みんな手馴れたものです(一人を除いて
◇
「それでどうするんだよ?」
「とりあえず港に行ってみるわ。そこで事故の詳細が聞けるかもしれない」
喫茶店を出て、グラたちは海のほうへと歩き出した。無論、沈没事故について調べるためだ。
「人が集まっていますね」
「そりゃね。船があんなに傾いてるんだから、野次馬だって集まってくるでしょ」
彼らが港に着く頃には、人だかりが出来ていた。船は既に大きく傾いて、今にも沈みそうだった。こうなれば、人が集まってくるのも無理ないだろう。
「じゃあ、こっからは手分けしたほうがいいわね。私とハイドラ、グラたんとオクサって感じでいいかしら?」
「そうだな」
エーテルの提案により、彼らは二手に別れた。オクサを連れて、グラは港での聞き込みを開始する。まずは近くにいた男性に声を掛けた。
「あれが例の沈没事故なのか?」
「ん? ああ、みたいだな」
「ドコサには昨日来たばかりなんだが、やっぱり多いのか?」
「多いも多い、多すぎだ。こんなに沈んでちゃあ、貿易が中止になるぞ」
グラに尋ねられて、男性はそう答えた。……やはり、沈没事故の頻度は異常な程に高いようだな。
「いつもこんな感じになるのか?」
「そうだな。兵士が言うには、何らかの理由で船底に穴が開いてるらしいけどな」
「なるほど。色々教えてくれて助かった」
そこまで聞き出して、グラはその場を離れる。これ以上聞き出そうとすれば、怪しまれる可能性があるのだ。
「……やっぱり、人為的に仕組まれた可能性があるな」
「っても、どうやるんだよ? 船の底に穴を開けるなんて、海に潜って張り付くしかないだろ?」
「或いは、特殊な魔法を使ったか、だな」
次の聞き込みに入る前に、グラとオクサはそんな話をしていた。……例え魔法であろうと、海の中まで効力を届かせるのは難しい。となれば、魔法にしても、それに特化した特殊なものでなければ無理だろう。
「そんな魔法、聞いたことねぇな」
「エーテルかハイドラ辺りならその辺は詳しいだろうけどな。……とりあえず、俺たちは他の情報を集めよう。沈めた方法じゃなくて、沈んだ時間、地点、船の種類なんかに共通点がないか調べるんだ。人為的なものならば、それで犯人を絞り込めるだろう。魔法の種類を特定するのにも役立つはずだ」
「了解。さすがはリーダー、頼りになるねぇ」
そして、二人は聞き込みを再開するのだった。
◇
「お待たせしました」
「そっちはどうだったかしら?」
数時間後。グラたちはエーテルたちと合流した。
「まあ、概要くらいは把握できたな」
「お前ら、今までにもこんなことしてたのかよ? 結構疲れたぜ……」
その頃には、オクサはすっかり疲弊していた。……体力に関してはこの中で一番優れているであろう彼女だが、聞き込みによる精神的な疲労には耐性がなかったのだ。トレハでの調査も聞き込みはほぼなかったからな。
「それで、そっちはどうだった?」
「色々分かったわよ。まず、船が沈んでるのは魔法によるもので間違いないわね。使った魔法までは特定できていないけど、多分アイスランスかウォーターピアスの類だと思うわ」
「どちらも軍事用の魔法です。かつては、海上防衛のために配備されていました。防衛の要であったドコサなら、それも可能でしょう」
エーテルたちはやはり、船を沈めた方法を調べていた。不確定ながら、魔法の種類まで見当をつけている。
「それで、そっちは?」
「ああ。まず、船が沈む―――正確には、異常が発生する時刻はほぼ同じ、午前中だ」
「場所はまちまちだな。沈んでるのも、海外からの貿易船と、逆にこっちへ戻ってきた船の両方だし、共通点はないっぽいな」
そしてグラたちも、聞き込みで得た情報を話す。エーテルたちが原因を調べると見越して、その補助となるであろう情報を集めたのだ。
「なるほどね。そうなると、船を無差別に沈めている可能性があるわね」
「はい。それと、船の種類がバラバラということは、魔法はそれなりに威力があるはずです」
「そうね。大きい船はその分頑丈だし、生半可な魔法だと難しいわ」
「あと、船が傾きだすまでは、海に異常はなかったみたいだな」
「となれば、ウォーターピアスは外していいかもしれないわね。あれって水中で使うと威力減衰が激しいし、隠密性は低いもの」
そうして、沈没事故の真相究明を進めていくのだった。
◇
……夕方。
「シアナー? 戻ってるー?」
調査を終えて、グラたちはシアナの家に戻ってきていた。
「いないわね……」
「まだ喫茶店のほうにいらっしゃるのでしょうか?」
しかし、家にはシアナの姿がない。……調査に出る前、彼らはシアナのところに顔を出したのだが、彼女は落ち着いたら帰ると言っていた。故に、既に帰宅しているものだと思っていたのだが。
「なら、そっちに行ったほうがいいんじゃないか?」
「賛成だが、全員で動くのは止めたほうがいいな。入れ違いになる可能性もある。俺が行って来る」
「私も行くわ。ハイドラとオクサは休んでて」
シアナを探しに、グラとエーテルは家を出て、彼女の職場まで歩いていく。
「シアナ、大丈夫かしら?」
「気になるのか?」
「当然よ。そもそも、私が沈没事故を調べたいのだって、シアナのためなんだから」
その途中。エーテルは彼女の身を案じながらそう言った。
「そんなに気に入ったのか? シアナのことを」
「まあね。……正直、最初は苦手なタイプだと思ったわ。けど、嬉しかったのよ」
「嬉しかった?」
「私がシアナを助けたとき、グラたんたち、凄く引いたでしょ? あれが普通の反応なのよ。みんなそうだったわ……私がビッチだからって、女の子は私と友達になってくれなかった。今でこそハイドラとかオクサがいるけど、あの子達はそもそもビッチについての予備知識みたいなのがなかったからね。実際、最近はハイドラもちょくちょく貶してくるし」
グラの疑問に、エーテルはぽつりぽつりと話し始めた。それは独白のようで、グラは相槌も打たず黙って聞いていた。
「でも、シアナは違うわ。私がどういう人間か分かった上で、それでも受け入れてくれたもの。……我ながら、ちょろすぎるわよね。シアナはきっと、誰に対してもあんな感じなんだろうし。けれど、私はそれに恩義を感じたわ。だったら、その恩は返さないと。あの子が沈没事故のせいで苦しんでるって言うのなら、それを解決したいのよ」
「……そうか」
「ちょ、何するのよ……?」
そんなエーテルを見て、グラは彼女の頭を撫でる。
「いや、お前もちゃんと考えて生きてるんだなと思ってな」
「……馬鹿」
口では嫌そうにしながらも、エーテルはされるがままになっているのだった。




