おいしい展開なんて許さない
◇
「あら~。王国中を旅してるのね~」
「ええ。ドコサは海沿いの町だから、楽しみだったのよ」
夕食後。彼らはシアナに素性を話していた。王国中を旅していて、ドコサには今日着いたばかりだと。……無論、グラの正体については伏せたが。
「明日は海で泳いでみたいわ」
「でも~、今の時期だと~、海はまだ少し冷えるわよ~?」
「ほれみろ」
そして海水浴の話をしたのだが、シアナはそう忠告してきた。地元の人間にとっても、今の時期は海水浴には適さないらしい。
「けれど~、似たようなことなら出来るわよ~?」
「似たようなこと?」
「今から行って見る~? 多分空いてるわよ~?」
シアナに言われて、彼らは顔を見合わせるのだった。
◇
「なるほど、こういうわけね」
数十分後。エーテルは水着姿になっていた。真っ赤なワンピースタイプで、彼女のスレンダーな体躯がくっきりと浮き出ている。
「少し恥ずかしいです……」
「ちょっときつくないか、これ?」
ハイドラとオクサも水着に着替えている。二人ともエーテルと同じ水着だが、色はハイドラが白でオクサは緑だった。
「オクサ……もしかして喧嘩売ってる?」
「はぁ? んなわけねぇだろ。ただ、サイズを間違えたっぽいってだけだ」
「でもそれ、一応私のより一回り上よね? 色でサイズが違うんだから」
「そうなんだけど、胸んとこがちょっとな」
「やっぱ喧嘩売ってるし!」
しかし、今日のエーテルは、やたらと胸に関する話題に敏感だった。先程の酔っ払いに貶されたせいだろうか。
「あら~? また喧嘩してるの~?」
そんな彼女たちのところへ、シアナがやって来た。当然、彼女も水着だった。―――しかし、彼女の場合は、その青い水着がはち切れそうになっていた。服の上からでも分かるほどの豊満なバストは、恐らくは最大サイズの水着でも収まりきらなかったらしい。
「……シアナを見てたら、こんなことで騒いでる自分が馬鹿らしくなってくるわ」
「あら~? どうかしたのかしら~?」
「気にしないで……どうせ、私なんて経験数しかとりえのない女なんだから」
シアナを見て、エーテルは意気消沈したように肩を落とした。圧倒的かつ絶対的な差に絶望したのだろう。
「それより~、早くお湯に入りましょ~」
「はい、そうですね」
「だな。さっさと入ろうぜ」
そんなエーテルを放置して、彼女たちは地面から湧き出る湯―――温泉に足を伸ばした。ここは天然の温泉で、彼女たちはここに入りに来たのだ。
「……待て」
だが、そんな彼女たちを遮る声があった。トランクスタイプの水着を着用したグラだ。
「どうかしましたか?」
「いや、なんで風呂なのに男女一緒なんだよ?」
グラが疑問を呈したのは、この場に自分がいること―――というか、自分が入ったら女子たちがいたことだ。
「ここは混浴よ~。男女一緒でも問題ないわ~」
「というか、そのための水着じゃないの? 私は別に裸でもいいんだけど」
「細かいこと考えるなよ。お前、そんなにあたしらと風呂に入るのが嫌なのかよ?」
「私は少し恥ずかしいですけど……グラ様とも裸のお付き合いがしたいです」
しかし、シアナはそう言い、他の女の子たちも気にした様子は見られない。エーテルやオクサは異性に肌を晒すことに抵抗がないし、ハイドラも水着着用ならば問題なかった。渋っているのはグラ一人だけだ。
「ったく……仕方ないか」
となれば、グラが折れるしかなかった。女子たちの中で男一人ではあるが、半裸という点を除けばいつも通りだと割り切った。
「ふぅ~……温かくて気持ちいいわね~」
「これが温泉……体が芯からぽかぽかします」
「極楽、極楽、って感じだな」
「気に入ってもらえたかしら~?」
白く濁った湯に浸かり、少女たちはその温もりを堪能していた。特にエーテルたちは旅の疲れもあり、羽を伸ばすのには最適だった。
「……って、どうしてグラたんは後ろを向いてるのよ?」
「普通に目に毒だからだっての」
だが、グラはそんな彼女たちに背を向けていた。……水着着用とはいえ、異性との入浴では気が休まらないのだろうか。
「前から思ってたんだけど、グラたんって結構初心よね? 普段私が迫っても澄ました顔してるけど、実は内心ドキドキだったとか?」
「んなわけあるか」
「へぇ……」
エーテルの問いを否定したグラに、彼女は目つきを変化させた。まるで肉食獣のような目―――ビッチとしての本性だった。
「じゃあ、こんなことしても平気なのよね?」
「ちょ、おい……!」
エーテルはグラの背後に立つと、彼の背中に自分の体をぴったりとくっつけてきた。それだけで、グラは動揺して飛び上がってしまう。
「そんなに慌てちゃって、可愛いんだから」
「エ、エーテル様……!?」
「ハイドラもこっちに来なさいよ。ほら、一緒にグラたんのことをドキドキさせちゃいましょ?」
「そ、それは……」
エーテルの誘いに、ハイドラは顔を真っ赤にして口篭った。だが、その提案は彼女にとって魅力的だったのか、無言で彼の元へと近づいていった。
「グ、グラ様、その……失礼、します」
「ハイドラまで……!?」
ハイドラが触れてきて、グラは更に狼狽した。背中にはエーテルの、右肩と二の腕にはハイドラの、それぞれの体の感触があって、心臓の鼓動が高鳴るのを抑えられない。エーテルは胸こそ控え目だが、その分全身をぴったりくっつけることができる。ハイドラはその発育がいい胸で彼の肩を挟み込み、その柔らかさを存分に知らしめている。どちらも水着の布によって覆われているはずなのだが、その程度の防壁ではこの誘惑を阻めない。
「ちょ、お前ら、いい加減に―――」
「やっぱり、いい筋肉してるわね。この硬さ、堪んないわぁ……」
「グラ様……どうですか? 私の体、気持ちいいですか?」
温泉の熱に当たられたのか、エーテルもハイドラもうっとりとした表情でグラに体を擦り付けている。その姿はとても妖艶で、グラも抵抗が難しくなってきた。
「なんか面白そうだな。あたしも混ぜてくれよ」
「同じく~」
「お前らまでか……!?」
それに影響されたのか、オクサとシアナまでもがグラに擦り寄ってきた。オクサは彼の左肩に、シアナは正面から頭に抱きつく。
「モテモテハーレム状態じゃない。この色男ぉ~♪」
「ぐぉ……あ、暑い」
しかしその直後、グラの意識はぷっつりと途絶えたのだった。




