20才の自分
つぐみは迷わず、彼女について行くことにする。
彼女の足取りは軽く、歩幅も大きい。子供のつぐみはついていくのに精一杯だった。
つぐみが息を切らした頃、彼女が同じ年頃の男性と手を降り合っているのが見えた。
待ち合わせしてたみたいだ。
(彼氏かな。)つぐみはちょっとワクワクする。
現れた彼は、背が高くてかっこ良かったから。
ふたりは連れ立って歩き始めた。
彼といる20才のつぐみは、とても幸せそうに見えた。
(あの人と結婚するのかな~。)
5分ほど歩いた後、ふたりは小さなカフェに消えていく。
(あ、どうしよう…。私お金ないし入れないや…。)
だけどどうしても気になって、つぐみはそのカフェにおずおずと入ってみた。
ん?おかしいな、と思う。カフェの店員は一切つぐみに注目しないのだ。
(…もしかしたらこの世界では、私って見えてないの?)
それで、つぐみは大胆にも20才の自分とその彼が座るテーブルの、後ろの席に座ってみる。
ついでにふたりに手を降った。
(やっぱりね!だーれも私を見てない。)
透明人間になったみたいで妙に楽しい。ひとりでお店に入るなんて初めてのことだったし。
つぐみがそんな風にはしゃいでいると、ふたりがなんとなく、おかしな空気になっていることに気付いた。
20才のつぐみが、顔に手を当てて泣きはじめたのだ。
声は出していないものの、それは明らかに泣いていた。
彼の方はと言うと、居たたまれないような、でも少し面倒そうな顔で向かい側に座っている。
しばらくして彼は、伝票を手に取って席を立ってしまった。
彼がそのまま店から出ていくのを目だけで見送る。
(え?……なんでだろう。)
ひとり残された彼女を、つぐみは後ろの席から見つめる。もう泣いてはいなかったけれど、顔を伏せたままで動かない。そんな様子を見てつぐみは自分まで悲しくなってきてしまう。
(どうしたらいいのかな…。)
つぐみは20才のつぐみの背中を、そっと撫でてみた。
「よしよし」という感じで。
予想通り、彼女はまったく反応しない。
でもつぐみは「よしよし」を止めなかった。
大人の自分を子供の自分がなぐさめている。
それは、とてもヘンテコで、不思議な光景だった。