夏は何かを狂わせる
お題:軽いうどん
暑い。イライラする。僕の体は気温の変化に敏感だ。
勉強なんてできたものじゃない。額の上を、大粒の汗と覚えたはずの化学式が次々滑り落ちる。エアコンは壊れているし、風を求めて開けた窓からは排気ガスが吹き付ける。セミはジャワジャワ鳴いている。毎年のことながら、夏ってのは嘘みたいに最悪だ。
台所に水を取りに行こう。僕は自分の部屋から這い出した。リビングを通ると、姉が暇そうにスマホを眺めている。
「お腹空いたよ。なんか作ってよ」
あからさまに顔を顰められた。
「……なんかあるかなあ」
「素麺は飽きた。たまには違うの食べようよ、軽いやつで。」
「うっそ、さらに注文つけてくんの!?何様?親の顔が見たいわ。」
毎日見てるんじゃないの?
姉は馬鹿なことしか言わない。うるさいので無視して部屋に戻った。少しでも勉強したい……けど、無理だ。覚えたものはすぐ忘れるし計算なんて3秒も集中できない。とりあえずご飯食べたら外行こう。図書館かカフェに行くしかない。
台所に戻ると姉が何か茹でていた。
「結局、素麺?」
「うどん」
「変わんないじゃん。軽いけど。」
部屋に戻って、食べたらすぐに出発できるように、鞄に問題集とノートを放り込んだ。うどんなら、すぐ茹で上がりそうだ。
「できた?早く食べて出かけたいんだけど。」
姉が、無言で丼を差し出した。丼?まさか温かいうどん!?ありえないんですが。
「これが、一番軽いよ」
丼の中には、何もなかった。
大して変えてない。