チームプレイの勝利
「……待て」
「てめぇらの好きにさせて堪るかよ……!」
儀式が進行する中、人だかりを押し退けて、前に出る者がいた。グラとオクサだ。
「おやおや、困りますな。我々はドコサを救おうとしているというのに、邪魔をしてもらっては」
「船を沈めているのはそっちだろ」
「てめぇらがギアを使って船を沈めてるのは分かってんだぞ!」
いけしゃあしゃあと言い放つ男に、グラたちは武器を構えた。グラは木刀を、オクサはギア内臓の警棒を。
「何を言うかと思えば、根拠のない言い掛かりですね」
「海神がどうとか、生贄にすれば収まるとかも根拠なんてないだろ」
「おやおや、ドコサの言い伝えをご存じないとは。過去にもクレーノの娘が海神の怒りを静めたのは、ドコサの民ならば誰でも知っていることですよ」
「御伽噺を信じてシアナを殺すと?」
「尊い犠牲です。やむを得ませんな」
しかし、彼らは動じることはなく、また彼らを咎めるための証拠はなかった。押収したギアも放棄しているし、言い伝えであっても根拠がある分、向こうが強気になるのも当然だった。
「これ以上の話は無駄か……」
「ま、証拠がないって言われると辛いよな……」
「物騒な方たちですね。少女を助けようというその意気込みは素晴らしいですが、今はドコサの危機です。こちらとしても、引き下がるわけにはいきませんね」
クレーノ家の面々も、一斉にギアを取り出した。お互いに臨戦態勢、一発触発の状態だ。
「……オクサ、手筈通りに」
「ああ。任せとけ……アースクエイクッ!」
先に動いたのはオクサだった。地震を起こす魔法により、クレーノ家の者達は転びそうになる。
「はぁっ……!」
その中で、グラは木刀を構えて突進した。前に出ていた男に、木刀を振るう。
「くっ……ウォーターブレス!」
だが、男も魔法で応戦する。……ウォーターブレスは水の塊を作り撃ちだす魔法だ。ウォーターアローと違い月属性の性質は薄く、威力は低いが、衝撃で相手を気絶させるのに向いている。
「ちっ……!」
ウォーターブレスを受けて、グラは足を止めた。……彼は魔法が効かない魔神だが、魔法によってダメージを受けないわけではない。消せるのは魔法の属性だけで、衝撃自体は受けてしまうのだ。実質、この魔法に対しては耐性がないも同然だった。
「今だ……!」
男の号令を受けて、クレーノ家の者達が一斉にウォーターブレスを放つ。さすがのグラも、それらを全て受ければ無事では済まない。
「ストーンウォール!」
だが、突如として地面が隆起し、魔法を防いだ。オクサの魔法―――地形変動魔法、ストーンウォールによる防御だ。
「おらっ……!」
そして、その壁を飛び越え、グラはクレーノ家の者達に襲い掛かった。体を躍らせ、木刀を振り下ろす。
「くっ……!」
男はそれを辛うじて回避するが、体勢を崩してしまう。木刀が地面を叩いた反動を利用し、グラは男の顎を狙って腕を振り上げた。
「がっ……!」
木刀は顎を掠め、男はそのまま尻餅をついてしまった。そんな彼に、グラは木刀を突きつける。
「観念しろ。これ以上、お前たちの好きにはさせない」
「……何を言うかと思えば。忘れたんですか? シアナさんはこちらにいるんです。いくら暴力を働いたところで無駄ですよ」
「そう思うのなら、後ろを見てみろ」
「何を言って―――」
言われて、男は後ろを振り返った。そこには、当然の如く、シアナを縛り付けているはずの柱がある。―――しかし、そこにシアナの姿はなかった。
「なっ……!?」
「俺の仲間がシアナを助け出した。俺たちはそのための時間稼ぎだ」
「シアナ……! 起きて……!」
「う、う~ん……」
その頃、少し離れた桟橋では。エーテルがシアナの肩を揺すっていた。……彼女はここから、シアナの元へとこっそり向かい、彼女を救い出したのだ。
「シアナ様、しっかりしてください」
その隣にはハイドラの姿もあった。彼女が魔法で海を凍らせて、シアナまでの道を作ったのだ。
「……あれ~? ここは~?」
やがて、シアナは目を覚ました。当たり前ではあるが、状況が把握できていないらしく、戸惑っている様子。
「シアナ……! 良かった、無事みたいね……!」
「エーテルちゃん~? 私~、確か~……」
シアナの無事を確認して、エーテルは思わず彼女に抱きついた。シアナは戸惑いながら、彼女とハイドラを交互に見つめる。
「シアナ様はクレーノ家の方々に攫われていました。ですが、もう大丈夫です」
「ええ、私たちでちゃんと助け出したから」
「そうなの~? ありがと~!」
今まで磔にされていたというのに、シアナは相変わらずおっとりとした口調で礼を言ったのだった。
「そこまでです」
そして、グラたちがいるほうの桟橋にて。争いの場に、ミレーナ侯爵が姿を現した。
「クレーノ家の皆さん、もう終わりにしましょう。先程、兵士の方々から連絡がありました。船を沈めていたギアを発見したとのことです。それを調べれば、あなた方の行いを立証するのは難しくありません。観念したほうが身のためですよ」
「忌まわしきミレーナが……あくまで、われわれの邪魔をするか」
「全くです。自分がドコサを独占しているから、我らの復権を恐れているのでしょう」
投降を呼びかけるミレーナ侯爵に、クレーノ家の面々はそんな言葉を吐いた。証拠も出たというのに、往生際が悪いな。
「……いいですか? 貴族とは、支配者ではありません。民を治めるというのは、民のために働き、尽くすということです。しかし、あなた方はドコサの民を苦しめた。ドコサと、貿易相手の国に迷惑を掛け、この町を危機に追いやったんです。そんなあなた方に、貴族の資格などありません」
そんな彼らに、ミレーナ侯爵は辛辣な言葉を投げ掛けた。……彼は一人でこのドコサを治めてきたのだ。貴族であることに固執し、領民を苦しめるクレーノ家に、怒りを覚えているのだろう。
「あなた方には、十分な時間があります。今までの行いを、思う存分反省するといいでしょう」
そして、彼の後ろから兵士たちが姿を現した。兵士たちはクレーノ家の面々を取り押さえ、連行していく。そして、ミレーナ侯爵はグラたちに歩み寄ると、彼らを労う。
「二人とも、お疲れ様でした。お陰で、ドコサの明日も明るいです」
「何、そういうのはエーテルにでも言ってくれ。あいつがシアナを助けたいと言ったから動いたんだ」
「いいえ。あなた方は、きっかけはどうであれ、同じことをしたでしょう。であれば、お礼を言わないわけには行きません」
謙遜するグラに、ミレーナ侯爵はそう言って頭を下げたのだった。




