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一巡目 一話 水汽 淋 【最高な最善に最大な最悪のウルトラハッピーな願い事】

 私の大好きな大好きなおばあちゃんが言いました。

 お母さんにも、お父さんにも、隣のおばさんにも、クラスの田中君にも、言われました。


 アユちゃんはすごいねぇって。


 だから、私は私のことを後光さす光輪を輝かせ天上世界から舞い降りた天使だと思って幼少期を過ごしました。

 今も思ってるというか実際そうな訳ですが、ですが私が天使だというと、周りの皆が奇異な視線を向けてくるのも確かです。それはただの羨望と嫉妬にまみれたものなのですが、事実私は誰よりも素晴らしく聡明で美しかったので、それもしょうがないことなのかもしれません。

 しかし、私が天使だということに何かしらの異議を唱える人がいたとしたらポイーッです。してやるのです。

 私が私の取り巻きの男の子達にウインク一つしてやれば、養豚場で飼い慣らされた家畜のようにブヒブヒ言いながら、そんなこと言ってきたやつをダストボックスへゴーシュートしてくれるのです。さながら訓練された軍隊のようで、私はいい気分になったりもします。


 例えば。イケメンだとかちょっと噂になってた柏原くんだってポイーッ! です。私に告白してこないなんて信じられません。乙女らしく甲斐甲斐しく。私は柏原くんから注目を集めようとしたのに無視なんですから!

 帰国子女だとか言う紅山さんなんかダンクです。英語の時間に意気揚々と発表した私の発音を、全くなってないわね、なんて言うのが悪いんです。


 しかしそれでも、私の心は天使に等しく純然たるガラスの結晶で構成されていました。それにほんのエッセンスとして自己防衛のための、少し過剰なまでの闘争心があるばかりなのです。


 そんな私はいつか暴漢に襲われた時のために、護身術を身に付けようと頑張っていました。例えば柏原くんをゴーシュートした時は全裸にひんむいて校門前にその写真を張り付けたりしましたが、ではどうやって裸にひんむいたかというと護身術によってそれは為されたのです。

 ですがそれは従来の護身術なんかではありません。私が日々思案し、編み出した、私だけが使える特別な護身術なのでした。


 例えば私は蛙のお尻の穴に爆竹を突っ込んだりして、科学実験をしたことがありました。その時の経験から、私は安藤くんの手が一体何秒間マッチ棒に炙られることに耐えれるかなー、なんてことを実験してみたり。

 結果は、上々でした。拷問としてはなかなかいい物だと、一つ私に新たな知識が増えました。燻製のようないい匂いがしたりするんです。

 ですが、私は絶叫を上げ続ける安藤くんのことが可哀想に思えました。だって彼は特に悪いことなんてしてません。私の影口を叩いてしまっただけなのです。

 いいえ、やはりダメですね。天使の私の影口を叩くのは全宇宙で行けないと定められた規約なのです。


 ですが、まあ。


 私は取り巻きの子に安藤君を離してあげなさいと命令して、スーパー天使な私の優しさがそんなところで発露してしまったのでした。


 まあまあ、そんな生活を繰り返してた中学三年生の頃です。私は行ける学校がありませんよ、なんて言われて多少自暴自棄になってました。あまりに遊び呆け人生を誰よりも謳歌していた私は、衝撃のバーゲンセールの時にだって出てこないような陳腐な驚きにそこで初めて出会ったのです。そう、まさか、そんな、という驚きです。

 だってそうでしょう? 私のようなスーパーな美少女がそんなの、ありえるはずがありません。


 なので私は心機一転、新たな人生を歩むことに決めました。そうです、最近はどうやら異世界転移とかいうのが流行ってるらしいじゃないですか。

 どうやらトラックへと飛び込んだりしなければならないようですが、それ以外の方法を私は知ってます。だって痛いのは嫌ですもんね。安藤くんを解放してあげたのだって、少しお試しに私が自分の手をマッチ棒で炙ったからです。思っていたよりも熱くて涙目になってしまったのです。

 そう、私は失敗から学ぶことが出来るのです! 何故なら私、天才ですもの! 失敗を学び、成功への道筋を学習しました。それは、きちんと怒られない程度の成績を納め、私の人生を邪魔されない程度にはいい子ちゃんでいることです。


 ですがそれはそれ。これはこれ。とりあえず私は新たな人生を歩みたいのです。


 ということで、私は知り合いの岡原崎先生の元へと行きました。

 この先生は自称天才博士とかいう人で、不審者です。ですが、その腕前は折り紙つき。私が淡々と柏原くんや安藤くんに粛清をしながらも、誰にも捕まらず逃げおおせることが出来たのは、岡原崎先生が開発してくれたこの『敵近寄ってきたら全員写し出すウォッチ』があるおかげだからです。

 なんとこれはGPSだか衛星だかの電波を受信して、私に危害を及ぼそうとする人間がいれば警告してくれる優れものなのです。

 そんな自称天才博士が最近取り組んでいる研究の一つに、どうやら次元転送装置なんてものがあるらしいのです!


 私はそれを使い、異世界で新たな人生を送るのです。そしてそこで私は女王になったりしちゃうんです!

 ふんすふんすと、私は興奮を隠しきれずに、都市郊外の新築マンションに入りました。その一角に岡原崎先生の研究室があるのです。しかし不思議なことに、そのマンションにはあまり住人がいないらしいのです。おかしいですね、おかしいですね。

 私はなにやら汁が漏れでて汚さMAXな玄関を開けました。


「岡原崎先生! 私が来ましたよ! 最近の研究はどうですか!」


 私の鼻がプーン、とするその匂いを嗅ぎ付けりなんかしたら、私の鼻がツングースカ大爆発を起こしてしまいます。私はさっとマスクを取り出し装着しました。

 そして、土足でその部屋に上がり込みます。だってここは人外魔境。足の踏み場なんかありません。もし裸足であがりこもうものなら、ぬちゃっとしてぐちゃっとしてべちゃっとします。


 ついでに三角巾を頭に巻き付けゴム手袋を完備です。出来れば宇宙服とか着たい所ですが、さすがにそれは我慢です。


 私はお姉さんが扇情的なポーズをとっている黄ばんだ雑誌を踏みつけながら、部屋の奥へと行きました。

 するとそこには、遺伝子組み換えされるまえの豚……こほん。岡原崎先生が熱心にパーソナルコンピューターに向かってなにかを書き込んでます!

 ぐるりと頭を回して、私はゴミ部屋ならぬゴミ箱の中を眺めました。床は生ゴミ可燃ゴミプラスチックゴミ鉄ゴミ宇宙ゴミ等々、ゴミ博覧会が開ける程のゴミで散乱してます。分別大変だろうなぁ、なんてことを考えながら壁へと目を向けると、そこにはなにやら数式やらが書きなぐられたメモと、私にはまるで幾何学模様のようにしか見えないものが写し出されているパソコンで埋め尽くされていました。


 まだ気付いていない様子の岡原崎先生に、もう一度声をかけます。


「岡原崎先生~!」


 無視です。いまだ熱心に何かしてます。むっ。でも、まだ怒る訳にもいきません。


「おかばらさきせーんせ!」


 ピクリ、と動きが止まりましたが、それだけです。乙女の純情は傷付きました。私は泣きそうになって、最後の一言を言いました。


「おいこの豚ァ! この可愛い可愛いアユちゃん様がこうやってきてあげてんだろうが返事くらいしろやぁ!」

「ブヒィ! はっ、アユちゃん様!? ど、どうしたの今日は。まだ腕時計型の麻酔銃は開発出来てないんだけど……」


 そういえばそんなのを作れとも言ってた気がしますが、まあどうでもいいです。

 私は天使よりも天使な笑顔を浮かべながら、先生に言葉を続けます。


「そんなのもういいよ! 岡原崎先生、私、異世界に行きたいなーー! そういうの、作ってるんでしょ!? ほら、早く早くぅ!」


 先生はブヒブヒ……いや、フゴフゴ言いながらな、なんでアユちゃん様がそれを!? なんてことを言いました。

 私は斜め四十五度最高に可愛い顔の向きで先生へ畳み掛けます。


「だって、せんせぇ。この前自慢してたよ? これが出来たら、一緒に旅行しようね! なんて言ってたよ? ほら、早く私にそれ見せて!」

「だっ、ダメだよぉ。これはアメリカに頼まれてる仕事なんだから……それに、まだ試作段階で上手いこと調整出来てないんだって。アユちゃん様に、傷ついたらダメでしょぉ?」


 豚さんは、そんな優しいことを言ってきます。

 でもダメ! 私身長190センチ以上年収2000万円以上めちゃヤバイケメンしかだめって決めてるの!

 なのでそこらはスルーです。


 しょうがないです。私は、スルリとブーツを片方脱ぎました。

 先生が瞬時に四つん這いになってブーブー言い始めます。


「ねぇ、欲しいでしょ? なら、どうすればいいか分かるよねぇ?」

「で、でも、危険なんだ。これ使ったらどうなるか僕にも……ハァハァ」

「そうなの? じゃあ、お預け?」

「や、やめてくださいっ! もう一ヶ月も嗅いでないんです! そろそろ嗅がなきゃ死んじゃう、死んじゃいますぅ!」


 アハハッ! 私は最高の気分です。さてさて、私はこれからこの豚さんに何をしてあげましょう!

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