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第17話 動き出す影

大歓声の上がる観客席には、応援に来ているダグラス達Aクラスの生徒も座っていた。


「凄い歓声だね、それだけ注目されてるって事だよねぇ。

各国の要人連中も見に来てるって話だし…」


チャールズがダグラスへ話し掛けた。


「だよな…こういう時は、必ず何かが起こるってのが定番なんだが…」


「そうだよねぇ…

世界各国が注目する大会なんてチャンスに、敵対勢力が着目しないわけ無いよねぇ。」


隣に座っていた少年が、競技場内の選手達を見詰めながらダグラスの呟きに応えた。


「…誰だ?お前さん…ん?…ちょっと待てよ…どっかで遭ってないか…」


少年の顔に見覚えがあった。


「僕は、ザン=クロフォード。

君には、前に一度街で遭ったよ…『刻の影憑き』が暴れた時にね。」


ダグラスが、思い出したようだった。


「おぉ?!お前さんあん時の…」


少年が片手でダグラスの話を制す。


「それより…何かおかしいと思わないかい?

何ていうのかなぁ…会場の雰囲気って言うか…どこか違和感があるって言うか…まるで…」


ザンが言葉を続けようとした…

その時だった、数人の出場選手が、周りの出場者達へ襲い掛かったのである。


「?!」


突然他クラスの生徒達が、レイン達へ襲い掛かったのだ。

一瞬の出来事だったが、レインとサーシャがシンとセリーヌを庇う様に立ち塞がり、

ランド、サーシャ、バルジモアが、瞬時に反応し応戦する。


「いきなり襲い掛かるなんて、大胆ですわね?!」


「貴様等…何のつもりだ?」


サーシャとバルジモアが、叫んでいる。

他クラスの生徒達が、ダブって見える…彼等の輪郭がぼやけている様だ。


「この人達なんか変だよ?!身体が…複数にブレてるみたいだ…」


「…時空干渉だな…身体がブレている様に見えるのは、ズレた時間軸が、同座標に留まって起こる現象だ。」


サーシャにもレインの言葉が、聞こえた。


「それって…もしかして、この人達…『刻の影』に憑かれてるって事ですの?!

嘘でしょ…これだけの数が一度に憑かれるなんて…聞いた事が無いですわよ?!」


サーシャが、応戦しながら驚いていた。

その時、セシリアが、レイン達へ襲い掛かる生徒を細剣で叩き伏せながらレイン達の前に飛び込んで来た。


「みんな、無事…って、選抜選手に選ばれてる貴方達には愚問だったわね…

初動の対応が、的確で迅速だし対応力もある。

だけど…これはかなり不味い事態になってるわね。」


『刻影』に憑かれた生徒達がレイン達を取り囲んでいる。


周りを見回しながらセシリアは、武器を構え臨戦態勢を崩さない。

先程セシリアに倒された生徒が再び立ち上がったのだ。


「あら…意外とタフね…?!」


セシリアが自分の細剣の先が崩れていくのを見た。


「これって…」


「…アレは、時空間に干渉している存在だ…

奴等に触れれば、時空間を歪められ…刻が戻り消滅するか、逆に刻が進み朽ち果てる事になる。」


レインが独り言のように話す。

それを聞いて、サーシャとバルジモアは、自分の武器を見た。

初撃を受けた武器は、亀裂が入り、朽ちつつあった。


「ちっ…」


バルジモアが舌打ちをする。


「ちょっと、これじゃ…手が出せないじゃない?!

こんな化け物が…しかも、この人数を相手するなんて…厄介過ぎるわね…」


サーシャが愚痴る。

レインの頭の中の聲が、話し掛けて来た。


《あらら…とうとう動き出した様だね、学園内に気配は感じてたんだけど…

この数日間は様子見してたって事かな。ここにきて動いたって事は…》


(…まだ『災厄』を復活させる準備が整うには早すぎる…となると、挨拶に来たってとこだろうな。)


《…だろうねぇ、君の存在を確かめに来た…んじゃないかな?

でも…このタイミングで急襲しに来るなんて、かなり周到に計画建ててるなぁ。

この数の『刻の影憑き』だと…かなり手古摺りそうだけど、どうもそれだけじゃ無いみたいだね。

どうするの?このままじゃあ、みんな巻き込まれて大惨事になると思うんだけど…?」


(…)


「ちっ、触れられないんじゃあ、どうやって戦えば良いってんだ?」


バルジモアが、苛ついた声を出している。

セシリアが、それに応えるように話す。


「彼等に直接攻撃は、効かないように見えるけど…

そうじゃないのよ、時空に干渉しているといっても私達から見ればタイムラグが存在する…

先程も彼等の攻撃を受けた瞬間に貴方達の武器が崩壊したわけじゃないでしょう?という事は、

超高速の剣技や銃弾のような瞬発性のある攻撃は有効なのよ。」


「はっ、そいつは無理だな。

この大会用に調整したとはいえ、奴等の攻撃を受けたこの修練用の武器は既に使い物にならん…」


「あ…あのぉ…それは問題ないと思うよ?」


シンが、バルジモア達の会話に割って入る。


「あ?そいつは、どう言う意味だ?」


「装備の性能を大会用に調整してあげただけじゃないのよ、新たに装備の自己修復機能を追加してあるわ。

その程度の劣化なんて数秒で元通りになる筈よ。」


「まさか、自己修復機能を装備してるの?!」


セシリアが、驚きの声を上げた。


「ええ…レイン君から借りてる剣を解析してて、異世界の技術がこの世界でも応用できることに気付いたんです。」


(簡単な事のように言ってるけど、異世界の技術を解明する事がどれ程難しい事か…

しかもそれを応用したですって?…この子…何者なの??

生徒会どころか全世界を探しても何人いる事か…)


セシリアが内心驚愕していた。


「セリーヌさんが、手伝ってくれたから出来たんです。

僕一人じゃ、こんなに早く解明は出来なかったと思います。」


「私は、ただシン君のお手伝いをしただけでだけどね。」


セシリアの開いた口が塞がらなかった。


「手伝う手伝わないとか、そう言う次元の問題じゃないわ…あなた達が成し遂げた事は…」


「今そんな話を悠長に話してる時間は無いですよね。

何とかこの状況を打破しないと…」


ランドが、横からセシリアに声を掛ける。


「そ、そうね…そうだったわ。

装備も自己修復してるようだし、此方から攻勢に出るわよ!」


セシリアが動こうとするのをレインが片手で止める…その左腕が、いつの間にか漆黒の装備を纏っていた。


「貴方その腕…」


《…『破綻者』の能力(ちから)を使うしかないよね…でも解っているのかいそれを使う事の意味が?

って愚問だったね…もう覚悟してるんだろう?》


(今の俺には、こいつ等に対抗できる選択肢は此れしかないからな…

因果を歪めるとどうなるか…理解しているさ…だが…)


《…そうかい…》


その時、観客席で悲鳴が上がる。

レイン達が、観客席へ振り返った。

観客席の中に『刻の影憑き』が出現したのだ。しかも1か所では無く複数個所に同時に出現したようだ。

観客達が逃げ惑う、会場はパニック状態になっていた。


「嘘…観客席にも『刻の影憑き』が現れたの?」


(成る程…敵も用意周到だな…)


レインが、驚愕するセシリアの肩に右手を置き、


「これは、少し不味い状況の様だ…

ランド達は、急いで観客を避難させてくれ…学園の生徒なら大事には至らないと思うが、中には一般人も混じっている。各国の首脳陣や要人も多いはずだ…

こいつ等の思惑が分からない以上直ぐに対処しなければ、手遅れになるかもしれない。

此処は俺が引き受ける、君等は急いで観客席へ行ってくれ。」


レインが、セシリア達へ指示を出しながら剣を一振りすると凄まじい風切り音が鳴り、床に亀裂が走った。


「ちょっと待って、あなた一人でこの人数の『刻の影憑き』を相手にするって言ってるの?

それは無茶だわ、生徒会が推薦した生徒とは言え、まだ1年生…

あなたに任せるのは生徒会副会長として了承できないわ。」


セシリアが反対する。

サーシャが、セシリアの腕を引いた。


「先輩、ここはレイン様に任せて私達は観客席へ行きましょう。

この状況では、レイン様の言う通り、観客を保護する事が優先順位は上ですわ。

副会長はそちらへ急いだ方が良いのではないかしら?

ほら、貴方達何をグズグズしているのかしら?私達が居てもレイン様の邪魔になるだけよ。」


そう言って、レインにウインクして見せる、サーシャ。


「レイン…」


フェリスが声を掛けようとするが、


「此処は気にしなくて良い…早く行け、観客席の生徒達が危険だ。」


レインが、振り返らず答える。


「じゃあ、お願いするわ…でも危険だと思ったら直ぐに引いてください!」


その背中へセシリアが声を掛け、観客席へ走って行った。


「レイン様…ご武運を!」


サーシャ達が、観客席の方へ走って行ったが、バルジモアは一緒に行かず、その場に残った。


「なんだ、お前はいかないのか?」


「ふん、俺より弱いお前が一人でこいつ等が止められるとは、到底思えんな。

それに弱い者を見捨てるのは俺のポリシーに反する…

まぁ、不本意だが、俺様が助太刀してやるから、有難く思うんだな。」


レインの口元に笑みが浮かんだ。


「ああ…独りじゃ荷が重いと思っていたところだからな。

…お前が居てくれるなら心強い。」


「さぁ、さっさと片づけるぞ!」


そう言って、砲銃剣を身構えるバルジモア。


「そうだな…」


レインも剣を構えた。



パニック状態になった観客席では、

至る所に『刻の影憑き』が出現していたが、たいして被害は出ていなかった。

何故なら出現場所の要所に生徒会やダグラス達が偶々居合わせていた…

出現した『刻の影憑き』を包囲していたのだ。


だが、これは偶々ではなかったのだ。

ザン=クロフォードが、事前に手配していたのである。



レイン達の処で『刻の影憑き』が出現した時、


「あ、あれは、なんなの?!」


チャールズが、指さす。


「おいおい、ありゃあ?!街で出やがったあの『刻の影憑き』ってバケモンじゃねぇか?!

どうなってやがんだ、他のクラスの奴等全員かよ?!」


ダグラスが、席を立ち上がった。


「やっぱりかぁ…でも、あっちは、彼で何とかなりそうだけど…

こっちはちょっと不味いかなぁ…思ったより広範囲に出現しそうだからなぁ…

生徒会の人数ではちょっと足りないね。」


ザン=クロフォードが、ゆっくり立ち上がって、ダグラスへ話し掛けた。


「ねぇ、君…君達は、Aクラスの生徒だったよね?

ちょっと手伝ってくれないかなぁ?」


「手伝い?」


ダグラスが、訊き返した。


「そう、ちょっと頼みがあるんだ。

僕の予想では、観客席の中にも『刻の影憑き』が出現し、後数十秒で観客席はパニックになる。」


「なっ…に?」


「生徒会の連中には、至る所に配置させてるんだけどちょっと人手不足なんだよねぇ。

だから君達にも生徒会として応援を頼みたいんだ。

もう3か所出現しそうなところがあるから手分けして向かってくれ。

あまり時間が無いから急いでね。」


ダグラス達へザン=クロフォードが、的確に場所を指定した。

云われるがままダグラス達は走って行こうとした。


「ああ、でも気を付けてね。

あの怪物は、時空間に干渉してるから並みの武器では歯が立たないんだよ、触れた瞬間に朽ち果てるから彼等に物理攻撃は効かないからね。」


走り出して行こうとするダグラス達が立ち止まり振り返る。


「なんだ、そりゃあ?

そんなのどうやって闘えばいいってんだ?!」


ガナハが、怒鳴る。


「…俺が思うに腐食させる刻よりも早く動くか、直接攻撃では無く関節攻撃しろって事だ。」


ダグラスが応える。


「へぇ~、流石だねぇ。街での初見でそこまで『刻の影憑き』の対処方法が解るんだ…

やっぱり『転生者』は怖いねぇ…さぁ、そいう事だから頑張って食い止めて来てね。」



観客席に出現した『刻の影憑き』が、その猛威を振るっていないのは、その布石があった為であった。

指示された場所へ到着していたダグラス達も


「おいおい…本当に表れやがったぜ?」


ガナハが、槍を構えながら驚いていた。


「…これを予想…違うな、アレは確信していた…観察眼と洞察力のなせる業か…

それに街では『刻の影憑き』を一刀で斬り捨てる程の実力者でもある。

あれで襟章は『銀章☆3』とはな…生徒会ってのは化け物の集まりの様だな。」


独り言を呟くダグラスの目の前で観客が『刻の影憑き』に変貌していく。


「な、なにィ、2体目かよ?!聞いてないぞ!」


「なんだガナハ、怖気づいたのか?」


ダグラスが、挑発するかのような発言をする。


「ば、バカを言うな、こんなバケモンに怖気づく訳ねぇだろう!!

テメェ等の加勢が無くても俺一人でも十分だぜ!」


「強気だねぇ…だけど、こいつは手を組んでやらなきゃ…こっちがやられるかもしれんな。」


そう言って、ダグラスが大剣を前に出し身構える。


「へっ、お前の方が怖気づいてんじゃねぇか?」


ダグラスの口元に笑みが浮かび、


「…そうだよなぁ、弱気は俺らしくないわなぁ…そんじゃあ、楽しもうじゃないか!

おおりゃあぁぁぁ!!」


そう雄叫びを上げながら大剣を振り回し『刻の影憑き』へ突っ込んでいくダグラス。

それを見てガナハ達も走って行った。



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