一度目の旅立ち
わたしはカラステラインコのカステラ。
おじぃちゃんが付けてくれた名前がとっても気に入ってるんよ。
おじぃちゃんは最近元気がなくてベッドから出てこないんよ。
窓から見える景色、雪が溶けてだいぶ春らしくなったある日の朝のことでした。
久しぶりにおじぃちゃんはベッドから出て鳥かごの扉を開け椅子に座って言ったんよ。
「カステラ、お前には不自由させたな、もうわしも長くないようじゃ、今日から自由だ何処へでもお行き」
そう言って目の前の窓を、おじいさんは弱々しく開けました。まだ肌寒い風が少し入ってきました。
おじぃちゃんあたいは不自由なんて感じたこと一度もないんよ。そう言いたくても話せる言葉は”おじぃちゃん”と”おはよう”だけ。カステラはおじいさんの前にあるテーブルに飛んでいき言いました。
「おじぃちゃん!おじぃちゃん!」
おじいさんは人差し指でカステラの頭を優しくなでると、用意されてあった薬を飲み、再びベッドに戻りました。ちょうどその時窓から見える時計台の鐘の音が鳴りました。おじいさんが元気だった頃いつもしていたようにカステラはおじいさんの胸にとまり言いました。
「おはよう!おじぃちゃん おはよう!おじぃちゃん」
おじいさんは目を開けにこっとすると、静かに目を閉じまたゆっくり眠りに落ちていきました。カステラの足に伝わる微かな心臓の音は、徐々に間隔をひろげいつしか止まっていました。
「おはよう!おはよう!」
もうおじいさんには届きません。
あたいは不自由なんて感じたことなんてないんよ、ありがとうって言いたかったんよ。