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第10話 模擬戦


肩で息をしながら片膝をついているレインは、満身創痍の状態だった。

何とか避けていたバルジモアの攻撃も時間が経つにつれ避ける事が出来なくなり少しづつ受け始めたのだ。

ギリギリで躱しつつも足がもつれ倒れるレインが転がりながらバルジモアの攻撃を避けていた。


「…どうした、そんな様でどうやって実力を見せるんだ?

それとも、お前の実力はこの程度だとでも言いたいのか?」


バルジモアの感情の無い声が、レインへ突き付けられる。


「レイン…」


フェリスが、心配そうに見守っている。


「…ハァ、ハァ、心配しなくても…これからが本番だ。」


レインはバルジモアを見上げ、口元に笑みを浮かべて見せた。


「そうか…」


(と…強がっては見てもこれ以上はもう体が動かないな…これが俺の今の実力って訳だ…)


《思ったより善戦してるじゃない?その馴染んで無い身体じゃあ、数秒も保たないかと思ってたんだけど。》


(…期待に添えなくて悪かったな。)


《今回は、君のあの力は使わないのかい?

これから起こる事象の因果律を歪めちゃうアレ…身体のどこか一部を元の姿に戻せば、出来るんだし、アレ使えば勝てるのに…》


(アレは極力使うなって言ったのは、お前じゃなかったか?

それに…コイツは勝ち負けの問題じゃない。

この男は、俺に実力を示せって言ってるんだ。前世から引きずってる力なんか使うのは間違ってるだろう?)


《ふ〜ん、あくまでこの世界での実力をって訳かぁ…

君らしいねぇ。》


(…君らしい?)


《ああ、気にしないで…それより、この闘いで君の身体も少しづつ慣れて来てるみたいだから僕が力を貸す必要はないかなぁ。》


(最初から、お前の力なんか当てにしてないさ。)


ゆっくりと立ち上がるレインから息切れが消えている。


《…》


静かに構えるレインの変化に気付く。


「…肩で息をしていた筈だが、呼吸が整っているな。

調息か…なるほど、まだやる気はあるようだ…」


バルジモアが、低い姿勢から弾丸の様飛び出し、レインへ一直線に間合いを詰めると同時に砲銃剣を突き出した。


その一撃が、レインへ当たった様に見えたが、ギリギリのところで躱していた。

しかし、バルジモアの攻撃はそれでは終わらなかった。

砲銃剣を自在に操り攻撃を繰り出し続ける。

異変が起きていた…

バルジモアの攻撃を躱しきれなかったレインが殆ど全てを躱しているのだ。

それどころか、避け方にも余裕が見え始めたのだ。


「レイン君の動きが…」


チャールズが独り言のように呟いていた。

ダグラスの口元に笑みが浮かんでいる。


「…ったく、不思議な奴だぜ。」


余裕をもって受け流すレインにバルジモアが苛ついていた。


「ちっ…」


(何だコイツ…さっきまでとはまるで動きが違うじゃないか…

いや、徐々に自分の身体に慣れているような…動きに不自然さが無くなってきている…

緊張して硬くなっていたのか…?)


避け続けていたレインが、ついに反撃に出始めた。

鋭い一撃にバルジモアが体勢を崩す。


「くっ?!」


其処へレインの棒で足を薙ぎ払われ、背中から地面に倒れた。


「バルジモアさん?!」


ガナハが叫んでいた。

レインの追撃は無く、自分の手を握ったり開いたりしていた。


(…)


《ほらね、体が馴染んできてるでしょ?

まぁ、完全にこの世界に適合するのはもう少し先だろうけど…》


(…これで少しは、対等に闘える…)


《それはどうかなぁ?彼も本気になっちゃったみたいだよ?》


すくっと立ち上がるバルジモアの雰囲気が変わった。


「ククク…テメェ、面白れぇじゃねぇか?…この俺様が、地に着くなんざ久し振りだぜ。

熱くなってきやがったなぁ、おい!

『無能力者』だって聞いてたが、こんだけやれんなら俺が本気でやっても構わねぇよなぁ?!」


無感情だったバルジモアの顔つきが豹変していた。

狂喜に満ちた顔をしている。


「あ、あれが、ば、爆炎の戦闘狂…」


観戦している生徒達の中からそんな声が聞こえた。

ガナハが嬉々として声を上げる。


「バルジモアさんの本気見せてください!

そんな奴ボコボコにしちゃってくださいよ!!」


その声を背にバルジモアがゆらりと動く。


「そんじゃあ、戦いを楽しもうぜぇ!」


瞬間、バルジモアの姿が視界から消え、レインの背後に砲銃剣を構えた姿で現れる。


「?!」


後頭部に押し当てられた砲銃は、躱せる距離ではない…引き金を引くバルジモア。

秒速850mの砲弾が打ち出される。

しかし、砲弾は天井へ突き刺さっていた。

銃口から砲弾が放たれる瞬間、レインの棒が砲銃を跳ね上げていたのだ。


だが、レインの身体もクの字に曲がっていた。

バルジモアが、レインの腹を蹴り上げていたのだ。

跳ね上げられた砲銃剣を振り下ろし、レインの背中へ打撃を入れるその衝撃でレインが地面に叩きつけられた。


「おらっ!!」


其処へ砲銃を向け引き金を引く、砲弾が打ち出されるのを間一髪転がって躱すレインがそのままの勢いで立ち上がった。

其処へ間髪入れず、砲弾が飛んでくる。

棒で砲弾を叩き、落とせなかった、棒がへし折れ、そのままの勢いで吹き飛ばされていった。

その先へまたしても砲弾が飛んでくる。

凄まじい、正確さだ。

それをなんとか躱し、折れて半分の長さになった棒を構える。

口の中を切ったのか、口元から流れる血を拭った。


「テメェ…マジで楽しませてくれるじゃねぇか?

ここ迄俺様の攻撃を躱した奴は初めてだぜぇ…さぁ、もっと楽しもうや!」


戦闘に高揚するバルジモアが、楽しそうに笑みを浮かべている。


「異名通りの様だな…闘いが愉しそうだ。

それに俺も逃げてばかりじゃ、クラスメイトに実力を示せないからな…」


レインが折れた棒を一振りする。


「おいおい、そりゃ、無謀だろう…俺様相手にそんな折れた棒っきれでどう攻撃するってんだ?」


嘲笑するような笑みを浮かべるバルジモアだった。

折れた棒をゆっくりと正眼に構え直すレイン、


「そうだな…通用するかは分からないが、取り敢えず…力を尽くしてみるさ。」


レインの気配が消え、呼吸音すら聞こえない…その静かに正眼に構えた棒に気が満ちていくのを観戦していた者達は、感じていた。


「ほう…口だけじゃない様だなぁ、とことん飽きさせねぇなぁ?マジ、テメェ、やっぱ面白ぇわ!

そのスカした顔と態度はムカつくがなぁ!!」


バルジモアが、眼に見えぬ速さで砲銃をレインに向け引き金を引いた。

ゆっくりと動いたかのように見えたレインが、棒を砲弾目掛けて振り下ろす…

先程と同様に砲弾に弾き飛ばされると想像していた観戦者達が、眼を見張った。

防弾が真っ二つに割れ、床に落ちたのだ。

息を呑む観客の中でサーシャだけが違っていた。


ゾクゾクッ


(ああ…レイン、なんて不思議な男なのかしら…

『無能力』であの砲撃を切り落として見せるなんて…やっぱり私の見る目に間違いは無いわねぇ。

生れて初めて私を感じさせた…私が惚れた男だからねぇ…)


高揚して潤んだ瞳でレインを見詰めるサーシャだった。

更に嘲笑するバルジモアが、


「…その折れたただの棒で砲弾を切り落としやがった…のかよ?

ほら見ろ、やっぱりテメェ…嘘ついてやがったなぁ、

『才能』が無けりゃ、まず不可能だぜ?しかも、かなり熟練した奴だな…最低でも覚醒はしてる筈だ。」


「…嘘はついていないさ。

『大いなる意思』ってのに嫌われてるからなぁ、この世界じゃあ、俺には『才能』が与えられなかったんだ。」


レインの言葉に引っ掛かりを感じた。


「…この世界じゃあ…ってのは、どう言う意味だ?」


「…」


レインは、バルジモアの質問に答えなかった。

しかし、その答えにダグラスが気付いた。


「ああ、そうか…そう言う事だったのか!」


フェリスが、ダグラスを問い詰める。


「ちょっと、どう言う事なのか説明しなさいよ、ダグラス?」


「面白そうな話ねぇ…私にも聞かせてくれないかしら?」


フェリスを押し退け、サーシャが割って入って来た。


「ち、ちょっと?!あなた…」


反論しようとするフェリスの前にチャールズが、ダグラスへ聞き返した。


「なんの変哲もない木の棒で砲弾を斬り落とせるなんて聞いた事も無いよ?!

レイン君もやっぱり『転生者』なんだし、本当は何かしらの才能があるんじゃ…」


ダグラスは、頭を横に振った。


「いいや、この世界に来たアイツに『才能』が無いってのは本当だろうな…

それが事実ってのは、適性検査の時に実証されてる…あの能力検査の時、どれも反応しなかっただろう?」


「えぇ…僕も見てましたけど本当にどれも反応してなかったけど…

あれは、何かが壊れてたとか…不具合があったとかなんじゃ…」


「そんなグッドなタイミングで不具合なんて起こるかよ。」


「じゃあ、なんでレイン様は、あれ程の力があるのよ?身体能力だけであれ程の動きは出来ないわ…

何かしらの才能を持ってないと…『能力者』じゃなきゃ、考えられないじゃない?」


サーシャが話に入って来る。


(何なのよこの女部外者の筈でしょ?!…それになんで『様』付けになってるのよ?!)


フェリスがまたしても憤慨している…それが嫉妬だと本人は気付いていない様だが…


「ちゃんと人の話を聞けよ、お前等?才能を与えられなかったのは『この世界では』の話だ。」


「…どう言う事?」


ダグラスの話に誰もピンと来ていない様だ。


「俺と由奈は、この世界に来る前の記憶が無いからな…どんな才能だったのかどんな『能力』をもっていたかは覚えてないが、この世界での『能力』は知ってる。

だが、アイツは俺達とは真逆だからな…こっちの世界でも前世の記憶を有してるって話だ。」


ダグラスの話にバルジモアが加わって来た。


「成る程な、そういう事かよ…

この世界では才能が無くても前世では持っていたって事だよな?

だったら、こっちの世界で才能が無くてもそれは使えるんじゃねぇのかよ、だからテメェ等『転生者』はいくつもの『能力』を保有してやがんだろ?」


「まぁ、そうだな…だが、レインは、前の世界でその全てを捨てて来たって言ってたからな…

前世じゃ、『才能』→『能力』→『職業』その上の『階級』にまで覚醒してたようだが…

無職業(フリーター)』になったからこっちで隠居するって言ってたからなぁ…」


「なんだそりゃあ?

それじゃあ、何の才能も無い転生者って奴じゃねぇか…?

いや、それじゃあ納得出来ねぇな…才能が無いテメェの動きもその奇怪な技も…説明がつかねぇだろう?」


砲銃剣をレインへ向け、詰め寄るバルジモアの問いに


「前世での『能力』の断片は記憶している…だから真似事くらいは出来るんだけど…

いかんせん身体がこの世界に馴れてなくてねぇ、前世の時のみたいに思う様に身体が動かせないんだ。

まぁ…闘ってるうちに少しづつ慣れてきてるんだけどね。」


レインは、隠さず全てを離した。

それを聞いたバルジモアが呟く。


「成る程な、記憶の中に在る経験や知識・動きや技は使える…って事か。」


「そうだな…流石に『才能』無しで、100%前世の能力を再現するのは難しいだろうけどね。

それでもある程度は戦えるって思ってるよ、まぁそれでも君には勝てないだろうけどね。

それに君もまだ全然本気でやってないみたいだしな。」


バルジモアが、砲銃剣を降ろした。


「ふん、興が覚めたぜ…あー、もう終わりだ。」


そう言って、バルジモアが闘技室から出て行こうとした。

それをレインが引き留める。


「最後までやらなくていいのかい?俺の力を示さなくても…」


「必要ないだろう、さっきまでの闘いを見てたらテメェに実力が在る事はこいつ等も理解しているだろうぜ。

テメェとの再戦はもう少し先に取っておいてやる…今の手眼lを叩きのめしても何も楽しくねぇんだよ。」


そう言って、振り返りもせず手を振って去って行くバルジモアに


「あ、ち、ちょっと、待って下さいよぉ、バルジモアさん!」


ガナハとダンゴが走って後を追って行った。

会場の観客達もレインに声を掛けながら立ち去って行った。

殆どの生徒達が立ち去って行った後でレインが、突然へたり込んだ。


「レイン?!」


フェリスが、声を掛けた。


「大丈夫…ちょっと、疲れただけだ。

まだ、この身体に馴れていないからな…ちょっと無理をし過ぎたみたいだ。」


「レイン様ぁ!!」


其処へサーシャが抱きつきレインを押し倒した。

身動きの取れないレインの上で抱擁するサーシャをフェリスが引き剥がす!


「サーシャさん!あなた何やってるのよ?!」


「何かしら?疲れているレイン様を介抱しているだけよ?

あなたこそ何なのよ、邪魔するのは止めてくれないかしら?」


「なんですってぇ?!」


「お前等…疲れてるんだ、喧嘩なら他所でやってくれないか?」


其処へランド=グリッドがやって来て、倒れているレインへ手を差しのべた。


「大丈夫かい、レイン君?」


「ああ、問題ない…」


そう言ってランドの手を取り立ち上がった。


「今の模擬戦は、素晴らしかった!お互いまだ様子見だったみたいだけど、その実力は隠せない。

君の実力は、クラスのみんなが認めていた様だ。」


「そうか…其れなら良かった。」


「君の実力は、まだまだこんなもんじゃないんだろう?

転生したばかりで馴染んでいないと言っていたようだし、明日から学園で学び訓練していけば、もっと強くなれるんだ、僕もうかうかしていられないな。明日からお互い頑張ろうじゃないか!」


「…そうだな。」


そう言ってランドも部屋に戻って行った。

ダグラスが、ランドを見送るレインの隣に立ち、


「暑っ苦しい奴だなぁ、まぁ…悪い奴じゃない様だ。」


「ああ…」


「悪かったな…」


「…何の話だ?」


「俺達の為にガナハの安い挑発に乗ってくれたんじゃねぇのか?

クラスの中や寮へ来てからも『転生者(おれたち)』に対して何かしら疎外感を感じていたからな…

だから闘いたくも無い模擬戦を引き受けてくれたんだろう。

お前さんらしくないからな…なんせ世間に関わりたくない隠居者さんだからな…」


ダグラスの言葉に目を瞑り、歩き出すレインが応える。


「そこまで考えてないさ、俺は隠居者だぜ。

やりたい事をやり、やりたくない事には指1本だって動かす気は無いさ。

ただ戦ってみたかっただけだよ。」


そう言って、立ち去っていくレイン。

その後を追う様にサーシャとフェリスがレインの名を呼びながら走っていく。

後に残ったダグラスの口元には、微笑が浮かんでいた。


「ダグラス君、僕等も部屋に戻ろうよ。」


チャールズが、ダグラスの肩を叩く。


「ああ、そうだな…腹が減ったし、食堂に寄ってから戻るか!」


「えぇぇぇっっ?!う、うそでしょ?!まだ食べるの…?!」


驚愕するチャールズの肩を豪快にたたきながら


「あったりまえだろう、此処の飯は至高だからなぁ!!」


大笑いしながら、チャールズの肩を組み歩いて行くダグラスだった。

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