○天使
父さんに言われた。僕の身体には天使が宿っていると。約束の場所に行く事で僕の天使は世界を平和へと導いてくれるのだ。12歳の時に託されたその思いを胸に生きて来た。
感情を高ぶらせてはいけない。それは天使が暴走してしまうから。それだけの力を僕は身体に宿している。
「ANGEL計画」。のちに父さんによって名付けられたこの計画が進められる前、父さんは戦争に使う武器や薬、その他いろいろな物を作ってきたと言う。戦いを加速させ、世界をさらに混乱に招いた父さんに来た政府からの依頼。
今までとは全く反対の依頼に頭を悩ませたと母さんは話した。
僕が覚えている家にいる父さんはいつも独り言を呟いて、どこか上の空で。まるで空っぽの人形が歩いている様だった。それでも、5年前、父さんに呼ばれて計画を進める班の会議室に行った時、父さんは別人だった。
平和への思いを語る父さん。今でも記憶にはっきりと残っている。
『エース。お前は平和への希望だ。この国を出てこの地へ行け。そうすれば成される』
渡された紙にはアルファではない国名と知らない街の名前が記されていた。初めは出ていけと言われた事に悲しさを感じたが、父さんの思いを聞いていくうちにそれは誇りへと変わっていった。
『この計画は他国に露見した。きっとこの国は亡くなってしまう。だがエース。お前は逃げるんだ。計画の関係者ではない、私が父であるという事を忘れなさい』
泣きながら言った。それは父さんの最後の言葉だった。
アルファは跡形もなくなった。国が亡くなった事で計画も破綻したと考えられ、すでに逃れていた僕には被害が及ぶこともなく。計画の推進班だった7人の子どもたちは大人がうまい具合に逃がしてくれたのだと感謝する。
5年経ってようやく僕は親孝行ができる。
父さんと交わした最後の約束。それを果たせば世界が平和になる。
僕は歩き出す。
この街の中心に行けば、いい。ただ天使を運べばいい。
僕は歩きながら考える。天使を運んだあとはどうなるのだろう。平和になった世界を見て回るのもいい。ピアに平和になった彼女の故郷を見せるのもいい。
青い空と白い雲。何気ない空の様子が何だか眩しくて仕方がない。
不意に立ち止まる。本能がここだと告げている。
胸に手を当てて深呼吸する。空から一筋の光が射して意識が遠のいて行く。どうやら僕が最後に到着したらしい。
やっと、約束を果たせる。そして、世界が平和になる。




