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剣士とビッチと美少女七人(エトセトラ)  作者: 恵/.
5の章 ~海乙女と波乱の貿易都市~
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予防線は張っておいて損はない


「クレーノ家が没落したのは、今から三十年ほど前です。当時の当主であるノナルカ・クレーノ・ドコサ殿は、貿易によって不正な利益を得ていました」

「不正な利益、ですか?」

 ミレーナ侯爵によれば、クレーノ家が没落したのは、当主による不正のためらしい。

「はい。輸入した品物の量を少なく申告することで、関税を少なくしていたのです」

「関税?」

「海外からものを輸入する際に、国に支払うお金です。例えば、海外の極端に安い作物がオガーニへ輸入されれば、作物の相場が暴落します。そうなれば、主にトレハの方たちは生活が立ち行かなくなるでしょう」

「あー、確かにな」

 ミレーナ侯爵の例えに、オクサは納得したように頷いた。彼女もついこの前までトレハ住民だったので、実感が大きいのだろう。

「それも、彼一人ではなく、一族ぐるみでの不正であることが判明しました。それが悪質だと判断され、クレーノ家は爵位剥奪、没落となりました」

 関税を不正に削り、その分、相対的に利益を得た。それがクレーノ子爵家没落の経緯だった。

「当時は私もまだ幼かったものですから、父から聞いたままですが、私が存じていることは以上です。……シアナさん。あなたのご両親は、このことをあなたにお伝えにならなかったようですね」

「はい~。両親は三年前に他界していて~」

「そのようですね。……申し訳ありません。無神経な話題でしたね」

「いいえ~。お気になさらず~」

 ミレーナ侯爵相手でも、いつもの調子を崩さないシアナ。死んだ両親の話をされても笑顔を曇らせることはなかった。

「それで、元クレーノ家の方たちが沈没事故に関わっているという予想ですが―――私は、正直あり得ると思います。当時だけでなく、今でも復権を狙っている様子ですから」

「そう、ですか……」

 彼の予想に、ハイドラは悲しそうに目を伏せた。……元貴族である彼女からしても、貴族に戻るために船を沈めるというのは理解できなかった。彼女の場合、貴族の立場に未練がないせいかもしれないが。

「となれば、早急に対策しなければなりません。一刻も早く、事態を収拾しなくては」

「はい。……ですが、その場合、一つだけ懸念することが」

「何ですか?」

「シアナ様は、クレーノ家の血筋です。今回の件を摘発した場合、彼女が巻き添えで濡れ衣を着せられてしまう可能性があります」

 ミレーナ侯爵に、懸案事項を話すハイドラ。そもそも、彼らがここまでやって来たのは、シアナを守るためなのだ。

「なるほど。分かりました、その件については配慮しましょう。私としても、シアナさんを巻き込むのは本意ではありません」

「ご配慮、感謝致します」

 彼女の話に、ミレーナ侯爵は快く頷いた。町の有力者がバックについてくれるのは心強いな。

「では、元クレーノ家の方たちはこちらで捜索します。あなた方には、シアナさんの傍にいて欲しいのですが……」

「承知しました。シアナ様は必ずお守りします」

 こうして、ミレーナ侯爵との面会は終了したのだった。



  ◇



「それで、これからどうするの?」

 ミレーナ侯爵邸を後にして。彼らはシアナの家まで戻ってきていた。家に着くなり、エーテルは誰にともなくそう尋ねた。

「シアナの護衛は当然だが……それだけでは不十分だ。ミレーナ侯爵はクレーノ家の連中を探すと言っていたが、俺たちでもできるだけのことはしておくべきだろう」

「というと?」

「奴らの目的は間違いなくシアナだ。だが、だからといって家に篭っているのは得策じゃない。シアナにはいつも通りに仕事をしてもらったり、普通に生活してもらう。俺たちはシアナの近くに交代で張り付く」

 グラの案は、シアナへの負担を考慮したものだった。出来る限り彼女の日常に配慮している。

「ま、そうなるわよね。人目があるほうが向こうも手出ししづらいはずだし」

「ですが、それだけですか?」

「その間、俺たちは沈没事故の詳細を調べる。それに、シアナを外に連れ出せば、クレーノ家の人間が何かアクションを起こすかもしれない。そこを掴むぞ」

 更には、そこを起点に事件解決を図る。……シアナを囮にする行為ではあるが、理には適っている。それに、全員でシアナの傍に居続けるのは困難だし、その間は独自の調査をするべきだと考えたのだ。

「シアナもそれでいいか?」

「ええ~、問題ないわ~」

「なら、とりあえず二手に分かれるか。片方はシアナの近くで護衛だ」

「了解だぜ」

 シアナも了解し、こうして彼らは動き始めるのだった。



  ◇



 ……翌日。


「いらっしゃいませ~」

 ウェイター姿のシアナは、職場である喫茶店で接客に勤しんでいた。……グラたちの方針通り、彼女にはいつも通りの生活を送ってもらっている。

「にしてもさ。うちら、こんな感じで、ほんとにいいのかよ?」

「仕方ないじゃない。シアナを一人に出来ないし、今はグラたんとハイドラが頑張ってるから、私たちはゆっくり待ちましょう」

 そんな彼女を、エーテルとオクサがテラスから眺めていた。……グラとハイドラは沈没事故の調査に出ており、その間は彼女たちがシアナの護衛に回っているのだ。

「けどさぁ、いくらなんでも暇じゃね? ずっと景色眺めてんのかよ?」

「ほんと、堪え性がないわね……」

 しかし、この二人はあまり馬が合いそうになかった。男勝りでがさつなオクサと、ビッチではあるが感性は普通の女の子であるエーテルでは、会話が弾まないのも当然である。そしてそれ以上に、彼女たちはまだ短い付き合いだし、打ち解けるだけの時間もなかったのだ。

「―――あなたたち、シアナちゃんのお友達?」

 そんな二人に、女性が話しかけてきた。ここの店長だ。

「ええ、そうよ」

「それがどうかしたのかよ?」

「そう……良かったわ。シアナちゃん、色々と複雑な事情を抱えてる子だから、傍にいてくれる人が必要なのよ。私も出来る限りは気に掛けてるけど、店のこともあるから付きっ切りってわけにはいかないし」

 答えるエーテルたちに、店長はそう言った。……彼女も、シアナの事情を把握してるのかもしれないな。

「だから……シアナちゃんのこと、お願いね」

「ええ、当然だわ」

「言われるまでもないよな」

 店長の言葉に、エーテルたちは力強く頷いた。元より、彼女たちはそのためにここにいるのだから。

「あら、心強いわね。……それじゃあ、ゆっくりしていってね」

 そんな二人を見て安心したのか、店長は店の奥へと引っ込んでいった。


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