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四話目 蜂矢澪音【そして文明を見つける】

「とりあえず、向こう行くか」


 主人公田代が言います。その声は静かな森に良く響きました。

 ……なんでスーパー美少女にしてこの世に降臨してあげた私じゃなくてたかが副人格ごときが進行役を務めているのかは気になりますが、まあそこは置いといて私は頷きます。


「えー、なんでアユちゃん様じゃなくって主人公田代の命令を受けなきゃなんないの」


 すると先生が面倒……いえ、可愛いことを言ってきたので、その辺に落ちていた棒でたたきながら「行きますよ」と優しく言ってあげます。

 主人公田代は果てしなく気持ち悪いものを見たような目をしていましたけど、まあ放置です。ポイーッするにしても今はそれどころじゃないというか、この気持ち悪いブタ……もとい、岡原崎先生と二人になるなんてそんな精神衛生上悪いことは私だってしたくないので誰かが現れるまでは我慢してあげましょう。


「はいですぅご主人様!」


 うん、気持ち悪いです。


「行こ、主人公田代」

「あ、ああ、そうだな」




 ***




 歩いても歩いても、果てが見えません。というか、あの二つの月、地平線に沈んでないような気がします。よく見るとずっと傾いたまま動いていないのです。

 そう言うと、主人公田代も頷きました。


「そうだな。面白いよな。地球とは全く違う。いったいどうなってんのか興味はあるが」

「僕も気になるなあ。もしかするとバグかも」

「バグって何のことですか先生」


 不具合? なんて首を傾げる岡原崎先生。ブタがそうしていても別に可愛くはありません。純粋に気持ち悪いだけです。


「ま、まあ、ちょっと木の間隔もまばらになってきたし、もしかしたら森を抜けられるかも! です! アユちゃん様ぁ!」


 そんな感じですがりついてくる気持ち悪いブタは適当にそこらに蹴り飛ばしておくことにします。大丈夫です、なぜかあのブタは鼻がいいらしく、置いて行ってもいつの間にかついてきています。


「ま、いずれにせよ森は抜けておいた方がいいし、このまま進むか」

「そうですね。でもお腹空きましたね」

「まあ、キャンセルされたっぽいからな……」


 おのれ、『なんでも変換しちゃう君』……。あのまま先生の服を使っておいてくれればよかったものを。

 ふと思い出したことがあり、私は持っていたバッグを探ります。……やっぱりありました。


「JCたるもの、普通はお菓子を持っているものです!」

「お、おお……ってそれもうほぼ中身ねえじゃん」


 主人公田代の突っ込みは無視します。何故なら小食な天使ことこのアユちゃん様、食べかけのチョコでも十分にお腹を満たせるので。

 え? 他の人の分? ありませんよ。だってそりゃあ、何よりも完全無欠な天使が優先されるべきですから。そうでしょう?


「それでもアユちゃん様のお慈悲が欲しかったブヒ……」


 心底残念そうな顔で先生が呟きます。さっきおいてきたはずなのに、どこから出てきたのでしょう。全く気持ちが悪いなあ。

 主人公田代は心なしかむすっとした表情で歩き出します。私はまだ食べ終わっていないというのに、なんという暴挙でしょう。まあいいです。最後の一粒でしたから、さっさと口に放り込んじゃいます。


「の、のーん……」


 先生の気味わる、じゃない、かわいらしい鳴き声は無視して主人公田代を追いかけます。そうです、なぜか主人公田代は森であんまりこけないのです。なぜでしょうか。動きがきびきびしているからでしょうか。なんにせよ羨ましいです。先生はまあいいとして、私の愛らしく麗しい顔に傷でもついたらどうするのでしょう。


「どうした、俺の顔をまじまじと見て。さしものスーパー天才美少女天使(笑)でもこの俺に惚れちまったか?」

「んなわけないでしょ、身の程をわきまえなさい」


 身長190センチ以上年収2000万円以上めちゃヤバイケメンじゃなきゃダメなんだから。

 ……と、そんなことを言っているうちに、視界が開けました。森の終わりです。ついに私たちはやり遂げたのです。

 とにかく私たちは、この辺で唯一見える人工物に突撃してみることにしました。そう、あの森の側にある割とガチそうな砦っぽいやつです。丁度日も傾いてきましたし、寝る場所をもらいたいですね。ええ、もちろん、天使である私が交渉すれば、どんな生命体でも、快く自分のベッドを貸してくれるはずです。


 ……しかし、森を歩いていく途中に見えた、頭だけ他の何かに貼り付けたみたいな人間の死体、あれはいったい何だったのでしょう。先生みたいにマッドな人間でもいるのかなあ。

 あ、でも先生二人目はやめてほしいです。単純に気持ちわる、いえ、面倒、いえ、ペットは一匹に絞りたい主義……というわけでもないけど、とにかく、天使の慈悲を向ける相手は絞られてしかるべきなのです。そうでなきゃ施しにありがたみがなくなるでしょう?


 そんなこんなで、私たちは砦っぽい建物の近くにたどり着いたのでした。

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