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54 松平家の受難

※この話を呼んでいる時、お前は「そっちかよ!」と言う(JOJO風)

永禄六年一月


三河にて一向一揆勃発。

西三河にて、一向宗の寺が一斉に蜂起。ちなみに、タケピーこと松平元康の実家である岡崎城とか安祥城がある地元が西三河である。つまり本拠地といえる場所で一揆勃発。

今川家評定においては、敵である松平家の内紛である。歓迎モードで今こそ「攻める時」的な話も出ていたが、今川家ではまだ遠江騒乱の後始末が終わってはいない。


「……ああ、そういう事か」

「なにがだ?飛車丸」


飛車丸の私室で、詳細な報告を見ながら飛車丸がつぶやくようにもらす。


「爺ちゃんの置き土産ってやつだ」

「武田信虎の?」

「ああ、お前が言っていたろ。爺ちゃんの勢力が出来た場合、オレ達への備えとして将軍家のお墨付き。そしてもう一つ。三河松平の抑えだ」

「それが一揆誘発か?でもどうやって?」

「一向宗座主顕如に嫁いだのは公家の三条家の娘。そして武田信玄の義姉にあたる。三条家と甲斐武田家の縁は深い」

「!!」


その言葉に衝撃を受ける。

坊主が嫁をもらっていいのか!?

今から改宗とかって出来ないか?……って無理か。ここでの改宗はオレの信用に関わる。この時代の改宗は、無宗教の現代日本とは意識が違う。主君を裏切るほどの覚悟が必要だ。さらに、オレは職業坊主だ。僧職である事を背景として信用を得ている以上、それを捨てれば、オレの信用と経歴は消え去る事になる。

畜生!なんだかとっても畜生!!!


世の無常を嘆きつつ思う。信虎が独自勢力の確立に向けて、松平家に対して施した策がこの一揆の誘発というなら、追放してなお舌を巻く策略家だ。おそらく計画したタイミングは、将軍家にお墨付きをもらいに行ったあの上京の時だろう。一向宗つまり浄土真宗の本山である本願寺は京都にも近い。一度で二つの策の準備をしていたわけだ。だからこそ、あの段階で無理をして京都に上った理由に納得だ。

その信虎が失敗してから数ヶ月。準備していた一揆が暴発したのか、将軍家が預かっている信虎が苦し紛れに決行させたのか。

まあ、どちらにしろ・・・


「どちらにしろ最悪に近い」

「……」


同意見の飛車丸の言葉に、オレは黙る。ここで言う「最悪」なのはオレ達にとってではない。

実は昨年の十一月下旬に、松平家は三河を統一していた。一応、今川家も駿河の兵2500を遠江との国境線に送り松平軍の牽制をしたのだが、向こうは元々遠江に攻め込む予定はなく、睨み合いだけで終了。今川軍は松平家に滅ぼされた反松平派の三河豪族の残党を受け入れて駿河に帰還している。


今川家を牽制した上で、悲願であった三河統一を果たした松平家の喜びはいかばかりか。で、ルンルン気分で年を越えて、おめでとうハッピーニューイヤーを祝っているところに、この爆弾がドカンだ。松平家にとっては悪い意味で心機一転。迷惑な新年の始まりとなったわけである。

問題は何かと言えば、松平家の家臣の中にも一向宗を信じる武将がいる事だ。家族や親類をはじめ、友人や知人を入れたら、特定宗派と無関係の人はいないんじゃないかというほど、この時代の宗教は生活と密着している。

つまり「義理」と「人情」という三河武士の特性である頑固な性格にクリーンヒットしているのだ。文字通り効果はばつぐんだ!

そんな、弱点属性による倍ダメージを受けて、一揆に加担する松平家家臣も出てくるはずだ。少なくとも5分の1。多ければ3分の1以上になるか?

応援しているアイドルユニットの悲願の武道館ライブに参加し、意気投合したファン同士で打ち上げしている最中に、センターアイドルが「独立します」の大スキャンダルが発生したようなものだ。『裏切り者』か、それとも『しんこう』か。悩みに悩むところだろう。

どちらにしろ松平家を支える家臣が寝返るのだ。松平家の混乱は避けられない。

さらに、三河統一直後というのが不味い。

当たり前だが、最後まで抵抗した東三河は、松平家に統治されてまだ2ヶ月程度。安定しているとは言いがたい。そこの慰撫と統制が必要なのに、頼みの家臣は一揆に参加で手が回らない。

そして時間を置けば置くほど、くすぶった火というのは燃え上がる可能性がある。


「……飛車丸。一揆はどれくらい続くと思う?」


オレの言葉に、飛車丸は肩をすくめる。


「見当もつかん。最短でも一ヶ月。元康が下手を打てば年単位になるな」

「続報を待つしかないか……状況次第ではオレも三河に行く。この騒動を収めなければならん」


前にも言ったが、松平家の遠江侵攻がなければ今川家が困る。

このまま最悪の事態となり、今の計画を破棄して松平家を滅ぼす次善の方針になった場合、尾張織田家との同盟を崩す必要があるからだ。当然そのための準備なんてしていない。

このまま、松平家と決戦をした上で、その向こうの織田家と敵対し、さらに武田家と敵対なんて馬鹿な真似は、師匠の太原雪斎すらやらなかった愚行である。救いの芽もなく磨り潰されるだろう。


「こっちはどうする、承豊?」


オレの言葉に飛車丸が聞いてくる。最悪、織田家とやりあう事まで想定した上で、現在の予定も継続させる方法……


「急がなくてよい。松平家とやりあう準備を整えよう。最悪、三河と一戦を交えてまとめる」

「こちらから攻めれば、三河も内輪で争っている場合ではないと気が付くか」

「だが、それは最悪の場合だ。こちらから手を出して収めても、火種が残ったままになる。今後、同じような問題を抱えたままでは、いつ爆発するかわからん」

「問題を解決し、手を取り合ったところで、一緒に外敵うちと戦うのが無難か。とりあえず年末かな……」


そうつぶやく飛車丸。

年末までは、今川家中を抑えられるというわけか。

なら、一応テコ入れだけはしておくか。

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