01 神よ、俺が何をした…!
初めての投稿になります。
これ外に出していいのか??と思いつつこの文を書いてます。
拙い文章ですが、お付き合い願いますと幸いです!
特に不満のない人生だった。
自分の人生を一言で表すとそんな人生だった。
学生時代にいじめを受けたり、会社では嫌味も言われたりしたが同僚は良い奴だったし、親友は変わらずに親友だ。
色々な思い出(黒歴史込)が思い浮かんでは通り過ぎていく。…ああ、でも一つだけ。
一つだけ気になる事がある。
「ね、こ…。」
そう、猫だ。
何故猫なのかと言うと、自分の前に車に轢かれかけていた猫を見てしまったからだ。もっと言うとそれを助けようと咄嗟に道路に飛び出し、次の瞬間には体に強い衝撃を受けてしまって自分では体が動かせない状況だから、確認したくともできないという。
…ああ、つまり、自分は死にかけているのか。
ぼんやりとイマイチ頭が働かない割に色々な記憶が思い浮かんでくるこれは、走馬灯というやつか。
そういえば走馬灯というのは過去の経験を思い出し、現在の状況を打破しようとする脳の働きなんだそうな。何処で教えて貰ったのだったか…とある漫画に出たゾーンの入り方とか何とかの下りで教えて貰ったのは分かるのだが…と、グルグルと考えている間にも段々体が寒くなってくる。
もう時間もないんだろう。
最後の力を振り絞って横目で猫を探す。周りでは人の足があっちへ行ったりこっちへ来たりと随分慌ただしい。
誰かが頻りに自分を呼んでいるのは動作で分かるのだが如何せん水の中で聞いているみたいにくぐもってよく聞こえない。
霞んできた目を必死に凝らして猫を探す。
頼む、生きていてくれ。
………いた。
空き地の草の間に隠れるように蹲っている。轢かれかけていた猫と同じ白い足袋を履いたような模様の黒い猫だ。
よかった、お前生きてたんだな。思わず頬が緩む。元気ならそれでいいんだ。
もう車の前に飛び出すんじゃないぞ、と口だけ動かしてみる。うまく動かせたかは分からない。でも、
「みゃーぅ」
返事をするような鳴き声が聞こえたから、きっと猫は分かったのだろう。自分の思い込みかもしれないが。
もう目が開けていられない。でも最後くらい都合の良い方に考えよう。猫が返事をしてくれるなんてファンタジーな事、今ならすんなり受け入れられるだろうから。
そんな事を考えながら、体の力を抜いた。
享年28。男、交通事故で猫を庇って死ぬなんて、思いもよらなかったな…。
父さん、母さん、そして妹よ。先立つ不幸をお許しください。
そしてオタク友達よ、頼むから俺のパソコンを風呂に沈めててくれ……!その他の物品は報酬だから…!
「その心意気、天晴れなり!」
耳元でそう聞こえた気がして、俺は目を開けた。
──────はい?
目を開けた所は草原だった。青い空に白い雲。そして吹いた風で視界の端の草が揺れて、草が波打つ音が聞こえる。そして日差しは春の陽気なのか柔らかでとても気持ちがいい。
うん。紛うことなき草原だ。そしてこれは恐らく地面の上に寝っ転がっているのだろう。何となく背中がひんやりする。
「…不思議にゃ夢だにゃぁ…」
神様が俺にくれたご褒美なのかもしれない。大都会に草原なんて無いし、こんなに気持ちの良い日差しは婆ちゃん家に遊びに行って縁側で日向ぼっこしたきりだ。
そうだ、こんなに気持ちの良い陽気なんだから堪能しても罰は当たらないだろう。畳の匂いがしないのは惜しいがそれはそれ、草原には草原のいい匂いがする。
土の少し湿った匂いと草の青い匂いは少し癖はあるが嫌いな匂いじゃない。思わずごろごろと喉が鳴ってしまうくらい落ち着く。
くぁり、と欠伸をし横に寝返りを打つ。その時にふと目の端に映った白と黒のもふもふは太くはないもののふかふかでとても気持ちが良さそうに見えて、あれを掴んだらさぞかし気持ちいいだろうなぁ、と欲望に任せ手を伸ばす。
………手を伸ばした、と思ったのだけどいくら経っても自分の手は見えてこない。それどころか白と黒のもふもふが増えた。
……不思議だな、増えたぞ?もう片方の手も伸ばしてみるか。
そしてまた増える白と黒のもふもふ。そこまでしておかしいなと思った。だって俺は手を伸ばした筈なのに増えたのは白と黒のもふもふだ。
試しに両手を自分の顔にくっつけてみる。
もふっぷにっ
更に試しにそのままほっぺを摘んで──ってこれやばい爪がほっぺに刺さる!!痛い痛い痛い!!
刺さった爪を半泣きになりながら慎重に外して、そこで俺は完全に目が覚めた。
「…にゃんだ、これ。」
自分の手をグーパーすると同時にグーパーと器用に動く獣の前足、あっ肉球はピンクか。かわいい。違うそうじゃない。そして先程から視界の端にあった白黒の物体──もといしっぽの様なもの。そして先程の俺の言葉。
──にゃ、って…、にゃって何?
俺もう三十路なのににゃとか言った?
というかもしや、な行が言い難いの?
そこまで至り、冷や汗が背中を伝う。
そう、俺は確信した。
………俺ってば、猫になってる?
──神よ、俺が何をしたと言うのか…!