トンビのライト
カステラはおじいさんの胸の上でしばらく歩き回っていました。時折吹く風でカーテンが揺れて、机の鉛筆が落ちて音をたてました。いつもの様に鉛筆を拾っても、褒めてくれるおじいさんはもういません。それでもカステラは飛び降りて鉛筆を咥え、机に戻りました。咥えたままただぼんやり窓の外を見ていました。もう太陽もだいぶ上り、時計台が太陽を背に黒く見えました。
バサバサっとその時一匹のトンビが、開いた窓枠にとまりました。
「カステラ、そんなもん咥えて何をぼーっとしてるんだ」
話相手のトンビのライトでした。カステラは鉛筆をぽとりと落とすと言いました。
「おじぃちゃんが息をしてないんよ!心臓の音も聞こえないんよ!おじぃちゃんにお礼もしてないんよ」
ライトもおじいさんを知っていました。カステラにかける言葉が見つかりません。
「天国は良いところだってよ、今頃じぃちゃんは天国に向かってる最中だよ」
そんな言葉をライトはカステラに伝えました。
「天国はどこにあるんよ」カステラは言いました。
「天国って言ったら、空のてっぺんのその上にあるんだよ、俺の翼だって行けない遠い遠いてっぺんの上だよ」
「今から行けば、おじぃちゃんに追いつけるんよ。それでお礼をするんよ」
カステラは小さな翼をバタバタさせて言いました。
「ライトも一緒に来てくれたら、うれしいんよ」
ライトも翼大きく広げ答えました。
「いいけど、お前そんなに飛べるんか」
「大丈夫、あたいだって渡り鳥なんよ」
とカステラも小さな翼を出来るだけ大きく広げ答えました。
そしてカステラは長い間、おじいさんと暮らした屋敷をトンビのライトと共に飛び出しました。




