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第14話 大会専用装備を

全寮制のこの傭兵学園では、同じクラスの生徒達が共同で生活している。

地上5階建て地下2階の建物は、


B2F:トレーニングルーム

B1F:プレイルーム・ミーティングルーム・大浴場

1F:歓談室・食堂・厨房・応接室

2F:女子寮

3F:男子寮

4F:図書室

5F:修練室・実技室・研究室

RF:屋上庭園


階層ごとに専用の部屋が用意されている。


B2Fのトレーニングルームでは、ダグラスとルームメイトのチャールズ=クライスがハードな筋トレをしている隣では、バルジモアの取り巻きのダンゴがバーベルを上げている。

ガナハが、ドアから入って来た。


「よぉ、ダンゴ。

珍しいじゃねぇか?お前が、飯食った後にトレーニングなんてなんか変な物でも食ったのか?」


バーベルを降ろしてダンゴがゆっくり起き上がった。


「ぼ、ぼく…ダ、ダグラス君みたいな筋肉に、な…なりたい、んだ。」


自分のお腹の脂肪を摘まみながら背を丸くしてたどたどしく話す。


「まじかよ?お前はその脂肪の塊がいいんだよ。

お前の唯一の特技を生かせるのはそのたるんたるんの脂肪のお蔭なんだぜ?

それをあんな脳筋の筋肉ダルマみたいになりたいってのかよ?」


「おいおい、誰が筋肉ダルマだって?」


「ああ…言い間違ったな、脳筋ゴリラ。そこに居たのかよ?」


「ガナハ君、そんな言い方、他人に対して失礼だよ。

いつもそんなに喧嘩腰で話してたら友達が出来なくなっちゃうよ?」


チャールズが、ガナハを諭すように話した。


「うるせぇよ、雑魚。

俺には、こいつとバルジモアさんだけいれば、友達なんていらねぇんだよ?

お前等みてぇーな友達ごっこを見てると反吐が出る。」


ガナハが、突っぱねる様に毒づいた。

頭上に持ち上げていたバーベルを降ろし、ガナハへ近づくダグラス。


「なんか文句あんのか、脳筋ゴリラ?」


「文句なんかねぇぜ、俺が脳筋ゴリラって言われんのも…本人がそう思ってるから気にもならん。

それに、友達ごっこは俺も嫌いだしな。」


ダグラスの言葉にチャールズが、


「ダグラス君…」


「はぁ?お前もその()()()をやってんじゃねぇか?」


ガナハが、ダグラスを馬鹿にしたように話す。


「違うなぁ、ごっこじゃねぇ。…達がやってるのは、本当の友情ってやつだぜぇ。

『才能』がどんだけあろうが、個人の持つ力なんざ、どんなに修練した処で微々たるもんだからな。

いざって時に大事なのは共に闘ってくれる仲間だ、独りの力なんざたかが知れてるぞ?」


「はぁ?馬鹿じゃねぇのか?弱ぇ奴がどんだけ束になっても強者には敵わねぇんだよ。

烏合の集まりの仲間になって何になるってんだ?」


ダグラスの言葉を真っ向から否定するガナハ。


「まぁな…お前さんお行ってることが間違ってるとは言わねぇし、考えを変えろなんて言う気もねぇ。

それが、お前さんの生き方なんだろう?だったら俺がとやかく言う問題じゃないからな。

…だが、ダンゴがやりたい事を否定するのは間違ってるぜ?」


「なんだとぉ?!何が間違ってるってんだ?」


「ダンゴはお前の奴隷じゃねぇだろう?バルジモアと共に歩んで行こうとしてるいわば同胞だ。

そんな彼にも目指したいものはあるんだぜ、それを闇雲に否定するのはナンセンスってもんだ。」


「分かった風な事を言ってんじゃねぇ。

コイツは俺の言う事を聞いてればいいんだ。」


おろおろするダンゴが、おずおずと話し出した。


「ぼ、ぼくは、ガナハ君…が言ってる、事が、正しいとおもう。

ガナハ君は…まちがった、ことを言ったとき、無いから…ぼく、バカだから…

ぼくの、為に…いろいろ、考えてくれてるから…」


「そうか、すまないな…どうやら、俺の独り善がりだったようだ。」


口元に笑みが浮かぶダグラスが、


「お詫びと言っちゃあ、何だが…俺と勝負しねぇか?へっぴり野郎共!

チャールズもどうだ?」


「んだと、脳筋ゴリラ!

誰がへっぴり野郎だ、コラ?!やってやろうじゃねぇか!

ダンゴ、絶対このゴリラに負けんじゃねぇぞ!」


「う、うん。」


「よーし、僕も負けないよぉ!」


そう言って、ダンベルを持ち上げるチャールズ達だった。



5Fの研究室でシン=ミカミが、レインの『蒼剣』を分析していた。

立体モニターに映し出される蒼剣のフォルムを見ながらキーボードを叩き続けている。

とても楽しそうな顔をしている。

セリーヌ=フォールズは、この1か月間そのミカミの姿を眺め続けていた。


「ねぇ、ミカミ君。」


セリーヌは、研究に没頭しているミカミに声を掛けたが、その声が聞こえていないのか返事が無い。


「集中してるわねぇ…

いつも何かの剣を研究してるみたいだけど…」


入学して以来、二人共欠かさず研究室に通っていた。

図書室でもよく顔を合わせる事もあり、セリーヌはミカミに興味を持つようになった。

それが、二人共生徒会選抜大会に選ばれたことでより、更に意識するようになったのだ。


「ねぇ、ミカミ君!聞こえてる?」


セリーヌが大きな声で呼んでみた。

すると、ミカミがようやく気付いたのか手を止め振り向いた。


「えっと…君、僕の事を呼んだ?」


「ええ、何回も呼びました。

かなり集中してたみたいだから聞こえてなかったんでしょうけど…」


「あ、ご、ごめんね…

僕、好きな事に集中すると周りの音が何にも聞こえなくなっちゃうんだ。

それで…何か用かい?」


「用が在るから呼んでいたんですけど…

まぁ、良いわ…あなたにはいつもここで会っているけど、お互い研究ばかりで話した事も無かったなと思って声を掛けてみたのよ。」


「そうだね…そう言えばいつも君のかをは見かける気がするな。

恵っと…確か同じクラスの…」


「これだけ顔を合わせてるのに名前も覚えていないのね?

ホント研究熱心ね…まぁ、私も人の事は言えないけど…

私は、セリーヌ=フォールズ(18)よ。

あなたの事は知っているわ、学年の成績は常に上位に居るシン=ミカミ君よね?」


「ああ、君がセリーヌさんなんだ。

掲示板に張り出される学年成績がいつもトップだから覚えてたんだぁ。」


「えっ…そ、そう、私の事知ってたんだ…

そ、それよりも、ミカミ君はいつも何を研究しているの?

なんだかいつもすごく楽しそうに集中してやってるみたいだけど…?」


少し頬を赤らめながら質問するセリーヌに


「えっ、セリーヌさんも興味あるの?!

この剣さぁ、レイン君に貸して貰ってるんだけど、異世界の物質や技術で作られてるんだぁ。

凄いんだよ、色々研究して分かったんだけど、この剣の硬度はこの世界のどの物質よりも固いんだ。

精製された物質に特殊な技術が施されてる、その技術を解明しようとしてるんだけど中々進まないんだよ。

それに未知の物質が使用されてるんだけど、分子構造がやっと理解出来たとこなんだ。

これと同じ物質に近い鉱石は、この世界にもあるんだけどかなり希少なんだ。

『精神感応石』って聞いた事あるかな?アレによく似ているんだ。

この鉱石は、とても不思議で人の感情や精神に…」


「ち、ちょっと待って!

その剣は、異世界で造られたって事なの?

レイン君は、異世界からの『転生者』なのは知ってるけど、一緒に剣も転生して来たって事?

そんなの在り得ない…過去に一度もそんな事例は存在しないのよ?

異世界の装備を持ってくるなんて…聞いた事もないわ。

…でも、もしそれが本当なら、ものすごく興味深い研究対象だわ…その剣も…レイン君も…」


セリーヌも興味が湧いてしまった様だ。

其処へレインが入って来た。


「あ、レイン!

どうしたの、珍しいね?レインが研究室に来るなんて。」


「毎日楽しそうにっ研究室に通ってるお前を見てたら、俺の剣の研究がどうなってるのか気になって来てみたんだが…」


シンは、立ち上がってレインの背を押しながら自分のデスクへ連れて来た。


「これ見てよ、レイン君が調べてみろて言った『精神感応石』のお蔭で色々解って来たんだ。

分子構造もほぼ同じで、まだ分からない部分もあるんだけどかなり進展したんだよ!」


レインに研究の成果を楽しそうに話すシン。


「へぇ、かなり研究してるじゃないか。

あれだけのヒントでそこまで研究の成果が出るなんてなぁ…

毎日ウキウキしながら楽しそうに研究しているお前を見てるとこっち迄元気になるよ。」


レインが笑顔でシンと話している。

その光景は、セリーヌには衝撃的だった。


「レインが剣を貸してくれたお蔭だよ。

毎日楽しくってしょうがないんだぁ、こんなに楽しいのは生れて初めてかも知れないな。

でもまだ、精製方法までは解らないんだけどね…」


「そうか、それは良かった。」


愉しそうなシンとそれを優しい笑顔で見るレイン。

それを見て、セリーヌは、尋ねずにはいられなかった。


「レイン君は、クラスではあまり話さないし、人と関わらない様にしてるようだったし…

なんか、話しかけるなってオーラが出てる感じだったのに…シン君とは普通に話してる。」


「そうだな…僕はあまり気にした事なかったけど…

そう言えば、なんでレインは僕にいろいろしてくれるの?」


シンがレインに質問する。


「改まって聞かれると恥ずかしいが…シンが、俺にとっては大切な友人だからだよ。

それにルームメイトでもあるしな。」


「貴方達ルームメイトだったの?!」


驚くセリーヌを見ながらクスッと笑うレインが、


「そう言えば、シンとセリーヌは選抜大会に選ばれていたよな?」


既にセリーヌも呼び捨てになっている。


「そうなんだよねぇ、なんか選ばれちゃって…別に生徒会に入りたいわけじゃないんだけど…

最後の一枠だって言われた。」


「それって…レイン君が辞退したから枠が一つ余ったんじゃないの…?」


セリーヌが、ふと思ったことを口にした。


「えっ、そうなの?レイン。」


シンが、レインに問い掛ける。


「その可能性は否定できないな…だが、これも『天の意思』ってやつじゃないのかな?」


「それを言うなら『大いなる意思』だよレイン。」


「ああ、そうか…そうだったな。

それに俺も大会には出場する事になったんだ。」


レインの言葉にまたしてもセリーヌが驚いた声を出す。


「はぁ?どう言う事なの?選抜は辞退したじゃない?」


「生徒会の方から俺とフェリスに推薦枠で出てくれと要請されたんだ。

仕方なく出る事にしたんだ…」


《あれぇ?棚ぼたで出場できるって超ノリノリだったよね?》


(…うるさい、黙ってろ!)


「じゃあ、レインと一緒に大会に出れるんだ!

生徒会なんて楽しくなさそうだったから乗り気がしてなかったんだよね。」


「私もよ、生徒会なんて入ったら学力が落ちそうだし…活動に時間を取られてやりたい研究もできなくなるんじゃないかしら?」


二人共乗り気ではない様だ。

そんな二人へレインが、


「そんな事は無いぞ、生徒会に入ると豪華特典付きだ。

本人の希望に合わせ、勉学や研究の時間をとれるようになるし、機材なんかも支給してくれるらしい。

それに、将来有名な研究機関や施設へ入り放題、その他にも様々な特典付きだそうだ。」


「ふ~ん、あんまり興味は無いけど勉学や研究の邪魔にならないなら生徒会に入ってみても良いかな。」


「僕は、好きな研究が出来るならどっちでもいいや。」


《…欲の無い連中だ…お前とは全く違った反応でとても面白いよ。》


(良いから黙ってろ!)


「あ…そ、そうだ、大会では、修練用のノーマルな装備をチューニングして使っても良いらしいんだ。

それで、シンに何か作って貰おうかと思ってな。」


レインが、慌てて話題を変える。


「そうなんだ…でも、僕なんかで良いのかい?レイン君用の武器なんて作れる自信は無いけど…」


「それに俺のだけじゃない、クラスの選抜メンバーの分もお願い出来ないかな?

あまり時間は掛けられないけど、セリーヌと二人でやって欲しいんだ。

どうやら他のクラスは、既に製作に取り掛かってるって話だしな…

本当は、それを頼むつもりで来たんだが…」


「ふ~ん、大会用の装備ねぇ…個人競技だと思ってたけど…違う…みたいね。」


「どうだ、お願い出来るかな?」


レインがもう一度頼む。


「なんか面白そうだね、僕はやってみたいけど…セリーヌさんはどうかな?」


「私も良いわよ、他のクラスになんて負けてられないでしょう?」


「助かるよ、それと装備にも大会規定があるらしいからよく読んでおいてくれ。

設定できる数値なんかが細かく定められてるらしいからな…」


「そうでしょうね、装備が強すぎて個人の実力が分からない様じゃ話にならないし…

それに不正に改造なんかして勝ったって後味が悪いだけだもの。

規定範囲内でどれだけ使い勝手の良い装備を作るかが私達の腕の見せ所よ。」


「そうだね!それじゃあ、さっそくみんなに話を聞きに行ってみようよ。

先ずは、どんな装備や機能が欲しいとか聞いてみないとね。」


そう言って、シンはさっさとドアから出て行ってしまった。


「もう、楽しいからって、集中し過ぎで周りが見えてないじゃない…

ちょ、ちょっと待ってよ、シン君!」


後を追って慌てて出て行くセリーヌ、彼等の後姿を微笑みながらレインは見ていた。


そして…4日後、大会まであと2日を残しシンとセリーヌは、選抜メンバー専用の装備を完成させた。

メンバーから依頼された修練用の装備をフルメンテし、それぞれの希望通りの新たな機能を施してくれていた。


男子寮のレインの部屋


「何とか大会には間に合ったな、後2日あれば、装備に馴れる時間もある。

感謝するよシン。」


「そんな感謝されることはしてないよ。それに僕だけじゃ間に合わなかったけど、セリーヌさんが手伝ってくれたから何とか間に合わせることが出来たんだ。

彼女凄いんだよ!僕が考えつかない事や有機化学系にも特化しててね、すごい勉強になったんだ!

僕みたいな凡人のオタクとは違って、彼女は天才だよ!!なんて言ったらいいのかなぁ、洗練されてるとか研ぎ澄まされてるって言うか…」


シンが、他人の事を熱弁に語る姿をレインは快く見ていた。

引きこもり気味で、友人を作る事もしない彼には、ルームメイトであるレインだけが友人と呼べる存在だった。クラスの中でも殆ど話さず、いつも研究の事ばかり考えていて社交性は皆無だった。

そんな彼が、セリーヌの事をこれほど熱く語っている。

それに彼は、自分が言うほど凡人のオタクではない事をレインは知っていた。

シンが謙遜で言っていないことも解っている。シンと言う男はそう言う男なのだ。


《シンは、超が付く天才だよね。

彼の閃きの凄さは、君でも舌を巻くほどじゃないか?》


(…ああ、そうだな。

あの閃きは、天性の才能だろうな…)


《類稀な才能を持って生れると何かが欠損する事がよくあるけど…彼の場合は人付き合いなんだろうな。》


(そうでもないさ、現にセリーヌや俺とは、ちゃんと関わってるしな。

これ迄必要としなかったからやってこなかっただけで…ただ下手なだけさ。)


《…》


「そうか…それでもお前達二人で成し遂げたんだ。

それは誇っていい事だと思うぞ。」


「…そうかなぁ、殆どセリーヌさんがやってくれてた気がするけど…」


この後セリーヌに話を聞いたが、シンと同じことを彼女も言っていた。


「…でもね、どれも良いモノが出来たんだ!

みんなが希望してた機能なんかも僕なりに考えてつけてるんだよ。」


目を輝かせてシンが話している。

それを微笑みながら聞くレイン。


「そうか、そいつは大会が楽しみだな。」


そう話すレインを見て、ちょっと不服そうな顔になるシン。


「それより…レインは、良かったの?

君の武器は、修練用のままでメンテナンスしただけだけど…」


「いいんだ、俺にはそれで十分だ。」


「君が、良いって言うなら良いんだけど…」


不服そうなシンの頭に手を置き、髪をクシャクシャとしながら、


「ありがとうな、心配してくれて。」


「うわぁ、やめてよレイン!髪がぐちゃぐちゃになるじゃないかぁ!」


「元から寝ぐせだらけでぐちゃぐちゃだろ?」


二人とも楽しそうに笑っていた。



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