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147 今川家の旨味

一晩明けて昼前に再び呼び出される。


小谷城評定の間で、オレを囲む浅井家家臣の数は減っていた。

要するに、オレにプレッシャーをかける必要はなくなったらしく、戸も開けたままで控えの人もいなくなり、風通しもよくなっていた。


「佐和山城について降伏を認める使者を出そう」

「ありがとうございます。浅井様の言葉があれば、磯野殿も受け入れるでしょう」


険の取れた表情で語る浅井長政に、頭を下げて感謝の言葉を述べる。

もちろん。佐和山城の磯野員昌が「否」と言えば、今回のオレと浅井家との話は根底からひっくり返るのだが、そうなればそうなったで浅井長政は命令無視をした磯野員昌を見捨てることができる。

今川軍も容赦なく佐和山城を攻撃するだろう。

まあ、そこまでして磯野員昌が今川家に徹底抗戦する理由も因縁もないから不要な心配だ。

本人の命、部下の命、さらに小谷城にいる家族の命と、今回の話は磯野員昌にとっては失うものがない結果だからな。

本人の名誉という意味では敗北なのだが、圧倒的な数の今川軍に対して城を守り通したともいえば、悪い話ではない。さらに主命によりやむを得ず開城となれば、なおさらだ。

そして、今川家では浅井家との連絡役という役目を与えられることになる。忠臣であればあるほど磯野員昌も降伏を受け入れるだろう。


「此度の御配慮に感謝いたします。今川氏真様にもお伝え致します」


浅井家に対して今川家が好印象である事を強調しながら、オレ達の得た「本当の今川家の旨味」を心にしまい込む。

まあ、そこに気が付かれないように、今回の交渉の手を取った方が得だと思わせて結んだわけだ。


つまり、今川家の第一目的。今川家白建てを浅井家は今後攻撃しづらくなるというものだ。

今までのように、縁を持とうと努力しているのではなく、実質的な外交チャンネルを得てしまった。

そんな状況で、今川家の白建てを壊滅させたら、手に入れた縁は途切れることになる。当然、浅井家の軍勢は今川白建てへの積極的な攻勢を控える事になるだろう。

とは言え、白建て側が安泰という訳ではない。もし浅井家に致命的な攻撃をすれば、浅井家は今川家との関係を切り捨てる事に躊躇いはないだろう。織田家の援軍である以上、織田家の意向によってはそうしないといけないかもしれない。

だが、幸いなことに織田信長はそうはさせないだろう。

なぜなら、「今川白建てを置くだけで、浅井家は自動的に攻撃の手を緩める」という事を理解しているからだ。

おそらく、浅井長政は今川家の援軍がこの一時期だけと誤解しているのだろう。確かに、援軍とはその戦いが終われば自国に帰還する。金ヶ崎でも姉川でもそうだった。

しかし、今川家の白建ては常備軍だ。まあ、普通に考えたら数千もの他家の軍勢を自領に確保し続けるとは思わないだろう。

合理性を重視する織田信長ならではといえる。

まあ、今川家からしても、攻撃の手を緩めてくれる浅井家を相手にすることで自軍の被害が減る。精鋭であり補充が難しい白建てとしては願ったりかなったりである。

つまり、この時点で浅井家の軍事行動は限りなく制限を受ける事になるのだ。

だから、オレが信長に示した保険が生きてくる。


「一つお伝えしておきます。有事の際は、磯野殿のご家族について、今川家で身柄を保護するべく、取り計らうつもりです。当家におきましては、家臣が旧主に隔意を持つような因縁は御免被りたい」


オレの言葉に「わかった」とうなずく浅井長政。

たぶん分かっていないだろうな。訳の分からない顔をしている浅井長政の表情を見てそう思う。

まあ、必要なら思考を誘導してもいいだろう。なにせ、連絡役を今回手に入れるのだから。


浅井長政が同意したことで、佐和山城降伏についての条件について調整する。

佐和山城は降伏するのだが、どこまで譲歩するかという話である。

一応、磯野員昌以外の足軽などは浅井家に帰還する。浅井家の軍勢が回復するというデメリットはあるが、数が増えようと本気で攻められない以上、今川家としては問題はない。

織田家?生憎、今回の話は今川家と浅井家の話なので関係はありません。

…と、浅井家には伝えておく。すでに佐和山城降伏に関する条件は信長本人と調整済みだ。調整済みの内容を、今川家の意見として提示しているだけである。

WIN―WINの関係という奴だ。

そうして決まった降伏の内容を最後に確認し書面に記載。同じ内容を証拠として受け取り今川家側でも確保。

後は、浅井家から使者を立ててもらって一緒に小谷城を出る。

迎えにきていた羽柴秀吉とその軍師の竹中半兵衛に、佐和山城降伏の旨を伝えると両者とも少し驚いたようだ。

まあ、ないがしろにした自覚はあるよ。でも、信長との調整は済んでいるから仕方ないよね。

実質、横山城の羽柴家にしてみれば、佐和山城が織田家の手に落ちれば後ろへの警戒は必要なくなるんだから、悪い事ではないはずだ。それに、そもそも上の言うことは謀反する気でもなければ絶対だ。


小谷からの使者を佐和山に送り、白建て総大将の瀬名様に、条件を記した証拠の書状を渡してオレの任務は終了となる。

あとは、双方の取り決めに合わせて城の明け渡しと、磯野の身柄を確保するだけだ。

これで、半月続いた佐和山城の戦いも終了だ。




では、本命のお仕事をするとしますか…

最初に言ったように、オレは今川家の家臣だ。

つまるところ、今川家の利になる事が必要なわけだ。


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― 新着の感想 ―
[良い点]  ここまででもすごいのに、まだ本命があるとは驚きです。 [一言]  二段構え、三段構えの策の連鎖に周りの人間はさぞかし恐怖することでしょう。本人だけは知らぬことですが。
[一言] 師匠があの世で呆れて見てそうな活躍ぶりですね。 あるいはまだ甘いと言い放ちそうな気も?
[良い点] 城一つ口先で落として今後の布石も打ってまだ本番じゃなかったってなんなんですか…。 一見こちらにも配慮して動いているように見えるから手遅れになってからの恐怖が凄いんだろうなぁ。
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