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第16話 選抜大会開会式

5月の清々しい晴天の空に浮かぶ、2つの月が荘厳さを演出していた。

1年に1度行われる生徒会選抜大会の当日を迎えた。

この大会は、学園の行事の中でも特に注目を浴びていた。

学園内はもちろん学園の外でもその関心度の高さは伺える…世界各国の首脳陣や専門機関のスペシャリスト達が、こぞって観戦に来る程である。


貴賓席に座る身なりの良い男が隣に座る、口髭を蓄えた男に話しかけていた。


「今年は、ウルグ首相の御子息も出られるとお聞きしておりますよ。」


どうやらこの国の首相と大臣の様だった。


「倅は、既に2段階目の覚醒を終えているからな。

選ばれて当然だろう…あれは、儂をも上回る『才能』を持って居るからな。」


「何と?!それは素晴らしいですな、まだ18歳だとお聞きしましたが、もう2段階目の覚醒をされているとは驚きですな!これは今年も楽しめそうですわい。」


「儂からすれば、彼奴もまだまだだではあるが…期待はしておる。」


「御子息が、生徒会に入れば一躍有名人ですな!世界から注目されるのは間違いないですからのぉ。

となれば、次期首相の座も転がり込んでくると言う訳ですかな?」


「倅にそんな小さな器など期待しておらん、更に上の地位…もっと大きな器に育ってもらわねばならん。

国を背負う様な…な。」


「ほほう!それはそれは、なんとも大儀な事でございますなぁ!」


大臣の大笑いする声が観客席に響き渡っていたが、その下卑た笑い声をファンファーレが鳴り響く。

4クラスの出場選手達、総勢20名がゲートから入場して来た。

大歓声が沸き起こる中、選手達は所定の位置まで歩いて来た。

大会本部の設営テントの中から数名の実行委員が前に並びその中央に、

実行委員長である、生徒会副会長のセシリア=バーミントンが立っていた。


「皆さんお静かに願います。

此れより第138回生徒会選抜大会を開始いたします。

各々持てる力を存分に発揮し、全てを出し切り、栄光を掴み取って下さい!!」


セシリアの凛とした声が、会場中に響き渡たる。


「それでは、学園長による大会の挨拶をお願いいたします。」


セシリアが後ろに下がり、学園長が選手達の前に歩いて来た。

白髪交じりの髪と髭を蓄え、眼鏡を掛けた白い長衣を纏い静かに歩み…そして、優しく話し始めた。


「会場に御列席の方々に於いては、無事に1年を過ごされ、また此処で御会い出来た事を謹んでお喜び申し上げます。

この星に生まれた我等『封印の民』が、安らかに…そして、平和に暮らせる世界であった事は、『大いなる意思』の御加護によるモノであり、この世界を創り、統治されておられる『創世神』様の御威光に他ならない…

そして、我等の存在意義である『災厄』の封印を成就する為にも精錬された者達を世に送り出す事が、私の務めだと心得ております。

そして、この大会を通して…次代を担う若者達が、更に切磋琢磨し大きく飛躍することを望みます。」


一拍の間が空く。

出場先週の方へ学園長が向き直り話し始めた。


「貴方達は、無限の可能性を秘めた存在だという事を忘れないで下さい。

限りなく広がる未来へと続く数多の道…

あなた達はその道を自ら意志で選択し進んで行く…道を踏みはずす事もあるかもしれません…ですが、立ち止まる必要など無い、もし誤った道だったとしても…また違う道を探し進んで行けば良い。

この大会は、その数多ある道の一つに過ぎない…気概を負わず、普段通りに力を尽くして下さい。

そうすれば、その先にまた新しい道が見つかるでしょう。」


そう言って、一礼する学園長に向けて会場中から拍手が上がった。


「学園長先生、御挨拶ありがとうございました。

それでは、30分後に競技を開始しますので、出場選手は、事前に預けた装備を本部の窓口で受け取ってください。不正が見つかった方は、即退場となりますので、その旨ご了承ください。

それでは、これで開会式を終了します、皆さんに『大いなる意思』の御加護とご武運をお祈りいたします。


セシリアは、一礼し退場していく。

選手達は、大会本部で装備を受け取り、控えブースに集まっていた。

Aクラスのブースに推薦枠のレインとフェリスが歩いて来た。


「レイン様ぁ!」


サーシャが、ブースに入ってきたレインを見つけ、直ぐに腕に抱きついて来た。

フェリスが、サーシャを引き剥がしながら、


「だから、サーシャは何でいつもレインに抱きついてるのよ?!」


「フェリスさん、いつも邪魔ばかりするのかしら?

…もしかして、貴女もレイン様に、機が在るんじゃないのかしら?」


サーシャに突っ込まれフェリスの顔が真っ赤になる。


「そ、そ、そんな訳ないでしょう?!

わ、私は、レインの『監視者』だからいつもレインを見ているだけだし!

き、気が在るとかそう言うんじゃないわ!!」


「ふ~ん…そうなんだ…それで?その『監視者』ってどういう意味なのかしら?

何故レイン様を監視しなくちゃいけないのかしら?」


サーシャが、フェリスの言葉に引っ掛かった。


「え…えっと…そ、それは…」


どうこたえるか考えあぐねているフェリスに、


「無駄話をしている時間は無いぞ?もう直に競技が始まるからな、」


「レイン君は、推薦枠だからブースが違う筈だけど…」


ランドが、レインへ質問する。


「ああ、それは解っているが…お前にお客が来ていたからな、此処まで案内して来たんだ。」


「僕にお客さん…?」


「ああ…ほら、着いたぞ。」


レインがそう言って、ブースの入り口を振り返った。

ブースに居た者達が、一緒に入り口を見ると…


「悪いねぇ、レイン君。俺根っからの方向音痴でさぁ…

いやぁ、みんな調子はどう?」


現れたのは、再起不能と診断され、ベッドで寝ている筈のアーサーだった。


「?!」


一同が声も無く驚愕していた。


「ア…アーサー…君…なのか…?!」


何とかランドが声を発した。


「おいおい、何だよランド君。1日しか経ってないのに俺の顔を忘れちゃったのかよ?」


「い…や、そうじゃなくって…君、身体は…大丈夫なのか?」


ランドがアーサーを凝視しながら話す。


「ホント驚いたよ、昨日あんなにボロボロになってたけど…朝起きたら…」


アーサーが飛び跳ねて見せる。それもなかなかの跳躍力だ。


「なんか元通りに治っててさぁ。

いや…元通りと言うより、前よりすっごく調子が良いんだよ!」


「マジで…?!」


シンが、信じられないモノを目の当たりにし、目を大きく見開いていた。


「嘘でしょ…?こんな事って…あれ程重症だったのに一晩で完治したって言うの?!

ど、どうなってるのよ…ここの最先端の医療って…一体…」


セリーヌも理解を超える医療技術に驚愕していた。

サーシャは、アーサーでは無くレインを見ていた。


(…最先端の技術なんかじゃないわ…あれは…レイン様の…)


レインが、サーシャの視線に気付き、自分の唇に人差し指を近づ、肯いて見せた。

サーシャも頷き返す。


ランドが、アーサーに近付いて行き、抱きしめる。


「おいおい…?どうした…」


「良かった…アーサー君、僕は…僕は…君を…」


「…ああ、俺はこの通り無事だよ。

だから、もう気にするなって、間違ってない…お前は、あれで良かったんだって…

もし…お前が手を出してたら、俺がランドを庇った意味が無くなってしまうからさ。

それにほら、お前が気に病む事は無いって、こんなに元気なんだぜ!」


そう言って、自分の胸を想いきり叩いて見せた。

強すぎてせき込んでしまったが…

それを見てランドが。少し笑顔になっていた。


「君が、命懸けでやってくれた好意を無にしなくてよかった…」


笑顔でアーサーが、ランドの方に腕を回した。


「あ、そうだ…

此処へ来る途中…って言うか、道に迷ってる途中でさぁ、

他のクラスの連中が話してるのを聞いたんだけど…もしかしたらアイツ等手を組んでAクラスを潰しに来るかもしれない…」


「ほう…面白そうな話だが、そいつは可笑しいだろう…?

他のクラスの連中は間抜けな奴らなのか?迷子になってる奴にそんな画策をしているのを偶々聞かれるなんてあり得無いな…普通、そんな話をしていれば、周囲に気を使う筈だ…

どうやって聞いた?」


バルジが、アーサーへ疑問を投げる。


「どうって言われてもなぁ…ブースの中の聲が聞こえただけだよ…?」


「ブースの中の声が聞こえただと?それこそ意味が解らんな。

生徒会の奴等が言っていたが、此処の設備はその辺完璧な仕様になってるそうだ…

外音を完全に遮断してるはずだが…それで聞こえたというのなら、お前の耳はどうなってるんだ?」


バルジモアに問われるが、アーサーには身に覚えがない。


「そう言われてもなぁ…」


レインが、頭の中に話しかける。


(おい…どうなっている?

身体能力も聴覚も…アーサーの能力がおかしなことになっている様だが…?)


《…言ったよね、似た者は創れるけど…元には戻せないって?

彼の損傷部分は、全て新しいもので再創生しているけど前とは少し変わっちゃってるだろうね。》


(…致し方ないという事か。)


《それに…僕の『能力』に…君のが少し混じったみたいだからね…》


(…そうか。)


レインが、アーサーへ話し掛ける。


「アーサー、それで?話はどんな内容だったんだ?」


「あ、うん…確か、こう言ってたんだ。

Aクラスの連中は、適性試験の上位成績者の集まりだってだけで優遇されてるのが、気に入らないって…

だから第1種目と第2種目の競技で手を組んでAクラスを蹴落とすって…

それと、何かの細工をしたとか何とかって言ってたんだけど…あんまり聞き取れなかったんだよねぇ。」


アーサーが聞いた事をそのまま話してくれた。


「それって、かなり不味いんじゃないかしら…?

この大会は、個々の『能力』を競う大会だったわよね。

手を組まれたりなんかしたら、勝ち目なんかないじゃない…かなり不利な状況よね。

大会規定は、どうなってるのかしら…手を組んでも良いのかしら?」


サーシャが、状況を判断しその質問を誰と話しに投げかけた。

レインがそれに答える。


「大会の規定には、出場者以外の者の助力を禁ずるとあるだけで、手を組んだりしてはいけないとは…

何処にも書かれていない筈だ。」


「だったら、僕等も手を組んじゃえばいいんじゃないかな?

そしたら他のクラスにも対抗できるんじゃ…」


「俺は遠慮しておく、徒党を組むなど御免だ。

やりたければ、お前等だけでやってろ、俺は俺で勝手にやらせてもらう。」


シンの提案にバルジモアが異を唱え、立ち去って行ってしまった。


「あ…バルジモア君…」


「まぁ、アイツに共闘なんて無理な話しかしら…昔っから一匹狼って感じだったし…」


サーシャは、昔からバルジモアを知っているような口振りだった。


「…バルジモアも不利な状況なのは理解しているさ。」


レインが、口を挟んだ。


「でも…どうするの?」


レインが、その頭に手を置き髪ををクシャッと乱す。


「この件は…俺に任せてくれないか?

他のクラスの連中が、何をしてくるか分からないが…何とかするよ。」


「え…?いや…ちょっと待って…何とかするって…」


シンの言葉をかき消すように集合のファンファーレが鳴り響いた。


「お、そろそろ始まりそうだな…じゃあ、先に行くよ。」


そう言って、レインは出口へ向かって歩いて行く。

その後ろ姿にランドが声を掛けた。


「君一人で何とかするなんて…相手は、他のクラス出場者全員…それは、余りにも無茶だと思う…

僕達にも手伝わせてくれ!」


「…そうだな、俺の手に余る事態になったら…その時は頼むよ。」


立ち去りながら振り返り、手を上げてランドに返した。



観客席からの大歓声が鳴り響く競技場には、出場選手23人が集まっていた。


《不味いね…》


頭の中の聲が聞こえた。

レインが、観客席に居るフードを被った人物を振り返る。




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