エーテルさんマジ万能
「んーと……あっ、あった」
エーテルはポケットからカートリッジを取り出した。それは透過のカートリッジだ。透過は対魔法用の月属性魔法で、他の魔法効果を使用者の体から素通りさせる効力を持つ。ただし、効果があるのは弱い魔法だけ。攻撃系の魔法は防げないし、強い干渉力のある魔法にも効果がない。殆ど使い道のない魔法だが、エーテルに掛かれば、警備を潜り抜ける魔法と化す。
「でも、これ使うと隠形が維持できないのよね……」
だが、カートリッジを交換すれば、巡回の兵士から認識されるようになる。エーテルは周囲を確認し、兵士がいないことを確かめてから、カートリッジを取り替えた。
「……透過」
そして、透過を発動する。……透過する属性を星属性に絞り、星属性の索敵魔法を回避する。
「……さてと、行きますか」
対策は万全。エーテルは意気揚々と地下へと向かった。
「……誰もいないわね」
地下室への階段には立ち入り禁止の札が掛かっていたため、その先には当然、誰もいない。巡回の兵士も見えないし、どうやらここから先は一部の者しか入れない空間のようだ。
「センサーもここで終わってるみたいだし、そろそろ隠形に切り替えたほうがいいわね」
索敵魔法は敷地とその外、順路と順路外の境目にある。一度切り抜けてしまえば、後は警戒する必要もない。エーテルは魔法を透過から隠形に切り替えると、階段を降り切って地下室へと侵入した。
「……なんか、重そうな扉」
地下への入り口は、重厚な鉄の扉が塞いでいた。鎖と南京錠によるロックも掛けられている。
「対魔法鉄鋼製ね……魔法じゃなくて物理錠なのは、簡単に開けられないようにするため?」
魔法が進んだオガーニ王国では、少数ながら魔法耐性を持つ物質も生み出されている。コストが掛かるために量産は出来ないが、魔法による力尽くが通じないのは大きい。また、魔法式の特殊錠などもあり、鍵にはそちらが一般的だが、価格の低い物理錠も広く流通している。この扉の場合は、対魔法鉄鋼製で魔法による突破が不可能であり、魔法技術によるピッキングが出来ないようにしているのだろう。
「でもまあ、技術屋エーテルさんに掛かれば、これくらい楽勝なんだけどね」
そんな扉の前にも、エーテルは顔色を変えることさえしない。ポケットからヘアピンと工具を取り出すと、南京錠の鍵穴に突っ込んで、ピッキングを試みた。
「……よしっ、開いた」
そして、ものの数分で開錠に成功した。鎖を解いて、扉に手を掛ける。
「それじゃあ、行って見ますか」
扉は多少重かったものの、エーテルの力でも動いた。扉を開けて、内部へ侵入する。
「……さすがに暗いわね」
中に入ると、視界が完全に閉ざされてしまう。今は夜だし、しかもここは地下だ。まだ月明かりや蝋燭の光があった地上ならともかく、こんな閉鎖空間に光源などあるはずがない。
「こんなこともあろうかと、用意しておいて良かったわ」
故にエーテルは、マッチを取り出して、火をつけた。……今は点灯の魔法があるため、マッチはあまり流通していない。ただ、魔製機構技師は夜間作業時、余計な魔法が干渉することを嫌って、マッチを使う場合が多い。彼女も魔製機構技師を志望しているので、マッチを入手していたのだ。特に、今回は隠形を使い続ける都合上、魔法による点灯は出来ないからと用意していたのだろう。
「うーん……やっぱりこれだけじゃあ、あまり見えないわね。隠形の影響もありそうだけど」
それでも、マッチ一本で照らすのは難しい。更に、エーテルが使う隠形のせいで、光がかなり制限されてしまっている。隠形は使用者の姿を隠す魔法だから、こういうことが起こるのだ。
「けど、全く見えないわけじゃないし、さくさく進んでいこっと」
だが、エーテルはその状態で奥まで進んでいく。隠形があるのをいいことに、鼻歌交じりで、だ。
「……あれ?」
だが、少し進んだところで、思わず足を止めた。何か違和感があったようだ。
「この匂い、もしかして……でも、どうしてこんなところに?」
それは匂いだった。彼女にとっては嗅ぎ慣れたものだったが、ここにあるのは酷く場違いだった。それがこんなところにあるなど、不吉な予感しかしない。
「お城の地下に、この匂い……もしかして」
エーテルの中で、全てが繋がったような気がした。それを確かめるため、彼女は急ぐようにして奥へと向かった。
「……さすがに厳しいな」
その頃、グラは身動きが取れなくなっていた。巡回の兵士から隠れたのだが、その兵士がその場で休憩を始めてしまい、更には他の兵士たちまでたむろしだしたのだ。
「さっきの探し物で時間を食ったし、あまり立ち止まりたくないんだがな」
夜も更けて、もうすぐ日付が変わる頃だ。これ以上動きを封じられると、日が昇って見つかる可能性が増えてしまう。
「仕方ない……十五分だけ待って、それでも離れないなら、強引に突破するか」
こうなれば、無理にでも夜のうちに動かなければならない。グラが覚悟を決めたその直後、兵士たちの前に、別の兵士が現れた。どうやら彼らの上司らしく、サボっていた部下を叱責している。それによって、兵士たちが散っていった。
「……まあ、この緊急事態にずっとサボってるようなら、この国はとっくに終わってるはずだよな」
自分の運に感謝しつつ、探索を続けるグラ。……それなりに歩き続けたことで、王城の間取りもある程度分かるようになってきた。今いるのは厨房や倉庫などが集まった区画。この時間は特に人気がなく、兵士がサボるために集まりやすいのだ。厨房は国王の食事も作っているので、国王の居住区画も近いだろう。
「……さてと、王様はどんな奴なんだろうか」
居住区画を目指しながら、グラは国王について考えていた。エーテルから聞いた話によると、国王は美少女たちを娶って、強引に城へ連れて行ってるらしい。それだけだとただのスケベ爺だが、王都民からの強い反発があるのは明白だし、それでも押し通したのだがら、そこには何らかの意図があるはずだ。住民の反発を良しとするほどの、特別な理由が。
「世継ぎが出来なくて必死とか、そんなありきたりな理由ならいいんだが」
どうにもきな臭い。そう思いながら、グラは居住区画を目指す。……国王の人間性など、実際に会えば分かることだ。今はそれよりも、国王のところまで辿り着けるかの方が重要だった。




