7
果音が目を覚まし、少し経った後にノックの音が響く。
「聖女様、起きていらっしゃいますか?」
タルトの声が聞こえる。
「はい、起きてます」
「失礼します」
タルトが一礼をして部屋に入ってきた
「聖女様、朝食の準備ができておりますので、運んでもよろしいでしょうか?」
「はい、ありがとうございます」
朝食済ませると、タルトが片づけをしてくれる。
自分でやりますと言ったら、いいえ、私のお仕事ですからとにこやかに座らされた
一度片づけをするため部屋を出た後、もう一度ノックをし入ってきた。
―――いっぱいの服を持ってきた他のメイドさんたちを引き連れて。
「聖女様が昨日仰っていた、好きな服の種類を揃えさせて頂きました。ついでに聖女様に似合いそうな装飾もしました!自信作です!」
先程の朝食片づけ時と様子が違い、今回はふんす、と鼻息が出るくらい目をキラキラさせながら果音に説明をする
見たところ、動きやすそうなパンツスタイルもあれば、短めのスカートも、ゴージャスなドレスも一通り見受けられる
普段は会社の制服や、シンプルなパンツスタイルしか着ない果音にとっては慣れない服ばかりでたらりと汗が出てくる
「さぁ、聖女様!どちらにされますか?」
「ええーと。い、一番シンプルな服がよくてですね。動きやすいのが…いいのですが」
「まあ!でも本日は王子にお顔を見せる日なのですから、ドレスのほうがいいかと…では、こちらはどうでしょうか!」
服を持った人たちの中から探し出し、果音の前に出すタルト。
デザインはAラインのふんわりしたドレスで、上が薄く下が濃い 菖蒲色のグラデーション、余計な装飾などは少ない。
「わぁ、綺麗。」
「でしょう?聖女様の顔色に映えると思います。試着してみませんか?」
「私に似合うか不安ですが、着てみたいです。」
「はい!ありがとうございます!ぜひ着てください!」
一人で着るには難しいドレスをタルトに手伝ってもらいながら着る
タルトが果音に化粧を施し髪を結い、全身が見える鏡の前に連れていく。
見るとそこには、自分でも見たことのない自分の姿があった
「誰…ですか…。これ」
「聖女様です」
「で、でも私ではないですよこれ…」
「いいえ、聖女様はそれだけ素材がいいのです。化粧も濃くしてないですし。」
自分の姿に絶句しているとまたノックが鳴る
「果音ー!マフィンだけど入っていーい?」
「ど、どうぞ」
果音の許可を聞いた後、タルトがドアを開け、部屋に入り果音の姿を見てすぐに固まるマフィン
「…すっごいね…、果音もともと美人さんだけど、今日はキラキラして見えるよ。…綺麗だよ」
「あはは…、ありがとう」
「昨日の果音の顔色悪かったからさ、様子見に来たんだけど、これなら大丈夫そうだね!」
「うん、大丈夫だよ」
「よかった。僕も今日スフレとタルトと一緒に王子の元へ行くから、気分が悪くなったらすぐ僕に言うこと。いーい?」
「うん、わかった」
「それでよし。あ、でも今日の果音すっごく綺麗だから男共が寄ってきそうだなー…」
「そんなことないよ」
「いやいや、果音はそのままの姿でも魅力があるんだよ。だから昨日僕達が果音の事で喧嘩になったんだよー。果音に何かあったらすぐ駆けつけるからね。だから僕のことも…っあいた!」
マフィンが言う前にいつの間にか部屋に入ってきていたスフレが頭を叩く。
「マフィン、貴方昨日の話し合いを忘れたのですか。いい加減にしてください。」
「あ、そうだった。ごめーん。でも頭叩くことないじゃんかー!」
「貴方が聖女様へどんどんと近づいているからですよ、私は悪くありません」
「まぁ、今回はそういうことにしておいてあげようかな。昨日の説明不足に関してはスフレが悪いけどねー」
「私は…!」
スフレがマフィンに語気を荒げようとした時、後ろの方から重い空気が流れてきた
「スフレ様?マフィン様?私昨日何度も言いましたよね?」
にこやかに笑いながらも、普段の声とは全く違う低い声で二人に声をかけるタルト
「わかった、ごめんなさい」
「も、申し訳ございません」
「…分かればよろしいのです。」
タルトがため息をつきそうになったとき、ノックの音がした。
タルトが扉を開け、そこにはタルトレットが立っていた
「おはようございます。準備は整っておいでですか?」
「えぇ、出来ていますわ」
一礼をしてタルトレットが入ると、果音を見てまぁ、と声を出した
「いえ、申し訳ありませんわ、聖女様が綺麗だったものですから」
「あ、ありがとうございます」
にこやかに笑いながら、王子の元へお連れ致しますねとタルトレットに先導してもらいながら、果音達は王子の待つ部屋へと向かうのだった