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第16話 草原の悪魔①

 時は前日の夜に遡る。


 田園に囲まれた村から少し離れた砦でテーブルに拳を激しく叩きつける男の姿があった。


 彼の名はモーリス。田園の村に強制徴兵の通達に行き、ミサキに吹き飛ばされて無様にも気を失った副団長だ。


「くそっ! あの小娘があ!!」


 モーリスは田園の村で出会った騎士の格好をした赤い髪の少女を思い出して、怒りに拳を震わせた。


 アイン王国の第二騎士団副団長であるモーリスが、部下の目の前でどこの馬の骨とも分からない少女相手に手も足もだせず意識を失ったのだ。プライドの高いモーリスにとってこれほど屈辱的なことはなかった。


「お前達もお前だっ!! この報告書によればお前達はあの小娘ひとりに恐れをなして逃げ帰ってきたと言うではないか! 拳闘士スキルだかなんだか知らんが情けないことこの上ない!! 恥を知れッ!!」


 4人の兵士達は反論することなく俯いた。


 その小娘ひとりにやられたのは他ならぬモーリスなのだが、副団長であり騎士の称号を持つモーリスにそのようなことが言えるわけもない。


 上官であるモーリスが黒と言えば黒であり、白と言えば白なのだ。異を唱えればどんな目に合うか分かったもんじゃない。最悪職を失うこともありうる。彼等にも守りたい家族がいるのだ。


「まったく嘆かわしいことだ!! だいたいお前らは普段からたるんで──」


 モーリスの叱咤が普段の訓練態度にまで及ぼうとしたその瞬間、扉を叩く音が部屋の中に鳴り響いた。


「モーリス殿。ちょっとよろしいですか?」


 部屋の中に入ってきたのは20代半ばの爽やかな青年。彼の名はオリヴァー・ディ・アルバード。戦場でミサキが助けたアリアの兄であり、第一騎士団の副団長を務めている。


「オリヴァー殿。なにかご用ですかな? 私は明日逆賊どもの討伐に出かけなければいけないので忙しいのですが?」


「お時間はとらせません。第一騎士団も団長からの命により此度の逆賊討伐に力を貸すことになったのでその挨拶に参りました」


「おー!! それはそれは......。頼もしい限りですな!」


「それで? 陛下の命に背く賊どもの規模はどのくらいなのですか? モーリス殿も負傷なされたと聞いておりますが......」


「なーに。規模は10名程度なのでたいしたことはないのだが、賊のリーダーが少々厄介でしてな。卑劣な手を使われ私も気を失ってしまった次第。なんともお恥ずかしい限りだ」


「なんと。それは災難でしたね......。そのような下劣な輩。我らで即刻排除して、ロクサンヌ帝国と戦う準備を急がねばなりませんね」


「わはははっ!! まさにその通りですな! 明日は期待しておりますぞ?」



 ふはははっ!! あのクソガキめっ!! 明日は覚悟しておけよ? 俺様にした無礼な振る舞いを必ず後悔させてやるからな!!



 ──後にこの部屋に居合わせた兵士はこう語る。


「自分達が常に裁く側だと考えるのは傲慢であり、愚かな行為だ。......あの時の俺たちはそんなことにも気づいていなかったのさ」


 兵士は身体を酷く震わせながら最後にこう締めくくった。


「......もしもあのとき。ロクサンヌ帝国とアイン王国の戦場に現れた『草原の悪魔』のことを知っていれば俺は絶対に田園の村なんかに行かなかった。絶対にな......」



 ◆◇◆◇



「おぉー。本当だ。結構いるなぁー。これは村の人達が大騒ぎするわけだ」


 田園を抜けた先に見える草原に待機している兵士達の姿を眺めながら、ミサキは悠然とした態度で歩みを進める。


 んー。だいたい100人ぐらいかな? 強制徴兵を拒否して軽く追い返しただけなのにずいぶんと大袈裟な対応をするもんだ。


 それとも王命を拒否されるってよっぽど重大なことなのかな?



 しばらくすると見張り役なのだろうか、本隊からだいぶ離れたところに白銀の鎧を着たふたりの兵士が立っているのが見えてきた。


 向こうも私に気がついたのか駆け足気味に近づいてくると、私の眼前に剣先を突きつけてきた。


「そこで止まれぃーッ!!」


 甲高い声を上げて私を呼び止める兵士。その横でもうひとりの兵士がメモのようなものを見ながら、舐め回すような視線を私に向けてくる。


「その格好......そして赤い髪......。貴様が副団長が言ってた賊のリーダーか」

「族のリーダー? 私バイクなんて乗ってないけど?」


 私の言ってることが通じなかったのか、兵士達はポカーンとした表情で顔を見合わせた。


「一体何を言ってるんだこの小娘は。意味が分からん。舐め腐った態度は報告書通りってとこか」

「まったくだ。まともに会話すらできぬとはな。陛下の命に背いたのも納得だ」


 兵士達は馬鹿にするように鼻で笑い肩を竦めた。


「強制徴兵なんて断られて当然だと思うけど? っていうか。そもそも必要なの? なんとか帝国も数万の兵士がやられたならすぐには進軍してこないんじゃない?」

「黙れ小娘ッ!! 此度の戦果を出すのにどれだけの騎士が犠牲になったと思っておるのだ! 冒険者風情や農民共が軽々しく口を出していいことではないぞ!!」


 いやそれやったの私じゃん。確かに頑張ってはいたけど明らかに黒い鎧側が優勢だったし。


「はぁ......。もういいや。だいたい初めから対話するつもりもなかったし......」

「それはこちらのセリフだっ!! 陛下の命に背いたんだ。貴様も村の連中も覚悟しておくんだな!! 逆賊は全員皆殺しだ!! 加担した農民共にも重い罰が下されるだろうなあー!!」


 ミサキは込み上げてくる苛立ちを吐き出すかのように大きな溜息をついた。


「ふんっ! 今更後悔したところでもう手遅れだ。さあもう無駄話は終わりだ。一緒に来てもらおうか」


 勝ち誇った顔で笑みを浮かべる兵士達の足元で砂埃が不自然に円を描きながら宙を舞った。


「後悔しても手遅れ......ね。まぁ、それに関してだけは私も同感かな......」


 ミサキは呆れたようにそう呟くと、口元をニヤリと歪ませた。

お読みいただきありがとうございます。


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