02 飛車丸という男
ガラッ。
「見つけたぞ!!」
「クソッ!?」
物置の扉を開けると、そこには荷物の陰に隠れた龍王丸がいた。
オレに見つかった事が分かると、積まれた荷物を上って高所に。オレは手に持った箒で出口側を封鎖して、ジリジリと近づく。
「おい。飛車丸。さっさと降りてこい。講義がはじまらないじゃないか」
「いいよ。別に、やりたきゃお前らだけでやってろよ」
「お前が受けなきゃ意味がないんだよ!!」
礼儀?身分差?はは。そんなの最初の一ヶ月で木っ端微塵に吹っ飛んだよ。
なにせ、この龍王丸は常態的に講義をサボる癖がある。興味のある事はやるのだが、興味のない事に関して超一級バックレマスターなのだ。
オレが住職から講義を受けられるのは、龍王丸の講義の”ついで”だ。なのでコイツがいないとそもそも講義が始まらないのだ。
コイツが講義をバックレるたびに、寺中を探し回るのはオレの仕事になっていた。
某怪盗の三代目とICPOの刑事の様な関係ではあるが、龍王丸本人との関係は悪くないと思う。敬語は不要という事になったので友人関係ではあるはずだ。結んでよかったのかと聞かれると、余計な仕事が増えただけと感じなくもないのでノーコメントで。
ちなみに、オレが呼ぶ「飛車丸」はオレが龍王丸につけたあだ名だ。将棋で「飛車」は「龍王」に成る。要するに「お前、成れてねぇよ!」という意味だ。このあだ名は、なぜか本人にはいたく気に入られた。
「まて、豊。話し合おう」
「おう。さっさと降りてきて講義が終わったらな」
「…これを見ても、まだそう言えるかな」
そういうと、龍王丸は懐から袱紗(手ぬぐいみたいなもの)を取り出し、開いて見せる。
そこには黄色の小さなだんごが並んでいる。7個の黍団子だ。
「2つ、いや3つでどうだ?」
「…いいだろう」
この時代、甘いものは貴重である。ましてや小坊主でしかないオレの口に入ることはまずない。黍団子という貴重な甘味には耐えられぬ魅力があるのだ。
降りてきた龍王丸から一つ受け取って、お互い一つ口に入れる。ゆっくり咀嚼して甘みを堪能する。
「とりあえず、残りは終わったらだ」
「わかった。オレは探しても見つからなかったという事にするからな。オレの分まで食うなよ」
「オレとお前の仲じゃないか」
目と目で通じ合う友情。甘みでかわす義兄弟の杯。黍団子によって桃太郎の絆が生まれた瞬間でもあった。
そんなオレ達を影が覆った。
何てことはない、物置の入り口から差し込む光が遮られただけである。
「…」
「…」
「…」
振り返ってみると住職がいた。
無表情の住職の顔が、この世の物とは思えないほど恐ろしい威圧感をたたえていた。
そうか、桃太郎、黍団子の仲間とつづけば、次に出てくるのは鬼ヶ島だな。
だが、この物語は「めでたしめでたし」で終わりそうもない。