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○ピア


 一瞬振り返った故郷。でも、足は戻ろうとはしなかった。


「改めて、私はピア。……助けてくれてありがとう」

「エースです。いろいろごめんなさい」


 街から少し離れた、まだ戦乱の届いていない料理屋に私たちは居た。街を出てからすぐ、お腹を盛大に鳴らした私の為にエースは近くの街でここに入った。今、目の前にはおいしそうな料理たちが並んでいる。

 極限状態から解放され、緊張も解けた時だったからこそ私は油断していた。さすがに知り合って1日くらいしか経っていない人にお腹の音を聞かれるのは恥ずかしい。


 エースはさらにそれを流してくれるどころか、どこからか大きな音がしたからここをいち早く離れよう、なんて言い出した。私はお腹の音だという事を説明しなくては行けなくなり、恥ずかしさ倍増だ。

 助けてくれたことは確かにあるが、精神的にダメージをくらった面もあるから、素直に感謝したくない。いや、感謝する必要があるのは重々承知で、エースに悪気が無いのもまた同じだ。……このド天然。


 無表情が彼のデフォルトなのかあれからここに来るまで一切感情が読み取れなかった。さっきも謝っていたのだが、無表情なため本当にそう思っているのか疑わしいくらいだ。

 一応声色は謝っている雰囲気があったので信じているけれど。


「君は何で戦場に?」


 私がパンをちぎってミネストローネに浸している時、不意にエースが尋ねた。


「私は戦場に始めから居たわけじゃない。私は日常に居ただけ。勝手に戦場に変わったのよ」


 私は日常に居た。確かにそうだ。

 戦場になるなんて私たちは誰1人として望んではいない。街の偉い人間が、隣町といざこざを起こして、それが知らず知らず火種となって、ある日突然炎になっただけだ。私は戦場に好んでいたわけじゃない。日常が戦場に変わったことで結果として戦場に居ただけ。

目の前で倒れる人、人、人。目を覆いたくなる現実に心が引き裂かれそうだった。戦いは嫌い。だけど、その時ばかりは生きるためには戦うしかないと思った。敵を全滅させればすべてが終わる。また、平和が来ると考えたのは一瞬じゃない。


「……私、戦いは嫌いなの。でも、またあの日々が戻ってくるなら、戦う事を考えても仕方がないかな」

「……っ」


 この時、エースが悲しそうな顔をした気がしたのは私の思い違いだろうか。



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