何気にディスられまくってる
「おい、あれ、シアナじゃないか?」
「あっ、ほんとだわ」
シアナの職場へ向かう途中。彼らはシアナを発見した。
「だが……隣にいるのは誰だ?」
「さあ?」
しかし、彼女の隣には男がいた。白髪の男性で、シアナと話している。
「何を喋ってるのか、気になるわね……」
「おい、何やってんだよ?」
「何って、盗聴の魔法だけど? 本来は聴力補助の魔法なんだけど、ちょっと弄れば遠くの音を拾えるようになるのよ」
「お前はまたそういう……いつかほんとに捕まるぞ」
エーテルはギアを取り出し、盗聴のカートリッジをセットしていた。シアナと男性の会話を盗み聞こうとしているのだ。
「えっと……」
そしてエーテルは、なんら躊躇うことなく、彼らの会話を盗聴するのだった。
「……そろそろ、決心してくれましたか?」
「……」
男性の言葉に、シアナは言葉を返さなかった。俯いた彼女の表情は、髪に隠れて窺えない。
「あなたが決心すれば、ドコサの民は救われます。それを、忘れないでください」
そう言い残して、男性は立ち去った。残されたシアナは、相変わらず俯いたままだ。
「シアナ」
「あら~……二人とも~、どうしたの~?」
そんな彼女に、グラたちが駆け寄った。それに気づいて、シアナは顔を上げて、いつもの調子で問い掛けた。
「さっきの人、なんだったの? ちょっとしか聞こえなかったけど、ドコサを救うとか言ってたわよね」
「……」
しかし、エーテルの問い掛けに、シアナは黙ってしまった。
「シアナ、何か抱えてることがあるなら、話して。お願い」
「で、でも~……」
「シアナ。こいつが他人のために積極的に動くなんて滅多にないんだ。ここは大人しく頼ってやれ」
「……それ、私が自分本位の冷徹女だって意味かしら?」
渋るシアナに、グラはそんなことを言った。……エーテルは不満そうだったが、その辺は日頃の行いなので致し方ない。
「とりあえず、一度戻りましょう。ハイドラとオクサも待たせてるし、そこで落ち着いてから、ゆっくり話したほうがいいわ」
そんなわけで、彼らは一度戻ることにした。
「ただいまー」
「お帰りなさいませ、皆様」
「おう、ちゃんと見つけたみたいだな」
シアナの家に戻ると、ハイドラとオクサが出迎えてくれた。
「さてと、お茶でも入れて、さっきの続きを話しましょう。あ、キッチン借りるわね」
シアナの返事を待たず、エーテルは台所へと入っていく。やがて、人数分の紅茶を用意して、戻ってきた。
「それで、どういうことなのかしら? あの男は、何なの?」
席に着いて。エーテルは単刀直入に尋ねてきた。
「……あの人は~、親戚なの~」
「ふ~ん? で、その親戚が、何を言ってきたの?」
「そ、それは~……」
先程の男性は親戚だと話すシアナ。だが、彼の用件を聞かれて口篭ってしまう。
「シアナ。話したくないのなら無理に話さなくていい。……だが、こいつはしつこいぞ。一度決めたら徹底的に付き纏うからな」
「失礼ね。人をストーカーみたいに言わないでくれる?」
「実際、それでここまでついて来たんだろうが」
中々口を開こうとしないシアナに、グラは茶化すようにそう言った。……確かに、彼がヤらせてくれないからという理由で王都からここまでついて来るくらいだからな。しつこいと言われれば反論の余地はないだろう。
「じ、実は~……」
そうして暫く経ってから、シアナがようやく口を開いた。
「あの人には~……人柱になれって言われてるの~」
「人柱?」
彼女が発した単語に、グラは疑問の声を上げた。人柱―――つまり、シアナが何かのために犠牲にならなければならない、ということか。
「ドコサで起こってる沈没事故なんだけど~。あれは~、海神様のせいだって噂があるの~」
「海神様って……御伽噺じゃあるまいし」
シアナの話に、エーテルは呆れたように呟いた。このオガーニでは、宗教というものが殆ど存在しない。神だのなんだのというのは、各地の伝承に登場する程度なのだ。
「でも~、ドコサの言い伝えは有名だから~。海神様が船を沈める話は~、みんな聞かされて育ったし~」
けれども、シアナ曰く、ドコサの住民は海神という存在を信じているらしい。怒り狂って船を沈める神の話は、海辺の町であれば珍しくもないだろう。
「それで~……海神様の怒りを静めるために~、私に生贄になれって言われて~」
「い、生贄ですか……!?」
「なんだよそれ、んなもんのためにシアナが犠牲になれってことかよ!?」
続けられた言葉に、ハイドラは驚き、オクサは憤慨した。……言い伝えに登場する神のため、生贄になれと言われたシアナ。そんな話を聞けば、この反応は当然のことだった。
「なるほど、それで人柱か」
「でも、どうしてシアナなの? 言っちゃあ何だけど、生贄なんて誰でもいいんじゃないの? そりゃあ、若い娘が選ばれるのは定番だけど」
だが、その話にエーテルは疑問を持った。……確かに、生贄といえば少女が選ばれることが多いが、それでもシアナがその役をこなす理由はないはずだ。
「それは~……私がクレーノ子爵家の血筋だからよ~」
「クレーノ子爵家……聞いたことがあります。確か、何十年も前に没落した家のはずです」
出てきた名前に、ハイドラがいち早く反応した。……ここでも、貴族が絡んでくるのか。
「また貴族の関係者か……つくづく縁があるんだな」
「でも、いくら元貴族の血筋だからって、生贄になるなんて……もしかして、そのクレーノ子爵家って、そういうときに生贄になる役目でもあるの?」
「クレーノの家は巫女の家系で~、海神様の怒りを静めるために~、女子が生贄になっていたの~」
つまり、話を纏めるとこうだ。―――ドコサで起こっている沈没事故は海神のせいであると言われている。そして、その怒りを静める役割をしていたのが旧クレーノ子爵家。そして、シアナはその血筋であり、故に彼女は生贄に選ばれたのだ。
「なるほど……確かに、これはおいそれとは話せないわね。っていうか、説明するだけで一苦労だわ」
「ああ。ドコサの事情やら背景やらを知ってないと、問題自体を把握するのが大変だな」
シアナの話を聞き終えて、グラたちはそんな感想を漏らした。彼女が悩みを打ち明けられなかったのは、内容そのもののデリケートさもさることながら、その複雑さもあった。ドコサの言い伝え、クレーノ子爵家の話を事前に知っていないと、説明が長くなるのだ。
「だが、これではっきりしたな」
「ええ。……これで、沈没事故の真相が分かったわね」
しかし、その甲斐あって、彼らは確信できた。今回の一件、その全体像が。




