表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/155

02 飛車丸という男

ガラッ。


「見つけたぞ!!」

「クソッ!?」


物置の扉を開けると、そこには荷物の陰に隠れた龍王丸がいた。

オレに見つかった事が分かると、積まれた荷物を上って高所に。オレは手に持った箒で出口側を封鎖して、ジリジリと近づく。


「おい。飛車丸ひしゃまる。さっさと降りてこい。講義がはじまらないじゃないか」

「いいよ。別に、やりたきゃお前らだけでやってろよ」

「お前が受けなきゃ意味がないんだよ!!」


礼儀?身分差?はは。そんなの最初の一ヶ月で木っ端微塵に吹っ飛んだよ。

なにせ、この龍王丸は常態的に講義をサボる癖がある。興味のある事はやるのだが、興味のない事に関して超一級バックレマスターなのだ。

オレが住職から講義を受けられるのは、龍王丸の講義の”ついで”だ。なのでコイツがいないとそもそも講義が始まらないのだ。

コイツが講義をバックレるたびに、寺中を探し回るのはオレの仕事になっていた。


某怪盗の三代目とICPOの刑事の様な関係ではあるが、龍王丸本人との関係は悪くないと思う。敬語は不要という事になったので友人関係ではあるはずだ。結んでよかったのかと聞かれると、余計な仕事が増えただけと感じなくもないのでノーコメントで。

ちなみに、オレが呼ぶ「飛車丸」はオレが龍王丸につけたあだ名だ。将棋で「飛車」は「龍王」に成る。要するに「お前、成れてねぇよ!」という意味だ。このあだ名は、なぜか本人にはいたく気に入られた。


「まて、トヨ。話し合おう」

「おう。さっさと降りてきて講義が終わったらな」

「…これを見ても、まだそう言えるかな」


そういうと、龍王丸は懐から袱紗(手ぬぐいみたいなもの)を取り出し、開いて見せる。

そこには黄色の小さなだんごが並んでいる。7個の黍団子だ。


「2つ、いや3つでどうだ?」

「…いいだろう」


この時代、甘いものは貴重である。ましてや小坊主でしかないオレの口に入ることはまずない。黍団子という貴重な甘味には耐えられぬ魅力があるのだ。

降りてきた龍王丸から一つ受け取って、お互い一つ口に入れる。ゆっくり咀嚼して甘みを堪能する。


「とりあえず、残りは終わったらだ」

「わかった。オレは探しても見つからなかったという事にするからな。オレの分まで食うなよ」

「オレとお前の仲じゃないか」


目と目で通じ合う友情。甘みでかわす義兄弟の杯。黍団子によって桃太郎の絆が生まれた瞬間でもあった。


そんなオレ達を影が覆った。

何てことはない、物置の入り口から差し込む光が遮られただけである。


「…」

「…」

「…」


振り返ってみると住職がいた。

無表情の住職の顔が、この世の物とは思えないほど恐ろしい威圧感をたたえていた。


そうか、桃太郎、黍団子の仲間とつづけば、次に出てくるのは鬼ヶ島だな。

だが、この物語は「めでたしめでたし」で終わりそうもない。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ