闇の中のタクシー
「お嬢さん、いつに行きますか?」
その声に、つぐみはハッとした。
自分はなぜか、タクシーに1人で乗っているのだった。
12才の彼女がタクシーに1人で乗ったことなどない。
それに、と思う。
(それに、いつに行くっておかしくない?
普通、どこに行きますかって聞くよね。)
つぐみがだんまりしていると、タクシーの運転手が言う。
「うちのタクシーは場所じゃなくて、時間に、お客さんをお連れするんだよ。」
中年の運転手は、つぐみに頬笑みながら言った。
戸惑うのも無理はないだろう、と承知しているらしい。
そんなこと言われたって…。
つぐみは困ってしまう。
「あの…時間って、いつでもいいの?例えば未来でも?」
「もちろん。
年配のお客さんなんかは過去に行きたがるけど、君みたいな若い子は未来を見たいだろうね。」
つぐみは考えた。
それなら…大人になった自分を見てみたい。
大人と言えば20才だ。
「じゃあ…8年後の20才の時に行きたい。大人の自分ってどんな風か、見てみたいって思っていたの。」
「はいはい、道はおじさんに任せてくれるね?」
もちろんだ。未来へ行く道など、知るわけない。
窓の外は、まっくらで何も見えなかった。
不安なつぐみを乗せたまま、タクシーは闇の中を走って行った。