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20/20

第20話 すべては始まり…そして終わる

二つの月が、蒼黒の天空に浮かび…

風も無く…辺りは、静寂に包まれていた。


復興が始まったばかりの学園は、至る所に瓦礫の山が築かれていた。

生徒達も毎日馴れない復興作業を手伝い、唯一残った病棟に生徒達は寝泊まりしていた。

皆疲弊しきっていて、この深夜の時間帯に出歩く者は居ない。


大崩壊の前は、並木道と綺麗な芝の校庭だった場所にレインが一人立っていた。

白銀の月明かりに照らされ、全身が輝いているような幻想的な光景だった。


そのレインの姿を見詰める…影…


(ああ…ん、レイン様ぁ…マジ、やべぇーっす!

月明かりに照らされるレイン様が神々し過ぎて…涎が…止まらないわ…)


「おい、サーシャ…そこに居るんだろう?」


(あっ…ばれちゃった…)


月明かりの下にサーシャが、おずおずと出て来た。


「…病室から、ずっと後をつけてただろう?」


「ごめんなさい…でも、レイン様が病室を抜け出されたのを偶然見かけて…

意識が戻って間もなかったし…心配になって…つい…」


「そうか…そうだな…お前には、言って出るべきだったよ。」


珍しく、レインがすんなり謝罪する。


「…でも、レイン様…こんな夜更けにお一人で何を…」


サーシャが、レインの行動に質問した。

レインが、サーシャの頭に優しく手を置き髪を撫でる。


「…お前には話すべきだな…俺が何者なのか…」


「レイン様が何者かって…『転生者』では無いのですか?」


「まぁ…それも間違いではないんだが…そうだな…少しそこで見て居ろ。」


サーシャが後ろへ下がるのを確認し、レインは夜空へ両腕を掲げた。

淡い金色の光が、レインから夜空へ向け放たれる。

夜空が、金色の光に満たされていく…世界が、温かく優しい光に満ち溢れていく…


「温かい…なにこれ…もしかして、魔法…?」


サーシャは、自分の口から出た言葉が間違っていると感じていた…

レインから放たれ世界を包んでいる金色の光は、人が放つ其れではなかった。

この世界でも魔法は、魂から発せられる特別な力ではあるが…自然の摂理を逸脱することは出来ない…

しかし、目の前でレインが見せる金色の光は…そんな次元の問題では無かった。

世界を包む金色の光は、世界を変貌させていく…

瓦礫と化した建物が、形を成し新たなる建物へと変わり、朽ちた草木が新たな命を吹き込まれ再生していく…

新たなる世界を創世していくように…


目の前で起こる奇蹟を見ながらサーシャは理解した。

人の持つ魂とは、次元が違い過ぎる…もっと高位の魂を持つ…そうあれは…高次元の存在…


「…神…」


サーシャは、その言葉を口にしていた。

そして、自分でも気付かぬうちに涙を流していた。


程無くして金色の光は消え…

瓦礫と化していた建物が…朽ち果て枯れていた草木が…爆発により変形していた山が…

干上がっていた湖が…

新たに生まれ変わった姿を呈していた。

天空には、二つの月と輝く星々…大地にある草木や山々や湖には生命力が溢れ、キラキラ輝いている。

そして…

新たな息吹を与えられた学園は…空に浮いていた。


「う…そ…、こんな事って…

新たな生命を創り出し…世界を新しい姿に改変する…そんな事の出来る存在が…

レ、レイン様…あなたは…」


レインが、ゆっくりとサーシャの方へ振り向く、


「…これが、俺だ。

前の世界での俺の『階級(クラス)』は『創世神(ジェネレーター)』だった。」


「『創世神(ジェネレーター)』…」


「…色々あって、1回辞めちゃったんだけど…」


「や、辞めた?!そ、創世神を辞めたんですか?!」


「ああ、親父に啖呵切って辞めてこの世界に『転生』して来たんだが、

あのクソ親父、辞めるんなら俺に『業』を背負えって言いやがって…」


「…えっと、レイン様のお父様って…」


「ん?…ああ、サーシャ達の世界では確か…『大いなる意思』って奴だよ。」


「?!」


サーシャが、驚くのも無理はない…

レインが、元創世神であったという事実も整理できていない上に…父親が、全宇宙の最高神なのだ…


「こっちの世界で静かに暮らす筈だったんだが…

弟にも迷惑をかけたみたいだからな…俺が役目を引き継ぐことにした。」


「ち、ちょっと、待って下さい…弟さんて…もしかして…」


「ああ、フリューデルはこの世界の『創世神』だ…いや、だったが正解だな。」


「…だった?」


サーシャには、もう何がなんだか分からなくなっていた。


「この身体は、元々弟のだったんだが…色々あって…今は俺が使っている。

それに弟は、俺の中に居るからな…そんな状態で『創世神』はやってられないだろう?」


「そ、それじゃあ…もしかして…この世界に『創世神』は居ない…のですか?」


サーシャが、至極もっともな質問をした。

どの世界にも等しく『創世神』が存在する…と言うより、世界を創世するのが『創世神』なのだから…


「居るよ…ほら、目の前に!」


そう言って、レインが親指で自分の胸を指さす。


「は…い?レイン様は…『創世神』をお辞めになってのでは…?」


キョトンとした表情のサーシャへ。


「さっきも言ったろう?俺が、弟の役目を引き継いだってさ。

この身体も『創世神()』のだったんだし…それにフリューデル()も俺ん中に居るしな。」


ウインクしながらサーシャへ親指を立てて見せる。

レインらしくない仕草にサーシャが、違和感を覚え…


「レイン様…ですよね?」


「へぇ、君には違いが分かるんだねぇ?…そう、僕はレイン兄さんじゃないよ。

自己紹介しておくね、僕はこの世界の『創世神』だったフリューデル=シールドだよぉ。

今は兄さんが『創世神』だけど…これからよろしくねぇ!」


そう言って、フリューデルが手を差し出すのを見て、サーシャは気絶してしまった。

許容限界を超えてしまった様だ。

倒れ掛かるサーシャを抱きしめるレイン…フリューデル。


「ねぇ、大丈夫君?」



サーシャが、目を覚ました時レインの膝枕の上に居た。

目の前にあるレインの顔が近すぎて真っ赤になる。


「えっ…えっ…っと…こ、この状況は…?!」


「目が覚めたか、サーシャ。

驚かしてすまなかったな…一度に多くの情報を与えてしまった様だ。」


「い、いいえ…そんな事は無いです。

私の方こそ気絶してしまって…恥ずかしい…」


サーシャは起き上がり、見覚えのある景色に気付いた。


「…此処は…」


初めてサーシャとデートした中庭の先にある石碑のある小高い丘だった。


レインが、遠くを見詰めている。

その横顔を見ながらサーシャが話しかける。


「あの…」


「世界はこんなにも美しく輝いている…そうは思わないか、サーシャ?」


レインの見詰める先をサーシャも共に見詰めた。


「ええ…本当にそうですわね、世界は美しい…」


「この世界は、俺達『創世神』が創った世界じゃない…月も星も大地や大気も…生きとし生ける存在達も…

『災厄』を封じる為だけに親父が創った世界だ。」


「そうなのですね…」


「そして…『災厄』はいつか復活する…その時、この世界は…

違うな、この世界だけじゃない…全宇宙が、破壊され『混沌』へと堕ちるだろう。

この美しく輝いていた世界は消滅し、破壊され荒廃した世界へと変貌する。」


「…でも、レイン様が…『創世神』様がいれば…『災厄』なんて簡単に…」


「…いや、無理だろうな。

大いなる意思(親父)』ですら倒せなかった相手だ…

封印が解ければ、いかに『創世神』と言えど、勝てる見込みは…皆無だよ。」


「そ…そんな…」


何時も強気なサーシャが、不安そうな顔を見せた。

そんなサーシャへレインが微笑んで見せ、サーシャの頬へ優しく手を添える。


「君にそんな不安そうな顔は似合わないよ、サーシャ。

弟が任された役目だが…俺が引き受けたからな…『災厄』の復活を阻止し、この世界から消滅させる。

手がない訳じゃない…強大な力を持つ『災厄』だとしても…

復活する前なら本来の力は取り戻せていない筈だ…そこに勝機はあるかもしれん。」


「それじゃあ…」


サーシャが言葉を続けようとしたが、レインが話を終わらせた。


「…難しい話は、また今度にしよう…それよりも、今は他に優先すべきことがある。」


「…優先すべきこと?」


サーシャが問い返した。

レインは、サーシャの瞳を見詰めたまま


「ああ…俺は、隠し事をするのもされるのも嫌いだ。

だから、お前には真実を話した…隠してるつもりは無かったが、話してもいなかったからな。

それと…お前も俺に隠している事が在るだろう?」


サーシャがハッとする。

レインの前で隠し事など出来るはずがない…心を見透かされている…目の前に居るのは、創世の神なのだ。


「…あ、あの…実は…」


「まぁ、お前だけじゃないしな…クラスの者達が、見舞いに来てくれたが…

皆…俺に何かを隠している様だったからな…」


「…『創世神』様であれば…他人の心くらい簡単に読めるのでは…」


「おいおい、創世神だからって万能なわけじゃないさ、今の俺には人の心など読めないよ。」


「そ…そうなんですの…」


「ああ…だが、学園の中に違和感は感じていたからな…

まさか、由奈とエミリアが居なくなっているとは思わなかったが…」


「…申し訳ありません、ただ黙っていたのではなく…皆、言い出せなかったんですわ。

あの崩壊の日から二人の姿は、学園から忽然と消えてしまっっていたんです…

レイン様にお話しして良いものか…迷ってしまって…」


「…特にダグラスとフェリスの態度は、変だったからな。

バレバレだ…ったく、なんでこう…この学園の奴等は揃いも揃って…」


「何故か目が離せないって言うか…存在感って言うか…

神様なのですから当然なのかもしれませんけど…」


「そうなのか…?特に気にした事は無かったが…」


気にした風も無くレインが応える。

サーシャは、話題を元に戻した。


「それにしても由奈ちゃん達は、どこへ行ってしまったのか…?

やはり…『災厄』が絡んでいるのでしょうか…」


暫くレインが考え込んでいたが、何かの結論に達したのか口を開いた。


「何処へ行ったのか…可能性はいくつかあるが…特定するには情報が無さすぎる。

足取りを掴むにはまず情報だろう…」


「一刻も早く見つけてあげないと…由奈ちゃん達が危険な目に遭っているかも…」


「…それは、心配しなくても良い。」


心配するサーシャを余所にレインが軽く答える。

反論しかけるサーシャが、


「でも…」


「サーシャは…由奈の『才能』が何か知っているか?」


「ええ…確かあまり聞きなれない…『神剣士』でしたわよね?」


「そうだ…それじゃあ『神剣士』について何か知っているか?」


「いいえ…初めて聞く『才能』でしたのでほとんど知らないんです。」


「…そうだろうな、神の居ないこの世界にその『才能』を持つ者は存在しなかっただろうからな。

他の世界には、必ず存在するんだが…俺の居た前の世界にも『神剣士』は存在していたしな。」


「どんな才能なんですか?」


「…一言で言えば、神々の剣技をその身に宿す者だ。」


「神々の剣技…ですか?」


サーシャが反芻しながら訊き返す。


「人の身で到達できる剣技の領域を遥かに凌ぐ技量を持っている…剣だけなら神にも匹敵…

いや…神をも凌駕する力だよ。

もし、俺が対峙したとしても勝てる気はしないな…」


「そ…それ程なのですか…?!」


「そうだ、だから心配する必要は無い。

この世界で由奈に勝てる者など…存在しないからな…とは言っても楽観視も出来ないが…

早く探し出さないといけないことに変わりはない。」


「はい。」


「そろそろ戻ろうか、明日から大変になりそうだからな…

今日は早く休んでおいたほうが良い。」


「そうですね。それにしても、明日みんな起きたら驚くでしょうね。

瓦礫の山だった学園が、一晩で新しく生まれ変わった上に、空を飛んでるんですもの…」


「学園長には、話を通しているから生徒達には都合よく説明してくれるだろう。」


そう言って、サーシャの背に手を回し、帰り道を誘うレインだった。

それに従いながらサーシャの顔が赤くなっていた。



次の日の朝、

学園中大騒ぎになっていた。

生徒達が、朝起きると学園に異変が起こっていることに皆気付いたのだ。

瓦礫と化していた校舎も彼は手朽ちていた草木も全て元通りに…いやそれ以上の姿になっていたのだ。


未来の姿を模したような近代化した校舎が建ち並び、半透明の全天候型ドームが、覆っていた。

草木も花も新しい生命を得たように輝いている。

一晩で変貌した世界を目の当たりにし、皆自分の目を疑っていた…

そして、何度見ても信じられない光景が…目の前に広がっていた。


学園が、何の支えも無く…天空へ浮かんでいたのである。


驚愕している生徒達の耳に放送が聞こえた。


【学園の生徒達は、至急中央の校庭に集まってください。

学園長先生から今回の件の説明があります。】


放送を聞いた生徒達は、校庭へ向かって歩いて行った。



天空に浮かんだ学園の下…麓の街の入り口にレインとサーシャが立っていた。


「良かったんですか?これで…」


サーシャが、レインへ声を掛けた。

天空に浮かぶ学園を見上げているレイン。


「まぁ…学園長が何とかするだろう?

それに…この飛空学園は、来るべき『災厄』との戦いの要として創っているからな。」


「…要ですか?…空に浮かんでいるだけにしか見えないんですけど…

何か仕掛けでもあるのですか?」


「ああ…こいつの中には、俺の元居た世界の最先端技術が織り込まれているからな。

この世界にはない…霊子光学の技術力の粋が詰まっている。

今は浮いているだけにしか見えないだろうが…生徒達が使いこなせるように成れば…

この学園は、世界最強の空中要塞となる。」


「この学園が…世界最強の…空中要塞…ですか。本当にレイン様には、驚かされてばかりですわ…

私の様な一介の地精の民に『創世神』様の高尚なるお考えなど知る由もないのですけれど…

…申し訳ありません、そんな考えすら不遜な事ですわね。』


サーシャが、傅き跪く。


「堅苦しい話し方も…その改まった態度も止めてくれないか?

俺は『創世神』じゃない…ただの代理人だ。

それに昔はどうあれ…お前と出会ったのは、ただの『転生者』だ。

そうただそれだけ…」


「…でも、それでは…」


反論しようとするサーシャへ手を差し伸べるレイン。


「そうしたいんだよ。

…お前には、いつでも俺と対等で居て欲しいのさ、大切な仲間だからな。」


サーシャは、立ち上がりながら


「レイン様がそうしたいのであれば、私に否はありませんわ。」


二人の元へ

フェリスとダグラスが、走って来た。


「おいおい、まさかお前等だけで行くつもりだったんじゃないよな?」


「また旅に出すんでしょ?

私を置いて行くなんてあり得ないわよ?!私はレインの『監視者』なんですからね!」


二人共怒っている様だ。


「…この旅は、後戻りできないぞ?

由奈とエミリアは、恐らく『災厄』の手に落ちている筈だ…だが、必ず救い出す…

そして『災厄』をこの世界から消滅させる迄この戦いは続く…それでも…」


「嬢ちゃん達を早く助け出してやろうや。

そんで、みんなで力を合わせて『災厄』を倒しちまおうぜ!」


ダグラスの言葉にフェリスも頷く。


「…じゃあ、行くか!」


そして、新たなる旅が始まる…世界を巻き込む大きな渦が、全てをも煮込んでいく…




世界は、秩序と混沌の均衡で保っている…それは未来永劫変わらない理だ…



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