この程度は危機のうちに入りません
◇
……翌日。
「夕方にはドコサに到着できそうね」
「そうですね」
街道を歩き続けて数時間。彼らは順調にドコサへと進んでいた。
「―――待ちな」
「……?」
だが、そんな彼らの前に、二人の男が立ち塞がった。
「悪いことは言わねぇ。金目のもんを全部置いていきな」
「こいつら、追い剥ぎか……?」
「グラ様、後ろにも……!」
男たちはナイフを取り出し、そう脅してくる。しかも、背後からも同様の男たちが現れた。
「囲まれたわね……」
更には、左右の茂みからも男たちが姿を現す。その数、合計で八人だ。
「街道には追い剥ぎが出るとは聞いていたが……遭遇するのは初めてだな」
「どうするよ?」
「言うまでもないだろ」
問い掛けるオクサに、グラは木刀を取り出して答えた。
「へっ、そう来なくっちゃな」
そんな彼に、オクサは笑いながら折り畳み式の警棒を取り出した。グリップ部分にギアを取り付けた特殊なタイプで、一般人には入手不可能なものだ。恐らくは、ヘクスニア男爵が持たせたのだろう。
「もぅ……こういう荒っぽい展開は散々なのよね。ハイドラ、いける?」
「は、はい……!」
そして、エーテルとハイドラもギアを取り出した。後ろ向きながらも、応戦する構えだ。
「へっ、健気なお嬢ちゃんたちだ」
「おい、坊主もお嬢ちゃんたちにいいとこ見せてやれや」
「でねぇと、その子達を俺たちで寝取っちまうぞ?」
応戦の意思を見せる彼らに、男たちは嫌らしい笑みを浮かべる。
「全員、ハイドラを守る。ハイドラは魔法で一掃。いいな?」
「ええ……!」
「ああ……!」
「はいっ……!」
明らかに油断している男たちを相手に、グラたちは手早く相談を済ませ、行動に移った。
「アースクエイク!」
「うぉっ……!」
「な、なんだ……!?」
オクサが警棒を地面に突き刺すと、彼女の魔法が発動した。擬似的な地震を起こすアースクエイクにより、地面が揺す振られ、男たちの足が止まる。
「はぁっ……!」
「ぐっ……!」
その隙を突く形で、グラが男たちを襲撃。手を狙い、ナイフを弾いた。
「閃光……!」
「ま、眩し……!」
そしてエーテルは、閃光の魔法で他の男たちの目を潰す。
「オロチ……!」
「がはっ……!」
そして最後に、ハイドラの魔法が男たちを一掃した。見事な連携である。
「ったく……追い剥ぎをするにしても、相手が悪すぎたな」
「ほんとね。ま、同情の余地なんてないけどね」
あっさりと倒された追い剥ぎたちに、グラとエーテルはそんな感想を漏らした。……今まで潜った修羅場に比べれば、この程度の追い剥ぎなど、彼らの相手にはならなかった。
「くっ……何者だ、てめぇら」
「まだ起きれるのか。しぶとい連中だな」
「グラ様、ここはもういっそのこと、これ以上悪さが出来ないくらいに反省させるべきでは?」
すると、追い剥ぎの一人が体を起こしてきた。それを見て、オクサとハイドラは再びギアを構えた。
「ちっ……野朗共、ずらかるぞ!」
だが、それが却って彼らの危機感を煽ったらしい。男の声で、追い剥ぎたちが一斉に立ち上がって、一目散に逃亡し始めた。
「あ、おい、てめぇら……!」
「に、逃げられました……」
「放っておけ。どうせ、捕まえても町まで連れて行くのは無理だ。兵士に引き渡せないのに、無理に捕まえても扱いに困るだけだ」
追い剥ぎたちはバラバラの方向に逃げたため、対処に迷い、みすみす彼らを逃してしまう。だが、グラはそう言って、無理に捕らえようとはしなかった。
「ったく、無駄に逃げ足の速い連中だな……」
「ああ。……だが、これは少し雲行きが怪しくなってきたな」
ドコサへ向かう道中で追い剥ぎに襲われて、グラは言い知れぬ不安を抱くのだった。
◇
……夕方。
「ふむ……王都出身の、グラリアクト、か。ドコサへ来た目的は?」
「王国巡りの旅をしている。ドコサに来たのもその一環だな」
ドコサの入り口、関所にて。グラは入場手続きをしていた。……入場手続きでは、町へ来た理由などを問われる。今までも、入場審査の際にはこのような質問を受けてきた。
「一人でかい?」
「連れが三人いる」
「なるほど……分かった。これで審査は終わりだ。手続きが終わるまで少し待ってくれ」
それもあっさりと終わり、後は書類上の手続きが終わるのを待つばかりとなった。
「それにしても、その様子だと、あちこち旅してきたのかい?」
「まあな」
「そいつは羨ましい。こちとら、長期休暇なんて取れないからな。旅行の一つも出来やしない。精々、バイオでの長期訓練が旅行と呼べるくらいだな」
待ち時間の間、応対していた兵士が世間話を振ってきた。これは別に珍しいことではなく、どこの町でも同じだった。そして、グラもそれに応じる。……彼としては正直面倒だったのだが、下手に不審がられても困るので、応じるしかないのだった。
「ここまでは歩いて?」
「ああ」
「追い剥ぎには襲われなかったかい?」
「それは……」
しかし、話題が追い剥ぎに変わって、グラは一瞬口篭った。……確かに、追い剥ぎには遭遇したが、それを撃退したと言っていいのか迷ったのだ。かといって、下手に嘘を吐いて余計なリスクを増やしたくはなかった。
「仲間と協力して、どうにか逃げたよ」
「そうかい、そいつは良かった。……最近、ドコサは治安が悪いからな。お友達共々、気をつけるんだぞ」
仕方なく、グラは嘘にならない範囲で誤魔化した。すると、兵士は同情的な態度を返してくる。
「何かあったのか?」
それを見て、グラは少々探りを入れることにした。
「ああ……最近、貿易船の沈没事故が多発していてな。国に帰れなくなった乗組員たちがドコサや近くの宿場町に集まっているんだが、先行きの不安からか犯罪に走るケースが多いんだ。その影響で、ドコサ内での犯罪や、周辺での追い剥ぎも増加傾向にある」
「沈没事故、か……」
兵士の話に、グラは不吉な予感を覚えた。……彼は今まで、訪れた町で何かしらの事件に遭遇している。それ故に、分かってしまうのだ。―――この町でも、一波乱あるのだと。
「おっと、もういいぞ」
「ああ……」
話しているうちに手続きが終了し、グラは立ち上がり部屋を出る。
「……さてと。そろそろ運が尽きなければいいんだがな」
今まで、彼が無事でいられたのは、仲間のお陰もあるが、それ以上に運が良かったからだ。少なくても、彼自身はそう思っている。だが、そろそろ運に頼るのは難しいだろう。そうも思っていたのだった。




