これにはさすがにドン引きしました
「く、くそっ……!」
「お、覚えてやがれ……!」
エーテルに(文字通り)手玉に取られて、男たちは股間を押さえながら逃げ出した。
「粗末な上に早漏とか、ナンパするには百年早いっての。せめてもうちょっと鍛えてからにしなさい」
対するエーテルは、両手を軽く振りながら呟いた。
「大丈夫だった? あんな短小に絡まれるなんて災難だったわね」
「あら~、ありがと~」
男たちに絡まれていた女性は、妙に間延びした声で礼を述べた。……こちらは酔っ払っているという様子でもないので、これが素なのだろう。
「私~、たまにああいう人たちに絡まれて~。どうすればいいのか分からなくて~」
「あーうん、確かにそんな感じしてるわね……」
そう言う彼女に、エーテルは同情するように頷いた。……軽いウェーブが掛かった銀髪に、美しく整った顔立ちと穏やかな表情。それだけでも十分美人なのだが、何より、その存在を激しく主張する二つの膨らみが、彼女の胸で揺れていた。顔だけでなく体格もいいとなれば、男が群がってくるのは必然といえた。
「じゃあ、今度から気をつけてね」
そしてエーテルは、そそくさとその場を離れた。……美人でスタイルが良く、しかもおっとりとした口調の女性というのは、彼女が特に苦手とする人種だった。絡まれているのを見てしまったので仕方なく助けたが、正直これ以上は関わりたくないのだろう。
「おまたー」
女性を助けて、エーテルはグラたちのところまで戻ってきた。
「寄るな」
「近づかないでください汚らわしい」
「しっ、しっ」
「何でよ……!?」
だが、彼らの反応は冷たかった。折角戻ってきた彼女に拒絶の意思を向けてくる。
「お前がああいう奴なのは知っていたが……夜で人通りが少ないとはいえ、こんなところでする奴があるか」
「エーテル様のようなお方とは関わり合いにはなりたくありません」
「股間に触るとか……ばっちぃだろ。えんがちょだ」
「そ、そこまで言わなくても……」
グラたちに貶されて、エーテルは涙目だ。……彼女としては穏便に片付けたつもりだったのだが、彼らには理解されなかったようだ。尤も、それが普通の反応なのだが。
「そういうわけだから、お前とはここでお別れだ。二度と関わるんじゃないぞ」
「ちょ、どうしてそこまで言われないといけないわけ!? いくらなんで理不尽よ! 横暴よ!」
「エーテル様は常識に欠けています。当然の結果かと」
「汚いから寄るんじゃねぇよ」
「なんですって……!?」
いつになく辛辣な言葉に、エーテルは顔を真っ赤にして掴み掛かる。今にも大喧嘩に発展しそうな勢いだ。……確かに、エーテルの行動は非常識だ。けれども、ここまで苛烈に責めているのは、今まで溜め込んでいた彼女に対する不満が爆発したのか。
「あの~」
だが、そんな彼らに割り込む者がいた。先程の女性だ。
「喧嘩はよくないと思うの~。その子は私を助けてくれたし~。あんまり責めないで欲しいの~」
「そうよ、よく言ってくれたわ! グラたんたちは心が狭すぎるわ!」
思わぬところからの援護射撃に、エーテルは歓喜しながらそう言った。……先程までは彼女から距離を取ろうとしていたのだが、都合が良くなると一瞬で手のひらを返す辺り、さすがである。
「……いや、助けたのはいいとしても方法が」
「確かに~、年頃の女の子がやるにはちょっとあれだけど~。男の人を手玉に取る女の子っていうのもかっこいいし~」
「かっこいい、のか……?」
「出来る女って~、かっこよくないかしら~?」
「そう、ですか……」
女性の間延びした声に、グラたちは毒気を抜かれていく。まともに会話するのが馬鹿らしくなってきたともいうが。
「自己紹介がまだだったわね~。私はシアナっていいま~す。年は十九で~す。よろしく~」
「十九、か……」
そう名乗った女性―――シアナに、グラは驚いた。……見た目から年上なのだと確信していたのだが、自分とは同い年というのは予想外だったのだ。
「あっ、そうだわ~。皆さんにお礼をしないと~」
「お礼?」
「仲直りの切欠もかねて~、是非~」
◇
「ご馳走様~!」
「は~い。お粗末様でした~」
夕食を終えて。エーテルは満足そうにフォークを下ろした。……彼らはシアナの家に呼ばれ、夕食を振舞ってもらったのだ。ドコサの特産である海の幸と、海外から輸入された珍しい食材による豪華なフルコース。これが、彼女のお礼だった。
「はぁ~。やっぱり、人助けはするものよね。泊まる場所にも困ってたのに、ご飯と宿が確保できるなんて」
「いいえ~、当然のことよ~。助けてもらったんだから~」
更には、いつの間にか泊めてもらうことになっていた。エーテルとシアナもすっかり打ち解けている様子。
「ほらほら、三人とも、私に感謝したほうがいいんじゃない? 私がシアナを助けたから、野宿しなくて済んだのよ?」
「いや、この場合、感謝するのはシアナだろ」
「そんなことないわ~。エーテルちゃんに感謝して~、みんなで仲良くしてね~」
「そ、それは……」
ドヤ顔のエーテルと、彼女を援護するシアナ。二人の連携に、グラたちはエーテルを許すしかない雰囲気になっていた。
「大体、あれくらい挨拶代わりなんだから、大騒ぎしないで欲しいわ」
「あれを挨拶代わりって呼ぶお前の感性を問題視してるんだが……」
「とにかく、あれは事態を収めるために必要だったのよ。じゃないと、シアナが酔っ払いに滅茶苦茶にされてたかもしれないのよ?」
「ったく……」
グラは自分が正しいと思っている。だが、エーテルがああしなければシアナが危なかったか、そうでなくても自分が出しゃばる羽目になっていたことは想像に難くない。また、暴力沙汰になるよりはずっといい解決策だったのも間違いないので、納得せざるを得なかった。
「それに、いつまでも意地張ってたら疲れるでしょ?」
「それは、そうですが……」
「そりゃそうだけどさ……」
そして彼らも、本気でエーテルと別れたいわけではなかった。あの言葉は勢いで出ただけで、本心ではない。ここで不毛な争いを続けるのも本望ではないのだ。ただ、一度振り上げた拳を下ろせなくなっただけで。
「……確かに、少し言い過ぎたな」
「はい……エーテル様は自分なりに穏便な方法を選ばれたわけですし」
「だよな……いくら汚いからって、どうかしてたぜ」
そうして、グラたちは折れた。彼らも、自分たちが意固地になりすぎていた自覚はあるのだ。
「これで一件落着ね~。めでたしめでたし~」
「正義は勝つ! って感じね!」
「……そういう態度のせいで、こっちも謝るのが遅れるんだぞ」
ガッツポーズをして勝ち誇るエーテルに、グラは冷ややかな目線を向けてそう呟くのだった。




