○亡国アルファ
エースはアルファ出身だと聞いて何も言えなくなった。アルファと言えば、世界から戦いを失くそうと秘密裏に動いていた国で、それが露見したことから他国から狙われた。進められていた計画は「ANGEL計画」と言われる。幸福をもたらすであろう「天使の計画」。その話を聞いた時は心躍らせ、アルファを滅ぼそうと動く他国が信じられなかった。
「ANGEL計画」は結果、実行される事無く終わったと言う。今アルファ自体滅んでしまったのだから当然の事である。計画は他国によって阻止され、計画によって平和が訪れる事は無かった。
アルファが滅んでから5年。「ANGEL計画」について知るものは居ないとまで言われている。そんな中、アルファ出身なんて驚きだ。
「アルファと言えば「ANGEL計画」でしょ。エースは何か知らないの?」
「……5年も前に国は滅びました。それと一緒に計画も破綻した。みなさんが知っている以上は知りません」
エースなら何か知っているかもしれないと思ったが、その予想は外れてしまったらし。
アルファは滅び、国民も大勢亡くなった。アルファ国民に会えるのは一生に一度かそれ以下の可能性とまで言われている。生き延びているのは国の上に位置していた人間かあるいは、全く関係の無い庶民であるかのどちらかである。その可能性に賭けていたのだ。
他国から最も危険視されていた計画の関係者たちは勿論この世に存在してはいない。計画の首謀者からそのメンバーそして、その家族までもが命を落としている。そこまでする必要があったのか私にはわからない。それでも、酷いという事だけは何となく分かるのだ。
「ピアは計画が実行されればよかったと思いますか?」
真っ直ぐ見つめて来た、銀色の瞳に心がギュッとなった。もしかしたら、エースが一番にそれを望んでいたのかもしれない。平和になれば、亡くなる事は無かった故郷。
「勿論。私は平和に、笑って暮らしたい」
素直に言葉が口からこぼれた。
武力を行使することでしか分かり合えないそんな世界にはもう飽き飽きしている。関係ない人が死んで、偉い人間は安全な場所で指示を出して。怯えながら暮らすぐらいなら戦いなんてやめて欲しい。領地なんていくらでも与えてやればいい。領地よりも平和を望むべきだ。私は戦場と化した故郷を思い浮かべて強く思うようになった。
「ですよね」
エースはお金をテーブルに置いて立ち上がった。
「ちょっと、エース?」
「大丈夫です。きっと、僕が平和にしてみせる」
止めなければいけないようなその背中に手を伸ばしてみたけれど、私の手は空を掴んだ。




