願い事は大きな声で言いましょう〜猫を飼いたい〜 〈二次創作6〉
[なろう作品の読者を妄想してみた短編第6弾。]
*こちらの作品は、ξ˚⊿˚)ξ <ただのぎょー(Gyo¥0-)様作品の『悪役令嬢の異常な愛情 または私は如何にしてざまぁするのを止めてもふもふを愛するようになったか』と、間咲正樹様作品のコラボ二次創作になります。
二次創作ですが、ほぼ一次創作内容の短編です。
原作のネタバレなし、単独でも読める短編になっております。
え、あらすじ読んできたから、もう分かります?しぃっ…_φ( ̄ー ̄ )
間咲様の作品名は後書きで。
尚、両方の作者様より許可を頂いています。
遠くから、子どもたちが「バイバーイ!」と叫ぶ声が、リビングの窓から網戸を通して聴こえてくる。
車の通り過ぎる音。
そして、一瞬の静寂の後、美登子はスマホを握りしめたまま、呟いた。
「…なんて、罪深い。」
美登子は、重くため息を吐くと、スマホをテーブルに乗せ、内なる衝動を抑えるように、両腕で我が身をそっと抱きしめた。
***
夜の七時半を過ぎ、娘の花音が仕事から帰ってきた。
美登子と息子の雅臣が夕食を食べているリビングへ、
「ただいま〜」
と声を掛けながら、いつも通りの席に着く。
夫の高臣はまだ帰ってくる時間ではない。
花音は真剣な表情で、白米を頬張る美登子にスマホを渡すと、
「お母さん、これ、読んで。」
と言って、親指を立てて頷くと、席を立ち、自室へ消えた。
え、ご飯たべてるんだけど、という言葉は出ない。
父親の高臣が文学部の教授をしているせいか、面白い物語があれば、すぐに共有したい衝動はこの家では認められている。
美登子も夫とは大学の文学サークルで知り合った経緯もあり、物語を読むことは呼吸をすることに等しい。
美登子はすぐにスマホを手に取り、老眼鏡をかけて読み始めた。
合間に箸を動かす。
ご飯、美味しい。
もぐもぐ。
どうやら、短編小説のようだ。
最近流行りの婚約破棄と思われる。
ファンタジーでもなんでも美登子は読む。
しかし、婚約破棄された令嬢の魔術が原子力系統って、王宮に来てて大丈夫だろうか。
一瞬で大惨事じゃないか。
美登子は不穏さを感じる。
このままでは…。
そう思い始めた時、
猫様。
お猫様のご登場である。
もふもふである。
美登子は、原子力エネルギーの抑止力は猫であったのか、と考えながら、全てを読み終えた。
面白かった。
ハル宮廷魔術師団長、タイプだわ。
美登子は満ち足りた想いのまま、夕食を食べ終えている雅臣にそのままスマホを渡した。
「面白かったわよ。」
それだけで、雅臣は己に託された使命を理解し、母が読んだばかりの短編小説を読み始めた。
***
食べ終えた食器を片付け、ほうじ茶を淹れていると、花音がリビングにやって来た。
「読んだ?」
夕飯よりも先に短編小説の感想が欲しいらしい。
「面白かったわよ。」
美登子が答えると、すぐに花音が、
「どこが面白かった?」
重ねて聞く。
美登子は、内容を思い出すように首を傾げると、
「そうね。猫になってそのままかしら、と思ったあたりかしら。」
ハル宮廷魔術師団長のことには、あえて触れずに答えた。
美登子は好みの登場人物は、オープンにせず楽しむタイプだ。
美登子の答えを聞いた花音は、目を輝かせると、
「そう!猫、いいよね!」
大声で話し出した。
「しかも目が青の白猫って、昔飼っていたシロと一緒でしょ?!」
「ええ、そうね。」
「シロが死んだ時にもう猫は飼わない!って決めて、ずっと猫を飼っていなかったけど。」
花音の声が勢いを増し始め、美登子は眉をしかめる。
まさか。
「やっぱり、猫飼いたい!」
やっぱりそう来たか。
美登子は頭痛を覚えた。
「猫飼いたいって、簡単に言うものじゃないでしょ。最後の最後まで看取る覚悟もないのに。」
美登子は花音の顔を見ながら、諭すように言った。
だが、花音は諦めなかった。
「ちゃんと飼います。」
そして、美登子も負けない。
「自分のご飯だって用意できないのに、簡単に言うんじゃありません。」
「猫のご飯は、開けて皿に乗せるだけ。わたしにも出来るもの。」
「朝寝坊が毎日で、夜も茶碗を洗うことすら毎日出来ていないのに、どこに猫のご飯をちゃんと用意できる自信があるの!」
「猫を飼えばちゃんとできる!」
「そういう人は、猫を飼う前からちゃんと出来るの。」
「社会人だから、動物病院の治療費は払えるから!」
「基本的なことを条件に持ち出さないの。」
ほうじ茶をひと口飲み、花音をきっと睨みつけると、こてんぱんにしてやる!とばかりに美登子は捲し立てた。
「そもそも、シロの時だって、あんたは可愛がるだけ可愛がって、餌やりにトイレの掃除は全部私。最後に看取った時だって、あんたはただ横でうろうろしてただけでしょ。仕事の休みをやりくりして動物病院に連れて行ったのは私だし、吐いたり漏らしたりした時の世話も全部私がしました。
花音、猫の世話を満足に出来ないあんたが、猫を飼おうとしても、全部お母さんに押し付けようとする未来しか見えません。
だから、猫は飼いません。」
ふんっ、と鼻息も荒く、美登子は花音に断固拒否を示した。
「でも、あれは高校生だったから、動物病院とか車じゃないといけなかったし…」
「家の中での世話だって、してなかったじゃない。」
「あれは子どもだったから…」
「高校生に出来ない猫の世話って、何よ。隣の美羽ちゃんの方があんたより、よっぽど家事が出来るわよ。」
もうこの話は終わりとばかりに、美登子はほうじ茶を飲み、テレビをつけた。
「…じゃあ、お母さんは、猫に触らなくていいから。わたしが全部面倒みるから!」
「そんなこと出来るわけないでしょ?パートの私の方が家にいる時間が長いのに。」
「でも、猫、猫、飼いたい〜!白猫、可愛いから、飼いたい〜〜!」
花音は大声で要望を通し始めた。
「あんた、二十七歳にもなって。」
「歳は関係ない!!」
「隣の美羽ちゃんの三倍の年齢じゃないの!昨日、美羽ちゃんも猫飼いたいって言っていたけど、『お父さんひとりで、美羽のお世話して。今は美羽も色々手伝ってるから、大変だって、わかってるもん。だから、猫は飼えない。わかってるもん!』って、あんたよりよっぽど大人よ。」
「父子家庭の娘の健気さ!」
花音は両手で顔を覆うと、テーブルに突っ伏した。
「確かに、姉ちゃんはもう少し大人になるべきだよ。」
台所から雅臣が顔を出す。
「さっきから大声でうるさい。今、窓とか開けてるから家の前とか、お隣さんとかに声が響いてるぞ。」
正論に耐えかねた花音は、顔を上げると雅臣を睨んだ。
「うるさい!アンタも読んだでしょ?!猫、飼いたいでしょ?!」
雅臣は花音に向けて口をへの字にした。
「なんで、オレを巻き込むんだよ。」
「だって、猫飼いたいのよ!」
「いや、まぁ、半年前に婚約破棄された姉が、婚約破棄ものの小説を読んでるって知って、こいつやべえなとは思ったけど。」
「うるさい!こちとら、現実の婚約破棄されて、まだまだ傷心なのよ!ファンタジー世界の中で、ざまあ!を吸収しないと、生きていけないのよ!」
堂々とする話でもないのに、開き直った花音は大声で捲し立てた。
「…うわぁ、まじか。」
雅臣は姉を心の底から可哀想に思った。
花音は、三年前から付き合っていた彼氏と結婚の約束をして、両家の挨拶もすませていた。
それが今から半年前に、彼氏側の浮気が発覚し、婚約破棄となった。
「リアルで婚約破棄された人が読むから、ざまあが人気なのか…?」
「雅臣、あんた、色んな人を敵に回したわよ。」
「今、姉が敵になったのを感じた。」
「わかってんじゃないの。」
臨戦態勢になった花音を雅臣は、両手をあげて宥めようとするが、そこに美登子が攻撃をかけた。
「婚約まではいったんだから、これから結婚だってあるでしょ。結婚したらここから出て行くんだから、尚更猫は飼えないわ。」
つーん、とそっぽを向いた美登子は言った。
仕事と家事と子どもの反抗期という嵐の中、ひとり猫の世話をしていた大変さは並大抵のものではなかった。
「あんたも、いつまでも猫ねこ言ってないで、次の相手連れてきなさい。」
ざっぱりと一刀両断する。
花音は胸を両手で押さえながら、
「言葉の家庭内暴力…!」
と言って、フローリングの床に倒れた。
倒れた姉を指でつつきながら、雅臣が言った。
「…姉ちゃんに悪くて、ずっと言えなかったんだけど、俺、彼女にプロポーズしてOKもらったから。今度、連れてくる。」
慰めかと思ったら、火炎放射器で心にとどめを刺した。
花音は絶望した。
その時、花音の焼け野原の心の中には、消えない一筋の光があった…。
「…猫。しろい、ねこ。」
呟く様子はちょっと怖い。
「ねこねこ、ねこ欲しい〜」
そう言って、両手で顔を覆ったきり、フローリングの上で動かなくなった。
***
花音は考えた。
母も弟もあてにはならない。
ならば、残るは父だ。
早速、花音はフローリングに寝転がったまま、スマホを操作し、父親へ母と弟に読ませた短編小説のウェブページを送信した。
これで、父を味方につけよう。
最後に、「猫可愛い!飼ってもいい?」と可愛らしい娘と思えるように、スタンプをつけて送信した。
花音は、これで勝ったと思った。
しかし、スマホを操作する花音を母の美登子は見逃さなかった。
花音がスマホをしまうのを見ると、そっと自分のスマホを取り出し、夫の高臣と、息子に或る小説のウェブページを送信し、
「一緒に使いましょう。」
と、メッセージを添えた。
***
花音が夕飯を食べ終わる頃、父の高臣が帰宅した。
花音はすばやく玄関先へ向かい、高臣に駆け寄った。
作戦開始である。
「お父さん、猫可愛いよ!猫、飼おうよ!」
作戦も何もない。ただのおねだりである。
高臣は、珍しく娘が迎えてくれたことに、にこにこと顔を緩めた。
「そうかぁ、猫飼いたいか。猫になって、猫と戯れる描写は、たしかに可愛らしかったなぁ。」
高臣も素直に短編小説を読んだようだ。
この家は、意思疎通方法が少しおかしい。
「白い猫っていうのが、いいよね。」
高臣は、ぽてぽてとスリッパの足音をたてながら、リビングへ向かう。
美登子は呆れた様子で花音をたしなめる。
「おかえりなさいくらい言いなさい。」
「あ、お父さん、おかえりなさい。」
「はい、ただいま。」
「お父さん、猫飼っていい?」
「子どもか。姉ちゃんより、隣の美羽ちゃんの方がしっかりしてるぞ。」
「また、比べられた!」
花音は二十七歳の妙齢女性としての尊厳がまったく保たれていないことを強く嘆いた。
しかし、社会に揉まれ、婚約者に浮気をされて、強靭なメンタルを手に入れざるを得なかった花音は諦めなかった。
両親と弟に強い視線を向けると、力強く叫んだ。
「白い猫を飼わせてください!」
まるでプロポーズする騎士のように。真摯でまっすぐな声だった。
父も母も、そして弟も、花音の誠意に答えようと、口を開き、
「無理無理無理無理!」
声を揃えた。
「なんでよー!」
花音の声がひときわ大きく響いた。
「無理無理無理無理!」
高臣が、
「無理無理無理無理!」
美登子が、
「無理無理無理無理!」
雅臣が、それぞれ片手を左右に振りながら、答えた。
「なんでよ!猫飼いたいじゃない!そんで、なんなのよ!なんでみんなで無理を連呼するのよ!」
「それは、お母さんが読んだ小説で、どうしても使いたいけど、背徳感があって使えないセリフだったから、お父さんと雅臣を巻き込んでみた。」
「どんな小説よ!」
「これ。」
美登子の取り出したスマホ画面には小説のタイトルが。
そこには、「無理無理無理無理」の文字が。
「本気でどんな小説なのよー!気になるじゃない!」
「『恋と野球とヤンバルクイナ』の原案者の作品よ。後で送るから、読みなさい。」
「そっちの作品も気になるじゃないのよーーー!」
懊悩する花音を見ながら、美登子は勝ち誇ったように、笑んだ。
罪深いと、ためらいながらも、口に出来た言葉は、とても甘美だった。
それに、反抗期と猫の世話への意趣返しも出来たようで、美登子はとても気分が良かった。
「久しぶりに、ワインでも飲もうかしら。」
「それもいいね。無理と言ったヒロインは、幸せになったと小説にはあるからね。」
高臣は、ご機嫌な妻の肩をそっと抱く。
「なんで両親がいちゃついてるのよ!」
敗北した花音に両親は優しくなかった。
「猫飼いたいし、私だって結婚したいー!」
「姉ちゃん。うるさい。」
花音の大声が、響いた。
その時。
ぴんぽーん
玄関のチャイムが鳴り響いた。
「…姉ちゃんの声がうるさいから。」
「あんたの無理無理言ってる声がでかいから…。」
互いに人のせいにする仲良し姉弟は、玄関へ行くことをためらっていると、
「花音。」
美登子の有無を言わせない命令が、娘の名を呼ぶという端的にして、的確な言葉で放たれた。
「…はぁい。」
しぶしぶといった様子で、花音は玄関のドアを開ける。
すると、そこには、お隣の美羽ちゃんのお父さんである多田野さんが立っていた。
やっぱり、うるさかったから言いに来たのね…
花音は怒られることを覚悟して、謝ろうとした。
が、
「花音さん、僕で良ければ結婚しませんか?」
プロポーズされた。
「え?」
花音はとうとう幻聴が始まったのかと自分を恐れた。
「僕と、結婚を、してくれませんか?」
隣人の多田野さんはさらに距離を詰めて、一言一言はっきりと言った。
多田野さんは、九歳の美羽ちゃんのお父さんだが、地域のマダムたちからは、「神様がお願いを聞いてくれるなら、旦那と交換したい」人ナンバーワンの家庭的イケメンだ。
花音も素敵だと思ったことは、一度や二度ではない。
そんな人が半年前に婚約破棄された花音にプロポーズをするなんて、花音には信じられなかった。
しかし、多田野さんは真剣な表情で三度目のプロポーズを口にした。
「花音さん、僕と結婚して下さい。」
「無理無理無理無理無理無理無理無理!」
花音は、炊飯器の底にへばりついた米粒程度の理性を必死に働かせて答えた。
「多田野さんのような素敵な人がわたしにプロポーズするなんて!こんなご都合主義なこと!何かの罠ですよね?!」
パニックに陥った花音の右手を多田野さんはそっと、両手で包み、目を合わせて諭すように言った。
「いいえ、罠ではないです。
前からずっと好きでした。
ただ、子どものいる僕が、花音さんに結婚を申し込むことは、ためらわれて…
けれど、先ほど猫が飼いたい、結婚がしたいと聞こえたので、勇気を持って申し込みに来ました。」
やっぱりうるさかったんじゃないか…と、花音は意識を飛ばしそうになった。
「美羽も、猫が飼いたいと言っているのですが、家族ふたりでは、世話が出来ないと言っていたのです。花音さんがうちに来て、家族になってくれれば、美羽も喜びますし、猫も飼えます。
花音さんの願いをすべて叶えられますが、結婚してくれませんか?」
多田野さんもいい慣れたもので、四度目のプロポーズをしてきた。
「で、でも、美羽ちゃん、わたしのこと、隣のお姉さんなんて、嫌だって、前に…」
「ああ、それはお母さんならいいって言う意味ですよ。分かりやすいんですが、言い方が素直じゃないんで。」
そう言って笑いかける多田野さんは花音の手を離さない。
「あら、お隣に嫁入りね。美羽ちゃんが孫なんて嬉しいわ。」
「隣とは盲点だったな。いいんじゃないか、花音。」
「姉ちゃん、手を振り解いてないなら、嫌じゃないんじゃない?もういいじゃん。OKしなよ。」
動揺する花音を制するように家族全員が多田野さんへ援護射撃を行う。
「それじゃあ、三人で一緒に白い猫を飼いましょうね。」
多田野さんが最終確認を花音にする。
一体どこまで隣に聞こえていたのかと、花音は魂が抜けそうになったが、
「はい。一緒に猫を飼いましょう。」
大事なことなので、手を握り返して、多田野さんの目を見て答えた。
おわり。
追記:美羽ちゃん(9歳)ツインテールのツンデレ。猫が好き。
一度はニヤニヤしながら言ってみたい日本語。
二次創作の元になった
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そして、ご存知。大好き!スチパン!の
ξ˚⊿˚)ξ <ただのぎょー(Gyo¥0-)様作品の『悪役令嬢の異常な愛情 または私は如何にしてざまぁするのを止めてもふもふを愛するようになったか』は、こちらです↓
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許可をいただきありがとうございました!
最後まで読んでいただいたすべての方に心からの感謝を!