…私も今年12歳になるからあそこに通えるようになるんだ。」
「お前も通うのか?」
「もちろん、わたしも通うつもりよ。」
「あの学校に通えるのは、12歳から24歳までって決まっててねぇ、格闘訓練は必須なんだけど、それ以外はなんでも好きな科目を選択出来るんだよ。
それに専門分野の教師も最高峰の人達だからね、こんな良い環境で学べるなんて幸せな事だろう?
私ら東方域に暮らす者は、大体あの学校の卒業生なのさ。」
バーニラさんが、娘の補足説明をしてくれた。
「…それじゃあ、バーニラさんも…」
「ああ、通ってたのはかなり昔だけど、わたしも卒業生だよ。」
フェリスの質問にニッと笑いながら親指を立てて答えるバーニラだった。
「傭兵を育成する学校ねぇ…」
(なんかフラグっぽいけど…)
フェリスが良からぬことを考えていると
「おい、いつまで喋っている?宿に向かうぞ?」
レインが、エミリアと立ち去っていくところだった。
(…質問始めたのレイン様だったじゃないですか…もう、どんだけ自分勝手なんですか?!)
後を追い掛けようと走り出そうとしたフェリスが、急に立ち止まったレインの背に鼻をぶつけた。
「痛ぁ〜い、どうしたんですか、急に立ち止まったりなんかして?」
フェリスの質問には答えず、正面の街路を見詰めている。
「何かいる…な…」
レインの呟きが終わる前に、通り先の建物がいきなり爆発した。
フェリスが、何事かと辺りを見回す。
「何々?!なにがおこってんのよ?!」
「キャーッ?!」
「なっ、なんなのさ?!」
バーニラに飛びつくエミリアをしっかりと抱きながらバーバラも叫んでいた。、
「何か起こってんのか?あの建物がいきなり爆発したみたいだったが…?」
大剣を背から抜きつつ、ダグラスが誰ともなしに聞いた。
「そうですね…それと何か変な気配がします…」
ダグラスの言葉を由奈が受け、答える。
「ほう、お前も感じるのか、由奈?…大したものだ。」
レインの口元に微笑が流れるのを由奈は見た。
「い、いえ…そんなはっきりわかる訳じゃなくって、ただ何となく嫌な感じがするというだけなんです…」
レインは黙って由奈を見詰める。
(この感覚は、たぶん『事象への干渉』だろう…此れは、神の類にしか感知できない筈なんだが…)
其処へ通りの向こうから逃げて来た住民達が、走り抜けて行く。
頭から血を流す者、腕を押せながら逃げ去っていく。
「うわぁ、『刻の影』憑きがでやがったぁ!!」
フェリスが、喚きながらレインの横を走り去って行く男の背を見送りながら
「…『刻の影』憑き…って何の事かしら?」
フェリスが、言葉を繰り返す。
「こんな街中で…不味いねぇ…グズグズスちゃいられないよ!
さっさと此処から離れないと巻き込まれ…」
「どうやら、少し遅かった様だな。」
バーニラさんの顔から血の気が引いていた。
目の前に揺らめく人の影に似た異様な風体の怪物が、突然現れたのだ。
怪物は、右腕をバーバラ目掛けて振り下ろす…が、
次の瞬間、バーバラとエミリアの姿が消えた。
「ふぅ…危なかったな。」
数メートル後方からダグラスの声が聞こえた。
振り返るフェリスは、目を丸くした。
二ッと笑っているダグラスが、バーバラとエミリアを抱えて立っていたのだ。
(す、凄いわ…あの一瞬で、二人抱えてあそこ迄移動したの…?!)
「ほう…記憶が無くともやはり『転生者』と言事か…流石に良い反応だ。」
怪物は、目の前の標的が突然消え、戸惑っている様だ。
その様子を見ながら、レインが首を少し傾ける。
「…この一帯の時空間に歪みが生じている。
どうやら、怪物の存在意義が『理』に影響を与えている…様だが…」
(ふむ…俺の作った世界にも似たような存在は居たが…)
レインが、思考を巡らせていると、怪物が此方に気付き近付いて来る。
実体がないのか、怪物の体がユラユラと蜃気楼のように霞んでいる。
だが、怪物が発している存在感…その生体エネルギーは、霊体では無く実体である事を示している。
ゆっくりと近付いて来る得体の知れぬ怪物を前に、何事も無いように悠然と立つレイン。
フェリスが、羨望の眼差しで見詰める。
(ど、ど、どうなのかしら…元『創世神』であるレイン様の御力って…すっごい興味があるわ!
この世界ではどれほどなんだろう…)
「おい、フェリス。」
「は、はい!」
「怪物の戦闘力を分析してみたが…今の俺達で敵う訳がない、全滅するな。」
レインの言葉にフェリスは一瞬耳を疑ったが、直ぐに理解したようだ。
「えぇぇぇぇっ?!それってヤバじゃないですか?!!」
「由奈を連れて、さっさと逃げた方が良いぞ?お前等が逃げ間の時間は稼いでやる。」
怪物が、此方へ向かって走り出した。
レインが、近くに落ちていた棒を拾い下段に構える。
「急げよ、長くは持たないからな。」
レインは振り返りもせず…そして、その背は否を言わせない雰囲気が漂っていた。
「わ、分かりました。由奈ちゃん、行くわよ!」
「は、はい!」
二人は、ダグラス達の方へ走って行った。
その背後に怪物が迫るが、その前にレインが割って入った。
「おい、お前の相手は俺だろ?」
怪物は、一瞬立ち止まったが、次の瞬間レインへ向けて襲い掛かった。
襲い来る攻撃を躱し続ける。
少し大袈裟に躱しているように見えるが、手に持った棒で受けようとはしない。
(…ふむ、この身体に慣れるのにはまだ時間が掛かるな。それに…)
怪物の揺らぐ拳が、レインのコートに触れた途端、触れた箇所が塵へと変わった。
立て続けに繰り出される攻撃をだんだんギリギリで躱すようになっていくレインの衣服は、ボロボロになっていく。
「おいおい、ありゃなんだよ?触れただけで塵になっていくじゃねぇか?!」
ダグラスが、建物の影から戦いを見ていて驚きの声を上げた。
「…多分、アレがレイン様の言っていた、時空間に干渉しているという事でしょうね…
あの怪物が、触れた箇所の時空間が乱れ、原子形状を維持できなくなったのだと思うわ…」
フェリスが、ダグラスの言葉に説明をつけてくれたが、
「なんか難しくて良く判らんが…ありゃあ、やばいんじゃないか?レインの奴…ボロボロだぜ…」
大きく飛び退り、怪物から距離を取るレインだが、着地と同時に瞬間移動したように怪物が目の前に現れ、レインに攻撃して来た。
ギリギリで避けきるが、服が塵と化してしまった。
「あの怪物の動きなんか変じゃねぇか?あれは、スピードが速いって訳じゃねぇな…何だ…?」
ダグラスが、異変に気づいた様だ。
レインが、その質問に答える。
「その様だな…怪物の移動速度が特段速い訳ではない。
瞬間移動のように見えるのは…怪物が、『時』にまで干渉しているからだ…」
触れれば塵と化し、時までも操る怪物の攻撃をなんとか避けている、レイン。
「おいおい、マジかよ…『時』に干渉なんて…どんなバケモンだよ?!
そんなバケモン相手に一人じゃ無理だろ!」
ダグラスが、レインに加勢しようと飛び出して行こうとしたその時、
怪物の攻撃を避けたレインがバランスを崩した。
「レイン様!!」
フェリスが、叫んだ。
怪物が、体勢を崩したレインへ襲い掛かった。
一瞬、怪物の動きが止まった…?
その時、黒い一陣の風が通り過ぎ、怪物の頸が落ちた。
崩れ落ちる怪物の横にシルバーブレイドの長剣を右手に持ち、学生服を着た少年が、立っていた。
詰襟に銀色の星が3つ並んだバッチが付いている。
「これって『刻影憑き』だよなぁ…報告しなくちゃ怒られるかな…ちぇっ、面倒臭いなぁ。」
そう言って、レインの方を見る事もなく、少年は長剣を鞘に戻しながら立ち去っていった。
ダグラス達がレインの所へ駆け寄って来た。
「なんだよあの少年、マジで強ぇな…触れるのも無理そうだったのに、
あの怪物を一振りで倒しちまいやがったぜ…」
少年の差って言った方を見ながら、ダグラスが独り言ちていた。
「凄い子だったわね…それに、あの少年が着てた服って学生服だったわよね?」
「だな…もしかして、あの丘の上の学園の奴かな?」
フェリスとダグラスの疑問にバーニラが答えた。
「あの制服は、剣術武技科の制服だったわね…
襟章が銀の☆3つだったから、シルバークラスのランクAの子ね。」
「ふ~ん、そのシルバークラスってのは強ぇのか?」
「そうねぇ、まぁ…そこそこ強いわよ。
あの学園のどの専攻科にも、初等部のブロンズ・中等部のシルバー・高等部のゴールドの3つのクラスが在るわ。その上もあるけど…プラチナクラスに上がれるのは、ほんの一握りしかいないのよ…
それと、☆の数は最大5個まであるんだよ、数が多い程、強者って事さ。」
バーニラが、学園の事を掻い摘んで説明してくれた。
驚くダグラスの口元にうっすら笑みが浮かんでいた…
「マジかよ、あんな強ぇえのに…その学園ってとこじゃあ、あれでもそこそこだってのかよ…?!
へっ…ちったぁ、楽しそうなとこじゃねぇか…」
そう言って、ダグラスは、丘の上のシエルフラム学園に向かって拳を突き出した。
「ふん…どうやら、此れもアイツに用意されていた様だ。
気に入らないが…今は先に進むしかないって事だろうな。」
ボロボロになったレインが、ゆっくりと立ち上がりながらフェリスへ声を掛けた。
「え?…えっとぉ…何が用意されてたんです?」
レインは、頭を振りながら、
「…ったく、相変わらず勘の鈍い女だな。
俺やお前は記憶は残っているが…他の二人は記憶もない、それに俺達は自分の能力すら分かってない。
この素敵な問題の数々は、アイツが原因だってのは間違いない…となると、
この先どんな難関が用意されているやら…まぁ、そう簡単には攻略出来んと思ったほうが良い。
それを考慮すれば、あの学園は、コイツらを鍛錬するのに持ってこいのシチュエーションだろう?」
「そ、そうですね!
よく考えたらタイミングが良すぎるわ…私がこの街を偶然見つけたのも…もしかしたら…」
フェリスがこれまでの行動を振り返っている。
「そう言う事だ。
取り敢えず、宿でもう少し詳しい話をバーニラに聞いてから考えても遅くはない。」
そう言って、レインはバーバラ達の方へ歩いて行く。
「もう、ちょっと待って下さいよぉ、レイン様ぁ。」
レインの後を追ってフェリスが走っていく。
由奈だけが、一人その場に残り、怪物の亡骸を見詰めていた。
地に倒れ伏した頸のない怪物、黒い影のように揺らめいていた身体が、実体に戻っていた。
棒が刺さった跡の様に怪物の胸に穴が開いている事に由奈は気付いた。
「…これって…もしかして、一瞬怪物が止まったように見えたのは…」
由奈が、歩き去っていくレインの背に目を向けた。
レインの右手には棒が握られてはいなかった。
次話は3月8日位になります。