出会いと別れを繰り返す
◇
……翌日。
「クレーノ家の方々は全員捕らえました。これで、事態は完全に収束したとみていいでしょう」
ミレーナ侯爵邸にて。グラたちは事件の顛末を聞いていた。事後処理についてはミレーナ侯爵に丸投げしていたのだ。
「シアナさんについては、完全な被害者ということで話を通しておきました。彼女が咎められることもないでしょう」
「当然よね」
無論、シアナのフォローも完璧だった。彼女のことを案じていたエーテルも、これで一安心だ。
「それと……グラさんの妹君も探しました」
「ちょっと待て……俺はあんたに、ナッタの名前を教えた覚えはないんだが」
続けられた報告に、グラは困惑した。ミレーナ侯爵には、妹を探していることは言ったが、名前は伝えていないのだ。探せるはずがない。
「シアナさんから伺いました」
「探してくれるって言ってたから~」
彼に情報を流したのはシアナだった。彼女には妹の名前を教えていたし、善意からの行動だろう。そう言われれば、グラとしては引き下がるしかない。
「ですが……結論から言って、ナタリーアクトという名前の女性はドコサにいません。滞在したという記録も見つかりませんでした」
「そうか……助かった、礼を言う」
「いえ、今回は私も助けられました。そのお礼も兼ねています」
結果を聞いて、グラはミレーナ侯爵に感謝した。……今回も空振りではあったが、落胆の色は薄い。寧ろ、探す手間が省けたことを喜ぼうとさえしていた。
「それで、これからどうされるんですか?」
「そうだな……暫くゆっくりしてから、ドコサを発つつもりだ」
ミレーナ侯爵に今後のことを尋ねられて、グラはそう答えた。……妹がここにいないとはっきりとした以上、本当ならば今すぐにでも出発したいはずだ。それをしないのは、エーテルに配慮したからなのか。彼女が、シアナと一緒の時間を過ごすため、予定を遅らせたのだろう。無論、そんなことは全く匂わせないが。
「そうですか。では、また何か困ったことがあれば遠慮なく相談してください」
「そうさせて頂きます」
そうして、彼らはミレーナ邸を辞したのだった。
◇
「……ふぅ」
夕方。彼らは温泉に来ていた。一連の事件での疲労を、湯に浸かって癒す。
「今回も、なんとかなったわね……」
「はい。無事にシアナ様を助け出せて、本当に良かったです」
「だな。あんなに魔法を使ったのは生まれて初めてだぜ」
「みんな~、本当にありがと~」
湯船には水着姿の女子四名。ここは混浴だが、グラは遠慮して男湯に入っている。そんなわけで、少女たちは和気藹々と温泉を楽しんでいる。
「ですが……これで、シアナ様ともお別れになってしまうのは、寂しいです」
「あっ……」
だが、ハイドラの一言で、その場に重苦しい雰囲気が漂ってしまった。……グラの妹探しも終わり、シアナの事件も解決した今、彼らは次の町に移動するのだ。故に、シアナとはここで別れることとなる。
「大丈夫よ~」
だが、そんな空気を打ち破ったのは、シアナだった。
「そうね……別に今生の別れってわけじゃないし、生きていればまた会えるわよね」
「そうよ~。ここでさよならしても~、また会えるわ~」
すると、エーテルも顔を上げて、微笑むようにそう言った。……彼女にとって、シアナは特別な存在といってもいい。この数日間で、そう思えるくらいには親密になれた。だが、そんな彼女との別れも、何一つ悲観する必要はないのだ。生きていれば必ず会える―――もしグラがこの場にいれば、彼は激しく同意しただろう。彼だって、妹と再会するために旅をしているのだから。それを、彼女たちもよく分かっていた。
「そうですね……申し訳ありません。余計なことを言ってしまって」
「気にすんなよ。ハイドラが言わなきゃ、あたしが口走ってたかも知れねぇし」
「そうそう。気を取り直して、今夜は遊び通すわよ!」
「「「お~!」」」
寂しさを吹き飛ばすように、彼女たちは声を張り上げるのだった。
◇
……翌日。
「じゃあ、また会いましょう」
「どうかお元気で」
「風邪引くんじゃねぇぞ」
「みんなも元気でね~」
そして、別れのときがやって来た。関所の前まで、シアナが見送りに来ている。
「あんたまで来てるんだな」
「皆さんにはお世話になりましたから、当然です」
更には、ミレーナ侯爵までもがこの場にいた。彼も見送りだ。
「次にドコサに来るときは、もっとゆっくり観光するつもりよ。そのときは、色々と案内してもらっていいかしら?」
「勿論よ~」
再会したときのことを話しながら、エーテルとシアナは握手を交わした。
「じゃあね~!」
「ばいば~い!」
互いに手を振り合いながら、少女たちは別れるのだった。
「よろしいんですか?」
「何の話かしら~?」
エーテルたちが去って。残されたシアナとミレーナ侯爵は、彼らが入った関所を、未だに眺め続けていた。
「彼らについて行くという選択肢もあったはずです」
「いいの~。私はどんくさいから~、みんなの迷惑になっちゃうわ~」
ミレーナ侯爵の言葉を、シアナは首を振って否定した。彼女自身、自分が旅に向いていないことは分かっているのだ。彼らに迷惑を掛けてまで、ついて行くべきではないと判断したのだった。
「それにしても……まさか、海神伝説を曲解しているとは思いませんでした」
「曲解って~……?」
ふとしたミレーナ侯爵の呟きに、シアナは首を傾げた。ミレーナ侯爵は、彼女に説明を始めた。
「クレーノ家の女子が生贄になるというのは、海神の怒りを静めるためではないんです。乙女の家系から、乙女を消し去る―――海乙女の抹消を目的とした儀式です」
「海乙女って~、何のこと~?」
話を聞いて、シアナはそんな疑問を漏らす。……今までにも度々出てきた、乙女という単語。しかし、シアナには聞き覚えがなかったようだ。
「魔神の花嫁という存在を生み出すための鍵です。オガーニ王国には六人の乙女が存在していて、クレーノ家が輩出しているのが海乙女です。……乙女は町の支配者の資格であり、手に入れれば町を支配できます。その代わり、魔神の花嫁を復活させてしまうリスクもはらんでいます。クレーノ家では、そのリスクをなくす方法を取りました。女子が生まれた場合は、海が荒れた時期を見計らって、生贄として海に沈めたのです」
海神伝説はただの口実であると、ミレーナ侯爵は語った。……復活を阻止するために娘を殺し、或いは復活させるために国王が王都民を陵辱する。魔神の花嫁とは、一体どれほどの存在なのだろうか?




