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タクシー  作者: KOTOKO
3/3

20才の自分


つぐみは迷わず、彼女について行くことにする。

彼女の足取りは軽く、歩幅も大きい。子供のつぐみはついていくのに精一杯だった。

つぐみが息を切らした頃、彼女が同じ年頃の男性と手を降り合っているのが見えた。

待ち合わせしてたみたいだ。

(彼氏かな。)つぐみはちょっとワクワクする。

現れた彼は、背が高くてかっこ良かったから。

ふたりは連れ立って歩き始めた。

彼といる20才のつぐみは、とても幸せそうに見えた。

(あの人と結婚するのかな~。)


5分ほど歩いた後、ふたりは小さなカフェに消えていく。

(あ、どうしよう…。私お金ないし入れないや…。)

だけどどうしても気になって、つぐみはそのカフェにおずおずと入ってみた。

ん?おかしいな、と思う。カフェの店員は一切つぐみに注目しないのだ。

(…もしかしたらこの世界では、私って見えてないの?)

それで、つぐみは大胆にも20才の自分とその彼が座るテーブルの、後ろの席に座ってみる。

ついでにふたりに手を降った。

(やっぱりね!だーれも私を見てない。)

透明人間になったみたいで妙に楽しい。ひとりでお店に入るなんて初めてのことだったし。

つぐみがそんな風にはしゃいでいると、ふたりがなんとなく、おかしな空気になっていることに気付いた。

20才のつぐみが、顔に手を当てて泣きはじめたのだ。

声は出していないものの、それは明らかに泣いていた。

彼の方はと言うと、居たたまれないような、でも少し面倒そうな顔で向かい側に座っている。

しばらくして彼は、伝票を手に取って席を立ってしまった。

彼がそのまま店から出ていくのを目だけで見送る。

(え?……なんでだろう。)


ひとり残された彼女を、つぐみは後ろの席から見つめる。もう泣いてはいなかったけれど、顔を伏せたままで動かない。そんな様子を見てつぐみは自分まで悲しくなってきてしまう。

(どうしたらいいのかな…。)


つぐみは20才のつぐみの背中を、そっと撫でてみた。

「よしよし」という感じで。

予想通り、彼女はまったく反応しない。

でもつぐみは「よしよし」を止めなかった。

大人の自分を子供の自分がなぐさめている。

それは、とてもヘンテコで、不思議な光景だった。




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