人は誰しも欠点を抱えている
◇
「あちゃ~。ちょっとやりすぎたわね……」
温泉から出て。エーテルたちは、グラを介抱していた。……女の子たちに密着され続けた結果、グラはのぼせてしまったのだ。
「グラ様……大丈夫でしょうか?」
「大丈夫よ~。ここの温泉はお湯が熱いから~、慣れてないとのぼせやすいの~」
「ったく、情けねぇな……」
グラは今、シアナに膝枕をされて眠っていた。……最初、誰がその役をこなすかで揉めていたのだが、空気を読まないシアナがさっさとグラに膝枕してしまったのだ。
「それにしても……今なら、グラたんは眠ってるし、脱がしても殴られないわね」
「エーテル様……どうにも懲りていらっしゃらない様子ですね」
「だって、ハイドラも気にならない? グラたんが半裸で眠ってるのよ? ここはパンツを下ろして、寝込みを襲うところでしょ?」
しかしエーテルは、未だ水着姿のグラ―――彼の股間部分に視線を注いでいた。……そんなだから、グラたちに拒絶されるんだぞ。
「おいおい、なんで寝込みを襲うんだよ? 殺す気かよ?」
「はい~? エーテルちゃ~ん、そういう物騒なことは~、めっ」
「二人とも、胸は大きいのにそういうことは子供なのね。いい? こういう場合の襲うっていうのは―――」
「……誰が、誰を襲うって?」
「グラ様……!」
オクサとシアナは彼女の言葉を誤解したようで、エーテルはその意味について説明しようとした。だが、丁度そのタイミングでグラが目を覚ました。
「良かった、目を覚ましたのね」
「チャンスをふいにして残念か?」
「ちっ……」
エーテルの内心を言い当てながら、グラは起き上がった。
「ったく……悪ふざけも大概にしろよ。下手したら死んでたぞ」
「無礼講でいいじゃない。折角の裸の付き合いなんだから」
「無礼講は相手を死なせてもいいって意味じゃないからな」
開き直るエーテルに、グラは溜息混じりにそう返すのだった。
◇
……翌日。
「さてと……宿の確保も出来たし、今日からは存分に観光ね」
「何寝惚けたこと言ってるんだ?」
朝食の席にて。エーテルの言葉に、グラが突っ込んだ。
「これはナッタを―――妹を探す旅だってことを忘れたのか?」
「覚えてるわよ。でも、そればっかじゃあつまらないじゃない。どうせすぐに見つかるわけじゃないんだし、気長に行きましょ」
彼の言葉に、エーテルはそう答えた。……そもそも、彼女としてはグラの妹探しはついでである。彼との旅自体を楽しむ(+彼の体)のが主目的なのだから、観光を選ぶのは当然である。
「それなら~、後で町を案内するわよ~」
「ほんと? 助かるわ」
「ただ~、午前中はお仕事だから~、ちょっと待っててね~」
「お仕事は何をされているんですか?」
話を聞いてそう申し出るシアナに、ハイドラが尋ねる。
「気になるなら~、今から見に来る~? 歓迎するわよ~」
◇
「いらっしゃいませ~」
ウェイターの格好をしたシアナが、やって来た客を席へと案内する。……彼女は喫茶店で働いており、主にウェイターの仕事をこなしているようだ。
「なるほど、接客業だったのね」
「意外、ってほどでもないか。割とよくある職業だろうし」
そんな彼女の働き振りを、グラたちはテラス席から眺めていた。……シアナの仕事が終わるまで、見学がてらここで時間を潰しているのだ。
「それにしても、いい眺めですね」
「ああ。海を一望だなんて、贅沢じゃねぇか」
一方、ハイドラとオクサは外の景色を楽しんでいた。喫茶店は海辺に位置しており、テラス席からだと港の端から端まで眺めることが出来る。
「どうかしら~? ここの眺めは~、うちの自慢なの~」
その会話を聞きつけたのか、シアナが仕事の合間を縫ってそんなことを言いに来た。
「確かに、こんな店はなかなかないだろうな」
「―――あっ!」
すると、エーテルが何かに気づき、海のほうを指差した。
「見て! あの船が……!」
「あっ……!」
海を見やると、大きな船が港に入ってくるところだった。だが、その船は徐々に傾きだしていた。
「あれはまさか……例の沈没事故なのか?」
「みたいね……あの様子なら今すぐ沈むってことはなさそうだし、その間に乗組員も脱出できるとは思うけど」
実際に事故を目の当たりにして、グラたちは戦慄した。……話には聞いていたが、それを自分の目で見るのは衝撃的だった。
「シアナ様? どうされました?」
「だ、大丈夫よ~……ちょっと立ち眩みしちゃっただけだから~」
「いや、どう考えても顔色悪すぎだろ。どうしたんだよ?」
他の客も沈没事故に気づき、店内が騒然となる中、シアナは顔を真っ青に染めていた。気遣うハイドラたちにはそう答えるものの、足は震えているし、顔色は悪いし、どう見ても通常の状態ではない。体調が悪いとしか思えなかった。
「気分が悪くなったのか?」
「大丈夫だから~……軽い貧血だし~、少し休めばよくなるから~」
「シアナちゃん……!」
そうこうしていると、店の奥から店長らしき女性が現れ、シアナの元に駆け寄った。
「大丈夫? 暫く奥で休んでて頂戴。何なら早めに上がってもらってもいいし」
「ご、ごめんなさい~……」
「大丈夫よ、仕方ないものね。さ、歩ける?」
店長はシアナに肩を貸し、彼女を店の奥まで引っ張っていった。どうやら、こうなるのは今日が初めてではないようだな。
「……シアナ様、大丈夫でしょうか?」
「ま、平気だろ。さっきの店長がついてるだろうし」
「ええ。念のため、後で声を掛けたほうがいいとは思うけど……グラたん」
「分かってる。……調べるんだろ? あの沈没事故」
エーテルに言われて、グラは溜息混じりに応じた。……彼にとって、エーテルはこの中で一番付き合いが長い。彼女の言わんとしていることは、なんとなくだが見当がついたのだ。
「調べるのかよ? そりゃ、何とか出来るならしたほうがいいだろうけどさ……妹探しはどうするんだよ?」
「勿論並行してやるさ。こういう寄り道が最終的にはプラスに繋がることもあるものさ。……それに、ナッタが船に乗ってたらと考えたら、他人事じゃなくなるからな」
「グラ様らしいです」
「全くよね。ほんと、シスコンすぎて将来が心配だわ」
オクサの疑問に、そう答えるグラ。そんな彼に、ハイドラとエーテルは笑顔で頷くのだった。




