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いつもの帰り道、いつもの風景
変わり映えのない日々にこんな感じでいいのか不安になる
こんなに気分が滅入るときは………
あの時みたいにお菓子を作りたいな
好きなお菓子を作って、あの時みたいな笑顔を見たい
飴遥果音 私の名前。
私は喪女で、今は食べてくれる相手もいない
会社に持って行ったとしても
「あの人が持ってきたらしいよーなんか必死でこわー」
………なんて変な会社の女性陣から揶揄われる…
なぜか私は会社の人…特に女性陣から嫌われやすい
私的には普通に接しているはずなのに…
顔も性格も普通、特技・趣味と言ったら
お菓子全般、和風、洋風全般のお菓子も好き…なこと位しかない
「私のお菓子を食べてくれる人はいないかな…」
ぽつりと呟いた
その声が消える前に眩しい光が差した
「え…」
眩しい光が消えた瞬間
人々の大きな歓声が聞こえる
「やったぞ!」
「成功だ!」
「うおぉおおおお!!」
人々の声にびっくりして目を丸くする
なにこれ……
驚いて頭が働かずぼーっとしていると声がかかる
「聖女様、驚かせてしまいましたか、申し訳ございません」
その声の聞こえる方向に目を向けると現代では見たことのない…
美人な…女性?いや、男性?
声から察すると男性なんだろうけどあまりにも中世的な顔の人が立っていた
というかこんなに美人な人から声がかかるなんて…うん、夢だ
そうそう。夢。夢。
さっきの眩しい光のときに寝たんだ、絶対そうだ
なんて頭の中でぐるぐる考えてる間にも男性の話は続いていた
「というわけで、聖女様にはこの国を守っていただきたい。よろしいでしょうか」
いい笑顔で微笑まれる
その顔につられてはい、なんて言いそうになったけど、ちょっと待って
聖女…国を守る…え…と、とりあえず
「意味が分からな…」
突如、頭が真っ白になり意識を失ってしまった
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気が付いたら真っ白なベットで寝ていた
一瞬自分の家にいると思ったが天井が明らかに違う
あとこんなに私の家のベットは大きくない
ん…なんだろ甘い良い匂いがする
「聖女様、気が付かれましたか?」
声を掛けてくれたのは先程の中性的な人ではなく、メイドのような格好をした女の子だった
彼女はとてもいい笑顔で笑っている
「あの、ここは何処なんでしょうか?」
質問をしたのに彼女はきょとんとしてから笑顔で答えた
「ここは聖女様の寝室でございます」
………あ、いやここの場所の事じゃなく……
と否定の言葉を言おうとした時に扉のノックが鳴る
「失礼します」
入ってきたのは私が意識を失う前に声を掛けてきた中性的な人だった
私が目を覚ましたと分かると直ぐに駆け寄ってきた
「聖女様!目を覚まされたのですね!ご気分は?!」
やや早口での質問に私は焦りながらも答える
「まだ目眩は少ししますが大丈夫です、ところでここは何処なんでしょうか?」
「失礼いたしました、ここはお菓子の国、別名ケーキの国でございます」
「お菓子…?ケーキの…?国?!」
私の動揺した顔をみながら中性的な人は話を続ける
「私はケーキの国、聖女様に仕えさせて頂く、スフレで御座います」
「私はメイドのタルトです!」
「この国は今危険な状態です、ぜひ聖女様に助けて頂きたくこの国にしょうかんなるものをしてお呼び致しました!」
しょうかん…?召喚?わたしを?
いや、そんなに希望の眼差しで私を見られても…
「ごめんなさい!私には何も出来ませんので家に帰して下さい!」
「そんな…!」
「私には得意なものなんてないし、危機を救う勇者的な感じで言われても身体は動き回れませんし」
「あぁ、聖女様には動き回って剣などで戦って頂きたいわけではございませんよ」
「え、さっきの言い方だと、そう聞こえたんですが」
「私とした事が興奮のあまり大事な事をお話していませんでした。聖女様にはお菓子の知識を我々に教えて頂きたいのです」
「お菓子の知識ですか?でもまたなんで…」
「お菓子の知識と言いましても簡単なものではございません、作り方から一緒に飲み合わせる飲み物までいろんな知識を使って聖女様にはこの国を助けていただきたいのです」
「その知識を活用してなぜこの国の助けとなるんですか?」
「そちらのほうが気になるのですね、承知しました。この国は今簡単に言うと意識を乗っ取られている状態なのです。それを治すためにはお菓子の知識、先ほど言った飲み物までを提供していただければ正気に戻るのです」
「そんな簡単なことなら貴方達でやればよいのでは?」
「簡単なことではございません!私たちが知っている知識はこの名前になっているケーキの知識のみ。それ以外を知ることは許されないのです、知るのを許されるのは聖女様、その方とこの国を作った王のみとなります。」
「その王様は」
「王は…一番最初に乗っ取られてしまいました」
悲しそうに話すスフレさんを見ながらも全然意味が分からないという思いでいっぱいだった。
そりゃそうだ、いきなり連れてこられてこんなこと言われても意味が分からない
でも、こんなに美人さんたちに囲まれることなんて今後もないんだろう、というか帰してくれるまで私にできることは限られているんだ
「わかりました。私にできること位ならしましょう」
「本当ですか!」
「ありがとうございます聖女様!」
ごちゃごちゃ考えるのも疲れてきたし、美人な人たちにお菓子を作って食べてもらう位でいいならそっちのほうがいい気もしてきた
こっちに来る前に食べてもらって笑顔を見たいって思ったのは事実だしね。
ここからどんなことになるのかわからないけど、とりあえずスフレさんとメイドのタルトちゃんが凄く輝いた瞳でこちらを見てくるので悪い気もしなくなってきた。こんな時に自分性格が楽観的な性格でよかったと思う。流されやすいとも言うんですがね。
そんなことを思い流されてみようと思ったのだった。