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いつものように女の子たちの陰口が聞こえる


ロータリーにあるベンチに座って体を小さくしていた。嵐が過ぎ去ってくれることを願って。




そんなときだった



「君は否定しないんだね。なんで?」



馬鹿にしたような口調ではなく疑問に思ってるだけの問いだった。


初めて彼が私に声を掛けた言葉




見て見ぬふりをして、当たり障りのない言葉を掛けてくれる人はいたけど、こんなにきっぱりと言われ、どうしたらいいかわからなかった




「何も言えないの?そんなわけないよね?声出してるとこ見かけたことあるよ」


「あ。あの…」


「やっと声出してくれた。…すごい声震えてるじゃん」




ケラケラと笑われて私は顔を俯くことしかできなかった




「あー…ごめん、こういうの嫌いだった?」


「え?」


「どんなノリで話しかけるのが一番いいのかわからなかったんだ。君が嫌ならやめるよ」




分からないにしても失礼な人だなと思った。


これが第一印象。




「前から君の事は知ってたんだ。君の親がやってるお店のケーキが好きで、それに影響されてお菓子作り始めたんだ」


「そ、そうなんですか」


「少しだけあそこのお店パティシエさんたちが見えるようにガラスの部分があるでしょ?そこで君が楽しそうにケーキを作ってる姿を見た時があったんだ。だから今日姿見つけて声掛けようと思ったんだ。」




確かに、ガラスの部分があるのは両親のこだわりだった。


引っ込み思案な私は作っているところを見られることに苦手意識を持っていた時があったが、常連のお客さんに 安心感がある、楽しそうに作るね と褒められた時にとても嬉しい気分になったのは今でも覚えてる。




「そうなんですか…嬉しいです。」


「…笑ってくれたね」


「え?」


「あのさ、君の時間があるときでいいんだけど、難しくてできないケーキがあるんだ、アドバイスだけでもしてくれないかな?」




それから彼は失敗したケーキの写真を撮って見せに来るようになった


それは生地がうまく膨らまなかったとか、外側が焦げているのに中身がまだ生焼けだったりなど、ケーキを作るときによく失敗するようなものだった




授業に出て、アドバイスをして、他愛ない話をして、祖母のお店で和菓子作りをして


すごく充実していた。


今まで楽しいと思えなかった大学生活がとても楽しく感じるようになったのは彼のおかげだと思う








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「この世界で会うとは思わなかった…」




ぽつりと呟いてもすぐに部屋がしんとする。




虚ろな彼の姿を見たとき、とてもぞっとした


その前のお菓子さんたちを見てもそんな気持ちにならなかったのに。


それは私もそうなる可能性があるからなのか、それとも私のお菓子を食べて貰えなかったからなのかわからない…




「藤代くんも、操られている…」




私にできることと言ったらお菓子を作ることしかできない。


でもそれでお菓子さんたちは少しづつ戻ってくれているし、悪いことだけじゃないのはわかってるのに…






果音が部屋にこもって悩んでいると不意に甘い匂いが部屋に漂ってきた。




「これって、マフィンくんと会った時の…あれ、それ以外の甘い匂いもいっぱいする…」




匂いに惹かれ部屋を出るとより一層匂いが強くなった。


香りを頼りに歩いていると、部屋の前に着いた


意を決してドアを叩くと はい という言葉とともにタルトがドアを開けた






「聖女様…?」


「あ、あの甘い香りがいろんなところからするんです。」


「あ…ふふっ皆様同じことを考えているようですわ」


「え?皆様…?」


「聖女様、今一度お部屋へ戻ってくださると有り難いのですが、あぁ、そんな顔をしなくてもすぐに理由はわかりますから。」




タルトに言われ、部屋に戻ったが、やることのない果音は外の景色を見ようと窓際へ行った




「私にできるのは、お菓子作りだけ。」




またもやもやとした気持ちが溢れて頭が痛くなっていると部屋のドアが急に開いた




「「「聖女様」」」




そこには各自、自分の作れるお菓子をもって来ていた




「聖女様、お顔が青いままです!大丈夫です?」




トルテが両手でお菓子の乗ったトレーを持ちながら心配そうに見つめる


「俺の女神、何か悩んでいるなら俺たちにも言ってくれよ。もっと女神の気持ちを知りたいんだ」


「そうです、聖女様。私が聞いて相談に乗れるかわかりませんが、一人で気持ちを閉じ込めるよりお話をして少しでも気持ちが楽になるのならどんなお話でも付き合います!」


「聖女様、私に是非とも甘えてください!どんな聖女様でも受け止める自信があります!」


「皆様考えることは同じようですわ。私たちにできるのはお菓子を作ること位ですもの」


「それしか思いつかないしね。こんなにお菓子が集まるのも珍しいくらいだよ」



各自が間髪入れず果音に声を掛けているが果音の反応がない



「果音…?」



マフィンとスフレが顔をのぞかせると不意に果音の瞳から滴が落ちた



「聖女様…?」



涙がとめどなく溢れるが、青かった顔色がどんどんと血色を帯びていく



「皆さん…有難う…」



自分一人で考え込んでいた気持ちが皆が作ってきたお菓子の香りで少し和らいだ気がした。





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