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87 宍原の戦い④

武田軍本陣では、次の手を打つべく準備をしていた。

伏兵が擬兵ではなく、3000の今川兵であったのだ。対処する小山田隊はわずか1000。

最前線で戦う軍勢は包囲陣を敷いている。ここから兵を引き抜けば、包囲の綻びになりかねない。本陣から部隊を編成し、援軍として送らねばならないのだ。

しかし、その指示に「待った」がかかる。それも意外なところから。


「小山田様より伝令。援軍は不要とのことです」

「なんだと?」


あまりな連絡に真偽を疑う。しかし、現れた伝令は武田信玄も知る小山田家家中の者だ。偽りの報告ではない。


「小山田様より。敵兵、はなはだ弱し。その大部分は賄い兵(傭兵)とのことです」

「……それが向こうの策か」


数を頼りにする今川軍が、足りない数を金銭で賄ってそろえた。しかし、金で雇われた兵の士気は低い。また、寄せ集めの集団では軍団として指揮をとる事もままならない。ただ、数で前に出るだけだ。


「いや、援軍は送る。あの兵を早々に押し込めよ」


不確定要素は排除する。王道正道。そのための努力を惜しむ気はない。




「倍以上の数でも抜けられないのか」

「相手はあの武田軍。それも硬軟織り交ぜた用兵で名高い小山田信茂です。そう簡単にはいかないでしょう」


敵の横腹を突く為に伏兵を用意したが、よもやあんな小部隊すら突破できないとは思わなかった。もちろん、数の差で一方的に攻撃しているのだが、粘り強く持ち堪えている。そして、現在果敢に攻め立てているオレ達だが、息切れしたらそれまでだ。

向こうの将もそれを狙っているのだろう。

それを避けるために、攻防を切り替えようにも、金で集めた傭兵をまとめただけの伏兵部隊は、そんな緻密な指揮を取れるような状態ではない。

つまり、オレの用意した伏兵は勢いとノリだけの部隊というわけだ。

さらに駄目押しのように、武田の本陣から援軍と思われる部隊がこちらに向かっている。


「少数でも粘り強く勝つか。さすが甲斐の武田。良い駒を持っている」

「武田の赤備え。その数1000。こちらに向かって来ています」

「赤備え……飯富。いや、山県隊か」


伝令の報告に、声を上げる矢島殿。

今回の戦において、その名前に聞き覚えがあった。精鋭中の精鋭である武田の赤備え。かつては飯富虎昌が指揮していたが、謀反により粛清され、その弟が山県姓に改姓して引き継いだという部隊だ。

前指揮官の謀反という汚名によって失った名誉を回復させようと、手柄を求めて果敢に戦うだろうな。

全部隊で一丸となるしかない臨時の兵を、分けて対処する事は出来ない。横腹を突かれたらそれまでだ。当然、向こうはそれを狙うだろう。

そこまでして面倒なオレ達伏兵部隊を倒したいという、武田信玄の意図が見える。


「本当に良い駒を持っている。だが……」


手で合図を送ると、傭兵部隊を指揮していた鵜殿氏次がうなずいて側近に合図を送る。

ブオブオブオオ~~~。ブオブオブオオ~~~~~

再び戦場に鳴り響く陣貝の音。


「駒では棋譜は読めぬのだよ」


それを合図に、ここから武田本陣を挟んだ南側の森の中から、再び「足利二つ引き」の旗が無数に立ち上がる。

それも、自分達の伏兵部隊の倍近い数だ。

笑みを浮かべつつそれを見る。

オレの敵は武田信玄ただ一人。最初から、駒の差し合いなどするつもりもなかった。

これは、指し手の戦いだ。

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