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03 仮名目録追加秘話

「豊念なにを読んでおるのだ?」


書庫で書物を読んでいると、師匠が話しかけてくる。

あれから数年、今でも本を読んでいると師匠があれこれと聞いてくる。暇つぶしなんで、ボーっと眺めているとは言えないので、なにか答えられる内容を話さないといけない。結構面倒だ。

反抗期に干渉してくる父親相手の感覚で「師匠ウゼェ」とか言ってみたいが、僧侶の割りに結構ゴツイ手が怖いのでやめておく。


「『今川仮名目録』です」

「…そうか。どうだ?」

「面白いですよ」


軍法とか兵法書という「騙して悪いが」という書物の中で「悪い事をしてはいけません」的な事が書かれているので新鮮だった。


「罪に対する罰。借財と税。治水に関する取り決め」

「…」


実際、書かれている事も読んでみれば「当たり前の事ジャン」と思う内容ばかりだ。

深読みすると、そんな当たり前の事ができないのが戦国クオリティーなわけだ。

戦国時代の問題解決方法は至ってシンプル。当人同士で納得するまでヤレだ。

武器を持った戦争経験者同士の納得する(させる)方法だ。しかも、この時代の問題というのは生活に直結している。それがどんな状況を生むか容易に想像が付くだろう。

なので、それを未然に解決する為にこの『今川仮名目録』地元ルール(通称:分国法)を制定して解決しようという話だ。


MMOでいうギルドルールみたいなものである。

室町幕府が運営するクソゲーMMOの中で、今川ギルドが決める規則で、ギルドメンバー(領民)の禁止事項等を明記したものだ。これを破ると運営ではなく今川ギルドによって制裁される。そういう話だ。


「ただ…」

「ただ、なんだ?」

「それだけですね」


あくまで書かれている事は「問題解決の確立」でしかない。これらの共通認識により、形成されるのは、せいぜい『仲良しグループ』までだ。

MMOでいう「まったりギルド」という奴だ。


「ならばどうする?」


師匠が部屋に入ってきて座りこむ。あ、コレは話が長くなるヤツだ。

とりあえず考える。


『今川仮名目録』によって仲良しグループが形成された。これ以上はルールを追加しても、それは規則が厳しいか緩いかの差でしかない。

仲良しグループには限界がある。中心人物によるカリスマ性でしか、そのグループを維持できないのだ。悪役令嬢とその取り巻きでは、ヒロインへの嫌がらせは出来ても経済活動や制度改革なんて出来ないのだ。

それがこの『今川仮名目録』で出来ることの限界。だから、それ以上を求めるなら、次の段階へ行く必要がある。

それは、仲良しグループからの脱却。まったりギルドから、目的を持った狩りギルドへの転向だ。


「まず、この仮名目録が周知されている事が前提となります」


仲良しグループからの脱却というのは、仲良しグループを捨てる事ではない。仲良しグループを目的意識を持った集団組織にランクアップする事だ。

上位者との関係を明確にし、命令系統や組織体制を確立する。

「自分たちの利益」という原則から逸れることなく、より目的にあった恩恵を、必要とする者達が受けるようにする。

つまりは、これまでの「みんなの為のルール」というお題目の”みんな”の部分をより明確に効率的に効果的に管理しようというわけだ。


MMOギルドでいえば、目的を設定し、その為の支援体制、上納規約、連絡ツールの導入といった、目的をよりよく達成する為のルールを定めるわけだ。これは禁止事項とは根本的に違う。

こうする事で、領民メンバーは目的に対して、その利益を共有する事ができる。組織は目的達成の為に効率的な行動がとれるようになる。

そして、目的に沿わないものは双方に利益がないため速やかに排除される。


既存のルールを改訂し、大きくなった仲良しグループを、組織へと変えるわけだ。


「…」


そんな感じの話をすると、師匠はじっとコッチを見ながら沈黙する。

思った事を並べただけなのだが、変な事を言っただろうか?


「ワシは用事があって少し寺を離れる。その間の師事はなしだ」

「アッハイ」

「その間に、その追加項目の草案を作ってみよ」

「ハァ?」


無茶言うなよ。社会常識知らないのに法令作れるわけないでしょ。海ないのに港の法案作ったって意味ないのよ?


「龍王丸様に話しを聞けばよい。そろそろ、こちらに来る頃だ」


ええ、逃げ込んでくるんですね。判ります。

実家になにか問題があるのか、龍王丸こと飛車丸は事あるごとに寺にやってくる。

何でも、ココに来るといえば実家の人間も文句を言わないからだそうだ。家に帰りたくない子供が、放課後に学校の図書館で勉強しているような感じか。


ああ、コレはオレにとってみれば夏休みの宿題ってわけか。


もちろん、この宿題の中に、逃げ隠れする飛車丸を見つけて拘束するという作業が追加される事になる。




期限までに何とか出来上がった28項目を書き出して帰ってきた師匠に渡す。正直穴もあるのだが、元々曖昧な部分の多いマイナールールだったので、そこをどうフォローするかは自由裁量だ。

しばらく内容を読んだ師匠に、いくつか添削を受けて持っていかれた。

そして数ヶ月後


「コレをまとめておけ」


師匠に渡された紙の束には、


『仮名目録 追加二十一条』


と書かれていた。

28条中21条って事は、70点て所か。まあ、なんとか赤点は回避かな…

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