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ひとしきり笑い終わったオペラが話し始めた
「では、今日は菓子作りに専念してくれるか?」
「はい、わかりました…!」
「タフィー、サブレは聖女が要るといった材料を運んでくれ。タルト、スフレ、マフィンは聖女の手助けをしてくれ。よいか?」
「かしこまりました」
「あとは…聖女、出来ればでいいのだが…。私にも作った菓子をくれるか?」
「え、はい。大丈夫ですよ」
「食べてみたかったんだ。感謝する」
オペラが嬉しそうにすると、ほかの全員から果音に視線が集まる
「…皆さんも食べますか?」
恐る恐る聞いてみると全員が嬉しそうに喜んだ
「この感じ…久しぶりかも…」
小さく呟いたそれは誰の耳にも届くことはなく空気に溶けた
王子の部屋をでて、キッチンへと向かうといろんな調理器具や、洋菓子用の型などが置いてあった
「家にもいっぱいあったけど、人が多いからかたくさんある…圧巻だなぁ」
「こちらのキッチンで作る者が多いですからね。他にもいっぱい調理部屋がありますが、器具が一番揃ってるのはこの部屋ですね」
「皆さん作られるんですね」
「えぇ、皆作るのも食べるのも好きですから。」
「元々はこの部屋王様が一番使ってた部屋なんだよー!だからこんなに多いの」
「なるほど!」
「では聖女様、何を作りましょうか?」
「うーん…ここにきて最初のお菓子作りだし得意なもののほうがいいですかね?」
「えぇ、それがいいと思います」
「うーん…ニューヨークチーズケーキとか…?」
「チーズケーキ!いいじゃないですか!」
「どうせならいっぱい作りたいですし、ベイクドチーズケーキ、レアチーズケーキも作りたいなと思うのですが」
「今日で全部作れるのですか…?」
「はい、いつもこんな感じですよ」
目を丸くするスフレに対し少し疑問を持ちながら、必要な材料をタフィーとサブレに伝える
「了解した」
「俺の女神の仰せのままに」
二人が材料を取りに行っている間に、準備をしていくタルトとマフィン
「そういえば、門番の兵隊さんはお名前なんというんですか?」
「彼の名前はショートブレットですね」
「ショートブレットって確かクッキー系の一種ですよね」
「その通りです。さすが聖女様です!」
「果音よく知ってるねー?」
「お父さんがいろんなお菓子を買ってきてくれたり、作ってくれてたの。知識はほぼお父さんから教えてもらった受け売りなんだけどね」
「いいお父さんだね」
「あはは…作ることに関してはとてもスパルタだったんだけど…そのおかげで今役に立ってるんだから教えてもらってよかったと思うよ。」
「果音…いい子だねぇ!!!」
抱き付こうとするマフィンを捕まえるスフレ
「全く、貴方はすぐに抱き付こうとする!加減をしなさい」
「ちぇー。まぁしょうがないね。また果音が過呼吸になってもあれだし。今日はやめとくよ」
「出来ればいつもやらないでいただきたい。」
「やーだ!」
ぐっ…思い出させないで!と思う果音だが、特に気にした風でもないマフィンに少し心が救われた
そうこうしてるうちにタフィー、サブレが大量に材料を持ってきた
「改めて…言われた量持ってきたが、こんなに作れるのか?」
「え?」
「俺も気になっていた」
「いつもこの量作っていますよ?」
「そ、そうなのか。では俺は殿下の元に戻るが、何かあったら呼んでくれ。」
「俺の女神、無理だけは…しないでくれよ。俺もタフィーと行ってくるが呼べばすぐに飛んでくるからな。」
「? はい。」
「まぁまぁ、果音作ろうよ!タルトと何を手伝えばいい?」
「あ、じゃあ」
二人に指示を出していくと、二人は確実に遂行していく
それを見ながら果音は生地を作り、タルト生地を作ると、焼く
その間に出来たフィリングを濾しながら流しいれ、冷やす
一つ目のレアチーズを作った時点で明らかにタルトとマフィンが疲れた顔をしている
「どうしたの?」
「私たちは一つ作るのにかなり集中してしまうので時間が掛かってしまいます。なので通常は1つ作るので精一杯なのです」
「そうなの?あ、だから皆心配そうな顔で見てたんだ。納得!」
「うーん、ちょっと僕も疲れてきた…かも。少し休ませてもらっていい?」
「いいよ。というか二人にはフィリングも生地も大体作ってもらったし後は簡単だし作っちゃうね」
果音はそういうと、カシャカシャと音を鳴らしながらベイクドチーズ用の生地を混ぜ合わせ、型に流して焼き、次は先程よりもサワークリームが多めのフィリングを作り始め、ニューヨークチーズケーキの準備も完成させていく。
そしてふと、果音は考え込んだ。
…うーん、クラッカーとかを割ってバターを混ぜた生地でもサクサクしておいしいんだけど、生地から作らないとなさそうだよね…作ろうっと。
てきぱきと菓子作りをしてる果音に釘付けになっていたスフレは、作りながらも同時進行で洗い物もしている果音に洗い物は私がしますと食器を洗い始めた
一つやることがなくなった果音はレアチーズケーキで残ったタルト生地を平たい耐熱バットに広げるとまた焼き始めた
「タルト型使わないのですね?」
「残ったタルト生地はいつもこうやって作ってたんだけど…だめかな?」
「いえ、お好きなように作ってください、楽しんで作ったものはもっともっと美味しくなりますので」
「そうなんですか?」
「えぇ。聖女様は実に楽しそうに作られております。こちらまで楽しくなるくらいに」
顔を見られていたことに驚きながらもありがとうと伝えると優しい顔でスフレが笑う
「聖女様、その楽しい気持ちを忘れぬように…あ、いえ…すみません。」
続きの言葉が気になるものの丁度のタイミングでオーブンの音が鳴る
果音はそのまま量産を続け、机いっぱいに大量の4種類のチーズケーキが出来上がった
「早…すっごくおいしそう…」
「本当はもっと装飾もしたいとこなんだけど…」
「もう十分でしょう!」
「こんなにいっぱい作られる方を初めてみましたわ…」
「そんな大げさな…」
お父さんのほうが私より遥かに早くて見た目もいいからなぁ…
でも、喜んでもらってるならよかった…。
「では、殿下の元へお渡ししなければ…」
「あ、じゃあ飲み物も淹れなきゃですね。そうだなぁ…中煎りのコーヒーはありますか?」
「えぇ、いろんな種類がございますが。」
「出来れば苦みが濃いのがいいです」
「なるほど、ではブラジル産がいいかもしれないですね」
「あ、そういう地名って出して通じるんですね?」
なんて都合のよい…何と思いながらもスフレにお願いをしてコーヒーを持ってきてもらうことにした。
先程まで休んでいたマフィンとタルトがケーキを切り分けていく
「果音ー!この平たいケーキはどう切ればいいの?」
「あ、私が切るね」
スティック状に切り分けて紙シートで巻き込んでキャンディ包みにしていく果音をみて、かわいいです!とタルトが一緒に手伝ってくれる。そうしている間にスフレがサブレを連れて戻ってきた
出来上がった品々をみて目を丸くしている
「さすが、こんなにできているとは…さすが俺の女神だ。」
「そんなことは…」
「早速コーヒーを淹れたら殿下の元へ…」
「凄いな。そんなに時間たっていないぞ」
「っ殿下!」
声がする方へ目を向けるとサブレの後ろからひょっこりと顔を覗かせ机を眺めているオペラが立っていた
「毎回俺で遊ぶのやめてください…」
「いいだろう?私の楽しみの一つなんだからな」
「そんな楽しみを作らんでください…」