ビッチはご立腹のようです
「ん……」
関所を出ると、磯の香りが鼻腔をくすぐった。……ドコサは、三方を山に、西側を海に囲まれた都市だ。街道が海から離れた場所を通っているのもあってか、関所を潜ると海の匂いが一段と際立つ。
「おっ、来た来た」
「ようやく揃いましたね」
「グラたんが最後だったわね」
関所の出口には、エーテルたちが揃っていた。彼女たちも、無事に入場できたらしい。
「全員いるな。よし、行くか」
そうして彼らは、ドコサの町を歩き出した。とりあえず、折角なので海辺まで足を運ぶことに。
「にしても、独特な匂いだよな」
「磯の香りですか?」
「ああ。あたしはずっとトレハから出たことがなかったから、こういう余所の町の匂いが新鮮なんだよな」
「あー、分かるわ。私も、初めて王都を出たときは同じことを思ったし」
オクサの言葉に、エーテルが同意した。彼女も、グラと出会うまではずっと王都にいたため、オクサの気持ちが分かるのだろう。
「それにしても、海はまだ見えないのかしら?」
「さっきから、建物の隙間からチラチラと青いのが見えてるがな」
「そういうのじゃなくて、一面真っ青な景色が見たいのよ」
ドコサは平坦な地形で、関所のほうからだと海が見えにくい。海を一望するには、沿岸部まで出る必要があるのだ。
「海に着いたら何しようかしら? まず、海水浴は外せないわよね。外で堂々と露出できるなんて、そうそうあることじゃないし」
「よくよく考えたら、今の季節で水着は厳しくないか、露出狂」
「露出狂言わないで。確かにまだ暑くはないけど、泳げないほどじゃないでしょ?」
今は冬が終わり、春を迎えたばかり。ドコサの気候は温暖なので泳げなくはないのだが、体が丈夫でないと風邪を引きそうだ。
「あっ、見えてきました」
「おっ、本当だな」
やがて、建物の間を抜けて海辺まで辿り着く。
「わぁ……!」
視界が開けると、そこには一面の青が広がっていた。傾きかけた日差しを浴びて、きらきらと輝いている。
「綺麗、です……」
「ああ……」
「これが、海……」
初めて見る海に、一同は見惚れていた。美しい海と、頬を撫でる海風を、暫し堪能する。
「……さてと。そろそろ宿でも探すか」
「えー? ここは泳ぐ流れでしょ?」
「もうすぐ日が暮れるし、ここは宿場町よりも宿の競争率が高いはずだ。野宿したいなら話は別だが」
現在は夕刻だ。今はまだ空が青いが、もう少しすれば紅に染まり始めるだろう。それに、貿易船の沈没事故の影響で宿泊客が増えているので、宿を取るのも難しい状況だ。泊まる場所は早めに確保するべきだろう。
「……仕方ないわね」
「では、早く行きましょう」
「だな」
そんなわけで、彼らは宿を探しに行くのだった。
◇
「……ここも駄目か」
宿を回ること、五軒目。しかし、彼らは未だに宿を確保できないでいた。……やはり、沈没事故の影響が大きいようだ。お陰で、もう日が暮れている。
「困ったわね……このままだと、ほんとに野宿だわ」
「俺はそれでも別に構わないんだが……さすがに、女子はそうもいかないか」
「っても、最悪そうするしかないんじゃね? あたしは別に構わねぇけど」
「野宿……初めてなので不安ですが、少しだけ楽しみです」
そんなわけで、全員で野宿する流れに。街中で野宿というのもあれだが、泊まる場所がないのだから仕方ないだろう。
「じゃあ、先にご飯にしましょう。お腹が空いてきたわ」
「そうだな」
そして、彼らは食事を取ることにした。まずは宿泊場所を確保してからのつもりだったが、それが出来ない以上、夕食にしたほうがいい。
「そういえば、あちらの通りにレストランがありましたね」
「じゃあ、そこにしようぜ」
というわけで、先程までいた通りへと移動する。そこは商業区画で、レストランだけでなく、日用品を扱う商店なども数多く立ち並んでいた。
「今日は泳げなかったし、海鮮料理を堪能したいわね」
「お前は人生が楽しそうでいいよな」
「羨ましいです」
「ほんとだよな」
「ちょっと、失礼じゃない!? ……って、あれ?」
他愛もない話をしながら歩いていると、エーテルが何かに気がついた。
「どうした?」
「ほら、あれ」
彼女が指差したほうを見ると、酒場の前で、女性が男二人に絡まれているようだった。
「あれは……助けたほうがいいのか?」
「見た感じ、ああいう手合いには慣れてなさそうだし、助けてあげたほうがいいと思うわ。ちょっと行って来るわね」
「一人で大丈夫か?」
「平気よ。ああいう手合いには慣れてるし、前みたいに隠形連続発動とかしなければなんとでもなるわ」
そういうわけで、エーテルは女性の元へと歩いていった。
「いいじゃねぇかよぉ~……」
「こっちで一緒に楽しもうぜぇ~……」
「あ、あの、えっと~……」
酒場の前で、女性が男二人に絡まれていた。どうやら、男たちは酔っ払っているようだった。
「はいはい、そこまでにしなさいな」
「何だてめぇ~……?」
「邪魔すんじゃねぇよガキがよぉ~……」
そんな彼らに、エーテルが割り込んだ。だが、酔っ払いたちは不機嫌になるだけで、当然ながら退いたりしない。
「ナンパもしつこすぎるのは駄目よ。夜のお相手を探してるなら、私が受けてあげてもいいけど」
「へっ、ガキが何言ってやがんだよぉ~……!」
「そのぺったん胸じゃなくて、そこの姉ちゃんのほうがいいに決まってんだろぉ~?」
「なっ……!」
それでも穏便に取り成そうとしたエーテルだったが、胸のことを言われて、顔を引き攣らせた。……ちなみに、絡まれていた女性はかなりスタイルが良かった。胸に関して言えば、そうそうお目にかかれないほどに大きい。
「……そう。そんなこと言うんだ。へぇ?」
「お、おい……!?」
「な、何を……!?」
するとエーテルは、徐に二人の股間に手を伸ばし、そして掴んだ。
「こんなお粗末なので、随分と偉そうにしてくれるじゃない? もう少し立派なモンを引っ下げてからにしたら?」
「ちょ、ま……!」
「や、やめ……!」
そして、掴んだモノを、軽く擦った。たったそれだけで、男たちは悶絶する。
「ほらほらぁ、逝っちゃいなさいよぉ」
「こ、こいつ……!」
「何なんだよ一体……!?」
「ビッチ舐めんなっての……!」
「あっ……!」
「おぅ……!」
そうしてエーテルは、ビッチの本領を存分に発揮するのだった。




