第13話 推薦枠
入学から1か月が経過した。
新入生達も学園に馴れてきた頃、次期生徒会候補を選抜する大会が催される。
各クラスの成績優秀者5名が選抜され、競技を競い合うのだ。
4クラス20名の参加者と生徒会から推薦を受けた者が5名、計25名が選出される。
大会が催される1週間前、
Aクラスからは、
バルジモア=ウルグ
サーシャ=オベイロス
ランド=グリッド
シン=ミカミ
セリーヌ=フォールズ
の5人が選ばれた。
「はーい、じゃあ…うちのクラスからは、彼等が大会に出場する事になりました。
1週間後には大会が在るからそれまでにしっかり調整する事。」
エノーラ先生が話し終えるとセリーヌ=フォールズが手を上げた。
赤茶色で肩までの髪、に赤い縁の眼鏡を掛けている。
特に目立った風は無いが、学力や情報分析に関しては、クラスでトップの成績である。
「セリーヌさん、質問かしら?」
「はい、何故…私やミカミ君が選ばれたんでしょうか?
強さで言ったらレインさんやダグラスさんが選ばれるのならわかるんですけど…」
「そうねぇ、もっともな質問だわ。
あなた達には、大会の趣旨を教えていなかったわね。」
「趣旨って…生徒会に入る為の大会なんですよね?」
「そうだったわね…このクラスは、入学初日に乱入騒ぎがあったから生徒会が強い人ばかりの集まりの様に勘違いしてるかもしれないけど…
実はそうじゃないのよねぇ…執行委員や風紀委員は、概ねみんなが思っているような強い人がなるんだけど、
他の委員は、強さより教養の高い人の方が多いのよ。」
「そうなんですか…?私、体育会系の人達の集まりかと思ってました…」
「そっちの方が目立つからねぇ…
でも、両極端って言うよりは、才色兼備…じゃなかった、文武両道じゃないと大会で認められないわね。
大会の競技種目は、全部で6種目あるからその総合成績で合格者が決まるのよ。」
ランドが手を上げる。
「質問があります。
先生の話を聞いてダグラス君が選抜から外れたのはなんとなくわかりましたが…」
ダグラスの耳がぴくっと動いた。
「レイン君は、間違いなく文武両道…このクラスの皆が認めてると思うんですが、なぜ彼が選ばれていないんでしょうか?私が選ばれて彼が選ばれてないのは、やはり納得がいかないんです。」
エノーラが、レインの方へ向く、
話の的になっているレインはと言うと温かい日差しと心地よい風の吹く窓際の席で机に伏して居眠りをしていた。
それを見て苦笑しながら
「あれが理由かな…レイン君たっての希望でこのクラスの選抜からは外れて貰ったわ。」
「本人が辞退したんですか?!
この学園で生徒会に選ばれるというのがどれほど栄誉な事か、分かって…」
「そうなのよねぇ、それもちゃんと説明したんだけど…
《俺には、関係ない。煩わしい事に関わる気は更々無い、平穏に学園生活を送れればそれでいい》って言って完全に拒否されちゃったのよねぇ…」
面食らった顔をするランドだった。
バルジモアが、むっとした顔をしていた。
「そ…そうですか、そこまで言うのなら…解りました。」
そう言って、ランドは席に着いた。
「…本人が拒否してもダメな時もあるのよねぇ。」
エノーラ先生が、誰にも聞こえない位の声で呟いていた。
「それじゃあ、選ばれた人はこの後、4階の講堂で説明会が在るから出席してね。
選ばれなかった人は、しっかり応援してあげて下さい。」
終礼の鐘が鳴った。
寮への帰り道で、フェリスとレインが欠伸をしながら歩いていた。
「ねぇ、レイン…」
「なんだ、フェリス?何か言いたそうだな?」
「断って良かったの?生徒会の選抜大会には、出ておいた方が…」
「ああ、その事か…いいんだ、面倒事は御免だからな。」
「話で聞いたんだけど、生徒会に入れば、授業が免除されたりとか何かと便宜を図ってもらえるし、好きな時に休めたりするって聞いたから…スローライフを楽しもうってしてるレインなら楽できる方を選ぶのかなって思ってたんだけどなぁ。」
レインが、突然フェリスの両腕を掴んだ。
「へっ?」
「ちょ、ちょっと待て!その話は本当なのか?!
そんな美味しい話を何故俺は知らなかったんだ…って言うか、なんで断っちまったんだぁ?!」
(何故って…いつもレインが居眠りしてて何も聞いてないからだって…)
「生徒会とは、それ程に都合の良い処だったとは…其れなら大手を振りながら楽して学園生活が送れるじゃないか?!…俺は何をやってんだ?!」
レインは、頭を抱えながら嘆き悲しんでいた。
(俺が選択をミスるとは…『創世神』だった頃では考えられなかったが…
やはり『破綻者』としての業か…それとも…)
「おーい、何やってんの?取り込み中かい?」
振り返ると、腕に黒い腕章をした生徒が3人立っていた。
適性試験の会場で検査官をしていた、カミナ=クレールとギルバート=セノスだった。
そして、声を掛けて来た最後の一人は…
「あら…あなた達は確か、生徒会の…?」
「わぁ、覚えててくれてたんだぁ~。
もう一度自己紹介するねぇ、あたしは、カミナ=クレール(18)よぉ。
風紀委員で副委員長をしてるの。」
カミナがフェリスの手を取り、明るい人懐こい笑顔で自己紹介をしていた。
人付き合いの良い、明かる女性の様だ。
「僕は、ギルバート=セノス(21)。
生徒会の執行部の部長を任されている…入学式の日には、迷惑をかけたね。
僕が不甲斐なく、暴走した彼を牢かで取り押さえられなかった。
せっかくの初日に突然乱入してしまって、本当に申し訳ないとをしてしまった。」
如何にも生徒会らしい礼儀正しい生徒だった。
180㎝は優に超えていて、体格も良い制服の上からでも筋肉質な肉体をしていると分かる。
「お二人は、適性試験の時に試験官をされていましたよね?
でも、あなたには見覚えが無い様な…」
ギルバートと比べると少し背の低い生徒を見ながら首を傾げるフェリス。
「覚えていないのか?…それでも元管理者か?
街の広場で、あの『刻影憑き』の怪物を一撃で倒した学園の生徒だろう…?」
「あれ、よく覚えてたね?『刻影憑き』に襲われてた君達には、顔を見せなかったと思うんだけど…」
「背格好と佇まい…それに魂の輝きはそれぞれ固有のものだからな。
これだけ解っていて、一度会った者を、見間違う事は無いだろう?」
「魂の輝きってのは良く判らないけど…やっぱり、君面白いね?推薦しておいてよかったよ。
…それより自己紹介をしておくよ、
僕は、ザン=クロフォード(16) 去年、入学して生徒会に入ったんだよねぇ。
ホントはやりたくなかったんだけど…嫌々任されちゃって…」
「…生徒会に入れたのに…嫌々って…?」
フェリスが、少し驚いた顔で繰り返す。
「それで…生徒会が俺達になんか用が在るのか?」
レインの無感情の声が、場の空気を一瞬にして張り詰めさせる。
その空気の中、ザンがクスッと笑い。
「君達って言うか、レイン君に用が在るんだよ。
君の実力なら必ず出て来るって思ってたんだけど…何故か君が辞退したって聞いたんだよねぇ。
だ・か・らぁ、生徒会からの推薦枠で今度の大会に出て貰おうと思ってさ。」
「…推薦枠?」
ザジの話に無表情なレインだったが…
(な、なんだとぉ?!こ、これは…諦めかけていた大会の出場が出来るって事じゃないか?)
「あれっ?、あんまり反応良くないなぁ…やっぱり、大会には出たくなかったのかい?」
無言のレインをチラッと横目で見るフェリス。
(辞退したの後悔してたんだから、こんな話は棚から牡丹餅じゃ…)
しかし、レインは冷静を保ちながらザンに質問した。
「一つ聞きたい…何故俺なんだ?」
「適性試験の様子をカミナさんとギルバートさんから聞いてね。
それで君に興味が湧いた…って言うのもあるんだけど…
実はさぁ、あん時…闘ってる君を見てたんだよねぇ。
追い詰められて、逃げ回ってるだけの様に見えてたけど、君からは、焦燥感も危機感も感じなかったんだよねぇ、余裕があるって言うか…相手の動きの先が見えてるって言うかさ。」
「買い被りだな…あの時は、ギリギリだったからな、
君が、助けなければヤラれていただろう。」
「…そうかなぁ、だってあの時…君は斬り込んで来る僕に気付いてたでしょ?」
「…何の話だ?」
「だから『刻影憑き』の腹に一撃を入れて一瞬動きを止めさせたんだよね?」
「…」
「えー、それって、ヤバくない?!
そんな事が出来るのって、学園で言ったら銀星3以上の実力があるって事だよねぇ?」
カミナが、驚いた声を出す。
それに呼応して、ギルバートも感嘆していた。
「凄いな…レイン君、入学初日に乱入した教室で見た君の身のこなしも納得がいったよ。」
「…まぁ、レイン君への興味は尽きないけど、それは置いておいて、本題に戻そうか。
それで、どうかな?推薦枠で大会に出場してくれないかなぁ?」
ザンが、再度レインへ投げ掛ける。
暫く沈黙が流れ、レインが口を開いた。
「そうだな…俺の実力が知りたいと言う事か…
俺の様な型に嵌まらない不穏分子は、早目に見定めて置きたいってとこだろうな。
…良いだろう、大会に出よう。」
「おぉ、ありがとう!
でも、別に不穏分子とかって事じゃないよ、ただ単に興味があるだけなんだ。」
笑顔のザンの横からカミナが、
「それじゃあ、必要事項の説明と書類へのサインをして貰わなくちゃいけないから明日にでも生徒会室に来てね。」
「了解した。」
レインが承諾するとカミナはフェリスの方へ振り向いて、
「フェリスちゃんもどう?
あたし、アナタにも興味があるのよねぇ。
一緒に出場してみない?」
「えっ?!わ、私も…?」
面食らうフェリスにギルバートが、
「じゃあ、書類は二人分用意しておきますから忘れずに生徒会室に来てください。」
微笑みながらギルバートが、有無を言わせない空気を醸し出していた。
(えーっ、私の時は、本人の同意も承諾も無しなの?!)
「じゃあ、待ってるねぇ。
大会が楽しみになって来たよ!」
そう言って、ザン達は歩き去って行った。
その後ろ姿を見送りながらレインが小さくガッツポーズをとる。
(やっぱり、やりたかったのね…)
翌日、生徒会室に赴いたレインとフェリスは書類に其々サインをし、大会の説明を聞いた。
如何やら競技大会は、3つの種目の総合得点で競われる様だ。
知能・身体能力・実技
第1種目、迷路ダンジョン攻略
第2種目、山岳森林マラソン
第3種目、廃墟フィールドでの現生徒会役員との対戦
ギルバートの説明が一通り終わり、
フェリスが、質問をする。
「第1種目は、頭脳系の競技で、第2種目目は、体力や耐久力系の競技なのはわかるんだけど…
第3種目は、どうして現生徒会の人達との対戦なんですか?
力量や技量を試すという意味なら態々生徒会の方達が対戦しなくても方法があるのでは?」
「まぁ、それもあるんだけど、この競技は学園創設以来続いていてね。
恒例行事って奴なんだ…現生徒会の先輩を倒さなければ、生徒会に入れないって言うね…
先代を倒し世代交代を続ける事で、より強き者が生徒会になる…」
「…より洗練された強さを求めるか、この『羅生王門』の世界で『封印の民』として生きる者にとって、『強さ』が全て…それが、この世界の民である『地精人』にとっての『存在意義』なのだろう…この先必ず起こる来るべき刻に備えているという事か。」
「…そう言う事だよ。
世界を襲う『災厄』を封印する事、それが『大いなる意思』より賜った僕達の…
生れた時から『魂』に刻まれている使命だからね。」
「…大いなる意思ねぇ…
俺もその『災厄』ってヤツには…色々と縁がありそうだしな。」
フェリスが、レインを見ている。
(レイン…何か、考え方が少し前と違う気がするわ…?)
ギルバートが、思い出したように、
「あ、そうだ、言い忘れるところだった…大会出場とは別に、君達推薦枠の出場者には、生徒会から一つ依頼を受けて貰わなくてはいけない事があるんだ。」
「依頼ですか?」
フェリスが、訊き返す。
「あぁ、そうなんだ。
毎年の事なんだけど…大会の運営中もそうだけど、大会前から不正を働く者がいてね。それを監視して貰いたい。
勿論、生徒会の方でも目を光らせてはいるんだけど、手口が巧妙になって来てて見つけられないこともあるからね。
だから、選手の目線でそれとなく目を光らせておいて欲しい。」
「俺達にスパイをしろと…?」
「いや、そうじゃない、不正をしようとしている者を見かけたらそれとなく注意してくれれば、それで良い。
事前に予防するってことだよ。」
ギルバートが、趣旨を理解させた様だ。
「大会前から不正をする事もあるんですか?」
フェリスの質問にカミナが答えた。
「そうねぇ、中にはいるのよね。
出場者に毒を盛ったり、予め迷宮ダンジョンの攻略をしておいたりね。」
「ど、毒?!…そこまでする人が居るんですか?!」
「致死量までは入れてないけど、体調が悪くなる程度にはね。」
「…そこまでして、生徒会に入りたいなんて…」
「まぁ、仕方が無いのよねぇ。
生徒会に入ると付いてくる特典が魅力的なのよ。」
カミナの話を裏付ける様にギルバートが付け足す。
「この学園の生徒会出身者の殆どが、世界各国の要人として第一線で活躍しているからね…
だから、各国の各機関が、挙って採用しようと働きかけてくるから引く手数多なんだよ。
生徒会に所属すれば、その恩恵が受けられ、全てにおいて優遇されるからね…
生徒達にとってこれほど美味しい話はないよ。」
「そんなに…」
「そうなのよねぇ、だから不正をしてでも生徒会の肩書きが欲しいんじゃないかなぁ。」
「…成る程な、人が理に外れたおこないを起こすには、充分な理由に成ると言う事か…
了解した、依頼を引き受けよう。不穏な動きにはそれとなく気に留めて置こう。」
レインが、すんなり承諾した。
「わーい、了承してくれてありがとう!」
「話は、以上だ。
君達の出場を楽しみにしているよ。
不正の無い健全な大会が運営できる様にお互い協力し合っていこう。」
カミナとギルバートが、フェリスとレインと握手を交わした。