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24 清州同盟今川秘話

永禄四年七月 

尾張織田家と三河松平家と同盟が結ばれる。


「へぇ」


簡素に書かれた手紙を飛車丸から見せてもらう。松平元康はわざわざ尾張織田家の居城である清洲城まで出向いての同盟締結である。


「ここまでやるか」


感嘆の声を上げるオレに、飛車丸はニヤリと笑う。

前にも言ったが、尾張織田家と三河松平家は長年争い続けた間柄だ。そんな状況で、松平家の当主が、わざわざ尾張の中枢である清洲城まで向かっている。

人質交換に向けて、織田家からの支援があったと見ているオレ達だが、当然支援した織田家からしてみれば、ここまで支援した以上、織田家に有利になる何かが必要だ。

それがこれだ。


「少なくとも、松平家は織田家を信頼しているという姿を見せることができるわけか」

「ああ、内情はともかく対外的には、かつての敵地に出向くほどの強固な信頼関係があると見える。理由を知らないものには分からないだろうな」


この同盟関係で一番被害を受けるのはだれか?

当然、後方を気にしないで向かってくる織田家に対する美濃斎藤家と、三河松平家に対するは駿河今川家だ。まあ、今川家側は想定済みだ。

では、想定できていない斎藤家にとって、この同盟がどう映るか。

攻めてきた敵の後方を脅かす為に、相手と敵対している別勢力と協力するのは戦国時代の王道ともいえる戦い方だ。

しかし、それをするには織田家と松平家のいきなりの同盟。それも、わざわざ松平家当主が尾張に出向くほど強固な信頼関係(利害関係?)が出来ていると見る。その理由が分からない限り、それ以上の何かを提供して味方に引き入れる手を封じられる。


そこを踏まえて、先の三河松平支援の大盤振る舞いなら、わからなくもない。それをしたのが織田信長側か、松平元康側なのか、それで今後の対応が変わるが…

さすがに、そこまでは書面からではわからない。


「こちらの対応は?」

「もちろん、非難轟々だな」

「親父に大恩ありながら、仇と手を結ぶとは恥を知れ!か?」

「いや、今川家の許可なく他家と結ぶのは仮名目録違反だ!だな」

「…意味あるのか?」

「ないさ。今川家と松平家に何の意味もない。だが、他の相手にはそうではない」


この対応。当事者同士への意味は皆無である。松平家は今川家から独立するのだから、今川家に従う理由はないし、当然許可を取る必要もない。

だが重要なのは、他国から見た状況だ。

かつて、三河は今川家によって支配されていた。ゆえに松平家は今川の家臣である。今川家がこの姿勢を崩さない事で、この戦いは今川家の部下である松平家による内乱と対外に示す。

これは他国にとって何の意味もないものだ。戦が起こる以上、その理由に意味はない。

だが、今川家の友好国は、今川家の対応を受けて松平家に当たる必要がある。ただの隣国との交渉なら三国同盟に大きな問題はないだろう。しかし、同盟国に対する謀反に手を貸せば、立派な盟約違反だ。


「三河の独立。これに対し、今川家が避けるべき最悪の状況というのは何だと思う?」

「松平が武田家か北条家と手を組む事だ」

「そうだ。だからあくまでもこれを内紛として対処する。その場合、その二つの家が松平に手を出すという事は、今川領を侵すという事になる」

「内紛に手を出せば盟約違反か」

「それを避けるために、今川家の意向を無視して松平家を独立勢力として扱えば、それは三国同盟を破棄する準備だと広めるようなものだ。そして、それは今川家ではなく他の家にとっても見逃せない予兆となる」


武田家も北条家も戦国大名だ。美味しい獲物をだまって見ているような甘い相手ではない。

どちらかが盟約を破棄した場合、もう片方の”破棄された側”はかならず”破棄した側”と敵対する。三国同盟がなくなった以上、相手は敵国に変わるからだ。そんな相手が、今川家を吸収し巨大化する事を見過ごすことはできない。

弱った今川家が、相手と敵対した元同盟者に助けを求めるのは当然の動きだし、それは当然、両者の争いの激化につながる。

それを避けるためには同盟相手との交渉が必要となる。つまり、三国同盟を破棄するには、必ず交渉のために一手遅らせる必要があるのだ。

本当に、こんな同盟結ばせた師匠の手腕が化け物じみているな。


「あとは、運もよかった」


北条家は、先の戦いからの復興中で他国に攻め込む余裕はない。武田家に関しても、越後上杉家との戦いが始まろうとしている状況だ。


「今の段階で松平に2国からの介入はない。松平家は三河を取り遠江に攻め込む手順を踏まねばならん。当然、その時間は今川家にとって駿河の安定と遠江での迎撃の準備時間となる」


要するに、今川家の現在継続している基本方針を維持しつつ、北条武田の介入を避けることが出来る。

あとは、泥沼的劣勢となるべく消極的に戦闘を続ける。武田家と北条家にはまだまだ敵がいる。おっとり刀でそんな状況に手を突っ込めば、自分達にまで飛び火する可能性がある。

この時代は何につけてもマンパワー。その力は有限で、簡単には補充できないのだ。


松平家の事情だけで、人質交換をこの時期にずらしたわけではないのだ。

いっただろ。人質交換によって松平家が独立すれば、織田家は松平家に目に見える同盟という形で成果を求めるのだと。

つまりは、人質交換のタイミングをこちらがコントロールする事で、他国の介入を阻止出来るわけだ。


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