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剣士とビッチと美少女七人(エトセトラ)  作者: 恵/.
5の章 ~海乙女と波乱の貿易都市~
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急転直下



  ◇



 ……翌日。


「ん……?」

 朝。違和感に気づいたのはグラだった。体を起こし、間借りしている物置から出ると、足音を消してシアナの部屋に向かう。

「……シアナ、入るぞ」

 部屋の前まで来て、そう言うや否や、グラはドアを開けて部屋に飛び込んだ。

「シアナ……!」

「……!」

「おやおや、気づかれてしまいましたか」

 部屋には、シアナの他に男―――シアナの親戚がいた。彼女を抱きかかえ、窓の縁に足を掛けている。そのシアナは、ロープで体を縛られ、口を塞がれて、声を上げることも出来ないでいる。

「シアナをどうするつもりだ……!」

「何、彼女にはクレーノ家のために一仕事してもらうだけですよ」

 木刀を構えるグラに、男は悠然とそう言った。

「シアナを生贄にするつもりか……!?」

「ええ。海神の怒りを静めるには、クレーノ家の女子が必要です。クレーノ家は男系なので、生贄になれるのはシアナだけなのですよ」

「お前たちが船を沈めているんだろうが……!」

 グラは突進しながら、木刀を振り下ろす。だが、男は窓から体を躍らせてそれを回避する。

「はて、何のこと分かりませんが。シアナさんには、我らが悲願の礎となって頂きます」

「待て……!」

 そう言い残して、男は窓から飛び出した。魔法で補助しているのか、その動きは速く、追いかけるのは困難だった。

「ちっ……」

 グラは追跡を諦め、エーテルたちを呼びに行くのだった。



  ◇



「シアナが攫われるなんて……」

 グラの話を聞いて、エーテルは動揺した。……彼女だけでなく、ハイドラやオクサも似たような様子だ。

「何故……昨日、ギアを発見したはずです」

「逆に、そのせいで焦っちまったんだろうな、向こうも。ったく、あたしがいたら絶対に逃がさなかったんだが」

「悪い、俺の失態だ。シアナを守りきれなかった」

「ううん、グラたんのせいじゃないわ。それを言い出したら、私なんてシアナが攫われそうになってるのに、呑気に寝てたんだから」

 シアナを拉致されて、彼らはすっかり意気消沈していた。何せ、解決が目前だった矢先にこれだ。そのショックは計り知れない。

「……いつまでも悔やんでいても仕方がない。シアナを取り戻すぞ」

「ええ……絶対に助け出して見せるわ」

 だが、それでも彼らは立ち直った。否、立ち直らざるを得なかった。こうしている間にも、シアナが生贄にされてしまうかもしれないのだ。落ち込んでいる暇などなかった。

「それにしても……シアナが攫われたってことは、兵士たちはクレーノ家の連中を取り逃がしたのかしら?」

「その辺はミレーナ侯爵に聞けばいいんじゃね?」

「となると、今後のことを相談するためにも、一度向かったほうがいいな。恐らくは、兵士たちがどうしたのかも分かっているはずだ」

「賛成です」

 そして、まずは状況把握に努めることとなった。兵士たちを向かわせたミレーナ侯爵のところであれば、何か情報が来ているはずだ。



  ◇



「シアナさんが……なるほど、そうですか」

 ミレーナ侯爵邸にて。事情を聞かされ、ミレーナ侯爵は驚いていた。

「昨日、兵士たちがギアを確保しに向かってから、何があったんだ?」

「兵士たちからは昨日のうちに報告がありました。クレーノ家の方々の姿はなかったものの、ギアは無事に発見。しかし、運搬の際に突如として潮が満ちて、道が塞がったとのことです。故に、ギアを捨てて撤退、その後戻ったときにはギアは残っていなかったようです」

「それは……妙ではありませんか?」

「はい。恐らくはクレーノ家の者達が海面を操作する魔法を使い、ギアを回収したのでしょう。そして、自分たちの存在が気づかれていると判断して、シアナさんを拉致したものと思われます」

 ミレーナ侯爵は、兵士たちからの報告と、自身の推測を口にした。……クレーノ家の者達は、シアナが自分から生贄になるのを待っていたのだろう。次々と船を沈められれば、彼女も承諾せざるを得なくなる。だが、そんな悠長に構えていられる状況ではなくなったのだ。

「そして、シアナさんが拉致された以上、彼らは次の行動に移るはずです」

「次の行動……つまり」

「ええ。シアナさんを生贄に、海神の怒りを静める儀式です。彼らは自分たちの行いがばれていると知っているはずですから、早急に動いてくるでしょう」

 そう言って、ミレーナ侯爵は立ち上がった。

「行きましょう。……彼らの目的は、シアナさんの犠牲を民衆に知らしめて、それによりクレーノ家を再興することです。ならば、儀式は目立つ場所で行われるでしょう。となれば、向かうべき場所は―――」

 その先は、聞くまでもなかった。この町で、海に面した最も人が集まる場所。それは、港しかないのだから。



  ◇



「―――皆の者、刮目せよ! 彼女こそ、このドコサを救う女神である!」

 港に駆けつけると、そこには人だかりが出来ていた。その奥、桟橋の先には、クレーノ家の面々と思しき者達と、柱に縛られたシアナの姿が。

「ここ最近の沈没事故は何故起こっているのは、諸君も想像しているだろう。―――そうだ、古より伝えられし海神によるものだ!」

 シアナを攫ったあの男が、民衆に向かって演説している。一方のシアナは、目を伏せたまま、動く様子もない。薬か何かで眠らされているのだろうか?

「海神が今まさに目を覚まし、船を沈めているのだ!」

 男の言葉に、群衆は騒然となった。……ドコサに伝わる海神伝説は、彼らにとっても馴染み深い。故に、この話を疑うことはなかった。

「この災いを鎮めるには―――海神の怒りを静めるには、クレーノ家の女子を生贄にするしかない! そして、クレーノの末裔たる彼女こそ、その役割を果たせる唯一の存在である!」

 生贄という言葉に、民衆は更にざわめいた。そして、彼女が縛られている意味も、自ずと理解する。

「爵位を奪われ、今でこそ庶民へと落ちぶれた我らだが……ドコサのため、愛する故郷のため! 今こそ、その役目を果たすときだ!」

 その台詞に、群衆の中からクレーノ家を支持する声が出始めた。……こんな唐突な話を聞いてすぐに肯定的な意見が出るのは、少々不自然だ。群衆の中にサクラがいるのだろう。

「彼女に賞賛を、感謝を! ドコサのために命を投げ打つ彼女に、クレーノの娘に、溢れんばかりの祝福を!」

 そうして、群衆の中からぽつぽつと拍手が起こる。やがてそれは、全体に広がっていき、港に拍手喝采が鳴り響く。……その大半は場の雰囲気に流されているだけなのだが、それでも、この光景には背筋が凍りそうになる。誰も、生贄になる少女を助けようとしたり、反対したりしないのだから。

「このことを―――彼女のことを、諸君の心に深く刻み込んで欲しい! ドコサのため、命を捨てた少女の存在を! クレーノに連なる、彼女の存在を!」

 そうして、男はシアナのほうへと近づいていく。彼女を、海に沈めるつもりなのだろう。

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