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60 織田信長の織田家

小牧山城にて捕虜として織田信長と面会したら、駿河に帰りたかったら手を貸せと言われた。身代金を払わずとも良くなったとも思えるが、面倒な事をさせられるわけなので、どっちもどっちである。


「拙僧は尾張についても美濃についても不得手にございます。誰か詳しい者はおりますか?」

「……菊千代。聞かれた事を教えてやれ」

「はい!」


信長があごをしゃくると、後ろに控えていた小姓が頭を下げて返事をする。なんだろう、元気な少年だな。


「よろしいのですか?尾張の事も聞く事になりますぞ」


小姓から信長に視線を戻しつつ、釘を刺しておく。


「かまわん。だが、何を聞かれたか委細すべてオレに話せ。いいな菊千代」

「はい!」


釘を刺したが、向こうからも刺されたでようだ。後はお互い木槌で打ち合うだけだな。

しばらく正面から信長と睨み合う(見つめ合うわけじゃないぞ)と、信長は視線をはずして席を立ち、小姓一人を残して部屋を出て行く。

小姓と二人っきりになった部屋で、とりあえずため息を一つついた。




「何をお話しいたしましょうか?」


身を削られる様な会談を終えて一息入れていると、勢い込んで話しかけてきたのは小姓だ。

名前は菊千代だったか。きれいな顔をしている、将来絶対モテるだろう。地獄に落とす名簿に名前を書いておこう。


「その前に、白湯を一杯ください」

「はい!」


菊千代君は部屋を出ると、すぐさま白湯を持って戻ってくる。受け取って一口。ああ、暖まるなぁ。


「何をお話しいたしましょう?」


……うん。なんだか君、とっても元気だね。




尾張大名織田家当主 織田信長。

後の第六天魔王とか覇王とか言われるが、現段階では尾張を支配する大名でしかなかった。

とはいえ、その地位も簡単に手に入れたわけではない。織田信長の家系は、尾張を支配していた守護の斯波氏の代官である織田家のさらに家老(分家)である。本家筋とか支配の正当性とは縁のないその他大勢。魔王の片腕どころか、序盤の中ボスか後半に出てくるグラフィックスは同じだが色違いの敵(ちょっと強い)程度の地位だ。

信長の父親である織田信秀は師匠すら警戒する傑物であり、美濃の齋藤家や三河松平家(タケピーの父親)と戦えるほどの力を持つ勢力だったが、その生涯において上司である本家や、主家である斯波氏に取って代わる事はなかった。

それを実行したのが織田信長だ。どう見ても下克上です、本当にありがとうございました。

まあ、そうしなければ生きていけなかったというのもわかる。本家や主家よりも力の強い家臣という立場が冷遇されないわけがない。力を持っていた父親の信秀が死んで後を継いだだけの存在。さらに、外だけでなく織田家内部も安定しているわけではなく、信長の弟である織田信行を擁立する勢力があったのだ。

このまま現状維持をしていたら、謀殺されるか反乱祭りで炎上だったろう。


「しかし、織田家の家中も大変でしょうね」

「はい?」

「織田家を継いだ信長様の家臣というのは、南尾張の家老として差配していた家臣。その織田様が尾張を手中に収めた事で、必要な人員は単純に倍になったと言えるでしょう」

「はい。ですから、私のような若輩者ですが、殿の横で学ばせてもらっております」

「……うん。そうだね」


この少年。ちょっと素直すぎやしないかね?

おそらく、この少年も織田家の家臣として縁があるという程度の関係だろう。それなのに大名本人の小姓を勤めている。当たり前だが小姓とは、主人に最も近い場所に居る人間だ。才能云々もあるだろうが、何よりも信用が大事な役職である。つまりは、織田家では少しでも縁があれば取り込まなければならない状況という事だ。

そういう意味で考えれば、後の豊臣秀吉(木下藤吉郎)が織田家に仕えて出世したのも納得できる。


「となると、美濃の一色家を攻めるのに、力攻めは愚策ですな」

「なぜです?」

「すでに織田家の家臣の数が足りないのに、美濃を力で取って領土を倍にしたら、誰が治めるのですか?」

「ええっと……」


人は死んだら終了である。そして、戦である以上殺し殺される事が決まっている。美濃を力攻めで滅ぼせば、尾張の家中にも被害が出る。それは、結果的に己の足を止める枷となってしまう。


なるほど、異常だ。

現在の織田家の家臣達では、統治できるのはせいぜい尾張一国。どうがんばっても美濃を取った段階で人材が枯渇する。織田家の家老時代の身内や譜代の家臣だけでは手が足りない。

だからこそ新参者を募り、彼等を一括管理することで合理化をはかり、彼等自身を競わせる事で、誰の目にも眼に見える形で優劣をつけて評価する。

なるほど。手法は違う。内容も違う。目的も違う。

しかし、同じだ。

つまるところは、新しい組織体系の模索。

オレの武器が見抜かれるはずだ。同じ視線で見ているのであれば、『仮名目録』からオレの目的を察する事も可能だろう。

なにせオレ自身が、同じ視点で見ることで織田信長の統治方法を理解しているのだから。

経済による富国強兵。楽市楽座による人材の流入。常備兵。種子島による兵力運用。

その本質は、人材育成ではなく人材確保による新しい統治体制の確立。確保した未熟な人材の効率的な有効活用のためだ。

経済による富国強兵も常備兵も、農作業への労働力リソースの分散を避けただけ。楽市楽座によって得られるのは情報だ。そしてこの時代、その情報をもたらすのは人間だ。情報の流入はそのまま人の流入に繋がる。

現段階では、これは尾張を手に入れ、地理的に守りを固める為に美濃を取った段階で発生する問題に対処しただけだ。

そして、その延長線上にあるのが天下布武。

勢力が拡大すればするほど、その恩恵も増えていく体制作り。


「ははは」

「?」


もれた笑みに菊千代君が不思議そうに顔を傾ける。


「いえ、何でもありません。織田家の話はもう十分です」


軽く首を横に振ると、話を変える。

初めて現れたオレ個人の競争相手ライバルだ。それ以上は考えてやらん。お前とオレとは違う道を行くのだから。それ以上は自分で探せ。

だから、これ以上は知ってやらない。


「さて、では次に美濃の事を教えてもらいましょうか」


だから、見せてやろう。オレの武器きばを。


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